友方=Hの垂れ流し ホーム

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もちろん予め決められた経路に従ってゆくわけだからそこから逸脱することはルール違反というか法に反するというかほとんど起こり得ぬ事態でありこちらが間違えたのでないかぎり同じところを走るのでありそうして基底にある微動の他に加速減速に伴う前後の揺れや右折左折に伴う左右の揺れや路面の凹凸が齎す上下の揺れが重なって複雑微妙な揺れが絶えず生じる箱の中でこちらも同様に揺れつづけながらどこへか運ばれてゆくのだがたとえそれが前後であれ左右であれ上下であれ振動は物から物へと伝わってゆくのだから尤も物というか物質というかなぜ振動するのかそれが物から物へと移動するのはどのようにしてかそしてそれの意味するところは何なのか要するに抑も振動とは何であるのかといったような事柄については皆目分からないのだが立っているにせよ坐っているにせよ身体の一部が接触している以上それ自体免れることなどできようはずもなく要するにそうした複雑微妙な揺れに絶えず晒されているというか自身もそれを構成する要素のひとつにすぎないということでだから絶えず揺れつづけているのだがそれが眠りを誘うのでもあろうかもちろん疲れているということもあるがいくつもの眼差しが飛び交う中首を折り曲げて目を瞑るのは眼差しと眼差しとがぶつかり合うのを回避するためだろうつまり何見てんだよそっちこそ何見てんだよそっちだろ見てんのは文句あんのかうるせえやんのかてめえ表出ろ上等だというような衝突をつまりほとんどあり得そうにないから考慮しなくてもよさそうなそれでいて考慮せずにはいられない衝突を未然に防ぐためなのかそれともただ気まずい思いをしたくないというだけなのかそうした体勢になるとすぐにも意識が遠退き掛かり時折響く声もいつか聞こえなくなるというか聞こえたり聞こえなかったりして間歇的に途切れるらしくそうして途切れたほんの僅かな時間に落ちるというか入るというかそれでも降りるべきところで降りることができるのだからつまりどことも知れない場所に放りだされて帰るに帰れないなどということにはならないのだから不思議で毎日のことなのだから当然といえば当然だが多少の誤差はあるにせよほとんど狂いもなく為し遂げられるということはやはり驚異であり謎でありだから眠っているのかいないのかある意味では眠っているだろうしべつの意味では眠っていないだろうといって眠りと覚醒との中間というのではなく眠りでもあり覚醒でもありつまり眠っているのかいないのかその実不明なのでありまあどちらでもいいようなものだがそれはそれで釈然としないからどちらかに決めてしまいたいとそう考えているのかいないのかもちろんどちらか一方を選ぶことで据わりはよくなるものの残る一方の廃棄をそれは意味することにもなるわけでつまりあるべき可能性が抹消されるというか何もかもが消し去られるというかそこにあっただろう可能性のすべてとともになかったことになるのでありそれでもそうするよりほかにないのだしそうすることでしか見えてこないものがあるということだろうもちろん見えないものは見えないのだからこんもりと迫りだした塊というか影というかその細部が見えるわけもなく一歩ごと近づいてくるそれを見ようとしても暗い穴の中を覗き込むようなもので微かな風に揺らいで擦れ合う響きは耳に届いても蠢く葉の一枚一枚までは捉えられないのでありつまり見えるものと聞こえるものとの間にズレが生じてそれらの間に溝ができるというか連関が断たれてそれがそれであることを見失うというか聞き失うというかだからその溝を埋めて欠落を補おうとする作用が働くのでもあろう見えないものが見え聞こえないものが聞こえるということになりそれへと意識が向けられることにもなるわけでつまり流れてゆくものが鮮明に捉えられるというかそのひとつひとつがはっきりと見分けられるというか意識の領野へ現れることによって自ずとそこへ焦点が合い像が結ばれてそれがそれであることが分かるのでありまあ鮮明といってもすべてに焦点が合っているわけではなくもちろんすべてに同時に焦点を合わせることなどできようはずもなく常に一点にしか焦点は合わないのだがだから順次焦点を合わせてゆくほかないし像はいくつものパーツに分かたれていてそれを切り貼りするというかパズルのように組み合わせるというかそうすることでひとつの全体を形作るというか構成するというか捏造すると言ってもいいがいずれにせよごく普通に見えているというだけでつまり動いているものは動いているものとして止まっているものは止まっているものとして近くにあるものは近くにあるものとして遠くにあるものは遠くにあるものとして中くらいにあるものは中くらいにあるものとしてよく分からないものはよく分からないものとして要するに普段見えているものが普段見えている通りに見えているだけのことで驚くには当たらないのだが普段見えているものが普段見えている通りに見えているというそのこと自体が驚くべきことなのだとそう思われもして改めて眺めやる眼差しが捉えるのは艶やかに光る白い肌だろうか滑らかなその感触を確かめようと伸ばす手を交わしながらぴちゃぴちゃと飛ばす飛沫もまた艶やかに光っているらしく、なぞるようにその光跡を辿ってゆくと何を見ているのか眼差しも光に溢れて影の中で少しく煌めくというか煌めきながら揺れていてそれとも揺れるから煌めくのか総じて不規則な動きに引き寄せられてゆくらしく盗み見るというか覗き見るというかいずれにせよ視野の隅のほうに蠢いているのが見て取れるが窓から射し込む日を受けて影の中によりいっそう白く浮かんでいるその手は一向に近づいてくる様子がないからいくらか拍子抜けするというか安堵する一方で壁際に追い詰められるというようなどこにも逃げ場のない絶体絶命の危機というような果して主人公の運命やいかに次週乞うご期待というようなそんなスリルを味わってみたい気がしないでもなくそうかといってそうした危地に敢えて身を置くようなことはしないというかできないというかそこまでの大胆さは持ち合わせていないからいつだって尻込みしてしまうのであり取れるボールも取らずによけてしまうのであり尤も巧くよけられればの話だが抑もボールをぶつけ合うような野蛮な競技は性に合わないしそれ以前になぜチームを分けてまで戦い合わねばならないのかが分からないというか理解に苦しむというかしかもまったく以て恣意的一方的な選別によるそれはチーム分けでそれなのにさっきまであんなに仲良く笑い合いじゃれ合っていたのがまるでそんなことなかったかのように昔からの仇敵でもあるかのように髪振り乱して投げつけたりあらぬほうへ投げると見せ掛けてフェイントでこちらへ投げるという姑息な手まで使うその意味が分からないしほとんど狂気と言っていいその形相の凄まじさには違和をしか感じないしとてもついてゆけないのでありつまりそうしたことには熱狂できない質らしくそれよりも木陰で読書しているほうがよほど有意義だろうにひかがみの辺りを撫でるように吹き抜ける風に足元の草が揺れてページを繰る音も聞こえないほど騒ぐのを聴くともなしに聴きながら活字を追ってゆくというかその中へ入ってゆくというか色も形も音も匂いも全部そこにあるというかそこから立ち上ってくるのでありさらには木陰を渡る匂やかな風の色というか艶というかそうしたものまで見えてくるのでありいやそれはないがオレンジの衣を纏って憩う姿だろうかそれとも瞑想しているのだろうかあるいは疲れて横になっているのかもしれないが二本の沙羅の樹の間に設えた床にもちろん阿難が設えたのに違いないというのは長らく身の回りの世話をしてきたのだからとにかく頭を北向きに右脇を下にしてつまり足を南向きに左脇を上にして足を重ねて横たわる姿があるというかあったというか死を間近に控えた老体だか病体だかの身を労るように甲斐甲斐しく立ち働く阿難の額には玉の汗が浮かびぴちゃぴちゃとそれが滴り落ちてゆくのを垣間見るというか盗み見るというか艶やかな白い肌を伝いながら一筋の光跡を残して今尚それは余光を煌めかせていると言ってよくどんなに拭っても拭い切れないものとして向後煌めきつづけもするだろう要するにいつでもそれを見ることができるわけでページを開きさえすればそこから立ち上ってくるというか匂やかに漂い流れてくるというかとにかく世界が言葉でできていることをこれほどにも実感できるのは読書を措いてほかになくとはいえ何がそれほどにも釈迦を駆り立てたのかそれは知らないがというのは布教の旅へだがどこまでもそのあとに従って長らく世話をしてきたその報いとすればあまりにもひどい仕打ちで已むに已まれぬ事情があってのことと忖度したりもするがいくら忖度したところで言い掛かりの誹りは免れようもないだろうなぜといってあまりに唐突な挿入だからでそれには違和を覚えずにいられないというか悪意すら感じると言ったら言いすぎか何より釈迦の口から言わせているところが卑怯というか狡猾というかこれはお前の罪であるとかこれはお前の過失であるとか何度も何度もくり返しくり返し洗脳めくしつこさで阿難の非を指摘するのはもちろん暗唱なり詠唱なりのための反復ではあろうが矛盾めく言説もくり返し聞かされたら誰だって尤もらしく感じてくるだろうそんな手口を二千年にも亘ってつづけてきたのだろうか、尤も木陰で読書したことなど一度もないのだがひかがみを撫でられることはあるにせよというのは皺寄った手が行ったり来たりしながら序でにとでもいうようにその窪みに触れてゆくのだが擽ったくて曲げたり組んだりして逃れようとしても執拗に掠めてゆくのでありもちろんそれだけで済むはずもなく少しくそこに留まっていたかと思うと徐ろに膝を割ってそこから内側を這い進んでくるというか行きつ戻りつしながらゆっくりと上のほうへ近づいてくるというか気まぐれなようでいて直截でもあり直截なようでいて廻り諄くもありつまり迂回が近道になり近道が迂回ともなるそんなふうなやり方でそうして二又に分岐するその分かれ目へ至ると右をゆくのか左をゆくのか迷うような眼差しをまず右へ投げ掛け次いで左へ投げ掛けてそれから緩やかに下りへと転じている右のほうへではなくそれとは反対にそのままの傾斜で尚つづく左のほうへ小回りの利かない巨船の鈍重さでゆっくりと舵を切るその背のあとに従ってゆきながらぴちゃぴちゃと滴る音にも耳を傾けてその音の滴りになかば身を委ねるとその向こうにあるだろうものが手繰り寄せられるというか吹き寄せられるというか浅瀬に流れ着いた小舟のようにゆらゆらと揺らいでいるのが分かるくらい間近に感じられると言ったら言いすぎかとにかくどれほど揺られていたのか分からないが押すためには少しく伸び上がらねばならずつまり腰を上げるというか尻を浮かすというかいくらか中腰の態勢にならなければならずなぜといってそうしないと届かないからだが尻を浮かすということはそれだけ無防備になるということだからその隙を狙って一気に攻め立てられたら防ぎようもないとそう思うと立つに立てずそうかといっていつまでも揺られているわけにはいかないから何らか策を講じねばならず押すの押さないのどっちなのというような眼差しがこちらを窺いながら急き立てる中素早く立ち上がり腕を伸ばしてボタンを押したらすぐにまた腰掛けるという一連の動作を幾度となくシミュレーションしてみたりもするが巧くいく気がしないというか悉く挫折するに違いなくなぜといって腰を浮かそうと前に屈んだ瞬間を見逃すはずはないからだし腰が浮いた瞬間にそれが滑り込んでくるだろうし撫でもするだろうさらにその奥へも伸びてくるだろうもちろん断りもなしにまあ断りなど要らないと言えば要らないのだがそんなふうにしていつでも押し切られてしまうことを嘆いても詮ないがそれほど満更ではないのかもしれないこちらから誘いはしないにせよあちらの誘いに乗らないということはないのだから尤もどんな誘いにもということではないがそれはしかし本当だろうか屈託のない眼差しの奥にあるこちらには窺い知れないそれが何なのかを見定めようと覗き込んでもそれ以上奥へは進めないというか届かないというかたとえ届いたとしても手応えなり実感なりを欠く空虚な穴でしかなくそこからは何も取りだせないというか手にした途端に消えてしまう体のものなのでありそうかといって悉く仮象とは言い切れない面もあるのであってだからこそ見ようとするのだし見ようとするからこそ見えてくるのでもありそれを篩に掛け吟味することでより確かなものになると手当たり次第篩に掛けてゆき次いでひとつひとつ丹念に磨きを掛けてゆくと肌理の細かな粒というか結晶というか艶やかに輝いて四囲を照らすに違いない。

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