まあ何であれ見えてくるものは見ようとしてつまり見えるものを見ているわけでぴちゃぴちゃと波打ちながら蛇行しているそれは勾配の緩いというかいくらかきつくなった坂道にほかならないがその表面は一様ではなくもちろんそれなりに均されてはいるものの継ぎを当てたように色の異なる部分があり斑になっているそれは黒い穴のように見えるが穴ではなくといってマンホールの蓋でもなくなぜといって丸くないからで穴の痕跡というか掘り返して埋め戻した跡らしく場所によって継ぎが重なり合っているところもあるがそれは埋め戻した場所を再び掘り返してさらに埋め戻したからだろう破損した管や老朽化した管を交換するためにもちろん新たに埋設するものもあるだろうが塗り潰したように黒いその部分だけ路面が少し盛り上がっているから気づかなければ躓きそうだが色が違うからすぐにそうと分かるのでありその部分を通る際にはいくらか爪先が上向きになるよう心掛けてその上を通りすぎながら嘗てそこが穴だったことに思いを馳せるというか今尚そこは穴だということを縦に切れ込んで奥までつづいているに違いないということを暗く狭いその奥からぴちゃぴちゃいう音が洩れてくるということをそこに深く沈み込んでゆくということを抜けだすことはできないだろうことを抜き差しすることはできるにせよ出口はないということをとにかくそれほどにも深い穴が穿たれているわけだがその口を塞ぐというか目一杯押し込んで蓋をするというかぴちゃぴちゃと洩れてこないよう押さえつけて突くべし突くべし抉り込むようにと果敢に攻め立てても底なしの穴に底はないのだから疲弊し消耗し尽して最後は硬直し痙攣することになるのでありそうかといってすべてが徒労に終わるわけでもないだろう何某か爪痕を残すくらいはできるだろうと負け惜しみのように独り言ちそうして死んだように横たわりながら汗の染み込んだシーツになかば埋もれて干涸らびた木の根みたいに縮こまらせているからもう二度と起き上がれないというか起き上がらないというかそれほどの憔悴ぶりと見えだからしばらくそっとしておくよりほかにないがゆったりと停滞した時間というかひどくゆっくり流れてゆく時間というかそれはそれで得がたいもので徐々に鎮まってゆくのを待つのだがただひたすらに待つというよりは波の中をたゆたうようになかば身を委ねながらそれに浸って待つことを忘れると言ったら言いすぎかまあ忘れないまでも待つことから少しく離れてそのゆったりした流れの内にあるということはたしかでとはいえそんなふうに間延びした時間というものがいつまでも間延びしたままということはないらしく延び切った反動だろうかその帳尻を合わせるようにある瞬間に一瞬にして流れ去るというか消え去るというかそれはしかしどこへ行ってしまうのか穴にでも落ちてゆくのかもちろんそうに違いなくなぜといって至るところに穴はあるのだからどこへ通じているのかそれは知らないがとにかく踏み抜かないように跳び越えるというか勢いをつけてこちらからあちらへ踏み締めることのできる固い地面を見定めながらあちらからこちらへ軽やかな跳躍と言うには高さも飛距離も足りないにせよ一跨ぎでこちらからあちらへ神通を具えた仏ではないにせよどこへでも自在に行き来することができるというわけでもちろんここはここであってそこではないのだがそれでもここはそこなのでありつまりここにいながらそこにもいるということで遍在する仏のイメージにも重ねたくなるがそれは控えて着実な歩みによってこちらからあちらへ埃が舞い上がるのも構わずあちらこらこちらへふたつのシルエットが連動して揺らぐのを視野の端に捉えながらこちらからあちらへバネによって増幅される振動にさらなる振動を加えながらあちらからこちらへ、いずれにせよすべてを露わにしようと皺寄った手がどこからか伸びてくるが少しく抗ってみるというか抗ってみたいというか駆け引きというのではないにせよ揉み合うというかじゃれ合うというかそんな児戯めいた行為でいくらか距離が縮まるから不思議でところがもっと距離を縮めようともっとふざけた挙に出ると逆に怒らせるというか機嫌を損ねてしまうからその辺の加減が難しくといって殊更神経質になっているわけではなく何とはなしにそんな流れになるのであり尤もそうしたことを気に掛けること自体がすでに神経質なのだと言えばそれはそうなのだが何であれ何かがはじまる前というのは一種異様な空気に包まれるものでそれ以前の空気と決定的に断絶しているそうした空気に馴染めないというか気後れするというか平然と構えていることができないらしくそれでふざけたり戯けたり茶化したりして気を逸らすのだろうかこちらのかあちらのかそれは知らないがそうして少しく気が紛れたところでゆっくりとはじまるというか気づいたらはじまっているというかどの時点でそれがはじまるのかはじまったのか全然分からないというのではないにせよはじまったその瞬間というものは決して見出せないらしく同じところに同じように触れているのに同じではないということを意識したときには疾うにはじまりの時点を過ぎ去っていてそこから遡って辿り返してみたところで確たるものは何ひとつ得られないのでありだからはじまりなどというものはないというかそんなもの未だ存在したことさえないのでありつまりそれはまだはじまっていないかそれともすでにはじまってしまっているかのふたつにひとつであってそれよりほかには何も見出せないのでありたとえ何某か見出し得るとしても事後的に捏造される類いのものでしかなくお仕着せでも着せられているようなそれはどうにも据わりの悪いものでどこにも置きどころがないから始末に負えずとにかくそれはもうはじまっていて最早べつのステージと言ってよく意味というか価値というか悉く変容して全然違うものとして現れてくるのを目の当たりにしながら流れに逆らうことなく流れゆくその先へ流されてゆくのだがもちろん流されたくて流されてゆくのだが時折鼻先を掠めてゆくごつごつした手がどこをまさぐっているのか分かるような分からないようなさっきまで首筋を舐めていたのが次の瞬間には踝辺りにあって丁寧に刈り込んだ足指の爪の湾曲をなぞるように丹念に辿っていたかと思うといつの間にか臍の辺りを行き来していてその次にはもう唇に触れているというようにとても二本では足りないもっと多くの手が蠢いているに違いないと見ると二本しかなくそんなはずはないと目を閉じるとそれは数を増して隈なく全身を巡ってゆきそれでも目を開くと二本しかないのでありつまり視覚と皮膚感覚とが齟齬を来しているらしくもちろんいずれの感覚もそれ自体は尤もらしく感覚されて何ら疑念を差し挟む余地はないのだがそれぞれ他の感覚と比較しようとすると忽ち疑わしさが擡げてきていずれの感覚にも信を置けなくなり視覚と皮膚感覚とのかかる乖離に戸惑いながらもまさぐられるに任せてつまりまさぐる手はまさぐるのをやめずにいつまででもまさぐっているからそれに浸るというか溺れるというかさしあたりそうすることが求められているのだろうしそうした求めには応じるべきというか応じたいというかいずれにせよ目を閉じると素肌に触れるものがよりいっそうたしかになってよりいっそう現実味を増すのでありつまりそれは祖父の背中でありそれは祖父の手でありそれは祖父の指でありもちろん目を開くと少しく現実味は遠退いてゆくのでありつまりそれは祖父の背中ではなくそれは祖父の手ではなくそれは祖父の指ではなくそれでも再び目を閉じると現前するのでありだからやはりそれは祖父の背中でありそれは祖父の手でありそれは祖父の指でありそれなのに目を開くとやはり遠退いてしまうのでありつまりそれは祖父の背中ではなくそれは祖父の手ではなくそれは祖父の指ではなくだから今一度目を閉じて現前させるのでありそしたらそれは祖父の背中でありそれは祖父の手でありそれは祖父の指であり二本しかないのに四本にも五本にも増えてゆくおよそ捉えどころのない変幻自在の様態と言っていいそれを捉えようと手を伸ばしても嘲笑うようにすり抜けてゆきそうしてぴちゃぴちゃいう音を聴きながらゆっくりとだろうかそれとも強引にだろうか押し分けてくるのを受け入れるというか受け止めるというかそれも祖父のだろうかそれとも違うのだろうか、竿というか棒というか斜めに傾いでそそり立つその脇を目に眩しいオレンジのすぐ横を辛気臭い面持ちに見下ろされながら白い光跡を踏みながら揺れ動く背に誘われながらぴちゃぴちゃと滴らせながら締めつけたり弛めたりしながらつまり速くなったり遅くなったりと緩急をつけながら概ね二拍子の時どき三拍子のその振動が伝わって時間差で揺れ動きながらもちろんバネの反動というか反発もあるだろうが自発的な動きも加わってランダムなそれでいてリズミカルでもある動きの中で徐々に昇り詰めるというか終わりへ向かうというかつまり果てというか際というかゴールというか白い光跡の導く先にあるそれへ直向きに向かってゆくわけでつまりその角を曲がれば見えてくるだろうことをぴちゃぴちゃと予感しながらぴちゃぴちゃと上ってゆくわけでこんもりと迫りだした葉叢の向こう白い光跡の示すその先にそれがあると確信しながらなぜといって擡げ掛かる疑念を片っ端から斥けて屹立するそれはもう確信以外の何ものでもないからで△というかヘというか白い光跡がうねうねとうねり揺らいでいてもそれだけは決して揺らぐことがないと言ったら言いすぎかいずれにせよ白く滴らせながらどこまでも伸びてゆくのをどこまでも辿ってゆくのだがつまりある拡がりを持ったものが一点へと収斂してゆくその一点へ向かってゆくのだがそこにそれがあるのでありそこにそれがあるからこそそこへ向かってゆくわけで右に揺れ左に傾ぐその背のあとに従ってぴちゃぴちゃと喉を潤しながらこんもりと盛り上がった葉叢を掻き分けて鉤の手に曲がったその向こうへ襞という襞を押し開き押し拡げながら半身を浸してぴちゃぴちゃと滴らせながらそうして自在に変容しながらこちらからあちらへあちらからこちらへと往還するというか軽々と飛翔する姿を見出して悦に入るというのではないにせよ何がなし晴れがましい気分にはなるらしく透徹した眼差しと言うには程遠いがそれなり見えるようになったとは言えそうで艶やかに濡れながら眼差すその眼差しが捉えるのは総じて青み掛かっているもののいくらか白く濁って澱のようなものが漂う温かいというかもうすっかり温くなった湯の中に横たわるふやけた裸身だが喘ぐというか悶えるというか艶いた声が谺して四囲を圧するほどの響きとなってぴちゃぴちゃとそれは闇の中から聞こえてくるようでもありというか闇の中から聞こえてくるのだが手を伸ばしても届きそうにない遥か向こうから微かなそれでいて妙にはっきりした響きでつまりこんもりと仄暗い繁みというか黒々した葉叢というか滴り落ちる夕露が仄かに香るそんな儚さの内に現出するのでありそれでもというかそれだからこそと言うべきか手を伸ばせばすぐそこにそれはあるのであって腰の辺りで揺れているその手に節くれ立ってごつごつしていて硬い皺寄ったその手に軽く触れるだけで何倍にも膨れ上がる刺戟には抗えないというか抗いたくないというか全部を受け止めて全部を飲み込んでそうしてひとつになるつまりただ繋がるというのではなく自己の一部と化すのだとそう思っていた節があり要するに膜の上に映しだされる淡い像の動きというか蠢きというか全体丸味を帯びた形のそれは小山というか団子というか揺らぎながら忙しなく動いて弓なりに湾曲している縁の部分から二廻りほど小さなこれも団子というか小山というか突起めく瘤状のものが飛びだしたり引っ込んだりしているのだがそれに連動してやはり忙しなく波打っているのが分かるのだがもっと分かりたいと委ねるというか預けるというかすると一段と大きな波が打ち寄せてぴちゃぴちゃと止め処なく溢れてくるのでありその奔流というか濁流というかを意志の力で堰き止めることは困難でどこか深いところに潜み隠れているそれは獣じみた野生の滾り沸き返るマグマのような何か途轍もなく危険で扱いに困るというか手に余るというかそうした類いのものに違いない。