友方=Hの垂れ流し ホーム

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実際手懐けられるものなのかどうか研鑽錬磨の果てにようやく達せられる境地なのだとすればまだまだその道のりは遠いと言うほかなくそれでも着実な歩みによって前進というか上昇というかしていて目指すところへ目的の場所へつまり到達すべき到達点へ着実に近づいていると見做すのは早計にすぎるだろうかなぜといって景色が動いているからといって必ずしも前進しているとはかぎらないからでいずれにせよ思いきり拡げた脚の間というかつけ根というかうずめているのが見えるがそこから聞こえるのだろうかもちろんそうに違いなくぴちゃぴちゃと濡れて光る素肌を滴り落ちてゆくそれは雫のようでもあり壁も床も天井も突き抜けて遍く響き渡るその音に誰もが聞き耳を立てているに違いないがぴちゃぴちゃと響き渡るのを聴きながら半身に力を込めて立つというか立たせるというか少しく伸び上がって前傾したところでどうにも踏ん張りが利かなくなりつまりあんまり長く浸かっていたからだろう上せてしまったらしくまあ長いといって実際どれくらい浸かっていたのかそれを推し測る時間の感覚も麻痺しているらしいから長いのだか短いのだか正直分からないのだが上せたという事実から長く浸かっていたことはたしかでとにかく中腰のまま掴んだ縁を支えに血の気が戻るのを待つその間もぴちゃぴちゃと絶え間なく滴りつづけていてそれから慎重に縁を跨ぎ越すが右からだろうかそれとも左からだろうか分からなくなり右を上げ掛けて下ろし左を上げ掛けて下ろしまた右を上げ掛けて下ろしさらに左を上げ掛けて下ろしを幾度かくり返すもどちらなのかどちらだったのかとにかく濡れた裸身をタオルで包み込むようにしてぴちゃぴちゃと滴らせながら慎重にゆっくりと脱衣場へ向かうが少しくふらついて滑りそうになりというのは床にせよ壁にせよ本来の堅牢さが失われて何もかもが歪んでしまってどこに足を置いても真っ直ぐに立つことができそうにないからでそんなわけで傾ぐというか揺らぐというかするそこにというのは微細な水滴がその表面に付着しているそれは壁にほかならないがそこに手をついて危うい均衡で支えながらふたつの空間を分かつ戸を開くとそこはひとつに繋がってこちらからあちらへあちらからこちらへあらゆるものが行き来して尤もそれを見ることはできないが湯気というか靄というか浮遊する白っぽい不定形のものが刻々と形を変えながら流れてゆくのは見ることができるからそれによってあらゆるものが行き来していることが分かるわけでそうしてむっとする熱気の中から踏みだすと涼風が掠めて熱っぽさが引いてゆくというか重たるく靄掛かっていた視界が晴れてゆくからだろう背の高い木棚がいくつも並び置かれているのもよく見えるようになってその木棚にいくつもある扉の中から目当てのそれを捜すというよりはさっと一瞥しただけで当の扉の位置を見出してその前に立ちそこから抜き取った木札を元通りに差し込んで扉を開けるとそのままの状態でそこにいるのは籠の中で丸まって眠る中型犬で鍵が掛かっていたのだから逃げだせないのは分かっていても逃げだしていないことに安堵し次いで起こさないよう静かに手を伸ばすと端のほうをそっと摘んで毛皮でも剥ぐようにして取りだしながらひとつひとつ身につけてゆきそしたら中型犬は徐々に小さくなって小型犬ほどの大きさというか小ささというかになりついには消えてなくなるがその代わり自身が中型犬になるというのではないにせよそんな気分にはなるらしくその場にじっとしていられないというか滑って転ぶ危険が少ないからだろうそこらを駆け廻るというか逃げ廻るというかもちろん何からかは知らないがやはり叱られるまで憑かれたように燥いで飽くことを知らずもちろんそのすべてを見ているというかそのすべては見られているというか一際高い位置からこちらからはよく見えないのに向こうからはよく見えるのに違いないそこから垣間見るというか覗き見るというかしているのだろう一糸纏わぬ姿を見えないところも何もかもいずれにせよその視線にぶつかるというか射抜かれるというかしてもまったく気にならないというかそれどころじゃないのはもちろん走り廻るのに忙しいからでつまり汗を流した身体から再びそれが吹き出るのも厭わず棚と棚との間を無雑作に置かれた籠を飛び越えながら出合い頭にぶつかりそうになるのを軽いステップで巧みに交わしながら駆けてゆくのでありそうしてすぐ傍を掠めるくらいでは気づきもしないあるかなきかの幽(かそけ)き揺らぎの中から射し込むそれはもちろん誰のものでもない視線なのであって特定の誰かつまり名指すことのできる誰かでは決してないのでありその誰でもない誰かに見つめられながらその誰でもない誰かとは一体誰なのかと埒もないことを巡っていつまでも繰り言めく思考から離れられないのはそれ自身が自ら廻りだすというか緩い風を受けて一旦動きだしたらどこまでも転げて何かにぶつかるまで止まらないというか止まれないというかカタカタと廻りつづける車輪のように自身の廻転する力がさらなる廻転の動力になるとでもいうようにつまり無限に備給しつづける永久機関でもあるかのようにどこまでも廻転して已まないからで、いずれにせよ眼差しによって眼差されながらそこにあるそれを眼差し返すというか無限に交差しつづけるのを見るというか見られるというかそんなふうにして半裸の姿を映しだすそこに半裸の姿があるのは半裸だからだがもちろん全裸だろうと容赦なく映しだされるしさっきまでは全裸だったのだからその姿も映しだされていたわけで尤も今は全裸ではなく半裸だから半裸の姿が映しだされているのであって半裸なのに全裸の姿が映しだされることはないのでありとにかくふたり向かい合って対峙する恰好でどこか物騒な印象が拭えないのは逆L字形というか┓というか拳銃めく形の銃把部分を握り締めているからだろうかこちらがそれを右手に構えているのに対してあちらが左手にそれを構えているのは左利きだからではないし抑も左手でさえそれはなく一見左手と見紛うそれは右手の裏返しなのでありそれはともかくその尻のほうから紐が伸びて横手にある穴に挿入されていてもちろん自分で差し込んだのだがその中を電気が流れてくるわけでどこか遠いところで巨大な湯沸かし器のようなものを用いて作り出されるそれがここまで流れくるのは途切れることなく線で繋がっているからだがその電気によって熱が生じ同じく電気によって風が生じる仕組みというか仕掛けというかそうして┓の━の先端からつまり銃口部分から出てくる弾丸ではなく温風を当てると重たげに纏わりつく生乾きの髪は徐々に軽くなってゆくがそこから奪った湿気を含む風の流れてゆく先には写像というか虚像というかつまり半裸の姿が揺らめいていて忽ちそれを曇らせるからたしかな像を結ばなくなり半裸のぼやけた影が揺らいでいるのは少しく淫らな感じがするが銃把部分を握る手首を少しく捻って温風の出てくる銃口部分をそちらのほうへ近づけると温められた水滴はすぐに蒸発してぼやけた影はくっきりした輪郭を取り戻すというか奥行きのある空間とともにその面の面上というか向こう側というかそこに再び半裸の姿が現出するのでありそれでもさしあたり必要なところを温めるだけにして矩形の角はぼやけたままにしておきだからその部分だけが丸く刳り抜かれたように鮮明な像を結んでいて四隅は相変わらずはっきりしないのでありいや四隅どころか何もかもはっきりしないと言ってよく辛うじて捉えられる程度の見えにくさというか聞こえにくさというか気を抜くとすぐにどこへか紛れてしまうそれは一定の遠さに隔てられている感じでたとえその距離を縮めようとしてもある一定の距離以上には近づくことのできないある一定の遠さなのでありそれでも尚近づこうとして一歩一歩踏みだしてゆくが近づいているのかいないのかとはいえきらきらする光沢と言い丸っこいフォルムと言い物語に出てくる未来の光線銃とか熱線銃とかそれこそ猿たちが夢中になるだろうような正義のヒーロー達がこれ見よがしに手にしてお決まりのポーズで見得を切るそんなふうなアイテムにも見えてくるのはそうしたものを前提に作られているからなのかどことなく可愛らしくもあるからそれほど物騒な印象でもないのであり尤も自分で選んだのだがシルバーやブルーやグリーンやの中から色鮮やかなピンクを小振りで持ち重りのしない旅行にも持ってゆけそうなそれをこの手で選んだのだが尤も旅行にはほとんど行かないから持ってゆくこともないのだがいずれにせよある程度乾いたところでhotとある目盛りからcoldとある目盛りへツマミの位置を移動させるのだが指が覚えているから目で見て確認するまでもないし下からoff、cold、hotと記されているのを何度も見ているからツマミをひとつ押し下げればいいことも分かっていてそうしてツマミを目的の位置へと移動させると電気の流れが変わるというかある経路からべつの経路へと切り替わって温風から温かさがなくなり冷たいというより熱くない風になるのだがそうとすればcoldという表現は適切ではなくたしかにhotよりはcoldかもしれないがそれ自体coldではないのだからただの風というかニュートラルな風というか生温い風と言うべきものでそれを熱の籠った髪へ当てながら毛先から頭皮に近い根元の辺りまで万遍なく送るがあまり近づけすぎると毛が巻き込まれてしまうので適度な距離を保ちつつ籠った熱が抜けるまで送りつづけそれからまたcoldからhotへツマミの位置を移動させて温風で乾かし熱くなったらまたhotからcoldへツマミの位置を移動させて熱を抜くそのくり返しで、そうして重く垂れ下がっていたのが軽やかに靡くほどになったら一旦風を送るのをやめてつまりツマミの位置をoffへ移動させて電気の流れを遮断して乾き具合を確かめるのだが手櫛で梳くとまだ少し湿っている部分があるのが分かりだからまたツマミの位置をoffからhotに切り替えてその湿っているところへ重点的に風を送ってそうして八割方乾いたらあとは自然に乾くに任せて横手の穴から紐を抜き取ると嵩張るそれを銃身部分にぐるぐる巻きつけてそれこそ身動きひとつできないほどきつく縛りつけるのだがそのやり方が癖になってしまったのはいつからだろう肉に食い込んだその跡が何日も消えずに残っているその部分を指で触るというかなぞるというかするのも癖になってとにかく少しでも弛みがあるのが嫌というか我慢できないというかリボンにせよ紐にせよあとで解(ほど)くのに苦労するのだがそんなことは考えもせず固く結びつけるのが習慣になっているというかきつく締めつけられてゆくときの妙な昂ぶりを抑えることはできないらしく捩れようが縺れようが構うことなく巻きつけてゆきそうして所定の位置に戻し置くと次の出番までその恰好のままにしておくのだがそんな姿を誰かに見られたらと思うと気が変になりそうでもちろんならないがなりそうな気がするのでありそうしたことをくり返すうちに打ち消しがたく条件づけがなされてしまったらしく抵抗はいっそう困難になりいつか越えてはいけない一線を越えてどこまでも昇るというか堕ちるというかそれはもうべつのステージというような範疇を遥かに越えてまったく未知の領野というか新たな地平というかかかる一線を越えてほんの一瞬でも越え出て垣間見るというか覗き見るというかその未知の領野を新たな地平をそれはもうたまらなく甘美な世界に違いなくとはいえ昇りたいというか昇りたくないというか堕ちたいというか堕ちたくないというか見たいというか見たくないというか行きたいというか行きたくないというかでもあってだから今はまだもちろん先のことは分からないにせよ今はまだかかる一線の手前に辛うじて踏み留まってその向こうに拡がる世界を覗き見るというか垣間見るというかつまり白い光跡がこちらとあちらとを分かちながらどこまでも伸びているというわけでそれでもふとした拍子に踏みだしてしまうかもしれないしそれにはほんの些細な切っ掛けさえあればそれこそ軽く背押されるだけで充分でそれでもとにかく今はまだということで遠すぎず近すぎず適正と言っていいのかどうか一定の距離を置いて眺めやることで見えてくるというか焦点が結ばれるというかそんなふうに現出する諸々を捉えて吟味するのでありまあ吟味といっても口の中で転がしながら少しずつ拡がってゆくその味を楽しむくらいがせいぜいでそれ以上深い認識に至ることなど端から考えてもいないのであり尤も何かの拍子にそうした認識が向こうからやって来るとすればそれを拒むものではないがこれまでそうした認識が訪れたことなどあっただろうか。

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