友方=Hの垂れ流し ホーム

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とにかくそれは骨を伝って届くのだろう籠ったような響きでどこか水の中で聴く音のようでもありぴちゃぴちゃというかばしゃばしゃというかざあざあというかどれも水というか湯というかが発する音なのにそれぞれ違って聞こえるから不思議ですぐ近くから聞こえてくるのや遠くから響くのやすぐ消えてしまうのや長く尾を引くのやそうした響きに何がなし耳を傾けながら眼差しているその先にそれはあるのだが黒々した塊に光輪を煌めかせながら跳ねるように逃げてゆくのを追い掛けるというか手を伸ばせばすぐの距離なのに手を伸ばしても届かないというか巧みに逃れてゆくらしくそうかといって逃げ足が速いというわけでもなくどうにも頼りなげな足取りで右に揺れ左に揺れているから目を離せないのでありもちろんちょっとくらい目を離したからといってどうなるものでもないだろう目を離す前と同じようにそれは右に揺れ左に揺れているに違いないがそれでも目を離した隙に何か決定的な出来事が生じてしまうというかおよそ決定的瞬間というものはそんなふうにして生じるものではないのかとそう思っていた節がありだから目を離せないわけでそれを知ってか知らずかいや知っているに違いないがつまり弄ばれているのだが素知らぬ顔で揺れながらいや顔は見えないがもちろん少しは見えるがほんの少しで表情までは分からないから素知らぬ顔をしているかどうかそこまでは分からないのでありいずれにせよ重たげに揺らぐ背から滲み出る気というか匂いというかそれがある程度物語っていると言ってよくそうして揺れながら狭い通路を少しずつ奥へ向かっているのだが棚のほうには目もくれないというかもちろん少しくらいはくれているかもしれないがほんの一瞬の眺めやり程度にすぎないだろうしそうした視線の動きを捉えることは難しく況して背後からとなれば尚さらでいずれにせよ狭い通路を奥へと進んでゆくその背は右に左に大きく揺らいで壁というか棚というかぶつかるのではないかと気掛かりで一歩ごと振幅が増してゆくように危うげに揺らぐ背中に視線を注ぎながら奥へと伸びる通路を差し覗くとその幅の狭さが実際以上に距離を長くしているらしくさらには奥へゆくほどに棚と棚との間が狭くなってゆくようにも見えるからそこで棚が尽きている棚の切れ目というか奥の通路と直角に交わるT字路というか丁字路というかそこへ至るまで棚に接触せずに済むだろうかと懸念は膨らむばかりでなぜといって一方で振幅が増してゆき他方で間隔が狭まってゆくのだからぶつからずに済む道理はないからでだから間違いなくぶつかると言ってよくそれはもう時間の問題でそうとすればそれは右に傾いたときだろうかそれとも左に傾いたときだろうか右のほうには紙類が左のほうにはチューブ類がそれぞれ隙間なく並べられて身を凭れさせることができるようなスペースは元よりないからいざとなればこの身を挺するつもりでいつでも踏みだせるよう身構えながらその背の動きに呼吸を合わせて同じリズムで右に揺れ左に揺れているのだが同じように動いているつもりでも微妙にズレるというか一呼吸遅れてしまうのは一定のリズムで揺れているわけでないからで抑も機械ではないのだから正確無比な動きなどできようはずもなくつまり不規則な動きは予測できないからどうしても遅れてしまうのでありそれでも諦めず右に左に揺り動かしてそれとひとつになろうとすればいつかひとつになれるともちろん思っているわけではないがほんの一瞬くらいなら重なりそうな気がするのでありだから動きに合わせて右に左に揺れながらその背についてゆくのだがT字路というか丁字路というか突き当たりの壁面まではまだまだ至りそうになく、もちろんT字路というか丁字路というかそれは疾うに通りすぎて遥か後方へ流れるというかこんもりと迫りだした葉叢の向こうへ消え去っているのだから振り返ってももう見ることはできないがそれとも振り返ったらまだそこにあるのだろうか錘か何かのように意地悪く居坐っているのだろうか遠く隔たっているその距離が縮まってゆくようなそんな気がするからだろう振り返りたい衝動に駆られて前をゆく背から目を離しそうになり目を離したらしかしその背を見失うことになりはしないかいやちょっと振り返るくらいどうということはないはずだがそれでも不用意に振り返ることはできず暗い夜道で路頭に迷うというのではないにせよ子供染みた思いに憑かれて頑なに前をゆく背から目が離せないというか目を離したくないというかそうして今にもぶつかりそうに危うげに揺れる背を見つめながら数瞬前にそれが占めていた空間にそっくりこの身を滑り込ませるようにして空間それ自体が衣服でもあるかのようにそれを身に纏うそんな要領で鼻先から突っ込んでゆくうちに不意にぴたりと重なる瞬間があってそしたらその瞬間に通じ合うというか何かが通い合うというか何かは分からないがたしかに通い合うものがあるとそう感じられてとはいえ次の瞬間にはもうどこかへ消え去ってそんな感覚は跡形もなくそれが仮象であることはだから明らかなのだが何某か期待を込めてまた次の一歩を踏みだし身を滑らせてつかず離れずの距離を保ちながら右に揺れ左に揺れるその背を見つめながら狭い通路を奥へ棚と棚の間を奥へつまりT字路というか丁字路というか突き当たりの壁面へそこまでゆけば息をつけるだろう少しく開けた空間へ向かってゆくのだが一向にそれは近づいてこないというか近づくほどに遠離るというかまるでパースの狂った絵の中に入り込んだような妙な感じでその妙な感じが意識の領野に少しずつ浸透してゆくらしく一歩ごと像は歪み捩れてゆきこのままゆけば徐々に狭くなる棚と棚の間に身体を挟まれて身動き取れなくなるとそんなふうにも思い做されてもちろんそんなことありはしないのだがそんなありもしないことを危惧しているのでありつまりありもすることがあったとしてもそんなことは至極当然の成りゆきなのだから起こり得る事態が起きたというだけで驚くには当たらないのだがありもしないことがあるとしたらそれは生じ得ない事態が生じるということになるのだからその衝撃たるや凄まじいものがあるに違いないといった危惧が念頭から離れないのでありとにかく祈るような思いで見守る中危うい均衡で揺らぐ背は右に傾ぎ左に傾ぎしながら棚と棚の間に入り込むというか間を搔い潜るというか全然ぶつからないから不思議でもちろんそれならそれで構わないというかむしろそれに越したことはなく身を挺してもといった決意など杞憂に帰してくれたほうが断然いいわけでそれでも一旦懐いてしまった危惧をいや危惧にかぎったことではないがたとえそれがどんな想念であってもあるいはどんな幻想や妄想の類いであっても一旦懐いてしまった以上完全に払拭はできないのでありつまりまだそれを懐いていなかった地点にそんな危惧なり想念なり幻想なり妄想なりなどどこにも存在しなかった地点に立ち戻ることは不可能なのでありなぜといってそれは時間を巻き戻すことにほかならないからで要するにあったことをなかったことにはできないのだからたとえ一切が忘却の彼方へ消し去られたとしても残滓というか残留物というか何某か痕跡として残っていることは否めないわけでというのは特定シナプスの活性化という形でだろうそれでもぶつからないことに少しく安堵したらしく具に眺め入るというのではないにせよ万遍なく四囲を見渡せるくらいには余裕ができその狭い通路の奥のほう揺れる背中越しに覗くT字路というか丁字路というかそれまでほとんど意識していなかったものが改めて意識の領野へ現れて蠢くというか揺らめくというかもちろん揺らめきも蠢きもしていないのだが揺れているのはむしろこちらのほうなのだが揺れているこちらが揺れていなくて揺れていないあちらが揺れているというおかしなことになっていてそれなのにそれを少しも変だと感じないというかそうした感覚をありのまま受け止めてそんなこともあるだろうくらいに揺れ蠢くT字路というか丁字路というか少しく開けた空間のほうへなかなか辿り着かないそちらのほうへぴちゃぴちゃと雫を滴らせながら湯の中で四肢を揺れ蠢かせながら眺めやるその先を透かし見るというか眇め見るというかそうして少しずつ結ばれてゆくらしい像というか像の欠片というかを拾い集めて飽きもせず捏ねくり廻しているうちに何か歪なオブジェへと変じてゆくのでもあろうかしっとりと潤いながら揺らめく四肢は縺れたように絡み合って淡やかな光に震えつつうねうねとうねりながらどこまでも伸びてゆき、艶やかなその白い光跡を辿って上りつづけてもうどれくらいになるのかもちろん大凡の見当はついているが大凡は飽くまで大凡であって正確なところは分からないのでありそれでも大凡の見当ではもうそろそろのはずだからもうそろそろなのだとうねうねと滴る雫をぴちゃぴちゃと弾ませながら奥へゆくにつれ細く狭くきつくなる通路の奥を見据える眼差しに寄り添うように凝らすというか瞠るというかすればその細さがその狭さがそのきつさが実感されてくるというのではないにせよ何がなし見えてくるものはあるとそう思わずにはいられないというかそう思うからこそ見えてくるのかもしれずいずれにせよ生温い風が匂やかな夜の気を運んでくるが風は吹き抜けても夜の気は纏わりつくように重たるく肌に残りそれはどこか水中をゆくような抵抗を思わせて重い足取りがさらにも重く一歩ごと引き離されてゆくような一歩前をいや二歩前をゆく背がいかにも若やいで見えてくるというのではないにせよ足の運びがどことなく軽やかだし滑らかでいくらか浮き足立っていると見えるのはやはりゴールが近いからだろうそうでなければ騒ぐというか震えるというかこんもりと迫りだした葉叢が擦れ合う音がその背の向こうからその背を越えて響いてくることもないだろうとにかくゴールはもうすぐそこなのだからそろそろなどではなくほんのすぐそこなのだからとそう思ううちにもこんもりと迫りだした葉叢が捉えられそうな予感がしてその一葉一葉が密に重なり合っている様子が浮かび上がり一揺れするたびカサカサと擦れ合うのを聴きながらそちらのほうへ目を向けると向こうからもこちらを見ているらしく向きになって凄めば同じように向こうも凄んでくるがそのまましばらく睨み合いをつづけるうちに不意に糸が弛んだように同じタイミングで視線を外し少しく彷徨ってから送りだす足のその靴先からさらに拳ふたつほどだろうか隔てた辺りになるが白い線の際というか黒々した路面との境界辺りにそれは落ち掛かりその際というか境界の辺りに這わせながら丸く穿たれた空虚なそれでいて全部が納まっている穴の下を通りすぎてゆくがその視野の端を掠めるようにして黒い影が追い越してゆくと見えいや追い越すというより伸びてゆくらしく細く長く縦に伸びるその先端部は闇に溶け込み闇とひとつになってそうして少しずつ飲まれてゆく影を横目に白い光跡の上をそれだけが頼みとでもいうように踏みながら当の闇の中へ入ってゆくと影と同様に溶け込みひとつになるというのではないにせよどこか深いところで底の底で繋がっているような気がするのでありそうとすればどれほど不規則な動きで翻弄しようともそれに合わせることができると楽観的にすぎる思いに領されてゆくもちろん何の根拠もないのだが。

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