そうすれば遥かな道筋が一望のもとに見渡せるようになるだろうかその全部が視野の内に納まって手に取るように分かるとでもいうのだろうかさすがにそこまで期待してはいないがいくらかは見えるようになりたいしなるだろうと踏んでもいてとにかく全部がその中に納まっているというか小さく折り畳まれて仕舞い込まれているらしくそれを取り戻す術はないとそう思われもしてそれでも取り戻す機会を窺っていてその一挙一動を注視するというのではないにせよそちらに注意を向けるとこちらが疎かになりこちらに気を配るとそちらが目に入らなくなりつまりどちらにも等しく視線を注ぐことは例えば右目でこちらを左目でそちらをというように左右で異なる対象を同時に捉えることはできないのだから仮に同時に知覚できるとしてもそのあとの認識なり判断なりをも同時にできるかというとそんなことはとてもできそうになくそうとすればどちらか一方を優先せざるを得ないわけでそうかといってどちらを優先すべきかということはそれ自体非常に難しい問題でもあるからそう簡単にどちらか一方に絞り込むこともできないのでありだからあちらからこちらへ行ったり来たり常に迷いながらこちらからあちらへ行ったり来たりそれがつけ入る隙を与えることになると分かってはいてもあちらからこちらへ行ったり来たり往復というか反復というか絶えず揺れ動いて已まない視線の先にあるものも同様に揺れ動いているから容易には捉えがたくそれでも捉えようとしてあちらからこちらへ素早く動かしてみるそしたら重なり合うイメージがべつのイメージを喚起してそれがまたさらに異なるイメージを引き寄せるというように連鎖してゆくらしくそうして膨れ上がり肥大するイメージ群が犇めきながら押し寄せるというか津波のように押し寄せて第一波が引いてもすぐに第二波が押し寄せてさらに第三波第四波と立てつづけに押し寄せて為す術もなく飲み込まれるしかないというかそこには意に沿わないものや意に反するものも含まれていてそうしたものを選別し選り分けることは難しいからだろう全部が一緒くたになって未整理のまま放置されもうどこから手をつけたらいいのか時折浮かび上がってくるのを拾い上げるというか掬い上げるというかするくらいが関の山でとにかく行ったり来たりというか浮かしては下ろしまた浮かしては下ろしをくり返すことのうちに何か深い意味が隠されているとでもいうようなどこか儀式めく慎重さで反復される動作を捉えながら待つというか構えるというか狙うというかしているその前で斜めに射し込んでくる日差しが眩しいのか少しく目を細めながら薄く細長い板を何枚も並べてあるその上に乗せるというか置くというかさらに荷重が掛かると押し潰されるため横長の楕円形に変形するそれは腰を浮かせると円形に近い形になり腰を下ろすとまた横に伸び拡がって自在に変化して已まずとはいえある一定の幅の中で変化するだけで原形を留めないほどに変形したりはしないのだがそうして上げた下ろしたりして据わりのいい位置を探る間もレンズはその一部始終を捉えているのかそれとも万端整うまで脇に控えているのかそれは分からないが肩に掛かった髪を後ろへ撫で上げたりほつれた毛を撫でつけたり衣服の皺を伸ばしたりしながらレンズのほうへ目を向けてポーズを取るというか科を作るというか意識的にであれ無意識にであれモデルとなってその中に収められていつまでも残るのだから永遠とは言わないまでもある種の永続性を具えてはいてそうして切り取られたその一瞬が今も尚鮮明に浮かび上がりそれでいてずいぶんと色褪せて古めかしくもありというのはそこに見られるものすべてがそれ自体古めかしさを具えているからでつまり二重の古めかしさを纏っていると言ってよくそれでもそこにある笑みは若やぎに満ちて色褪せることもなければ古びることもないとそう言ってよくだからやはりそれは不滅というか不変というか何かそうしたものによって守られていて時間の影響を受けない時間とは無縁の無時間的な性質というか何かそうしたものが内在していると言ってよくいつまでも変わることなくありつづけるそれは何か途轍もなく遠大なもので触れることさえ躊躇われるような近寄りがたいものなのだろう少なくとも一部の人たちにとってはそうなのだろう軽々に論じたり駁したりなどできない崇高なものというか不可侵の領域というか垣間見ることも覗き見ることもできない聖域とでも呼ぶほかないものでたとえそれが阿難の罪によってしかもありもしない罪によって担保される体のものにせよ、要するに法というか真理というか何かそうしたものなのでありそれによって輪を廻すのらしく即ち輪を廻す人というわけでいや人ではないが人の形をして人の言葉を話すのでありそれなのに人ではないのでありそれでもやはり人なのでありとにかくその輪は反転し得ないとそう書かれていていや書かれているのではなく印刷されていてというのは紙の上にインクを滴らせ染み込ませていくつもの文字を縦横斜め止め撥ね払いの組み合わせによって偏と旁の組み合わせによって象っているのでありさらにそれらひとつひとつの文字の組み合わせによって単語を形作り文を構成しているのでありもちろんそうした技術が現れる前は全部が人の手によって記されていたのだしさらにもっと前は口伝によるのでありだからいくつもの異なるヴァージョンが存在しているのだし解釈も多々あるわけでつまり唯一のそれこそが正しいそれこそが正解と言うに相応しいものは存在しないというかそこへは絶対に辿り着けないだろういずれにせよくいつでも好きなときに開き見てその同じ言葉が再現されるのを何度でもくり返し現れるのをそれがそれとして現前するのを見ることができるのだが現前するそれは本当に同じものなのだろうか同じものを見ているのだろうかその同じ言葉によって喚起されるものが同じものであるとの根拠はどこにあるのかいったい何を根拠にそれがそれであるということが同定できるのかとそう思ううちにも三年という月日は崩れ去ってそれぞれを結びつけていた結び目も解(ほど)けてゆくらしく僅かな光に照らしだされる四囲の佇まいもどこか虚ろな陽炎めく儚さで揺らいでいると見え前へ踏みだす勢いが急速に弱まってゆくのは疲れているからだがそれでも眠ってはいないだろうそれとも眠っているのだろうかいや眠っていたら輪を廻すこともできないだろうからもちろん眠ってはいないだろうつまり目を開いてそこにあるものを動いているのも止まっているのも見ているというかありのまま受け止めるというかそうして風を受けて髪を靡かせながらどこまでも駆け下ってゆくのに違いない巧みにバランスを取りながら右に左に揺れながら細長い金属棒の行方については明らかではないにせよもちろん疲れてはいないのだが前へと進んでゆくというか前にしか進まないというかなぜといって前へ進むためのものだからでつまりそれは前にしか進めないのでありたとえ技術的に可能だとしても後ろへ進むには特殊な技能を要するだろうから例えばそれはアクロバットやサーカスや大道芸やでしか見ることができないだろうような長い年月を掛けて研鑽錬磨する類いのものだろうからそれを習得することなどとても無理だし元よりそんな無謀なことを実行しようなどと考えてはいないだろうそれとも考えていたのだろうかそうして実行に及んだのだろうか穏やかな風が肌に心地よい日曜の晴れた午後遅い朝食を摂ったそのあとに家の前の狭い道で少し行けば広い通りに出るがそこは交通量もあるし人目もあるしまあ殊更人目を憚るようなことでもないがそうしたことは得てして密かに為されるものだろうから人通りの少ない狭い道のほうが適しているのでありとにかく前向きにではなく後ろ向きに跨がってゆっくりと蹴りだしてゆくと勢いが足りないからか安定しない車体は右に左に傾いてバランスを取ろうと舵を切るも思うようにならず却ってバランスを崩してよろけてしまいそこで足を着けばいいものを少しでも長く少しでも遠くと思うから車体が大きく傾いても漕ぎつづけ体勢を立て直すことはしかし叶わず一メートルも進まぬうちに転倒してその拍子に肘を擦りむいたらしく赤く滲む傷口が痛みを喚起して挫けそうになりそれでも車体を起こして今一度跨がりもちろん後ろ向きにだがそうして再度試みるもすぐに転倒してその後何度試しても同じ結果にしかならないというようなことがあったのだろうかあったかもしれないしなかったかもしれないがあったにせよなかったにせよそうした技術を習得しているかというとそんな事実はないわけでだから前にしか進めないのでありつまり前へ進むためにこそぴちゃぴちゃと勢いよく廻すのでありペダルからギアへギアからチェーンへチェーンから後部のギアへ後部のギアから車輪へ車輪から路面へと順次伝えながら廻すのでありそしたらそれは見えなくなってどこかへ消えてしまうのでありもちろんそれはそこにあるのであってそれでもそこにはないのであってつまりあるのになくないのにあるというわけでこれこそイリュージョンというか神通というかその輪の前にしゃがみ込んで間近に眺めてみてもそのカラクリは分らず謎は謎のまま残って今も尚それは謎としてあるのかそれとも疾うに氷解しているのかその潤んだ眼差しから窺い知ることはできないが徐々に速度を増してゆくうちに激しく振動して下から強く突き上げられると締めつける力も増してゆきさらには目の前の背中から汗というか汁というか廻した腕の中でしっとりと濡れてゆくのが分かり体温とともにその匂いが伝わってきもしてそれが鼻腔を擽るというか勢いよく吹き寄せる風に流されもせず纏わりついてその余薫が漂うというか今この瞬間もそれに包まれているというか分かちがたくひとつになっているのだとそう言っていたのだろうか、いずれにせよ緩いというかいくらかきつくなった勾配の坂道を上ってゆくのは甘利なのであり闇の中に項垂れ佇むオレンジの筒というか杭というかそこにある辛気臭い面持ちとともに奥へゆくにつれて細く狭くきつくなりながらぴちゃぴちゃと波打ち揺らぐ中をもうかなりのところまできているはずなのだが上り詰めたその先にあるだろうものが現れてくる様子はないらしく果てというか際というかそれ以上の先はないつまりそれを越えて尚先へ進むことはできない行き止まりのどん詰まりの終着点のそこですべてが終わるというか何もかも終わりにできるというか何もかも終わりにしたいというかまだまだそれは先のことらしくそれでも右端と左端とに一筋ずつ合わせて二筋引かれている白い線の間はずいぶん狭くなっているから壁というか塀というか両側から挟み込まれて今にも押し潰されそうでもちろん押し潰されはしないがなぜといってそこが道である以上あるいは道が道であるかぎりある一定の幅が存在するだろうからだがさらなる揺れに見舞われればその可能性も否定はできずとにかくぴちゃぴちゃと波打つそれは波打ちながら先のほうで鉤の手に曲がっていると見えつまりその角にそこが角であることを知らしめるオレンジの筒というか杭というか項垂れ佇む姿が認められるのだが丸い穴のその奥というか表面というか見えないはずの道がつづいているその角を曲がればつまり葉叢を揺らすほどでもない穏やかな風に吹かれながらそこを曲がることができるならもちろんできるはずだがそうすれば新たな視界が開けるだろうし新たな道も開けるだろうそれはもう絶対に間違いないがまだまだ先のことらしくだから虚像の中に見霽かしながら上ってゆくのだがもちろん坂道をだが壁というか塀というかこちらとあちらとを内と外とを確然と分かつ一繋がりのものと見えていたのが近づくにつれ縦に細長い線というか隙間というか現れてくるらしく垣というか柵というか一定の間隔で縦に並ぶそれは細長い金属棒なのでありそれがそれとしてつまり棒が棒として現れると同時に棒と棒との間に空間が現れもしてだからそれは壁だか塀だかから直接生えているのではなく棒と棒との間からおよそ握りこぶしひとつくらいの隙間から当の隙間を埋めるように顔を覗かせているということになる。