そんなわけで横へ上へ拡がり伸びてゆくこんもりと迫りだした葉叢に阻まれてまたしても迂回を余儀なくされてつまりさしあたり安全を保証する白線から離れて車道側へ飛びだす恰好になりそしたらタイミングよくというか悪くというかけっこうな速度で背後から迫るものがあることに気づく暇もなくぶつかってというかぶつけられて腰を強打したらしく仰け反ったかと思うとその体勢のまま路肩のほうへ弾き飛ばされてこんもりと迫りだした葉叢の中へそれを回避しようとした当のものへ突っ込んでゆくという光景が一瞬のうちに展開されてそうして葉叢に近づくにつれ小振りな葉の一枚一枚が拡大されて裏側だろうかそれとも表側だろうか網のように走る細い管とその中を流れる透明な液体まで見えてくるから不思議でそこからさらに倍率が上がって四角な壁で仕切られた小部屋が無数に連なっているのまで見えるが中心にある丸い核がさらに拡大されるとその中に毛玉のような塊が蠢いて糸というか紐というか全部がそこに記されているそれが核酸の塩基対なのらしいとそう思ううちにも二重螺旋の紐がはらはらと解けて己と寸分違わぬものをつまり自身の複製を生みだしてゆきもちろん脳裡でだが要するに同じ場面がくり返し再現されるのを否応なしに見せられていやくり返しというか少しずつ異なる展開でぶつかるタイミングや身体の部位が違えば飛ばされる方向や角度も変わってくるのであり入力するパラメータの違いで結果も大きく異なるシミュレーションのようにあらゆる可能性が考えられるからだろうひとつひとつ網羅的に展開してゆくらしく何度もぶつかっては弾き飛ばされるがそのたび瀕死に陥るからとても助かりそうにないとそう思い做されだからほとんど絶望して振り返るがけたたましく響くクラクションとともに眩しく照らすふたつの閃光がすぐそこまで迫っているということはもちろんなくこれまでと変わらない静けさと闇とに四囲は覆われていて時折どこか遠くのほうを走るらしい作動音だろうか微かに届くだけで危惧するようなものは人を易々と死に至らしめる物騒なものはさしあたりないと言ってよくもちろんさしあたりないというだけでそうした危機はいつだって起こり得るのだし起こり得るからこそあらゆる可能性を網羅的というか虱潰しというか逐一検証してゆくほかないのだがあらゆる可能性があるというのに悉く瀕死へと至るのはそれが必然だからではもちろんなくてそこに変なバイアスが掛かっているからに違いなくそうとすればそれを取り除けば済むのだがつまり静寂と闇とが齎す心的なものだろう何がなし不安を醸成せずにはおかないバイアスを取り除くということだがそんなことできるのだろうか現に静寂と闇とに囲繞されながら当の静寂と闇とを排することが意識の領野からそっくり締めだすことがあるものをないと言い包めることがいずれにせよ悲観ではなく然りとて楽観でもなくつまり主観ではなく客観によって眼差すことそうすればその眼差しの向こう側へと至ることもできるとそう短絡はできないにせよ何某か成果は得られるかもしれないと淡い期待を懐きながら緩いというかいくらかきつくなった勾配の坂道をぴちゃぴちゃと滴らせてゆくがそこへどこからともなく生温い風が吹き寄せて頬を撫でてゆくのでありいや頬と言わず首と言わず露出した部分ならどこでも撫で廻すのでありつまり至るところを弄ぶというかこちらの反応を窺いながら探りを入れるように触れてゆくというかべつのステージと言ってもいいそれは目眩く官能の予感というか前触れというかとにかく皺寄った手が軽く触れるだけで忽ち熱を帯びてくるというか染み出てくるというか固く締まっていたのが柔らかく解れてゆくらしくつまり閉じていたのが開いてゆくということであり乾いていたのが潤ってゆくということであり鎮まっていたのが昂ぶってゆくということでありその波を捉えて巧く乗ることができるかどうかが鍵でもちろん乗り損ねることもあるにはあるが大抵の波には乗ることができるとそう思っていた節があり、だからちょっとした風が吹き寄せても過剰に反応してしまうのだがそこに視線が集まるのを避けようとできるだけ歩幅を狭くして翻らないようにそれでいて遅れないよう速度を保ちながらというほとんど両立できないことを両立させようとするからか却って動きがぎこちなく不自然になるらしく翻らないようにすればするほど翻るというのではないにせよそうしたぎこちなさ不自然さは逆に視線を集めてしまうつまり行き交う人らの眼差しは悉くそこへ注がれているとそう思っていた節があり見えていないのに見えているというか見られているというか何もない闇のその向こうから覗き見る眼差しがあるとしばらくその闇のほうに目を凝らしてみるがそんなものはないと蹴りだす足に力を込めてそれで足取りが軽くなるわけではないにせよいくらか勢いを取り戻して緩いというかいくらかきつくなった勾配の坂道を上ってゆくのでありなぜといってこんもりと迫りだした黒い塊というか茂みというか生温い風に揺らめきながら変化して已まないそこへ向かってぴちゃぴちゃと打ち寄せる波というか渦というかそれがすぐそこまで迫っているからでついにそのときが来たのかまだ来てはいないのかそれは分からないがいずれ到来するだろうそれに備えるというか構えるというか覚悟と言ったら大仰にすぎるだろうかとにかくその背のあとに従ってゆくというか従ってゆきたいというかそうするよりほかにないからそうするのでありもちろん極力自然に振る舞おうとするのだが抑も自然な振る舞いとはどのようなものなのか例えばほとんど意識されない無意識に行う行為を言うのであればそうした日常意識することなく行為していることを意識して行為することなどできるのだろうかある意味それは無意識を意識化することにほかならないが意識化された時点でそれは無意識ではないのだから本来それがある通りのものではなくなっているということでそれをしも自然な振る舞いと言えるだろうかむしろそれは自然さを装った不自然な振る舞いではないのかそうとすればそうしたものは容易に見透かされるに違いないつまり隠そうとしている当のものを自ら晒すことにほかならずじゃあどうすればいいのかあとはもう開き直るしか術はないと開き直って翻るのも構わず大股でモデルか何かのように見られることこそが求められているというのではないにせよ襞が開いたり閉じたりして踊る様子を少しでも綺麗に見せたいとでもいうように歩いてゆくというようなことになるかと言えばもちろんそんなことにはならないわけで不自然だろうが何だろうが翻らないに越したことはないのだからそう心掛けてその背を視野の中心に据えながら遅れないようについてゆくほかなくぴちゃぴちゃと滴る音がそれでも聞こえてくるようで腿の内側を伝い流れるそれは路面に点々と血痕のような跡を残してゆくのでありつまり周知の事実として好奇の眼差しに晒されていることをそれは示しているわけでだから一刻も早くこの場を離れたいが目の前の背中はそれを阻むかのようにのんびりした足取りで尤もいつだってそんなふうな歩きぶりなのだが殊更ゆっくりと右に左に揺れているようなのは傾斜や段差に翻弄されるからかそれとも喧噪や混雑や人いきれに当てられてだろうかまさか迷ったわけではあるまいな迷ったにせよ迷っていないにせよどこへゆくのか行こうとしているのかそれが分からない以上どうすることもできず尤も分かったからとてどうするとかこうするとかああしたいとかこうしたいとかあるいはああしなければとかこうしなければとかつまり積極的にどうこうするということはないだろうが従順に盲目的に隷従するというのでもないが、それはそうと文字の氾濫というか意味の氾濫というか至るところ宣伝文句なり勧誘文句なり誘導文句なり警告文句なりが目についてそれら警告文句なり誘導文句なり勧誘文句なり宣伝文句なりは目に留めるだけで意味を喚起して已まないしその分注意が散漫にもなるだろうからそうしたものには目を向けないようにして目の前の背中をただそれだけを見つめているのだがそうすると足元が覚束なくなってちょっとした段差にあるいは段差とさえ言えない僅かな凹凸にも躓くことになるし不用意に翻らせることにもなるからそれはそれで困るのでありだから一点を注視しつつも四囲に配意してそれでいて意味は遮断するというように喧噪の内にありながら喧噪から少しだけ距離を置くというか一種超然とした構えで五感を研ぎ澄ますというか武道の達人にでもなったようにもちろんそう簡単にできることではないし集中力も長くはつづかないからいずれ綻びが生じるというか視線は揺らぎ彷徨いだして何を見ているのか見ようとしているのか分からなくなっていや分かっているのだが意に反して泳いでしまうらしくそこへ各種文句がちらついてうっかり目を注ぎでもしようものなら忽ち意味が雪崩れ込んできて意識の領野を渦巻き飛び交って撹乱するというか撹拌するというかそれまで曲がりなりにも整序されていたのが均衡を失って混沌と化してゆくと言ったら言いすぎか混乱というのではないにせよ背の立たない深みに填って泳げないわけではないのに少しく慌てるのに似て息を継ごうと藻搔きながら前をゆく背に縋ろうとするがそこにそれはなくほんのついさっきまであったのにどこへ行ってしまったのかしっかり繋いでいないから離れないように強く握り締めていないからはぐれてしまったのだと人波に押し流されながら皺寄った手をそこにあるはずの硬いごつごつしたものを掴もうと差し伸ばすが速い流れの中でそれは空を掴むだけで目当てのものには行き当たらないらしく尤も手というだけならそこら中いくらでもぶら下がっていて大きいのや小さいのやごついのや華奢なのや皺寄ったのや艶やかなのや毛深いのや毛がないのや丸いのや四角いのや長いのや短いのやいい匂いのや臭いのやそれこそあり余るほど犇めいていて選りどり見どりと言っていいがいずれも求めているのとは違うから掴んで握り締めるわけにはいかないし抑もどこの誰のものとも知れない手など握りたくはないというか求めて已まないのはただひとつというかふたつというかふたつでひとつのつまり一対のその皺寄った手だけなのだからそれ以外の手はただ単に手というだけで何の感興も懐くことはないのでありつまりこの手を包み込むことができるのはその手だけなのでありいずれにせよ無数に犇めく手の中からたったひとつを捜しだすことはほとんど不可能と言ってよく手を伸ばせばすぐのところにそれがないということに眩暈するというか怒りにも似た激情が突として沸き起こりそれに衝き動かされてか何も見えなくなっていや見えてはいるが見てはいないというか見ているのに見えないというかただヒトデのようなクラゲのような手の群れが白く輝きながら数多蠢いているのだけはよく見えてそのクラゲのようなヒトデのような手の群れが揺らめきながら振り子のように行ったり来たりするのを呪わしげに眺めていたらしい。