友方=Hの垂れ流し ホーム

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もちろん疲れてなどいないのだが波打つように揺れているからだろういくらか酔ったような足の運びになって植え込みだろうか路肩だろうか下のほうから擦れ合う音が大きく響いてそれはもう尋常じゃない大きさでなぜといって静かだからで見ると何か異様に細長いものが恐らく縁石と路面との隙間からだろう伸びていてそれが脚に当たっているのであり目安にしていた白い線は足元にはなくそれより少し左のほうに斜めに伸びていてつまりいつの間にか線を外れて右へ流されていたらしく生温い風に流されたのだろうか雲のように流されたのだろうかと見上げると風が運んでゆくのだろう比較的低い位置を少しずつ形を変えながら音もなく流れてゆくのはたしかに雲に違いないがその背の向こうに浮かんでいるのをしばらく追い掛けているとつまり右から左へとそれが移動してゆくのを目で追っていると手前にある背に徐々に迫ってきているからそのうちぶつかるに違いなく案の定それは背にぶつかるが背を押し倒してさらに移動してゆくということはなく背に押し返されて戻ってゆくということもなくもちろん背に覆い被さり背を呑み込んで背に成り代わるということもなく背の向こう側をゆっくりと横切ってゆくのであり最初はその下辺が右肩に少し掛かるくらいだったのが徐々に側頭部まで動いてついには頭全体を取り囲んでしまうからどこか被りものを被ったようにも見えるが雲はそこで留まらずさらに左へと移動して左肩へ至りいずれはそこから離れてゆくのだろうがとてもゆっくり移動しているからじっと眺めていてもそれが動いていることは分からないのでありつまりいつまでも同じ場所に留まっているのでありだからいつまでも被りものを被っていてそれでもいつかはその背から離れてゆくに違いなくそうしてまた元のところへと目の前の背中へと視線を戻すのだがほとんど同じ位置でほとんど同じ動きをそれはくり返していてつまり右に傾ぎ左に傾きしていてそれでいて絶えず位置を変えているのでありというのは前進しているということだがいずれにせよその背を見ているのであり観察というのではなく注視というでもなくただ見ているのであり意識すると意識しないとに拘らず右に揺れ左に揺れているその動きを追っているのでありつまり動いているのに止まっている止まっているのに動いているそれを見ているのであり見上げるほど大きくて広い背中を両手を拡げて尚余るほどにも広くて大きな背中を見ているのでありそれは父でもあり伯父でもありいや父ではなく伯父なのだが今は伯父ではなく父なのでありそれでもやはり伯父なのでありつまり父ではないのだがそれでもやはり父なのであり要するに父でもあり伯父でもあるというほかないのだがあるいは父でもなく伯父でもないと言ってもいいが父として現前しているときには伯父はどこかへ消えてしまい伯父として現前しているときには父はどこかへ消えてしまうのでありまだ若い母親というかまだ母ですらない少女はその背につづいて跨ぐというか越えるというかして外から内へただいまの声とともにそこまでは日差しも届かない薄暗い中のほうへ踏み入るのだが要するにそこへ帰ってゆくというか帰ってくるというかむしろそこにしか帰ってこられないのであるからしてそこへと帰ってくるのだがもちろん今はそこへ帰ることはないし帰ることさえできないがそれでも帰ろうと思えばいつでも帰れるのでありだからこうして帰ってゆくのだがぴちゃぴちゃいう音とともに外から内へ越えるというか跨ぐというかして帰ってきたのだが薄暗いというより真っ暗のほとんど何も見えないそれでいてしばらくすると見えてくるそこで脱がされるというか自ら脱ぎ捨てるというか窮屈に締めつけていたものから解放される喜びに少しく浸りながらそれを眼差す眼差しがあるのを強く意識しながら右のを次いで左のを、そうして露わになったそこから匂い立つ汗というか汁というかあちこち歩き廻るからそこら中に染みつき染み込んで目に見えぬ痕跡となってそれは残るに違いなくというのは片づけられ掃除されてしまえば何も残らないはずだからだがそれにも拘らずそれは残りつづけるのであり今も尚残っているのだと彷徨うような眼差しは示しているらしくそのすぐ脇を滴り落ちてゆくのが汗なのか雫なのか判然としないが頬から顎へ伝い流れて顎の先で留まりはするが今にも滴り落ちそうでもう一雫そこへ流れてきたら落ちてしまうに違いないとそう思ううちにも新たな一雫がべつの方向から頬を伝い流れてきてそうして先に来ていたのとあとから来たのとが合流してさながら待ち合わせでもしていたかのようにお待たせ遅かったな何ちょっとねちょっとって何だよちょっとはちょっとだよとでもいうようにふたつがひとつに混ざり合い溶け合って落ちてゆくのでありきらきらと目映い光を振り撒きながら落ちてゆくのでありその先に待ち受けているのが全き闇というか虚無というか一度填り込んだら確実に引き返し得ぬ深淵というかほとんど想像もつかない世界なのだとしてもそこへ向かってゆくほかないわけでそこに光を灯すというか灯して廻るというかそれこそガンジス河の砂の数と言うのにも等しいそれは途方もない難事業なのでありだからさしあたり目の前を照らすことができればそれでいいというのではないにせよ手の届く範囲から少しずつ輪を拡げてゆくほかないわけでつまりひとつひとつ手に取ってたしかめるという地道な作業によってしか成し遂げられないのだとそう言っていたのだろうかいずれにせよいくつもの枡だか井桁だかの組み合わせから成るそれは内と外とが混ざり合わないよう内と外とを隔てながら開っていてぼんやりとだが向こう側が透けて見え向こうからは見えなかったのにこちらからは見えるということがよく分からないが深く考えもせず外から射し込む淡い光の中で右のを次いで左のをそうして無造作に投げだされて横倒しになっているのを拾い上げいくつも並ぶその端に向きを揃えて置く皺寄った手を見ていたのらしくだからその手が引っ込んで肩越しに背後へ消えてから忽然と現れたような気がして仕方なくもちろん最初からそこにあるのだがというかあったのだが意識の領野の外にということだろうとにかくそれは現れたのでありこちらに向かって大きく口を開けている姿は餌に群がる鯉と思しく跳ね上がる飛沫はぴちゃぴちゃと冷たく透き通った水面はきらきらと日に煌めいて穏やかな風が渡ると草木の匂いとともに水の匂いが首筋を撫でてゆくそんな池辺でもあろうかその中を自由に泳いでいたのが餌を貰えると整列して待っているらしくだから餌をやるのであり全部に行き渡るよう公平にやるのであり一切れずつ千切っては口の中へそっと入れてやるのでありというのはパン屑をだが角張ったのや長いのや丸いのや小さいのや華やかなのや落ち着いたのやくたびれたのや色も形も様々だがすべてに共通しているのは悉く双子だということでそれとも番(つがい)だろうかいつも一緒にいるというかどこへゆくにも一緒であって決して離れることがないのでありとにかく端から順番に分け隔てなく餌をやりながらぴちゃぴちゃと波立ち騒ぐ様子を飽かず眺めていて身じろぎするたび黒ずんだ床板が軋むが夜そこで聴く軋みはあれほどにも不安を搔き立てるのにこのときばかりはまったく気にも掛けずというのは外から射し込む淡い光が闇を退けているからだが促されるまでいつまででもそうしているらしく、その眼差しの先にあるというか当の眼差しによってしか捉えられないというか垣間見ることも盗み見ることもできないということが察せられながらそれでも尚盗み見ようとし垣間見ようとするのはなぜなのかとにかくその眼差しの眼差している当のものを見ようとして目を凝らすのでありそうすることで見えてくるものを捉えるというか捉え損ねるというかすでに消え去ったあとの残滓だろうか僅かばかり残されているくらいでそれが何なのか見当もつかないがそれでもさらに目を凝らすといくらか明瞭にはなるらしくまあ明瞭といってそれほど明瞭というわけでもないのだがそれでもその眼差しの眼差しているものがあるのでありどこにかは知らないがたしかにそれはあるのでありそしてそれを見ているのでありつまり行儀よく並んだ列の中に一際小さいのが一揃いあるのをだが色とりどりの小花が一面に咲き乱れているそれが特に気に入っているというかしっくりと馴染んで気持ちよく隙間なくぴったりと納まって気持ちよく軽く締めつけられて気持ちよくというのは先の方から押し込んでゆくといくらか抵抗を感じるもののあるところまで納まると一気に抵抗がなくなって誂えたように填るというか吸いつくように密着して簡単には抜けないのでありそうして適度に擦れ合って気持ちよくいやそれはないが肉に食い込んで気持ちよくいやそれもないが自他の境界を超えてひとつになるというかそれはもう己の一部と言ってよくだからそれでないとダメなのでありそれ以外は断固として受け入れないとそう思っていた節がありだからあるときそれがべつのものにすり替えられていることを知った衝撃たるやそれはもう凄まじく怒りを通り越して深い絶望の淵に沈んでしばらく立ち直れなかったとそう言っていたのだろうかいずれにせよ皺寄った手の中でそれはさらにも小さく見えその中に納まってしまうほどにも小さいということを今はじめて知ったような気がするというか今はじめて知ったのでありなぜといってその手のほうが大きいのだとずっと思っていたからだし今もそう思っているというかそう思いたいというかとにかくそれはもう圧倒的な大きさで屹立していて異彩を放っていると言ったら言いすぎか四囲の中でも群を抜いて巨大なのであるからしてすぐにも見分けられるに違いなくつまりその角を曲がれば自ずと見えてくるのだから生温い風に揺らいでいるこんもりと迫りだした影の向こうに見えてくるのだから殊更捜す必要はないのだが全然ないのだが目のほうはそれを捜してしまうらしく暗く沈んだ闇というか翳りというか揺らいでいるその向こう側に絶えず注がれていてただそこに現れるだろう形が巨大な黒い影というかすべてを包み込む空虚というか何か途方もないものに変質してゆくようなそれがそれであるところのものから懸け離れてゆくようなそんな気がするのでありそうとすれば目指しているゴールとそれは違うというか三年もの歳月を行ったり来たりしているそれとは異なるステージになるとそう思われもしてもちろんそんなことはないのだがオレンジに縁取られた丸の中というか向こうというかそこから見下ろす辛気臭い面持ちはそう告げて已まずだから籠絡されまいと足早にその下を過ぎながら闇のほうへ視線を向けてそれがそれであることを確かめるように暗く沈み込んだ中に映じるというかそこから仄かに浮かび上がってくるというかする淡やかな像に目を凝らすのでありそしたら内からのものか外からのものか判然としないが微かに光が射してきてさらに目を凝らすと凝集して形を成すというか見えるものとして見えてくるというか要するにそれを見ているということになる。

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