友方=Hの垂れ流し ホーム

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ゆっくりとあるいは高速で廻転しながら近づきそして遠離る

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とはいえその先に何が待ち受けているのかなどということは誰にも分かりはしないのだが分からないからこそ突き進んでもゆけるわけで勇猛果敢にとは行かないにせよそれを分かりたいと思わないでもないしそう思う瞬間が折に触れあることもたしかだが分かってしまったらそれはそれでつまらないというか味気ないというか元より味気なくもつまらない日々ではあるにせよもうこの辺りで終わりにしてしまおうと幾度も思いながら惰性でここまで来てしまったことを嘆いても詮ないがそれももう終わるのだと思えばいくらか気も晴れるというものでまあ晴れるといっても高が知れているのだがいつまでも鬱屈した思いに沈み込んでいるよりはよほどマシだろうとにかく本当に終わるのかどうか終わらせたいのかどうか辛気臭い面持ちでそうしたことに思いを巡らせながら緩い坂を上り切ったその先の台地の際に立つというか一部際を越えて崖に迫りだしているマンションは崖下から見上げると今にも倒れてきそうなほど傾いているような気がするが緻密な計算によって導きだされた長さなり角度なりのあらゆる数値はそうした疑念を払い除けるのだけの力を持っていないにせよ充分な強度で支えているはずでそろそろ三年になるだろうかいくらか馴れはしたもののまだまだ新たな発見があったりもするから馴染んでいるとは言いがたいがそれでも三年もの歳月を行ったり来たりに費やしているのだから目にする光景のほとんどは見知ったものばかりで構成されているそれらは例えば季節ごと異なる草花にそのひとつひとつを名指すことはできないが彩られる生け垣とか錆の浮いた鉄柵の風合いとか朽ち掛けたブロック塀のざらざらする手触りとか刻々変化するその陰影によって作りだされる不可思議な模様とかそうした既知のものに弛み切った神経が刺戟せられることはないし稀に見知らぬものが紛れ込んでいてもそう容易には目に入らないというか気づかずにやり過ごしてしまうわけで例えば移ろいゆく日々の中にも落差はあるものでほんの僅かな段差に躓くことがあるように僅かな落差に気を揉み腹を立てたり鬱いだりすることもあれば逆に高揚したり燥いだりすることもあるだろうがマイナスからプラスへプラスからマイナスへと絶えず移動しつづけているのではないにせよ日々変化して已まないその変化の内にあって当の変化に浴していると変化への順応性というかある種の馴れによってその境界線がぼやけてくるということにもなるわけでいずれにせよ寝つきが悪いのには毎夜悩まされているがいや毎夜は言いすぎかもしれないが良い睡眠と悪い睡眠とがあるとしてもちろんあるに違いないがその大半が悪いほうに属するだろうことはたしかでそれを改善する手立てを見出せぬままその悪い睡眠に甘んじていることに鬱屈した思いを懐きながらそれももう終わるのだからとその都度言い聞かせてきたその効力はまだ有効に働いているらしいからさしあたり危惧を懐く要素はないと断言はできないもののそれほど危惧してはいないということでいずれにせよこの界隈は夜が早いのらしく気配というものがないといっても機密性の高さから外にまで漏れ出てこないだけで中で何が行われているのかはもちろん知る由もないが中で何かが行われていても不思議ではないし実際何かが行われているだろう薄明かりの洩れるカーテン越しに動くものを認めることもないではないし、とにかく古くからある道なのだろうどれくらい古いのかそれは分からないが少なくとも台地の形成より新しいことは確実だがとにかく古くからある道なのだろう真っ直ぐに切り開かれてはいないのでつまり右に左にカーブしていて先が見通せないので車での通行はだから少しく厄介だろうが歩行者にとってもそれは同断で力配分というか残っている余力で間に合うのかどうかというようなことがそれなりに分かっているとはいえどこまでも果てなくつづいているような気がするから気が滅入るというか必要以上に疲れを感じてしまいそれでもいつか坂道は終わりを告げて道は平坦になるだろうし道が平坦になるということはそれが坂道ではないということを端的に示しているのだからそこに立つ重厚な建物もまた見えてくるはずだしそうした確信のもとに坂を上ってゆくわけだがなかなか平坦にならないからいつか確信は揺らいでいやそれはないが揺らぎそうな予感とともに緩い傾斜が少しずつ足の運びを狂わせてその帳尻を合わせようと妙なリズムを刻むうちに元の調子に取って代わってその妙なリズムで歩いているのに気づくがそれこそが本来のリズムでもあるかのように思い做されてしまうのはそれなりに調子よく歩けているからでそれでも妙なリズムであることに変わりはないからそれをその妙なリズムをキープすることは容易ではないというか抑も妙なリズムをキープするつもりはないのでいつか済し崩しに崩れ去ってまた元のそれこそが本来のものと言っていい足取りに戻るのかどうかそれは分からないがバランスだけは失わないようにと注意して歩く姿は傍から見たら滑稽に映るかもしれずことによると不審を懐かせるに足る不自然な動きとも取られ兼ねないことを思うとそうしたものをいくらかはヴェールに包んでくれるだろう夜の暗さに囲繞されてあることをこのときだけは喜びながら妙なリズムで歩いてゆく甘利のその疲れ切った眼差しに暗緑色というかほとんど黒色のこんもりと迫りだした部分が捉えられそうしてそのこんもりと迫りだした部分がこちらへ近づいてくるにつれて黒から暗緑色へ次いで深い緑へと変化してさらには暗い緑の部分といくらか明るい緑の部分とに分かれてゆくというかこちらが近づいてゆくのだが近づくにつれて視界を覆うように上から覆い被さってくるそのこんもりと迫りだした部分につまり上から注がれる光を受け止めようもっともっと受け止めようと伸びてきたものが境界を越えてつまり線のこっちがおれの陣地でそっちがおまえの陣地な食み出るなよ絶対だからなといった取り決めというかルールというか法というかそんなものは知らぬ顔でもっともっとと張りだしている部分に行く手を阻まれて迂回するほかなくそうして車道側へ回避するそのちょっとした迂回がひどく堪えるというか何か損をしたような気になってその損失を取り戻そうと早足になるのか余計疲れることになり尤も肉体的損失それ自体はさして問題にもならない程度のものなのだがつまりそこに上乗せされる疲れというのは身的なものではなく心的なものでまあいくらか身的なものも含まれはするだろうがほとんど心的なものだろうし心的なものだからこそ際限なく肥大してもゆくのだろう、そんなわけで足元にいくつも散らばって落ちているのを蹴散らしながら縁のほうへゆくにつれて濃いオレンジの中心のほうへゆくにつれて濃い黄色のもちろん暗い中はっきりと見定めることはできないので後日下ってゆく際にというのは日差しの下でだが熱せられた路面の照り返しに目を細めながら確認したところ小さな花弁が愛らしいその花の名が何であるのかは分からないがいくつも足元に落ちているのを踏みしだきながらその前を過ぎると程もなく左に湾曲しているためにその先を見通すことはできないがオレンジの縁取りが毒々しい丸く切り取られた虚像の中に辛うじてその見えないはずの道を見ることができるとはいえそこに見出される道はそこにある姿とともに虚ろなどこか胡散臭く実在性の疑わしいものとして刳り抜かれてありもちろんそれは虚像だからなのだが実像のほうにもそれが波及してゆくような虚像の疑わしさのいくらかは実像の疑わしさに基因しているとでもいうような何かそうした危うさのうちに眺められとはいえ本当に現実が危うくなるなんてことにはならないがつまりそれはただの思い過ごしにすぎないのだがそうと知りながらそうした感覚の消えることがないのはなぜなのかとやはり辛気臭い面持ちで縁のほうへゆくにつれて歪んでいる凸面の向こうに端的にそれは表れていたわけだがその下を過ぎるとそれまで見えなかったものが見えるようになっていつも目にしているのと寸分違わぬ光景として拡がっているそこに不審を懐く余地などまったくありそうにないというか不審を懐いたわけではもちろんないが緩い勾配の上り坂であり下り坂でもあるその道をいつものようにゆきながらいつもと同じであることが何か途方もない事態でもあるかのように思い做される瞬間が不意に訪れてまあ疲れていると妙な考えに囚われてそこから脱せられなくなることがあるもので今もたまたま虚像と対峙したことでそしてそこにいる辛気臭い面持ちをした奴と視線を交わしたことでその先の道のりがおかしな具合に捻れてしまったように感じられるわけでもちろん捻れてはいないのだが捻れていないことが捻れの表れのように実感されてそれで恐慌に陥るとかパニクったりするとかそういったことにはならないがいつもの坂道をいつものように上ってゆくだけなのだがいつものようにしているつもりでもいつものようになっていないということかどこがどうということは分からないがどこかがどうかなっていることはたしからしくそれでもさしあたりそれをどうにかしようというつもりはないしどうにかしようとしてどうにかなるものでもないだろうしたとえどうにかなることが分かったとしても今すぐどうにかしようと思うことがないのは疲れているからでつまりある種の堂々巡りから脱しようとすることそれ自体が不毛さを帯びてくるというわけでそこから脱しようとするのではだからなく然りとてそこに留まろうと決するのでもなくそのいずれでもない第三の道をというのはこの緩い勾配の坂道を直向きに上ってゆく姿をつまりいつもそうしているように目的地としている台地の際に建つ傾いたというか傾いて見えるマンションへと直向かうイメージとしていや疲れてなどいないのだが曲がりくねったこの坂道を上ってゆく姿はどこか憂いに沈んでいてその背は丸く抜け殻めいて今にも倒れそうな前傾姿勢が年齢以上に老け込ませているだろうとそんなふうに眺めながら要するにそうして朧気ながらも見出された姿に客観的実在性があるとか客観的実在性を付与するとかそうしたことはさして重要ではなくその先に待ち受けているのが何であるのかをイメージすることイメージできると思うことそうした確信こそが重要なのではないだろうか自分だけの唯一の掛け替えのないこの世界そこにあるあらゆる存在儚くそしてそれゆえに愛しいものたちたとえそれらすべてが虚構にすぎないとしても。

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