友方=Hの垂れ流し ホーム

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とはいえよく見ると垂直に突き立てられているわけではなくそれぞれが少しずつ斜めに傾いているということが分かり元もと垂直だったものが風雪に晒されて少しずつ傾いたのか最初から傾いていたのかそれともある種の計算に基づいて傾斜させているのかそれは分からないがどれも一様に傾いていることはたしかでまあ中には完全な垂直を維持しているものもあるかもしれないがそうしたものに出会うことは稀でそのほとんどは傾いて立っているしそれがどの方向へどれだけ傾斜していようと知ったことではないが垂直と見做していたものが垂直ではないとなると何となく据わりが悪いというか傾斜を測る基点となるポイントが失われて立っていることさえ儘ならないということはないにせよこちらまで不安定に傾いてしまうようないやこちらこそ最初から傾いているのかもしれないというのは何かありもしないものを見てしまったとでもいうような残像めく気配が尾を引いてどこまでも引きずり歩いているようにも思えるからでもちろんそれは疲れているからだが靴の中で浮腫んでいるだろう足の感覚が足指から踵までのつまり足裏全体に掛けての皮膚表面というか皮下数ミリの辺りだろうかそれとももっと奥のほうまでだろうかそこに体重を乗せてから蹴り上げるまでの一秒にも満たないだろう間のほぼ一定の間隔を空けてくり返される動作に於いて痺れるようなつまり重力と加齢には抗えないということを如実に示している何かそんなふうな感覚として感覚されてそのせいでもないだろうが徐々にペースが落ちるせいか残り半分といっても前半に比べて後半の疲れは相当なものだし何かを見ようとか何かを聴こうとかする意欲も一歩ごと殺がれてゆくようで抜け殻も同然な面持ちだろうことも察せられながらそれでも何かを見ようとしているし何かを聴こうともしているわけだが見るもの聴くもののほとんどは右から左へあるいは左から右へと流されてどこへ消えてしまうのか痕跡さえ残らないのであとになって振り返ってみても見たのだか聴いたのだかはっきりしないということになって本当にそれは消え去ってしまったのか消えたように見えるだけで実際は奥のほうに仕舞ってあるのではないか見たもの聴いたものさらには感じたこと考えたことも含めてすべては密かに温存されているのではないか簡単に取りだせるものではないとしてもそれだけのキャパはあるのではないかフロイトやラカンに倣うにせよ倣わないにせよ人間の精神作用というか脳機能というか何かそうしたものについて見くびりすぎてはいないかと勾配の緩い坂道をいや少しだけきつくなったその坂道をただひたすらに上ってゆきながら幾度となく過る想念に撹乱されて足取りが乱れるのかそれともただ疲れているだけなのかもちろんただ疲れているだけなのだろうがほとんどそうに違いないがそうではないという思いも拭いきれずあってそれこそフロイトラカンの領域かもしれないが何と言ったかあの図に描かれていたいくつもの記号の関係性がつまり縦に引かれた二本の直線に弓なりに湾曲した横線が二本交差して四つあるその交点を覆い隠すように配された四つの丸で表された歪んだ井や♯のあるいは○×ゲームの枡にも似た図の中に記されたいくつもの記号の関係性がよく飲み込めなかったのだがそうしたものに夢中になっていたあの頃の情熱はいったいどこへ消えてしまったのかと嘆いても再びそれを取り戻す術がもうないとすればそれを認めたくはないが認めざるを得ないということに、それでも抗うように坂道をこうして坂道をそれが坂道ではなくなる地点までつまり台地の際に至るまで後半が勝負の分かれ目とでもいうようにある種の直向きさでこの坂道をそして今まさにその分かれ目の上にいるのだということを少し前の丁字路の亅に至るまではまだそうした認識を持ってはいなかったのに一を過ぎた辺りから見え隠れしながら忍び寄ってきたのでもあろうか新たな認識が意識の領野にしかも最初からそこにいたとでもいうように我が物顔でいやそれほど我が物顔ではないにせよ現れて何ごとか訴え掛けるというか訴え掛けようとしているのを目の当たりにしてこれまでそうしたものの直面に際して如何に応じてきたのだったかそしてそれらは正解だったのか否かしばらく逡巡しているうちにもそれはその新たな認識はすっかり根を下ろしたみたいになってまるで逡巡することの無意味を宣告するかのような存在感というかああそうだそうなのだと妙に納得させられてしまってそれでいいのかという懸念を残しつつ坂道を新たな認識でつまりここが正念場とでもいうように見据え直すその眼差しの内に潜むのが何なのかそれは分からないがもちろんこれは勝負などではなく勝利も敗北もだからありはしないのだがとにかく気合いは充分でも体力のほうは不充分ということか坂道というものがこれほどにも消耗するものかと改めて思い知ることになっていや毎度思い知ってはいるのだがその思い知りようが足りないとでもいうようにこのままでは絶対に辿り着けないのではないかそこへ至る前にすべてを使い果たしてしまうのではないかそれどころか疾うに使い果たされているのではないかと危惧されもしてどうやりくりしても残り半分を上り切るだけのものは見出せないだろうし余力という余力はもうどこを探してもないはずと丁字路の亅の突き当たりを右に曲がってからまだいくらも上っていないのに短絡した思惟に填り込んで抜け出せなくなってそれでも足を運んでゆくのはそうするよりほかないからだし何が待ち受けていようと突き進んでゆくのだという気概はないながらあとには引けないといった認識が漠然とだがあるからなのだが認識といって決意というほどのものではないからいつ引き返しても構わないわけでそれはもう全然構わないわけでつまり今前へと蹴りだした足を自分のほうへ引き戻して蹴りだしたその反対の足を軸に右へか左へか反転してそうして瞬時に上り坂を下り坂へと変えてしまうこともできるわけでそれでもそうしないのはそうするほかないからだし引き返すにせよ引き返さないにせよこの足で歩いてゆかねばならないことに変わりはないからでつまり止まったらそこですべてが終わるということではないにせよひとつの区切りにはなってそこからべつのステージがはじまるとすればそれがどんなステージかは知らないが今はまだこのステージにつまり勾配の緩い坂道を上ってゆくことに直向きな甘利というステージに留まっていたいということなのだろうと他人事のように考えているのはもちろんこの甘利にほかならず、とはいえこの甘利とはいったいどの甘利かと突き詰めて考えようとしても特定は困難だろうからまあある程度絞り込むことはできるとしてもある程度まででそれ以上は絞り込めないというか絞り込んだそこにそれはないというかそこから零れ落ちてしまうものの内にこそそれはあると言ってよくそうした危うい問いはだから控えるとしてほんのついさっきまでべつのステージにいたというか間違いなく異なるステージだったはずなのに今はこのステージにいるというそのことが何より不可解だがひとつのステージからべつのステージへの移動というものは異世界への飛躍と同断でそれを根拠づけることも論理的に把握することもできないものらしく抑もそうした異なる世界の間はまったく断絶していて何を端緒に異なるステージへと移行するのかと問うとしてもそれもまたある種の困難に突き当たって正しい解は見出せないし抑も解などないのかもしれないが世界の原因性という問いの立て方それ自体が問題含みなわけだから少なくともこのステージにいる間はこのステージの論理というかルールというか法というかこのステージにだけ流通している通貨とでもいうような何かそうしたものに従うほかないわけでつまり曲がり角に差し掛かるたびに見通しが悪くなってそのたびに辛気臭い面持ちに睨まえられるからいい加減うんざりしないでもないがそれがルールなら仕方ないし基本的にそれは守るべきだといった認識を持つ真っ当なプレイヤーとして振る舞うことでやり過ごそうと大人しく睨まえられながらもちろんこちらも睨まえながらこの坂道を上ってゆく甘利の前に現れるのは今のところ甘利だけで街灯は灯っているにせよ夜道で見通しも悪いから見落としていることもないとは言えないというかかなりの部分見落としているだろうがさしあたりそれ以外の存在は認められないと見做しているのは甘利なのだし曲がりくねった坂道があってそこをその坂道を上っているのも誰でもないこの甘利であってそれ以外の何ものでもないとそう断言するのももちろん甘利にほかならないしこれもまた法則と言っていいのだからと自身を鼓舞するように坂道を歩きながら暗闇は視覚をよりも聴覚を研ぎ澄まさせるらしく四囲の静寂へ耳を傾けるというのではないにせよなかば耳を澄ますような形になって僅かに鼓膜を震わせる音にも敏感に反応してしまうがそうして捉え得たものを篩に掛けてゆくうちに甘利は甘利でありながら甘利ではないといった声がどこか遠くのほうから生温い風に吹き寄せられて風は吹き抜けてゆくのに声は纏わりついて首筋辺りを撫で廻すからそれが首回りの凝りとなって視野が霞むのはそのせいでもないだろうが疲れ目を擦りながら振り返ればさっきの丁字路は逆ト字路となってまだそこにあって湾曲したその先を見ることは叶わないが見える範囲に於いてにせよ闇の中茫と浮かび上がる事物はどれもこれも不確かに揺らいで捉えがたくまあ殊更捉えようとしているわけではないからそれはいいとしてそれら捉えがたい事物のどこからそんな声が届くのかが不可解で抑もそれら事物たちに譴責される謂われはないのだが知らぬ間に大きな負債を抱えてしまっているとでもいうのだろうかこの坂道の上り下りのどこかで何か粗相をしたとでもいうのだろうかもっと早い時間帯なら見分けがつくだろうものも一様に均されて見分けもつかないから疲れ目で見廻してみてもいや疲れ目ではなくてもその痕跡は見つけられないだろうそうしたものがあるとしてだがとにかく寝静まった郊外の住宅地の静けさと言ったらそれはもう大変なもので皆が皆床に就いているわけではないだろうがそれほどにも静まり返っているため却ってこちらの挙措が際立つことになり四囲を窺いながら物色するこそ泥か何かのように息を潜めさせることにもなるわけなのだ。

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