友方=Hの垂れ流し ホーム

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そんなわけで両側にはいくつも扉があってそのひとつひとつに番号が割り振られていて誰が割り振ったのかは知らないが誰かが割り振ったに違いなくその向こうには扉の数と同じだけいやそれ以上の数の部屋があるのでありそこに蠢くものの気配を感じるというか中で何かが行われているだろうことが分かるというかそれでいて四囲は静寂に包まれていてそれでもある種の喧噪の内にあるらしく肌に纏わりつくような重たい空気を掻き分けるようにしてさらに奥へと直進むがまた元の場所へ戻ってくるらしくどこかへ至り着くということはだからないのでありつまりどこへも至り着けないのでありいやそれはないがなぜといって前にも通ったというか何度も通った狭い廊下を今また通って向かうその先にそれがあるからだがつまりひとつの扉の前へそれがどの扉であっても区別できないに違いない同じ扉の前へ至るからだがもちろんよく見れば自ずと差異は明らかになるだろうし差異が明らかになればそれが同じ扉ではなく違う扉だということも必然明らかになるだろうが元より明らかにしようとする気がないからいつだってそれは同じ扉なのでありつまりそのかぎりに於いてすべては同じことのくり返しと言ってよくだから何度もくり返してきたのだがいずれにせよそれが目当ての扉であることを示す目配せなのかどうかあるいは同意を求める目配せかもしれないし共謀を示す目配せと取れなくもないが振り向きざまちらと視線を流してからどこからか取りだした鍵を刃毀れした剣のようでもあり刃の不揃いな鋸に見えなくもないそれを穴に差し込んで廻すのだがどこからも取りだしていないのではないかずっと手に持っていたのではなかったかその耳障りな金属音が響いていたのではなかったか静まり返った廊下にそれが谺するのを聴くとはなしに聴いていたのではなかったかとにかくその尖った先端部分を細長い穴に突き刺して中へと沈めると根元までそれは飲み込まれてそれでも全部は納まらず頭というか尻というか飛び出ていて丸く象られたそれは摘むのにちょうどいい大きさというか小ささというかその飛び出ている部分を廻すのでありというのは手首を捻るようにして廻すのであり右へか左へか知らないが右へか左へか廻すのでありそれともカード状のものを細い隙間に差し込むのだろうかいやそんなものはまだなかったのではなかったかとにかく鍵を廻転させると穴も廻転して穴が廻転すると穴の周囲も廻転して何がどうなっているのかその仕組みはまるで分からないが廻すと開くのでありそうして扉が開かれると敷居を跨いでその向こうへ外から中へそしたら再び扉を閉ざして誰も入ってこられないようにというのは誰にも邪魔されたくないし誰にも見られたくないからだが鍵を掛けるのでありちょうど鍵を射し込んだ穴の反対側にある突起部分を摘んで右へか左へか捻ると押しても引いても扉は開かなくなってつまり密室というわけでそこで何が始まるのかそれは知らないがいや知っているがそのほとんどは忘れてしまいそれでもいくらか憶えてはいてあるときは簡素だがべつのあるときは煌びやかでまたべつのあるときは少女趣味だがさらにまたべつのあるときは悪趣味でいったいどういう基準で選ぶのだか一貫性を欠くというか脈絡がないというかそれもまたある種の韜晦なのかそれとも端的にその時どきの気分を示しているにすぎないのかとにかく密室という響きは日常と切り離されている感じがして何がなし幻惑されるのだろう幻惑されないまでも日常を忘れるというか脇へ退けておくというか何かそうした作用が働いて何もかもが別様の意味を帯びるらしくというのは時として陰惨な殺人現場と化すこともあるからでいずれにせよ密室という語の響きの内にその意味のひとつに含み込まれていることはたしかだろうから妙に盛り上がったり盛り下がったりするのでありその密室というか扉と同様に差異が消し去られて同じ部屋と化すらしいその同じ部屋で背後から響く施錠の音は中の空気を一変させるらしく少しく身を強張らせながら見廻すというか検分するというかさっと一瞥してそこへ向かうというよりは吸い寄せられるようにして腰掛けると両の脚を投げだしそのまま背後に倒れ込んで横になってもちろん疲れてはいないが大きくてゆったりしていてさらさらでふかふかだからその誘惑には勝てるはずもなく少しく裾が捲れ上がってすうすうするのも厭わず脚をバタバタさせてみたり右に左に転がってみたりしているうちに少しずつ緊張が解れてゆくのだろうなかばシーツに包まって俯せに横たわりながら複雑な形に襞を成す布地の上を漂うというか飛翔するというか、そうして汗にせよ汁にせよ液にせよ雫にせよ滴る性質のものは悉く滴らせて滑るように蠢き悶える裸身はもちろん若い女のそれに違いないが純白のシーツは赤黒く染められて裾の辺りから覗くたおやかな脚はシーツよりも尚青白くその脹ら脛が緩やかな放物線を描きながら皺寄ったシーツの赤いうねりの中を漂流する難破船のごとき様相を呈するそんな陰惨な場面が展開されて血の臭いが鼻先を掠めもするがそうしたある種の物語にとってなくてはならないだろう大概導入部に展開される類いの諸々の道具立てに惹かれるというか憑かれるというかいつしかそこにある若い女の顔が自身の顔と重なるというか入れ代わるというか行為の前か行為の後かそれとも行為の最中にか隠し持っていた刃物で滅多刺しにされるのであり一突きされるたびに激しく痙攣し呼吸が止まり溢れ出る血に内なる狂気を目醒めさせるのかその勢いは増すばかりだしそれはもう凄まじい形相で迫り来るから為す術もないそんな陰惨な光景さえ目の当たりにしてもちろん脳裡でだがとにかくそれまで見えていなかったものが見えてくるらしく靄掛かったような暗さの中から浮かび上がってくるそれが何であるのかこんもりと迫りだした葉叢だろうか生温い風に揺らいでいるそこへ向かいながら目を凝らすと却って見失うというかぼやけ滲んでゆくらしくだから一点を凝視するのではなくもう少し範囲を拡げて見るというか眺めるというかすると見えてくるのでありつまり左手の壁面に下から上へ向かってだろうかそれとも上から下へ向かってだろうか一筋線が走っているのが微かに見え亀裂が入っているのではしかしなく描かれた線つまり何某かの図柄や模様というのでもなく影によって刻まれたもので要するに何枚か貼り合わせてあるのだろうそのため合わせ目の境界に僅かな隙間というか窪みというか切れ込みが生じてそれが影を作り床から天井へ連なる一筋の線を構成しているというわけで一面に描かれているというか印刷されている模様がほんの少しズレていることからもそれは分かるのでありとにかく視線の向かう先にあるというかそこからやって来る光を視線が捉えることでそれがそれとして捉えられそうして捉えた当のものを漫然と眺めているだけだからそれが何であるのか今ひとつ明瞭さに欠けているというかそこにあるだろう差異が浮き彫りにならないというかそれでも見えているものは見えている通りに見えているのであってそれを脅かすようなものはないと言ってよくもちろんさしあたりないというだけで後のち世界を揺るがすことになるような事態が出来しないともかぎらないのでありたとえそうだとしても壁は上下に二分されているのであって細かい石粒のようなものに覆われてざらざらする上の部分と石垣を模したような作りのいくらか滑らかな手触りの下の部分とに分かたれていてそこに穿たれた矩形の穴を出たり入ったりしていたのだがつまり中から外へあるいは外から中へというように穴というよりは口と言ったほうがいいそこを行ったり来たりしていたのだが敷地と道路との間には溝があってその溝を覆うように並べ置かれた板が踏むたびに軋むから割れやしないかと気が気じゃなくだから踏まずに跳び越えるようになったのではないかさしあたり板がその間にある溝を埋めるというか塞ぐというかこちらとあちらとを繋いでいるものの見えないように覆っているだけで溝それ自体が消えるわけではないからそれは板の下でどこまでも深く切れ込んでいるのでありというか隠されているからこそそれは深く切れ込んでゆくのでありもし板を踏み抜いてしまえばどこまでも深く切れ込んでいる穴が開けてそこへ落ちてしまうとそう思っていた節があり祖父が何の躊躇いもなく踏みつけてゆくのはその大きな身体では穴を通らないだろうからで、いずれにせよクリーム色というか黄白色というか明るい部分とオレンジというか黄褐色というか少しく暗い部分とに分かたれていてつまり線は上半分にだけ現れているというか下のほうは手で触れたり足で蹴るなどするのだろうか汚れてくすんでいるうえに影に覆われていてそれで暗くてよく見えないから線は下まで達しているかもしれないが正面よりも側面に於いて陰影がより鮮明に浮かび上がるので湿気のせいで僅かに波打っているのも分かりそこから生温い風が吹き寄せてくるのだろうかほつれた髪に頬を擽られ振り払うように撫でつけてもすぐにまた垂れ下がってきて再度いくらか強めに撫でつけるとようやくそこに留まってそれでもほんのちょっと頭を傾けるだけでもまた垂れてきそうな気がするからなるべく動かさないようにしながら眺めやるその先には闇が拡がっていてそれより先を見通すことができないがそこへこそ向かってゆくというか向かっているのであり所どころ掠れて途切れそうな今にも千切れて飛んでゆきそうな白い線を踏み締めながらぴちゃぴちゃと上ってゆくのでありこんもりと迫りだした葉叢の脇を掠めてその向こうへつまり鉤の手に曲がったその先に尚つづいているだろう坂道を右に左に揺れながら前をゆく背に従いながら警戒というのではないにせよ耳をすましながらそんなわけで寝静まるというよりは洩れてこないのだろう布の擦れ合う音と靴音とよりほかにつまり自身の立てるものよりほかにほとんど音もないからその静けさに息が詰まるというか自ずと息を潜めてしまうが時折生温い風が吹き寄せるとすぐ近くで葉叢が揺らいでいくらか靴音も掻き消されそこから闇が拡がるというか闇が闇であることが改めて捉え直されてもちろん意識の領野でだがそうしてその闇の中を進みながら足元さえ見えないというのではないにせよこんなにも暗かったのかと驚くというか呆れるというか奇異の念に浸されてそれが距離の感覚を狂わせるのかまた少し遠離ってゆくらしくそれでも前へというか奥へというか上へというか白い光跡が伸びている以上それが指し示すところへ向かうほかなくだからその中へ分け入ってゆくのだがその闇というか暗がりというか見えそうで見えない向こうにつまりそこまで光が届かない奥のほうに黒っぽい染みというか汚れというか縦に長い棒状のものが浮かび上がりぼんやりとして形の定まらないそれはゆらゆらと揺らぎながらこちらのほうへ移動するらしく近づくにつれ小さく凝縮して徐々に人の形になってゆきその右のほうにもそれと似たようなシルエットがあってこれは元から人の形をしているというか人にほかならないが同様に近づいてくるのを目端に捉えながらそちらのほうは眼中にないかのように壁面というか白い膜の上に浮かんで自在に変化する形を追い掛けながらもっとよく見ようとしてだろう目を細めるが眉間に寄せる皺のひとつひとつを数えることはできても自在に変化する形を捉えることは難しくそれの右側にあるというシルエットを捉えることはさらに困難を極めるのだがそれでもそれを見ようとして目を凝らすのでありつまり見ようとするから見えてくるのであって見ようとしなければ靄掛かった幕の向こうにぼんやりと蠢く影絵くらいにしか捉えられないのでありそうかといって必ずしも見たいものが見えてくるわけではなく見たくもないものが見えてしまうかもしれないのだが見たくないものをこそ見なければならないというのではないにせよ殊更見たいものだけを見ようとしているのではないのだからたとえ見たくないものが見えたとしてもそれはそれで構わないというか已むを得ないというかすべてが望み通りに展開することなど端から期待してはいないのだしとにかく目を凝らすと蠢く影が像を結んで何かの形になるというか形が現れるというか浮かび上がるというかもちろんそれは犬であり鳥であり蟹であり兎であり人の顔でもあり誰が何と言おうとそうなのであり白い膜の上を動き廻るそれがそれとして認識されると同時にそれはそれになるつまりそれがそれとして確定するということだろうか。

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