ところでもう乾いただろうかすっかり乾いただろうかまったく申し分なく乾いただろうか指の間をすり抜けるようにはらはらと滑り落ちてゆくそれは生温い風を受けて微かに戦ぎながら駆け下ってゆく車体とともに駆け下ってゆくが絶え間なく揺さぶりつづける振動に絶え間なく揺さぶられながら絶え間なく流れゆくものを垣間見るというか覗き見るというかその背になかば顔をうずめてそこから立ち上る匂いに包まれながらそれはもうたまらなく甘い果実というか果汁というか何度も何度でもとはいえそこには何が書かれているのかもちろんこれまで何度も読み返しているが読み終えたことはなくなぜといってその都度異なっているのだからつまり何が書かれているのだかその全貌は捉え切れないのでありそれでも終わりつづけるというか終わらせつづけるというか皺寄った手が端のほうを摘み上げてその前に親指だろうかそれとも人差し指だろうか舌先に軽く押し当てて湿らせてから両側から挟み込んでページを捲るように何度も何度でもそうしてページを捲ると新たに同じページが再び現れる何度も何度でも同じなのに同じではないそのページをあるいは同じではないのに同じそのページをこうしてまた読み返す何度も何度でもだから終わりつづけるというか終わらせつづけるというか何度も何度でも要するにいずれ再びまたいつでもどこででも決して絶対に何度も何度でも大抵は半裸の姿でたまには全裸でぴちゃぴちゃと滴らせながら何度も何度でももちろん膝の上で皺寄った手が何度も何度でもまさぐりまさぐられながら何度も何度でも湿っているのか乾いているのか何度も何度でも濡れているのか濡れていないのか何度も何度でも跳ねるように軋ませながら何度も何度でもカタカタと廻転しながら何度も何度でももちろん膝の上でつまり生温い風を受けて艶やかに煌めきながら靡く髪がいつでも湿っているとはかぎらないわけで尤もある意味では湿っているにせよそして今も湿っているにせよもちろん膝の上でいずれにせよ薄暗い廊下の先を鉤の手に曲がったその向こうそこにそれがあるというかあったというか午後の日を受けながらぴちゃぴちゃと滴らせているのをいつでもどこででももちろん膝の上で見上げると四角く切り取られた枠の向こうその高みまで飛翔することはとてもできないだろうような遥か高いところを切れ切れの雲が右から左へと流れてゆきそれよりずっと低いところをもちろんそこまでだって飛翔することはできないに違いないが灰色の雲が逆方向へつまり左から右へと流れてゆきそこから滴り落ちてくるのだろうかもちろんそうに違いないが何度も何度でもそうして内に溜め込んでは少しずつ染み出てくるというかぴちゃぴちゃと滴ってくるというかもちろん膝の上でもう一度見上げると四角く区切られたそこに空はなく青空もなければ曇り空もないし雨空さえもなく代わりにそこにあるのは低い天井でもちろん手を伸ばしても届かないだけの高さはあってつまり内と外とが確然と分かたれているからぴちゃぴちゃと滴ってくることはないのでありそれでもぴちゃぴちゃと滴っているのでありなぜといって濡れているのだからいつでもそこは湿りを帯びているし奥深く沈めてゆくほどに溢れ出てくるし何度も何度でも要するに皺寄った手はそこにもあるしここにもあるしあると思うそこにそれはあるのでありつまりどこにでもそれはあるのであって空気のようにいや空気などよりずっと濃密にこの身の周りに漂っていて屈折の加減で見えたり見えなかったりすることはあってもいつでも好きなときにその手に触れることができるしその手がまさぐるままにまさぐられることができると言ってよくそうして昇るというか堕ちるというか絶え間ない振動に突き上げられて踏ん張ばるように両の脚に力を込めながらその背にしがみつき振動に合わせて強く押しつけながらどこへ行くのかどこへ行ったのか何度も何度でもというのは荷台の上でいやもちろん膝の上で、そうしてもう一度仰ぎ見ると四角というか台形というか手前は広く奥へゆくにつれ狭くなる歪んだ矩形の向こうには抜けるような空が青く澄み渡りそこを流れてゆくのだが丸とも楕円ともつかない形をしてさらに言えば三角でも四角でもなく五角でも六角でもなくもっと複雑というか何かに似ているようでもあり何にも似ていないようでもある何とも形容しがたい歪な形をして縁部分が入り組んでギザギザしているのに触れても痛くはなさそうなというか触れた途端に掻き消えてしまいそうな儚げな様相というか属性というかそんな一片の雲がだが枠の一方の端からそれは現れたのだろろうが見上げたときにはすでにそこにあって枠の内側を白く染め抜いていて青さの中で白さが際立つのかそれとも白さによって青さがいっそう深まるのかそれは分からないが青の中に白があるいは白の周りに青がそうしてその白というか雲がゆっくりと移動してゆくのを眺めながら動いているのはその白というか雲ではなく矩形の枠のほうだとそう思っていた節がありもちろん矩形の枠というか地面のほうも動いているのだがもっとずっとゆっくりだから動いているとは実感できないはずでそれでも午後の日の降り注ぐそこでぴちゃぴちゃと滴らせながら深く浅く何度も何度でも強く弱く何度も何度でもそんなわけで遠いのか近いのかまったく距離が掴めないというのではないにせよ巧く焦点が合わなくなって凝らしたり眇めたりとしばらく手間取っていてもちろん一過性のものだから少しずつ元に復してゆくだろうと高を括っていたが暗に相違してもう一度上を向くと揺らぐというか波立つというか真っ直ぐなはずの矩形の枠は湯の中の裸身が屈折によって歪むように曲がりくねっていてその曲がりくねった線というか枠というかそれはそのうちぼやけて滲むというか滲んで混ざるというか混ざって濁るというか全部が渾然とひとつになって闇に溶け込みそれでいて全部が見えるというか分かるというかその闇の中から皺寄った手がそれこそ幾本もの手が伸びてきてまさぐるというわけで何度も何度でもだから乾くどころか湿ってゆくのでありぴちゃぴちゃと濡れて滴って深く沈み込んでゆくあるいはぴちゃぴちゃと濡れて滴って軽やかに浮かび上がってゆく何度も何度でもつまり黒々した葉叢を掻き分けて奥へと沈めて擦り合わせるというか刺激を与えつづけるというか親指と人差し指でしっかりと摘んで中指と薬指も添えながら強く押しつけるというよりは優しく撫でつけるような感覚だろうか何度もくり返すことでちょうどいい加減を掴むわけだがもちろんこれも経験の賜物と言っていいそうしてまたここに新たな線が引かれるのでありこちらとあちらとを分かつそれは白い光跡を煌めかせながら伸びてゆきぐるりと弧を描いて元の場所へ戻ってくると丸い形に閉じられてつまり輪になって少し離れたところにも同じように線が引かれてやはりぐるりと弧を描いて元の場所へ戻ってくると輪になってさらにその輪の中心から放射状にいくつもの線が伸びて輪に突き刺さり▽というか□というか◇というかそれはふたつを繋ぐ糸となりそうして先端に二本の角というか細くて華奢な腕というか生えてそれでようやく見知った形となるのだがそこに跨がって押しだすというか蹴りだすというかするまでもなく自然に廻りだしてゆっくりと動きだすのは傾斜しているからで徐々に速度を増すにつれ風に乗るというか風を追い越してゆくというか最初は小刻みだった振動が徐々に大きくなると下からの突き上げもそれに比して大きくなりその衝撃を受けていつまでも怺え切れるものではないからいずれ屈してしまうのだがそれまでは怺え抜くつもりで怺えているわけでそれでもついに怺え切れず解き放たれるというか迸るというか堰を切ったように溢れだす奔流に目が眩み危うく手を離しそうになるがここで手を離したらバランスを崩して大変なことになると辛うじて踏み留まってそれでも気を抜くとそのまま風に持っていかれそうになり重さがなくなると言ったら言いすぎか留め金が外れ掛かっているようなどうにも心許ない感じで頭というか顔というか強く押しつけて風の入り込む隙間ができないようにしてやり過ごすうちにまた少しずつ重さは戻ってくるが何か重い荷でも背負い込まされたような例えば長いこと湯船に浸かっていて立ち上がったときに感じる身体の重みとは異なるまるで身に覚えのない重みというか自身の重みには違いないのに見失った重みと見出された重みとが異質なもののように思えて仕方なく尤もそれが感覚の狂いから生じる体のものということくらい分かっているが真実それが何であるのかそれが意味するところのものが何であるのかまでは分からないのでありいずれにせよその狂いが元に復すまではこうして息を潜めて大人しくしているほかなくそれなのに吐息がひとつ微かに洩れて四囲に響き渡るというのではないにせよ静寂をいくらか乱す恰好で軋むというか揺らぐというか微妙な均衡で保たれていたバランスがそれだけでも崩れるのだろう続けざまにふたつ三つと洩れだして一旦弛んだ栓は戻らないということか少しずつ波及しながら傾いてゆき傾きながら填り込んでゆき填り込みながら結合してゆき結合しながら同化してゆき同化しながら変容してゆきつまりひとつところに留まってはいないというかいられないというか、そんなわけで息を詰めて怺えながら波が引いてゆくのを待つというかなかばそれに浸りながらもう一度振り仰ぐとそこは低い天井ではなくそうかといって抜けるような空でもなくそのいずれともつかない中途半端な領野が拡がってつまり全部が曖昧に滲んでゆくらしく澱んでいると言ったら言いすぎかあるいはむしろそれを眼差す眼差しが他の誰のものでもない己が眼差しがそれこそが澱んでいると見るべきかいずれにせよ回廊になっているからだろうどこまでも果てしなくつづいてゆきそれでも終わりつづけるというか終わらせつづけるというか疲れ切って眠りに就くまで何度も何度でもつまりいつでもどこででも自在に行けるのであるからして自在に行くのであり何度も何度でももちろん膝の上でつまり緩やかな勾配の坂道を駆け下ってゆく車体とともに駆け下ってゆきながら吹き寄せる風が素肌を撫でてゆくその心地よさをあるいは風に膨らんだシャツの裾だろうか勢いよくはためいているその音をもちろん背から立ち上って風に流されもせずそこにありつづける蒸れた匂いもだがそうしたものが渾然と混ざり合いながらそれでいてひとつひとつが浮き立つというか際立つというか入れ替わり立ち替わり現れては退き退いては現れをくり返して已まずめまぐるしく変化して一瞬も留まってはいないそれら諸現出を巧みにというか巧まずというか捌いてゆくわけで何度も何度でもところで淡茶というか薄茶というか枯れた色合いのそれはいずれも襟が大きくてその分顔が小さく見えるというのは本当だろうか色褪せた面上にどことなく困惑の色を浮かべて何に対しての困惑かそれは知る由もないがどの面上にも少なからず貼りついている色らしく少しく斜めに身体を開きその分脇から背に掛けて後ろへ流れる形になってそこに何かを隠しているような自ら盾になって隠さねばならない何かがそこにあるとでもいうようなそんなふうな翳りが滲んでそれが困惑の色をいっそう濃密なものにするのかいずれにせよ日差しが強いのだろう眩しそうに目を細めながら佇んでいるのをあるいは腰掛けているのをつまり路上やベンチや縁石や柵の前や庇の下や池のほとりや砂浜や波打ち際やそうした至るところに凭れ掛かっているのをあるいはしゃがんでいるのを見るというか見られるというか見つめ合っているのに交わらないそれでいてふたつの眼差しはぶつかり交叉しているとそう言ってよくさらには絡み合い溶け合ってひとつになると言ったら言いすぎかとにかく回廊になっているからだろうどこからでも覗き見ることができるのであり表も裏も何もかももちろん全部の全部が露呈しているわけではないだろうがそれでもあらゆる角度から捉えることができるのでありその隠れなさと言ったらそれはもう全き隠れなさと言ってよくそんなわけでもう一度上のほうへ眼差しを振り向けると線というか面というかいずれも納まるべきところに納まって何ひとつ食み出ていないし引っ込んでもいないつまり余計なものもなければ足りないものもないというか端のほうがほんの僅か揺らいでいるくらいだろうかまあいつだってある程度は揺らいでいるのだがそれ以外はまったく以て申し分ない佇まいを呈していると言っていい。