そうしてうねりながらどこまでもつづいて果てもない道のりを手繰り寄せるように歩いてゆくのだがどこへ向かっているのか少しく前に屈めた背中は不規則に揺れて右へゆくのか左へゆくのか決め兼ねているような足取りというかただ惰性で進んでいるだけのようでもありこちらをはぐらかそうとしているようでもありふざけているようでもありだからその裏にある隠された意図を明らかにしようとしてそうしたものがあるとしてだが尤もそんなふうに端から疑って掛かると仮定は仮定ではなくなって当然それはあると見做されるのでありつまり内にある疚しさによって秘されているのに違いないと疑心に火が灯ることにもなるわけでそうして射るような視線をその背に投げるもまったく動じる様子はなく尚も右に左に揺れながらどこへ向かっているのかもちろんどこだろうとそれは構わないどこへでもついてゆくのだしこうして右に左に揺れているのを間近に眺めていられるのだからつまりその背を見ているというかその背をしか見ていないというか揺れるたびに盛り上がって山を成したかと思うと引っ込んで平らになり平らになったかと思うとまた盛り上がって山を成すがすぐに引っ込んで平らになるというようにつまり右に傾くと右脇腹辺りから背の中心を跨いで左腰辺りへ至る斜めの線が左へ傾くと左脇腹辺りから背の中心を越えて右腰辺りに至る斜めの線が皺というか襞というか作りながら蠢いているのを食い入るように見つめているうちに布地の下でまさぐる手の動き指の動きが見えてくるというかその動きをなぞって背というか腰というか脇というか汗に濡れた身体を今まさにまさぐっているのであり少しく弛(たる)んだ締まりのないと言っていい身体を羸弱とまでは言わないにせよ軟弱というか貧弱というか華奢な身体を隈なく念入りに次いでごつごつと硬く締まって無骨な手のほうへ開くでもなく握るでもなく中途半端に開かれ握られている拳がゆらゆらと揺れているほうへ流れてゆき節くれ立ったその指に指を絡ませながら引き寄せて短すぎる爪の上に被さっているぷっくりした肉の盛り上がりを指の腹で探りながらなぞるように這わせてゆくとささくれだろうか今にも剥がれそうな皮膚の一部に触れて毟り取ってしまいたくなるのを怺えてもっと近くに引き寄せると赤黒いというか青黒いというかいろいろ混ざって何色ともつかない強いて言えば黒っぽい灰色のそれは絵の具だろうか洗っても落ちないらしく爪の間に残っていて鼻先へ持ってくると絵の具の臭いがするが舐めても絵の具の味はしないらしくそうしてざらざらする肌触りや濁った色や皮脂と汗と絵の具の混ざり合った臭いが意識の領野を満たしてゆくその一方で何もかもが露わになっているような気がするのはすうすうするからだし突風に煽られるたびに翻らないかとそれはそれで気になって仕方ないのは監視の目はどこにでも潜んでいて一瞬の気の弛みから何か粗相するのを執念く狙っているのであるからして一瞬たりとも油断はできないからでそうかといって気を張りつづけているのにも限界はあってつまりそうなることは避けられないということを否応なしに知らしめられて悪足搔きというのではないにせよそれでも抵抗せずにはいられずだから抵抗するのだがそうした抵抗も虚しくいつか破綻するに決まっているそれはもう間違いないのでありその背の動きを追いながらその背の動きに合わせることも儘ならないというかどことなくちぐはぐな感じがするのはそのせいだろうか、いずれにせよ何もかもがすでに露わになっているのであり隠しようもなくさらけ出されてぴちゃぴちゃと滴る音もよく響くから誰もがそれを耳にしているし匂いを嗅ぎつけてどこからともなく集まってくるらしく逃がすまいと追い縋るようについてくる血の臭いに群れ集うゾンビめく集団と言ったら言いすぎかそれを従えてもちろんそんなもの従えたくもないが無意識のレベルに於いてはそのかぎりではないかもしれずつまりその無意識の声にゾンビらが呼応し蝟集するのかもしれずそうとすればそれを追い払うことはとてもできそうにないが意識に於いては従えたくなんかないのであって去ね去ねと届くはずもない念を唱えながらどこへ向かうのか向かっているのかその背の声に耳を傾けながら一歩ごと揺らぐのを見つめながらもちろん台地の際に聳える建物へだがちょっとやそっとのことでは倒れそうにないそれは今この瞬間にも聳えているだろうからなぜといってこの三年というものもちろんそれ以前についても同断だが一度も倒れたことはないのだから軋んだり撓んだりはしても崩れ去ることはなかったのだから果してそれが聳えているのか聳えていないのかといったことで思い悩むのは杞憂にすぎないのでありそれなのに気が急くというかそわそわして落ち着かないというか注意力が散漫になっていることは否めずなぜといって疲れているからでだから一歩ごと遠退いてゆくような近づいたその分だけ離れてゆくようないやたしかに逃げてゆくのでありつまりこちらが一歩踏みだせばあちらも一歩踏みだしていつまでも距離は縮まらないというわけで尤も踏みだす一歩の距離が異なるからつまりあちらのほうが遥かに巨大な一歩だろうから縮まらないどころか引き離されてゆくのでありだからそこへ到達することは永遠にないというわけでいやそれはないがなぜといって一歩ごと近づいていることはたしかなのだから心的距離がどれだけ隔たったとしてもそれとは反対に物理的距離は縮まっているのだから尤も道を間違えているとすれば話はべつだがそれはあり得ないというのはこの道より他に道はないのだからそこへと至る経路はただひとつだけなのだから要するにその背につき従ってゆけばいいのでありそれが辿ってゆく道のりをそっくりそのまま寸分違わずとはいかないにせよ右に揺れ左に揺れているそのあとについてゆけばつまりその背が右に揺らげばこちらも右に揺らぎその背が左に傾げばこちらも左に傾げるというようにすれば間違いはないだろうとそう思ううちにも左のほうに細長い切れ込みが現れて暗く翳っているそれはさらなる路地への入口というか出口というかもちろん右のほうにも似たような切れ込みはあるが通りの反対側にあってさしあたりそちらへ向かう様子はなさそうでつまり通りを横切る気配というか通り掛かる車輌の有無を確認する素振りというかそうしたものはないと見えそんなわけでそちらのほうへ左にある細長い切れ込みのほうへ近づいてゆくらしくだからそこへ入るのかと覗き見ると夜の営業なのだろう閑散としてどことなく怪しげな佇まいにいくらか足取りも重くなるが背はそちらのほうを覗き込むように首を捩じ曲げてひっそりと仄暗い路地の奥を窺いながらもその前を通りすぎてゆきそんなふうにしてそれからいくつもの細長い切れ込みをやり過ごすがそのたび溝というか皺というか斜めに深く刻まれてゆくのがよく分かりというのは首筋にだがそこへ這わせたり絡ませたりして焦らすというか弄ぶというかどんな味がするのかそれは知らないがいや知っているがぴちゃぴちゃいう音とともに滴り落ちるのを全部というわけにはいかないが味わいもするのだから反応を窺いながら緩急をつけて軽く触れたり強く押しつけたりするのだから思ってもみない反応に却ってこちらが昂ぶってしまったりするにせよ、そうしている間にも視線というか眼差しというかこちらを窺う気配めく何かを感じるというか絶えず意識しているというか意識の領野に占めるその割合が次第に増しているらしくその重みで水平を保てないとうのではもちろんないがほんの少しだけ横に傾けるとというのは頭をだが傾けたその分だけ視界も傾いていくらか斜めに傾いたその視界の内にそれまで含まれていなかった部分が含み込まれてくるが反面そこから押し出されて消え去る部分もあるわけでその消え去る部分についてはさしあたり措くとして新たに含み込まれる部分につまりまったく異なる様相というか属性というかを具えたその部分にそれが現れてこちらを見ているというか黒光りした縁に支えられて上からの光を反射させながらこちらを向いていてもちろんそれは何も見ていないのだがそれなのに見ているような常に見られているようなじっと見つめられているような気がしてならずそれにしてもいったいいつからそこにあるのかいつ移動したのかいや移動したのではなく移動させたのだろうもちろん皺寄った手によってそこへ置かれたに違いないがなぜといって自らの意志で移動することはできないからだがそれとも自らの意志で移動したのだろうかその瞬間を目にしていないからそれは分からないがずっとそこに視線を注いでいるわけではないから目を離すなり逸らすなりすることはあるし目を閉じていることもあるのだし瞬きだってするわけでつまり見ていないところで何が起きたとしても不思議ではないというかいつだってこちらの見ていないところで何かが起きているのであり決定的な何かが起きるのも得てしてこちらが見ていないそんな瞬間でつまりほんの一瞬目を離しただけでもその一瞬で世界は劇的に変じてしまうのだから自ら移動したのであれ皺寄った手によって移動させられたのであれ結果に違いがなければそれは同じことでありとにかくこちらを眼差す眼差しに捉えられて少しく萎縮するというか気恥ずかしくなってその眼差しから逃れるように傾けていた頭を元へ戻しそれでも足りないというようにさらに反対側へ傾けるが尚もこちらを見ているというか見られているような気がするのでありといって気のせいなんかでは絶対になくたしかにそれは見ているのでありそれにも拘らず当のそれを特定することはできないのでありつまり誰にとも何にとも名指すことのできないそれは不在の眼差しにほかならないがいくつも連なる顔たちには眼差しだけがあるというか眼差ししかないというか刳り抜かれたふたつの小さな穴の向こうからこちらを覗き見るというか垣間見るというかしている者などいないのに如何なる主体もそこにその穴の向こうに見出すことはできないのにそれなのにどの顔にもこちらを見つめる眼差しがたしかにあるのであり一見笑っているようだがまじまじ見つめると笑みの形に膠着した顔面に笑いはなく笑っているのに笑っていないというか笑っていないのに笑っているというかそのいずれとも見做し得る相貌に惑わされまいと足早に通りすぎようとするのだが全部が同じ方向を向いてその前をゆくものを捉えて離さないそれら眼差しの強さに圧倒されるのでもあろうかあるいはその空虚さに吸い込まれそうになるということか息が詰まってまたはぐれてしまいそうな気がするからだろう繋いだその手を強く握り締めると胸元へ引き寄せながらその影に隠れ煙草の臭いで身を包むようにして一刻も早くこの場を離れようと流れの速い中央へそうして流れに乗ってしまえばもう捕まることはないとそう言っていたのだろうか濡れそぼつ髪から雫を滴らせながら尚いっそう黒々として艶やかなそれを指に絡めて弄びながらぴちゃぴちゃと溢れ出るのを溢れ出るに任せながら。