そんなわけで右のポケットだろうか左のポケットだろうかそれとも前のポケットだろうか後ろのポケットだろうか滑り込ませてから出てきたその手にそれはなくだから今も尚それはそこに右だか左だか前だか後ろだかのそのいずれかの中に小さく丸まっているのであってここにはなくだから枷を填められたようで自由がなくなるというか何気ない動作なり身振りなりを何気なく行うことが困難になって慎重な躊躇いがちな淑やかと言ってもいい控えめな挙措になりそうして大人しく畏まっているほかないがいやむしろ枷を外しているのだがつまり自由であるはずなのだが布切れ一枚あるかないかというたったそれだけのことで少なくとも意識の在りように於いて天と地ほどの違いが生じてしまうのはなぜなのか例えば暑いと靴下を脱いで素足になることもあるにはあるが素足であることを意識することはほとんどないのだからこれほどにも意識することはないはずなのにこの心許なさ心細さはいったい何なのか靴下とそれを同断に扱うことはもちろんできないにせよ腰から腿の大部分は衣服の下に隠されていて見えるはずもないしそれが露わになるようなこともなくつまり外見上目立った差異は認められないのだからその違いに布切れ一枚の有無に気づかれることはほとんどないと言っていいのにこんなにもそわそわするのはあらぬ想像をしてしまうせいでもあろうかまああらぬ想像といって他愛ないものではあるのだが他愛ないと言って済ませられるほど事は単純ではないらしくというのはそうした想像も現実となるかもしれないからでしかも単なる可能性の問題としてではなく充分にあり得る可能性の問題として要するに嗜虐的というか鬼畜的というか凌辱的というかそうした振る舞いに及ぶことがないでもないからでまあ翻せばそれはこちらの在りようを示すものでもあるわけだから同罪ではないにせよ一方的にあちらにだけ罪を着せるわけにはいかないがそうかといってこちらに罪を着せられるのも些か納得し兼ねるわけでなぜといって抑も最初に火種を持ち込んだのはあちらなのだし最初にこちらに火を点けたというか点けようとしたのもあちらなのだからそれはしかし本当だろうか誘惑する者と誘惑される者とでどちらがどれだけ罪深いのかそれは分からないがどちらに位置しているかで見えてくるものも自ずと違ってくるだろうからそれを見極めることができればいくらか霧も晴れるだろうがそのための材料が不足しているのもたしかでだからあちこち探して廻るのでありどこにでも出向いてゆくのだがいやそれはないがとにかく取り留めもなく彷徨った末にと言ったら言いすぎか辿り着いたそこへ掛けるというか預けるというか重みで僅かに沈み込んでゆくだろうそこへ乗せるというか据えるというか柔らかな反発力で軽く押し返してくるL字型のそれはいずれも濃い青色をしていて紺色というほど濃くはなく青色というほど薄くはなく濃い青色というのが妥当というかしっくりくるそうした色合いでその縁からというのはLの水平面の突端から紡錘形に突き出ているわけだが湾曲した線というかふたつの椀というか横転したBのようにも見えるその部分が暗い背景に白く浮かび上がっているからだろうその稜線を辿っていてつまり右の椀の裾野からその頂きを経てV字形に切れ込んだ中央の窪みへさらに左の椀の頂きを経てその向こう側の裾野へそこで折り返して今通ってきた頂きを戻って中央の窪みへそして右の椀の頂きも戻って最初の地点へつまり左の椀の裾野へと戻ってくるというようにいずにせよそこから先の部分が見えないのはそこで曲げられているからでつまり前方に伸ばされた太腿が膝のところでほぼ直角に折り曲げられているということでだから殊更不自然なポーズを取っているのではないのでありつまりどこから見ても些末な日常の一場面にすぎないのであるからして睨まれたり目を背けられたり注意されたり窘められたりといったようなことはないのでありそれなのに不自然というか違和感というか居心地の悪さに身悶えるというのではないにせよ波立ち揺らいで鎮まらないらしくなぜといってすうすうするからでとにかく腿や膝が剥きだしになっているその延長であるというにすぎないのだがその違いは決定的で意志の力でどうにかできるものではなく、いずれにせよ見えているものも見えていないというか見ているのに見ていないというかもちろんすべてを見通す眼差しなど持ってはいないからつまり教典の中にだけ存在するあるいはそれを信じている人の中にだけと言ってもいい仏のような神通を備えているわけではないのだから何もかもを見通してその悉くを保持し得るというような考えは微塵もないのでありそれはもう全然そうなのであってだからそのごく一部にしか光が当たらないというかほぼ全域に渡って靄が掛かっているに等しくだから細部に焦点を合わせようとしてもまるでピントが合わないのでありそれでも少しずつ見えてくるものがあるというか何某か像が結ばれる瞬間があってそれを捉えようと目を凝らすわけでそうして見えてくるものを見ているというか見ていないというかもちろん見ているのだが正面から直視するのではなく斜交いにというか横目にというかそうした眺めやりに於いて眺めるのでありとにかくそうした眺めやりの内に何が見出されるのかそれは分らないが悪戯っぽい笑みがその口元に過るのを見たような気もしてそしたらその手が膝元に伸びてくるのをこれはたしかに目に留めてそのひどく緩慢な動きがもどかしいというか悩ましいというか抵抗する暇も与えず一挙に攻め寄せてくるならまだしもこちらの反応を窺うようなどこか及び腰のそれでいて粘り強く攻め立てるやり方にはもう馴れているはずなのに戸惑うというか閉口するというかどう応じればいいのか分からなくなるのでありそうかといってどうにでもなれと投げやりにもなれないから逃げ道というか抜け道というか何かそうしたものがあるはずとそれを探して視線を彷徨わせるがもちろんそんなものはないのでありこの道をゆくしかないのであり小便臭い凸凹道を敢えてゆくのでないかぎり曲がりくねったこの道をというかこの坂道をゆくよりほかにないのであり辛気臭い面持ちに睨まえられなが波打つ白い線に導かれながらそれにしても見えなすぎるというか暗すぎるというか一様にヴェールに包まれていて確かなことは何もそれこそ葉の一枚さえ見分けることができずだからそれがどんな形をしているのか丸いのか角張っているのか細長いのか大きいのか小さいのか尖っているのかいないのかまったく分からないのでありそれでもオレンジの棒というか槍というか討ち取った首を掲げているような姿は遠目にも見えるのであり見たいと見たくないとに拘らず見えてしまうのでありそうして見ろと言わんばかりに浮かび上がるそれは今膝の上に置かれているがそこから少しずつ上のほうへ滑るように移動してゆきそうかと思うとまた下のほうへ戻ってゆきそれからまた上のほうへ上がってきてまた戻ってゆきとそんなことをくり返すうちに隠されていたものが露わになるというようなことをついにはすっかりたくし上げられるだろうことを過程はどうあれ結果はそうであるということを期待なのか諦念なのかそのいずれともつかない眼差しで眺めやるのを垣間見るというか盗み見るというかぴちゃぴちゃと波打つ中艶やかに仄白く揺らめく肢体とともに現前するそれは見えるのに見えないというか見えないのに見えるというか、いずれにせよ今一度眺めやるとまだ彷徨うように座席の上を行ったり来たりしてこちらにまで達してはいないらしく躊躇っているのか勿体振っているのかそれは分からないが何某か猶予が与えられたような気がするからだろう少しく冷静さを取り戻すとこちらの眺めやりにもある程度余裕が出てくるがそれでもあからさまに眺めやることが躊躇われるのはそうすることでその動きを制してしまうことになるだろうからでつまり必ずしもそれを拒んでいるわけではないということになるがそうかといってそうしたプレイを求めているのでもなくまあ少しくらいは興味があるかもしれないがそれはもうほんの少しなのであってつまり誰しも持ち合わせているだろうような興味本位程度の興味なのであって決してその範疇を越えるものではなくだから何かを期待しているというような何某かエロティックな展開に至るのを心待ちにしているというようなそんなことはないのであり本当にそうかというと本当のところは分からないがなぜといって内なる欲望なり隠された欲望なりがあるだろうことは想像に難くないからだしフロイトやラカンを引き合いに出すまでもなくそれはもう諒解済みのことだろうからであるいはそれにより何かが芽生えてしまうことを恐れているのかもしれないそれが何かは知らないがいや知っているがつまり何か背徳的な倒錯的と言ってもいい公言するのが憚られるような一度填り込んだら抜けだせないようなそれこそ生涯に亘ってその虜になってしまうだろうような何かが根づいてしまうのを危惧しているのかもしれないということでその何かが何なのかはさて措くとして彷徨うように座席の上を行ったり来たりしている緩慢な動きに注意を払いつつも露骨な眺めやりはしないようにして少しずつこちらのほうへ近づいてくるのを待ち受けるというのではないにせよ事態の推移を見守るというか成りゆきに任せるというかもちろん容認できない事態になればそれは拒否するつもりだがどこまでが容認できてどこからが容認できないのかはそのときになってみなければ分からないだろうからさしあたり成りゆきに任せるよりほかにないわけでそうして彷徨うにように行ったり来たりしているのを眺めながら矩形の枠の内側というか向こう側というかときに速くときに遅く流れてゆくのを眺めもしてそこには反転した像が重なり見えもしているから時折そちらのほうへ焦点が合ったりもしてそうしてぴちゃぴちゃと波打つ響きを耳にしながらその波になかば身を預けるようにして揺れるに任せてみるのだと湯の中で裸身を揺らめかせながら眺めやるその眼差しの眼差している当のものを捉えようとしても異なる位置からの眺めやりは所詮異なる眺めなのでありそうとすればどれほど近づいてもそこには隔たりがあって捉えたと思ったその瞬間に逃れ去っているのでありそれでもそれを捉えようとするのでありとはいえやはり捉えられないのでありだからといって諦められないのでありつまりそんなふうにしてどこへか運ばれてゆくらしい。