友方=Hの垂れ流し ホーム

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とにかくそこはもうずいぶん暗くなっているというか気づいたら暗くなっていてもちろん舞台が暗転するようにある瞬間急に暗くなるわけではなく徐々に暗くなってゆくのだがあまりにもゆっくりした変化に目というか意識というか反応できないらしくつまり変化を変化として捉えられないためいつだってだしぬけにやって来るというかもちろん何か他のことに夢中になっていて気づかないこともあるだろうがそうしたことはほとんどなくなぜといってただ駄弁っているだけなのだから準備室とはよく言ったものでいつだって準備中なのでありつまり活動らしい活動はしていないということでとにかく不意に降りてくるというか気づいたらすでに降りてしまっているというか連続しているのに断絶していてその間に流れた時間が失われでもしたようなそんな気がしていやたしかにそれは失われていてどこをどう捜しても見つからないのでありそれでいて一定の時間を過ごしたという事実は疑い得ないのであり全部とは言わないが大部分内容は失われているのに形式だけが残存しているというか空疎な入れ物だけが転がっていて中に何が入っているのかまるで見当もつかないというかありもしない中身をでっち上げて詰め込んでいるとそう思われもして今となっては確かめる術もないがいずれにせよ逆光だからか俯き加減だからか暗く翳っているその表情は読みとれずもう少し近づけばあと一歩か二歩か歩み寄ればそれが表しているだろうものを捉えることができるかもしれないもののその一歩が遠く最初の一歩を踏みだすことができないから次の一歩つまり二歩目も踏みだせず二歩目がなければ当然のことながらさらに次の一歩つまり三歩目もないわけでだからそれは四歩目にも五歩目にも妥当すると言ってよくもちろん六歩目にも七歩目にもだが要するにその距離が縮まることはないのであって何か尤もな理由があれば例えば誰かに命じられるとかすれば誰に命じられるかはこの際問わないとしてその命に従うことで踏みだせぬ一歩目を踏みだすこともできようがそうしたものもないとなればこの場に踏み留まっているよりほかになくそうかといって暗さに気づいてしまった以上その暗さを意識しないではいられず意識するとそれをどうにかしたいと思わないではいられずそうした思いを懐くとそれを実行しないではいられずだから実行するのだがつまり立ち上がって壁の間際までゆき扉の脇に縦長の四角い枠がちょうど胸くらいの高さだろうか填め込まれているというか壁面よりいくらか張りだしていてその中に空豆くらいの大きさの横長の四角形が縦にふたつ並んでいるが上の四角形が手前つまり廊下側で下の四角形が奥つまり窓側になるのだろうかそれとも上の四角形が奥つまり窓側で下の四角形が手前つまり廊下側になるのだろうかとにかくどちらかがどちらかに対応しているのだがその空豆大の四角形の一方の辺が△に飛びだし他方の辺は逆に壁面に沈み込んでいるその△に飛びだしているほうへ手を差し伸べて△の出っ張り部分を壁の中へ押し込むのだがそしたら硬質な破裂音とともに押えた反対側が飛びだしてくるつまり一方の側が引っ込むと他方の側が飛びだす仕掛けなわけで□の中央を支点にしたそれはぎったんばっこんのようでもありそうしてオンとオフとを切り替えることができるのでありそれによって通過させたり遮断させたりと自在なのでありというのは電気をだがそんなわけで一室が光に溢れるとそれまでの暗さに愕然となるというのではないにせよ広げた雑誌の写真も活字も鮮明に見えるから何がなし損をしたような気がしてその損失を取り戻そうというのではないにせよ一室に視線を巡らせるとそれまでどこか平面的でスクリーンに映しだされた映像でもあるかのように思い做されていたものがすべてに於いて立体的に浮かび上がってくるようでつまりただ明るいというだけではなく光の当たっている部分とそうでない部分とに明暗が生じつまり影ができそれによって光の当たっている部分がよりいっそう浮かび上がってくるのでありもちろん光の当たっていない部分はよりいっそう暗く沈んでゆくのでありつまり刺戟せられた視覚によって活性化するのだが闇に馴れた目にそれは眩しくて少しく目を細めながら光源の下を過ぎればつまり光に溢れた空間が背後へと流れてしまえば四囲はまた闇に支配されるから収縮した瞳孔もすぐに開くだろうそしたら暗い中にも濃淡というか明暗というか立体的とは言えないまでもそれなりに差異があってそこに見えてくるものがあるのであり染みのように拡がってゆくそれを見ているというかそれに見られているというか、角度によって向こうが透けて見えたり見えなかったりするそれは祖父の眼鏡であってそれ以外の何ものでもなく重々しい黒い縁の眼鏡の分厚いレンズの向こうからこちらを見つめる眼差しもやはり祖父の眼差しなのでありずれ落ちるのを押えようとその黒い縁のほうへ移動してゆく皺寄った手ももちろん祖父の皺寄った手なのであってその皺寄った手がこちらのほうへ伸びてくるがそれも祖父のだろうかそれともべつの誰かのだろうか太く節榑立った指というか皺寄った指というかそれ自体が意志を持つ独立した存在でもあるかのように動き廻るその手は煙草臭くもあり絵の具臭くもあり時折穴に差し入れられたり抜き差ししたり弄くったり弄んだりしているが総じて細長い筆を握っていてそれがこちらのほうへ近づいてひとつずつ剥ぎとるというか剥きだしにするというか露わにしてゆくというかそうして何もかもが露わにされて風通しよくなると絵の具臭さも少しだけ遠退くらしく露わになった素肌の上を風が渡ってゆくと微かに潮の香りが漂いもしてぴちゃぴちゃと波打つ響きが聞こえてきそうだがもちろん聞こえているのだが今まさに耳にしているのだが背後から忍び寄ってくるそれはすべてを呑み尽そうとするらしくだから呑まれまいと上へ上へとこの坂道を上ってゆくのでありもちろん誰の助けも借りることなく自分の脚で上ってゆくのでありそうして台地の際までゆけばそれがあるのでありつまりこんもりと迫りだした葉叢の向こうから顔を覗かせ次いで全部が露わになるというか剥きだしになるというかいずれにせよこちらの視線を逃れるように後ろへ廻り込んでから皺寄ったシャツの中へ滑らせてゆくらしくぴちゃぴちゃと這い廻るのが聞こえるがレンズに映る自身の姿に怯むというのではないにせよそんなときにどんな表情をしているかなど見たくもないし知りたくもないというように目を背けるとよりいっそうぴちゃぴちゃいう音が響いてくるらしくつまり視覚の遮断は聴覚を研ぎ澄まさせるというわけで近づいたり遠退いたり高くなったり低くなったりするそれはぴちゃぴちゃと打ち寄せる波のように絶えず形を変えながら幻惑するのでありだから幻惑されまいと抗うように身を捩るのでありといって絶対的な拒絶というのではなく婉曲にというか困惑の体で去なすのでありそしたら一旦引き下がるがまたべつのところからぴちゃぴちゃと打ち寄せてきてそれをまた去なすとやはり一度引き下がってから打ち寄せるそうして去なす引き下がる打ち寄せる去なす引き下がる打ち寄せるとそのくり返しが延々つづくような気がしてもちろんいずれ綻びが生じて次のステップへと順次移行してゆくのだが物事にはやはり順序があってひとつひとつ段階を経てゆくもので不用意に間を飛ばすことはできないらしくだからしばらくはそうした児戯めいた行為に耽るのでありそれにいきなり核心を突くようなやり方は好まないというか生理的に受けつけないところがあってそれは向こうもそうなのらしくだから回を重ねるたびに儀式めいてくる煩雑な手続きを経てようやく事を始めるに至るというかスタート地点に立つというかするのでありまあスタート地点と言っても明確に線引きできるわけではないしその前からすでに始まっていると言えばそれはその通りでつまり位置について用意ドンという具合にはいかないのだろう、とにかくぴちゃぴちゃと打ち寄せる波に揺られながら眼差している眼差しの先にあるものを捉えようと目を凝らすのでありそうすることで見えてくるというかそうすることでしか見えてこないというかそうしたものがあるのでありもちろんそれは虚像として現前しているにすぎないにせよオレンジの丸に囲われたその中に全部が納まっているぴちゃぴちゃと波打ちながら納まっているそこから見下ろす視線に絡め取られて身動きもできないというのではないにせよ足の運びは慎重になって慎重すぎてあとが閊えてしまうがそうかといってひとりずつ登るほかないのだし皆が注視する中そうするのだから失敗は許されずなぜといって踏み外そうものなら訝しげな視線を浴びてしまうというか不審げな眼差しに晒されるだろうことは想像に難くなくそれどころか失笑されることも予想されるからでだから踏み外さないように細心の注意を払いつつ最初のステップに足を掛けるのだがそこには豆のような疣のような楕円形の小さな突起が整然と並んでいてそれがあると濡れていても滑らないらしくといって靴底の溝にその小さな突起がぴったりと填り込んで固定されるというのではないだろうなぜといって大きさも形もまるで異なるのだからそれなのにそんなふうな印象を拭い得ず鍵と鍵穴のもしくは凸と凹の関係に似ているというかいつかぴったりと重なり合って隙間なく填り込んで取れなくなる運命的な出逢いか何かのように出逢ってしまって離れられなくなるとそう言っていたのだろうか如是我聞とそう言って構わないだろうか一時仏住王舎城耆闍崛山中与大比丘衆万二千人倶一切大聖神通已達即ちアル時仏王舎城ノ耆闍崛山ノ中ニ住シタマイ大比丘衆万二千トトモナリキ一切ノ大聖ハ神通ニ已ニ達セリというようにつづくのだがそれは最早ファンタジーというか現実から甚だしく遊離した空疎な絵空事にしか思えないのでありそしてそれはオレンジの丸の中というか向こうというかそこに見る虚像とも通底しているような気さえしてくるのだ。

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