友方=Hの垂れ流し ホーム

16

もちろんすぐに消えたりはしないから存分に眺めやって飽くことを知らないがそれでも徐々に掠れて繋がっていたものが途切れ途切れになると意味を成していたその意味が失われてゆきそうしていずれは跡形もなく消えてしまうのだがそんな入り組んだ線の交錯も最初は一本の線からはじまるのでありつまりその前は何もないのでありその何もないところに一本の線を引くことからすべてがはじまると言ってよくそれはゼロから一へのつまり無から有への飛躍であるからしてまったく以て驚異というか驚嘆すべき事柄でありそのかぎりに於いて創造主というか造物主というかすべてを統べる者として君臨するのだがそうした気負いはどこにもなく鼻唄を歌いながら次々線は引かれてゆく一本が二本に二本が四本に四本が八本に八本が十六本に十六本が三十二本に三十二本が六十四本に六十四本が百二十八本にと増えてゆくのではないにせよ真っ直ぐのや曲がったのや波打ったのや角張ったのや伸びやかなのやゆったりしたのや力強いのや弱々しいのやそうしたいくつもの線が現れて地面を埋め尽すほどではないにせよ複雑な軌跡が白く刻まれてゆきというのは薄い直方体の鉱石によってだが軽く擦るだけで削れて粉状になるそれが地面に付着して白く光り輝くというのではないにせよ眩しく煌いているのを眺めるような穏やかな眼差しがぴちゃぴちゃと彷徨いながら描いてゆくその軌跡を辿るように動いて波打つ湯面を滑ってゆくのでありそんなわけで丸の下に細長い四角形その下に下底の長い台形が配置されてゆくが四角形の下辺とその下の台形の上底は同一の線でつまり一本の線が四角形の下辺と台形の上底とのふたつの役割を担わされていてさらにその下に縦長の長方形がふたつ横並びに台形の下底と接してつまり台形の下底の一部が長方形の上辺を兼ねる形で配置されているさらにはほぼ中心に位置する縦長の四角形の上に配された不安定な円というか楕円というかそこから串に刺した団子のようなものがふたつ垂れ下がりその先端には△を横転させたものがふたつというのは右に九十度傾けた△と左に九十度傾けた△とがそれぞれの頂点を接するようにして向かい合わせに配されそれから縦長の四角形の縦の辺の上のほうからも縦長の長方形が左右にひとつずつ斜めに配されているが四角形と接する部分が鋭角に切断されているから正しくは長方形ではなく台形だろうそうしてその先には五叉に分かれた団子状の形が配されてありさらには小さな○やら△やら☆やらが至るところに散りばめられてときには♡をあしらうなどもしてもちろん○にせよ△にせよ□にせよ☆にせよいずれも定規やコンパスや分度器やを使うことで得られる正確さで描かれているわけではなく元よりそうしたものは持ち合わせていないし路面自体が凸凹しているからだろう線は歪んだり途切れたりして○なのか△なのかさえ判別できないのもあるにはあるがそれでもある種の求心力を持つものとして機能するらしく地に貼りついているのにも拘らずどこか宙に浮き上がっているようにも見えるといって空中浮遊などではもちろんないがその周囲にはありとあらゆるものが群れ集いそうして中心に位置するものをよりいっそう輝かせるというか讃えるというか崇めるというかその揺るぎない中心性で以て特権的な位置を占めていることをつまり世界の中心であることを知らしめるのでありだから神通というか何か計り知れない力を具えていることを礼讃し讃仰しにやって来るというわけでそうした者たちで四囲は埋め尽されただろうがその数は時代が下るとともに増してゆくらしく語り継がれ書き継がれてゆくうちに尾鰭がつき誇張されて話が大きくなりさらには嘘が混入しそれを真実らしくする説明なり描写なりが加えられていつしか元の話とは似ても似つかないものへと変じてしまう物語の類いとそれは同断で話者なり語り手なりの内でその存在が際限なく膨れあがってゆくことは避けられないと言ってよくとにかく巨大なうねりとなって押し寄せるだろう波というか渦というかすべてを呑み尽すほどの皆の期待を一身に受け止める大きな存在でなければならないのでありその結果としての紫今色であってみればそれはそれで肯けるというものだが昔と今とでは状況が違うのだろう紫今色と言われてもピンと来ないのでありそれはもう全然そうなのであり況して死をも超越した存在となると考量することはできないのでありだからこそありのままの姿を在世当時の姿をつまり妻を娶り子を成したのちに出家した挙げ句妻も子も出家せしめた元王子という過去も含めて求めて已まないのだが二千四百年の時間の堆積というか地層ように積み重ねられた解釈の束というかそうした分厚い壁に阻まれてその向こう側を覗き見ることはほとんどできないと言ってよく、それでも覗き見ようとして想像を巡らせるうちに忽然と浮かび上がってくるものがありはしないだろうかというかそのようにして浮かび上がってきたのではないだろうかあれもこれも現前するものは悉くつまり後光のような光輪を煌めかせて跳ねるように髪を靡かせながら勇んで駆けてゆくその姿が薄い直方体の鉱石を握り締めるその手を前後にか左右にか大きく振りながら笑みを湛えたその姿が目の前を過るのでありそうして日に温められた路面に鉱石を擦りつけて線を刻んでゆくのであり一本が二本に二本が三本に三本が四本に四本が五本に五本が六本に六本が七本に七本が八本にというように線が増えてゆくのでありとにかくぐるりを囲むように散りばめられているのは丸を中心に細長い楕円形が放射状に並んだものや楕円形の上部が先の尖った波線で削られ抉られたような形のものでそうしたものがいくつも散りばめられてさらにはアラビア数字の三とそれを反転させた像を並べたようなものがつまり右側に3左側にその鏡像というように並んだ形がありそしてその間には両側から挟まれて押し潰されたような細長い楕円形が据えられてその上部からはアンテナめく細い線が二本突き出ているがとにかくそうしたものが丸と細長い楕円形の組み合わせや一部が欠損したような楕円形や数字と細長い楕円形の組み合わせといったようなものたちが彩りを添えるというか華やかさを演出しているというか白一色ながらそれは赤でありそれは黄でありそれは青でありそれは緑でありそれは黒でありそしてもちろん白でもありつまりどんな色にも見えるらしくつまりすべての色を内包する白というか白であればこそなせる業というか要するに一は全であるということを端的に示しているわけでそのせいでもないだろうが控えめに端のほうを使っていたのが次第に大胆になるというか夢中になっていつか道路の真ん中のほうにまで線は伸びてゆきつまりありとあらゆるものを思いのままに生みだすことのできるそれは巨大な画布というわけでだからありとあらゆるものを生みだしつづけて倦むことがなくありとあらゆるものが飛び交う様子を眺めて飽くこともなくいずれは跡形もなく消えてしまうにせよそれがそこにあったことさえ忘却の彼方へ消え去ってしまうにせよそれまではどこまでも拡がり連なってゆく線をどこまでも追い掛けてゆくような眼差しで眺めやりながらぴちゃぴちゃと波打ち滴ってつまり色とりどりの白によって描きだされるものたちを眺めやる眼差しもまたぴちゃぴちゃと輝いて潤ってゆくらしく若やいだ瑞々しさに溢れているがいやそれほど溢れてはいないがそれでもある程度は溢れているだろう、そうして広い道幅を存分に使わないと損だとばかりに端から端へ一方は高く他方は低くなっているつまり傾斜している端から端へ行ったり来たり勢い余って駆けだしてゆくのを目端に捉えながら呼び止めもしないサンダル履きのまだ若い母親は手拭いやら石鹸やら一式その中に納められている桶を抱え持って煙草屋の奥というか隣というか産科医院のさらに奥というか隣というか落ち着いた足取りで越えてゆく辻を見遣っているがひとり先走ったものの心細くなって駆け戻ってくるのをやはり目端に捉えながら桶を抱えているのと反対の手を空いているほうの手をゆらゆらと前後に揺れている手を差し伸ばしそうして差し伸ばされたその手を避けるようにすり抜けると端から端へ行ったり来たり緩やかな傾斜を駆け上ったり駆け下ったりするのでありいずれにせよ駆け下ってゆくその先は大きな背中に遮られて見えずもちろん身を乗りだして覗き込めばその先に拡がっているものをその全部ではないにせよ見ることはできるがバランスを崩して危ないので目の前にある背中を見つめるほかないというかそれをこそ見ていたいのでありそうして皺寄った大きな手で握り締めるというかあまり力を入れずに軽く添える程度だが煙草臭いその手で右へ切ったり左へ切ったりするのだがというのはハンドルをだが前方の車輪にそれは直結していて連動して動く仕掛けになっているからそのたびにというのは右へ切ったり左へ切ったりするたびに右へ傾いたり左へ傾いたりするから掴まる手にも力が入って揺れる荷台に跨り真面に風を受けて髪を靡かせながら駆け下るスピードが次第に増してゆくのに息を呑むというか身構えるというかとにかく甲殻類の鋏のように二叉に分かれて開いたり閉じたりと自在に動く先端部分を強く握り締めて鋏を閉じることで調節するその様子を見ることはできずきいきいと金切り声を上げるのでそれは分かるのだが見えないだけに不安を搔き立てるらしく車体は今にも壊れてしまいそうでもちろん壊れはしないのだが苦痛に喘いでいるような悲鳴のような摩擦音に耳は聾されていやそれほど聾されているわけではないがすぐ足元から聞こえてくるしその振動が尻を伝わってもくるから自ずとそちらのほうへ振り向けられて消えてしまった細長い金属棒の行方については明らかにできないにせよいずれまた現れるというか還ってくるというか何食わぬ顔をして出てくることに驚きを隠せないわけであるいはその悲鳴めく擦過音に謎を解く鍵があるのかもしれないとそう思っていた節がありだからどこであれきいきい軋む音がすると聞き耳を立ててその所在を確かめずにはいられないというかそうした癖が抜け切るまでに全体どれほどの年月を要するものなのかあるいは今尚そうした癖を保持しているのではないかまあ保持していたとしてどうということもないだろうそれにそうしたノイズめく金属音は誰にとっても不快というか耳障りというかそれなりに気になるものだろうし。

註──白抜きハートマーク

13 14 15 16 17 18 19 20 21 22

戻る 上へ  

1 2 3


コピーライト