友方=Hの垂れ流し ホーム

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もちろんいずれ消えるだろうことは否めないがその瞬間は四囲を圧するほどの大音量で轟くのでありだからこそ風に乗ってあんなにも遠くまで届くのだしそれに誘き寄せられもするわけでいずれにせよ肩まで袖を捲り上げて逞しい腕を晒しながらその手に握り締めた太くて長い木の棒を高く差し上げてから勢いよく振り下ろすのでありそうして中心を叩くと野太い低音が轟き渡り角を叩くとカタカタと硬い音が鳴り響くその複雑巧妙な組み合わせにより催眠効果も多種多様となるのだろう屈強な男ふたりの巧みな連携により生みだされる音の連なりに四囲は完全に覆い尽されてしまい安全な場所はもうどこにもないとそう思われて撤退を余儀なくされるが遠離りながらも足の運びがリズムに乗るというか合うというか野太いのと硬いのと交互に打ち鳴らされるそれら音の連なりに無意識に身体が反応するらしくこれも催眠音波の影響かもしれないいやそうに違いないとそう思ううちにも頭の中にそれは入り込んでそのまま奥深くに居坐ってしまったらしくカタカタといつまでも鳴り止まずいやいつまでもというわけではもちろんないが尚しばらくは内なる響きが駆け巡り一旦治まってもまた鳴りだしてそれこそどこにいても何をしていてもお構いなしに鳴りだして払い除けようとしても払い除けられずなぜといって物理的に排除できないのだから自然に治まるのを待つよりほかになくそれでもいつかその音に支配されてしまうのではないか内側から蝕んでゆくそれに精神を乗っ取られてしまうのではないかと危惧されもして気を紛らそうと何かべつのことを楽しいことを考えようとするが気づけばカタカタと鳴りだしていてもはやどうすることもできないのかこのまま催眠音波の言いなりになってしまうほかないのかとひとり悶々と日を送っていたらしくそれにしても背後から聞こえてくるそれは薄闇の中カタカタと大きくはないがこれからはじまることを期待させるようにカタカタいって座を静まらせるその効果は絶大でカタカタと鳴りだすと誰もが固唾を呑んで注視するが手を伸ばせば届く距離にそれはあり床に尻を据えた位置からだと見上げる恰好になってというのはテーブルに据え置かれているからで古雑誌やら古新聞やらを下に敷いて角度や位置を微調整しながら入念にセッティングされていて触ると怒られるから触らないが箱の上に大きな車輪がふたつ乗せられたそれはひっくり返った自転車のように見えもちろん自転車ほど大きくはないしサドルもペダルもハンドルもそれにはついていないしブレーキもないから走りだしたら止まらないだろうがそれが走りだすことはなくなぜといって自転車ではないのだからそれはもう全然違うのだからそれでも正面を明るく照らしだすライトはついていて部屋の灯りを消してそのライトで前方を照らすと薄闇の中に光の帯が拡がってその中を微細な埃が舞っているのが見えるがそこに手を翳すと埃は散り散りになって見えなくなる代わりに大きな影が現れて翳したその手をライトのほうへ近づけると影は大きくなるが輪郭はぼやけ色も薄く灰色になり逆にライトから遠ざけると影は小さくなるが輪郭は明瞭になって色も濃く黒くなりそうして遠すぎず近すぎず適度な距離に翳した手の影は犬になり鳥になり蟹になり兎になり人の顔にもなるというかそうなり得る可能性を秘めているがそれは犬でもなく鳥でもなく蟹でもなく兎でもなく況して人の顔でもなくつまり総じて何だかよく分からない形にしかならずそれでも犬と言い張り鳥と言い張り蟹と言い張り兎と言い張りさらには人の顔と言い張って興じていたわけだからそのかぎりに於いてそれは犬であり鳥であり蟹であり兎でありもちろん人の顔でもあり、とにかく待ちに待ったそのときがついに来たのだと食い入るように見つめる眼差しがさらにも期待を募らせながら膜の上に集中する中万端整ってふたつある車輪がふたつとも同じ方向に廻転するとカタカタいう音が鳴りだして前の車輪から伸びた黒い帯が中央の箱にカタカタと吸い込まれたのち吐きだされて後ろの車輪でカタカタと巻き取られるがよく見ると黒い帯の中に小さく区切られた枡が整然と並んでそのひとつひとつの枡の中にさらに小さな像がカタカタと透けて見えそうしてそこに光を当てることで光がそこを通り抜けるといっても全部が通り抜けるのではなく一部だけがカタカタと通過でき光がそこを通過できるか否かは偏に枡の中の小さな像によってカタカタと左右されるがそこで篩い分けられて通過できた光だけがカタカタと薄闇を照らすことができカタカタと像を結ぶこともできるということでつまり正面の壁に吊されている白い幕に浮かび上がるというかカタカタいう音とともに映しだされるのだがそれは近づきそして遠離るショットがカタカタとくり返されるだけの単調なもので幾度もカタカタとくり返されて皆の期待に応えるべくその都度同じ笑みで笑い掛けながらカタカタと近づき次いでカタカタと遠離ってゆくが単調なくり返しといっても細部はカタカタとめまぐるしく変化していて一瞬ごとに異なる様相を呈しているそのひとつひとつの変化を正確に捉えることはカタカタとできず連続する流れの中である纏ったイメージを即ちカタカタと近づいてはカタカタと遠離る一連の動きをどうにかカタカタと捉えることができるにすぎないというか一連の動きとしてしか捉えられないというかなぜといってそのひとつひとつはカタカタと止まっていて決してカタカタと動いてなどいないのだからとにかく倒れないようにカタカタとバランスを取りながら常にカタカタと動きつづけるというか走りつづけるというか走らせつづけるというかギアに接続されてギアと一体になっているからそれを動かすことでギアも連動して動くL字型のペダルを右左右左と交互に踏みつけながら滑るようにカタカタと路面を走り抜けてゆく二人乗りのあるいは三人乗りのさらには四人乗り五人乗りのもちろん一人乗りのもあるがその速さを競うのでもなければそのハンドル捌きの巧拙を争うのでもなくアスファルトの上をカタカタと移動するただそれだけのものにすぎないというか移動すること移動できることそれ自体を享楽するのだが止まっているのに動いていて動いているのにやはり止まっているということがそのいずれでもありいずれでもないということがいまだによく理解できずそれでもカタカタいう音は鳴り止まず少なくともその音が鳴っている間は動きつづけるというか走りつづけるというかこちらに向かって笑い掛けると徐ろに片方の手を握っていたハンドルから離してこちらのほうへ突きだし残る片方の手だけで器用にバランスを取りながら差し伸ばした腕を手首を軸に小刻みに振りながらカタカタと近づいてはカタカタと遠離ってゆき笑っている口が開いたり閉じたりしているのは何か話し掛けているらしいがここまでは届かないというかどこへ行ってしまったのかそのとき聞こえていたはずの一切の音という音は届かないのであり聞こえるのはカタカタいう音だけだからどうかするとその口がカタカタと言っているようにも聞こえるが今もまたカタカタと聞こえてくるその音に注意深く耳を傾けるとカタカタとそれは動きだして路面の上を滑るように近づいて遠離って近づいて遠離ってまた近づいてまた遠離っていつ果てるともなく近づいて遠離ってカタカタとリズミカルに近づいて遠離って薄闇の中にそれはオレンジの光を鈍く放ちながら近づいて遠離ってそのたびに辛気臭い面持ちが上から覗き込んで何ごとか訴え掛けるような訴え掛けないようなそうした眼差しを向けながら近づいては遠離ってゆきつまりいくつもの輪というか円盤が近づいては遠離ってゆくのだがその輪というか円盤の中にというか向こうにというか歪んだ像の下のほうに小さく浮かび上がる姿はもちろん甘利にほかならず左右というか前後というか反転しているそれは虚像でありその辛気臭い面持ちも同様に虚像であるからしてそうとすればそんなものに全的な信頼をおくわけにはいかないしこの身を託すわけにもいかないだろうそうかといってまったく無視してしまうわけにもいかないのはどこか意識の片隅で頼みにしているところがあるからだろうなぜといってこう暗くては見えるものも見えないのだからあるいは見えないものが見えると言ってもいいが、いずれにせよ丁字路というか逆ト字路というかそれはもう完全に見えないのだろうか振り返ってもそれはもう目視できないのだろうか手前に張りだした黒くこんもりした影というか闇というかその向こう側へ隠れてしまっただろうかもちろん振り返れば分かることだが振り返るのが躊躇われもしてというか黒くこんもりしたそれは生け垣だろうかもちろん生け垣に違いなく微かに揺れる枝葉の形も☆形の花々も見定められないほどに遠退いてただ黒くこんもりした影にしか見えないだろうがそうとすればそれだけゴールも近づいているわけで傾いているというか傾いて見える建物の影というかシルエットというか一際目を惹く巨大な塊が見えてくるのを期待してしまうがまだそれは闇の中に浮かび上がってこないから勾配の緩いというかいくらかきつくなった坂道をまだまだ上ってゆかねばならずだからまだまだ上ってゆくのだが上ってゆくほどに黒くこんもりした影が身に迫るようでもありそこだけ切り取られたように近づいてくるというかぼんやりとした像が徐々に鮮明になってくるというか暗い闇の中でさらにも暗さの際立つ影というかシルエットというか何かそんなふうなものとして眼前に迫りそうして黒くこんもりしたその部分が艶やかに濡れながら鼻先を掠めてゆき一旦通りすぎるがしばらくして戻ってくる甘酸っぱい匂いに誘われたというように癖のある香りに噎びながらも手が伸びてしまう珍味にも似てその黒くこんもりと盛り上がって中央で落ち窪んでいる部分に必ず戻ってくるというか忙しなく出たり入ったりしてひとつに結ぼれるというか向き合っているにせよ背中合わせにせよふたつでひとつというわけでこのときばかりはそうなのでありだから抉り込むように突くべしと狙いを定めて浅く深く攻めるというか守るというかそうして一筋のというか二筋の白い線が勢いよく迸ってゆくその先に何があるのかそれは知らないがいや知っているがつかず離れず常に牽制し合って一定の距離を保ちながらどこまでも平行に伸びるそれは二筋の白い線であるからしてその遥か無限遠点でついにひとつに結ばれていや決して結ばれはしないのだが見かけ上結ばれるということでいずれにせようねうねと波打ち揺らいで已まない二筋の線の間をその線に導かれるようにして歩いてゆくのはもちろん甘利だが蛇行する道の幅は徐々に狭くなってゴールの近いことを予感させるから少しく安堵するがその分左右の家並みが高く伸びていっそう黒々として重苦しいというか何がなし重圧を感じて已まないというか四角形や三角形や台形やのそれら黒いシルエットは具に見ると各辺にもまた四角形や三角形や台形やが隠れていてその各辺にもまた四角形や三角形や台形やが潜んでいるのかそれは分からないがなぜといって見えないからでそんなわけでフラクタル図形のように無限にくり返されてゆくのかもしれない四角形や三角形や台形やが折り重なり積み重なってそれら黒いシルエットは黒いシルエットとして浮かび上がるのだが少しずつ形を変えながらそれは巨大化しまた少しずつ形を変えながら小さくなりということを際限もなくくり返してそうして勾配の緩いというかいくらかきつくなった坂道を上ってゆく甘利の姿を後ろから眺めているイメージを確固たるものにせよ儚く消えゆくにせよ懐きながら白い線の間というかその細い線上だけを踏んでゆくのでありサーカスの綱渡りか何かのようにそしたら途端に底知れぬ闇というか淵というか拡がってそれよりほかに踏み場もなく踏み外したら奈落の底へ落ちてゆく真っ逆さまに墜ちてゆくどこまでも果てもなく堕ちてゆくとそう思い做されもしてだから慎重にも慎重を期して踏みだし踏み下ろし踏み締めて靴底とその下にある硬いアスファルトの路面とがたしかに接しているとの感触を得てからそこに体重を掛けてゆくというように歩いてゆく一歩一歩着実になぜといってゴールはもうすぐそこなのだからそれこそ今この瞬間に黒々した巨体が現れてもおかしくはないのだから。

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