友方=Hの垂れ流し ホーム

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とにかくそれはきいきい軋む音を立てながら開かれてきいきい軋む音を立てながら再び閉められるがきいきい軋む音を立てないようにそっと開けてもやはりきいきい軋む音はしてだからといって殊更きいきい軋む音を立てたりすることはないしきいきい軋むのを意に介さないというわけでもくなるべくならきいきい軋む音はさせたくないと思っているがこちらがどう思っていようときいきい軋む音はするわけでつまり意に添うと意に添わないとに拘らずきいきい軋む音はしてしまうからそのうちどうでもよくなって済し崩しにきいきい軋む音への配慮も薄れてしまうのかどうかそれは分からないがぴちゃぴちゃと波打つ響きとともに今まさに耳にしながら漂い流れてくるのを手繰り寄せて弄ぶというか懐かしむというかその眼差しが捉えているのはぴちゃぴちゃと波打ち揺らめく映像に違いなく少しずつ像を結びながらそれでも鮮明とは言えないそれは仄暗さに囲繞されて霧のような靄のような薄いヴェールに包まれているらしく弛みない眺めやりによってその薄いヴェールを一枚一枚捲ってゆくうちに徐々に見えてくるのでありというか聞こえてくるのでありなぜといって裏手が薮に面しているからでその薮のほうからだろう木立が騒ぐらしく葉擦れの音が間近に聞こえもちろん風が吹いているからだが常なら喧噪に搔き消されてしまうそうした音がここまで届くのは静かだからでつまり誰もいないからでといって誰ひとりいないというわけではなく誰かしらいるにはいるがほとんどいないと言ってよく少なくとも気配を感じることはなくそんな中きいきい軋む音は殊更に大きく響くから過度に反応してしまうのだろうか日も暮れ掛かると薄暗い室内はいっそう暗さを増して机にも椅子にも棚にも等しく濃い影が落ちてきてそれに伴って耳に残る談笑の余韻が消えゆくにつれて匂いが立ち上るというか風に乗って漂い流れてくるのだとそう言っていたのだろうか、斜めに切り裂くようないくつもの細長い灰色の線というか筋というか至るところに刻まれて同様に刻まれた横に走る筋というか線というかそれらが組み合わさって菱形の枡目を形作っていることや刻々変化して已まないことや不意に現れたり消えたりすることやに殊更注意を向けることはもうないにせよそれでもいくらか気に掛けてはいるらしく何気ない眺めやりの内に例えば窓から机へ机から椅子へ椅子から床へと移してゆく際にあるいは床から壁へ壁から棚へ棚から抽斗へ抽斗から床へと移してゆく際にさらには床から椅子へ椅子から机へ机から窓へと移してゆく際にそれから机の上に立て掛けられた書類やさしあたり入り用なのだろう手前に置かれたノート類や脇に積み重ねてあるがそれぞれ向きが異なるために重心が不安定でいつ崩れてもおかしくない冊子類や使用済みの茶筒だろうかそこに差し込まれているいくつものペン類つまり鉛筆やボールペンやサインペンやマーカーや筆ペンやそのほとんどがインクがないか詰まっていて書けないそうしたものへと移してゆく際にそれら線というか筋というか辿っていることもあるにはあってもちろん晴れていればだが日が射して明るい領域と日が遮られて仄暗い領域とがくっきりと画される晴れた日の午後のことにだから違いなくもちろんその境界は曖昧に滲んで日向とも日陰とも見做せずそのいずれにも属さないような尚且つそのいずれにも属しているような中間領域とも言うべき領域があってくっきりとはだから言えないのだが遠目に見ると中間領域は圧縮されるというかいずれか一方の領域に含まれてしまうのでそのかぎりに於いてくっきりと言ってよくいずれにせよ四つの角のうちふたつは鈍角の残りふたつは鋭角の菱形に於いて鈍角は時間とともにさらに鈍角に同様に鋭角は時間とともにさらに鋭角になってゆきそれに伴って向かい合う辺と辺とが接近してゆく緩慢な動きをそれとして捉えることは困難なのだが人知れず展開されるそうした動きの中で何を見ているのか何が見えるのか内側にうっすらと茶色の跡がいくつも輪になって残っているコーヒーの飲みさしだろうかもちろんそうに違いないが○や△や□やその他いろいろな幾何学模様のあしらわれた少しく大振りのカップが置かれている机の上にもいくつか似たような輪が見られほとんど消え掛かっているのもあればくっきり浮かび上がっているのもあり閉じられた輪もあれば閉じられていない輪もありつまり重なり合う輪によって織り成される幾何学模様がそこにも机の上にもというか机の上の一角にもなかば天板に染み込む形で浮かび上がっていて拭いても取れないらしくそれはさて措きついさっきまでそこにその椅子にだらしなく腰掛けていた姿があってというか今も尚そこにあって折れるかと心配になるほど撓んでいるのは背凭れだが凭れるというよりは寝ているような態勢で椅子から食みだしている尻が今にも崩れ落ちそうなほどだから見ていて冷や冷やするがというか寝ているのだがそれとも寝ている振りだろうか確かなことは分らないが呼び掛けてみれば寝ているかそうでないかは分るだろうといって用もないのに呼び掛けるのは躊躇われるしいや用があっても気が引けるが殊更大きな音を立てて椅子を引き寄せたりするのもわざとらしい気がするからできるだけ物音を立てないよう静かに腰掛けるのだが思った以上に大きな音がするのは静かだからでつまり誰もいないからでというか誰がいて誰がいないのか確かめるように動く視線のその先に何があるにせよあちらからこちらを睨まえているのはあるいはこちらからあちらを睨まえていると言ってもいいがそれが同じことを意味するかどうかは分らないにせよもちろん甘利にほかならず坂道の上方にも下方にも等しく視線を向けてみても人と思しき姿は影も認められないつまり自分より他には誰もいないわけでもちろん見えないだけでそこら中にいるのだがとにかく誰がいて誰がいないのかそれはもう明らかなのだがそれなのに確かめずにいられないのは気配を感じてしまうからでつまり壁を隔てたその向こうでざわつく気配を感じとってしまうからで、もちろんそこには誰もいないのだがいるはずはないのだがあるいはほんの数時間前にはいたかもしれないが今はいないのでありそれはもう確実なのだがそれなのに尚しばらく蠢く気配を耳は聴き取るらしくどこか霊異にも似た気配に注意を向けると四囲が静まれば静まるほど冴えてゆくというか静寂の内に喧噪を聴いてしまうらしく時間が巻き戻されるようにも思い做されるというかここに流れている時間とそこに流れている時間とが決定的に異なるとの認識が生じてつまりほんの壁一枚隔てた向こう側とこちら側とがまったく異なる世界でもあるかのように思い做されていやそれはもうまったく異なる世界なのでありだから同じ時間が流れるなどということはあり得ないのでありそれなのにざわつき蠢く気配が濃厚になればなるほどその壁の向こう側へ踏み入るというか踏み迷うというかこことそことがこちらとあちらとが相異なる時間空間であるからして絶対的に干渉し得ないはずのふたつの世界が重なり合ってしまったような妙な感じに囚われてもちろんそれが錯誤であることは諒解しているがそうした感覚を斥けることは容易ではないらしくここに居ながらそこに居てそこに居ながらここに居るというようないやむしろここに居るのでもなくそこに居るのでもなくどこに居るのでもないとそう思い做されてとにかくそうした感覚の内に見えてくるのであり聞こえてくるのでありそれでも尚いやむしろそれだからこそそうした眺めやりの内につまり時間なしというか空間なしというかあらゆる制限なしの解き放たれた眺めやりの内にあるものあるだろうものが意味を成すというか何某か見出すこともできるとそう言っていたのだろうかいずれにせよ室内の三分の一ほどだろうか物で埋め尽されて無造作にというか乱雑にというか置かれている大量のそれは木材を組み合わせただけの枠というか巨大な凧の骨組みめいてもちろん紙を貼っても空へ舞い上がることはないが三本脚のつまり前に二本後ろに一本の脚を持つそれは上部を蝶番で繋ぎ合わせてあるからコンパスのように開いたり閉じたりすることができ使用時に開き収納時に閉じるのでありその逆では決してなくなぜといって閉じると三本の脚がほとんど一直線上に並ぶためバランスが取れず安定して立てて置くことができないつまり前にか後ろにか倒れてしまうからでいずれにせよ前の二本は末広がりにつまり下へゆくほどに拡がっていて真ん中より少し下辺りだろうか水平につけられた棒というか板が固定されてあるそこに乗せるのだが横にせよ縦にせよそこに置くのだが置いて眺めるのだがもちろん眺めるだけではなくあれこれ手を尽すのだが足したり引いたりしてつまり加えたり除いたりしてあるいは盛ったり削ったりしてさらには叩いたり弾いたりしてできるかぎりのことはするのだがなぜといってできないことはできないのだからできることしかできないわけでまあ稀に意図せずしてできないことができてしまうこともないではないがそんな偶然はほとんど期待できないしする気もなく何ごとも弛みない努力によってしかいい結果は齎されないと弛みない努力を重ねるがどんなに手を尽してもどうにもならないこともあってそれで嫌気が差したりもするにせよ始末をつけなければならないので始末をつけるほかなくとはいえどう始末をつけたのだかもう思いだすこともできないのでありとにかく絵の具の匂いに満ちているのは画布が積み重ねられているからだろう。

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