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とそう思ううちにも上のほうが騒がしく、邪魔するように割り込んできて何もかも台無しにしてしまう、というかその前に、台無しにされる前にそこから逃れて、安全なとこへ逃げようとして、でも逃げるったってどこへ、ここよりほかに安全なとこなんてあるのか、とにかく路地から路地をでたらめに歩き廻って攪乱して、でも歪んでるというか間延びしてるというかリズムが変で、まあいつだって変なんだけど、というのは上からの攻撃がだけど、だから防御も反撃も難しくて、いや反撃はしないけど、睨めつけるくらいが精一杯、というかそれさえ意味を帯びてしまうから無表情なのが一番、というかつけ入る隙を与えちゃダメで、できれば呼吸も鼓動も止めたいとこだけどそれは無理だから諦めるとして、ゾンビなのに、でも可能なかぎり抑えて、というのは呼吸をってことだけど、それこそ暗がりに身を潜める小動物みたいに、そうしてGメンをやり過ごしたら再び路上に出ていって素敵に翻るスカートたちを追い掛けることにして、でも今はまだ息を潜めてじっとしてろと命じて、もちろん自分に、その芳しい中心部分に思いを馳せながら、ヤツの気配が消えるまで、諦めてどっか行っちゃうまで、そう簡単に諦めるとは思えないけど、とにかくそれからじっくり考えよう右か左かって、というのは三叉路がだけど、右なのか左なのか、考えに考え抜いて出した答えがどっちだったのか、右だったのか左だったのか、いやむしろピンととんがった耳の指し示す方向が、それこそがゆくべき道で、つまり正しい選択ってことで、いや正しいかどうかは分からないけど、というか何が正しいかなんて分かりっこないけど、永遠に分かりっこないけど、まあまあ妥当な選択だろうってことで、だからピンととんがった耳の指し示す方向へ向かったんだけど、もちろん安全を確認してから、でもそのピンととんがった耳の指し示す方向には何があるのか、いや何があっても構うもんかと嘯いてピンととんがった耳の指し示す方向へ脇目も振らずに突き進んで、いやちょっとくらいは脇見もするけど一度狙った獲物は逃がさない、というか互いに引き合って離れられないんだけど、だからその懐に飛び込んでくわけで頭っから突っ込んでくわけで、いや突っ込まないけど、そっと差し伸べるっていうか覗き込むっていうか、強引なのは性に合わないし、だからやさしく包み込むように後ろからそっと近づいておかえりって、甘えないでよってすげなくされることもあるにはあるけどそれは余っぽど疲れてるときで、まあいつだって疲れてる様子だけどそんなときは、というのはご機嫌斜めってことだけど、少し離れて様子を見ながら近づくタイミングを窺って一歩また一歩と距離を縮めていって、そうしてまた紺地の膨らみのなかへ、全部がそこに折り畳まれてる裂け目というか穴というか闇というか光というか、期待に胸を膨らませながら、というかもっと下のほうを膨らませながら、右でも左でもないその間に、つまり真ん中に照準を、といって右と左がダメってわけじゃないけど、どっちも捨てがたいんだけど、一度に全部は無理だから的はひとつに絞って、手を差し伸べてふたりの、ふたりだけの世界へ今旅立つみたいな、リズミカルにテンポよく右左右左って足をくり出しながら混雑する通路をどこまでも、彼女が右をくり出せばオレも右をくり出し彼女が左をくり出せばオレも左をくり出して、つまりオレが右をくり出せば彼女も右をくり出しオレが左をくり出せば彼女も左をくり出して、といった具合に彼女がオレを、それともオレが彼女をか、従わせてふたりの絆は固く固く結ぼれてゆくみたいな、でも横合いから黒い影が、いや思ったより黒くはなかったんだけど、灰色とか焦げ茶とかそんな色合いだったんだけど、開るように割り込んでふたりの固く結ぼれた絆を断ち切ろうとでもするように居坐って、というか茫然と佇んでるうちにどんどん距離を離されて雑踏のなかへ、一瞬Gメンかと焦ったけどそうでもないらしく、もしかしたらご同業かも、だとしても横入りはひどいルールくらい守れよ、というかルールなんかないけど、でもそれぞれ自分なりのルールくらいはあるだろうけど、でもあれは対象にのめり込みすぎて横入りしたことにも気づいてないかも、だとしたら初心者かも、それなら周りが見えなくなっても仕方ないか、最初は誰だってそんなふうだしオレもそんなふうだったし、でも今じゃ百戦錬磨の猛者だけど、三桁にのぼるコレクションにご満悦ってか、とにかくいつまでも立ち止まってたら怪しまれるからクールミントで気持ちも新たに、紺のスカートは他にもたくさんあるんだからあっちにもこっちにもあとからあとから湧いて出てくる、とゆっくり歩きだして長い通路を行ったり来たり、すれ違うたびに胸の高鳴りは弥増して抑えきれず、思わず走りだしたくなって、走りださないけど、思わず抱きつきたくなって、抱きつかないけど、思わず匂いを嗅ぎたくなって、これは思いっきり吸い込んで、そしたら空気が粘つくように湿っぽく、ってことは雨が降ってるのか、窓の向こうは篠突く雨か、いやそこまでじゃないにしても降ってるっぽくて、重たいカーテンを引き開けるのが、というかそこまで行くのが億劫でたしかなことは分からないけど、でもそんなような音がしてるし、気のせいじゃなければだけど、たぶん傘持ってないだろうから、というのはリコが、駅まで迎えに行こうかそれともタクシーを使うだろうか、行き違いになったら困るからその前にメールしとこうか、と手にしたケータイを下から構えて奥までギリギリまで突っ込んで、コンマ何秒の早技で、送信し終えるとすぐに離れて、その場を離脱して駅までの道のりを思いながら二本あるうちの一本は閉じたまま先端を下に向けて残りの一本を開いて上に向けて、というのは傘を、もちろんリコを迎えに、そうすることでふたりの距離はどんどん縮まっていつか出会うわけで、そしたらただいまって声が、もちろんリコの、耳許で吐息も微かに、それに覆い被せるようにおかえりって、言ったかどうかは知らないが、いや言ったに違いなく、だからこそこうしてふたり並んで歩いてるわけで、というかリコが前でアツシが後ろで、というのも傘差して並んで歩けるほど道は広くないからで、車道に食みだしちゃうからで、車に轢かれたくはないからで、だからすぐ真後ろにくっついて、一歩ごとに翻るそこに視線は釘づけで、でもGメンにだけは注意して、紺の布地の向こう側へこっちからあっちへ滑り込んで、そうして覆いの内側に身を置けばそれはまた違ったふうに見えるかもしれない、というか見えるはずで、というか全然違って見えるわけで、全然同じじゃんってリコは言うかもしれないが、こっからの眺めはそれはもう口では言えないくらい、口では言えないくらい何、まあいろいろと、いろいろって何よ、いやこっちの話、こっちってどっち、こっちだよ、だからどっち、だからこっちだよ、違うよそっちじゃないよこっちだよ、とそんなふうにして三叉路を右にか左にか、ひとりじゃ無理だけどふたりなら、というかリコに従えばその選択の際も難なく乗り越えられるはずで、迷いはだからもうなくて、いやちょっとはあるけどふたりなら、果してリコはどっちを選ぶのか、左か右か、当の三叉路はもうすぐそこだけど足取りに迷いは全然ない様子、というのはリコの、だからこっちも安心で、雨音に紛れてよく聞こえない靴音に耳傾けながら足並み揃えて右左右左って、ふたりはやはり固い絆で結ぼれてる、を叫びながら、もちろん胸の内で、三叉路のほうへ吸い寄せられてく、というか向こうから近づいてきて、そうしてふたりは出会うわけで、出会っちゃうわけで、それを押し留(とど)めることは誰にもできないできやしない。

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