だからってわけじゃないがどうともなれって感じで勢いつけて突き進むみたいな、でも度が過ぎると周りが見えなくなるからちょっと自制して、何するにしても没入しすぎるってのは危険だろうしどんなときだって理性を保ってないと不意を突かれて終わりなわけで、というかもう終わってるんだけど、つまりゾンビってことだけど、とにかくどこにだって落とし穴はあるってことで、というか落とし穴だらけなわけで、だから自分がどこにいるかも把握してるつもりだけど、さっきからずっとここにこうしてるわけだけど、飽きもせず、いやちょっとは飽きてるかも、でも安吾先生が再登場ってことはなさそうだけど、とにかく空間認識も時間認識も狂ってないって保証はないにしても主観的には、というのは認識する主体によってはってことだけど、それぞれ異なってるだろうから、というのは当の認識がってことだけど、だからちょっとくらいはズレてるかもしれないけど、だとしても誤差の範囲内ってことで、だからそれは誤差の範囲内で、つまりそんなのよくあることだってことで、何がよくあるのかは知らないが、とにかくよくあることなわけで、だから気にせず先を急ぎ、というか急いでないけど前を向いて右見て左見て後ろも気をつけて、つまり全部の方角に注意を払って、といっても監視カメラから自由にはなれないけど、常にすでに見張られてるんだけど、でもそうした監視の目を掻い潜って為し遂げるからこそ達成感もあるわけだし、裏を返せば何の制約も縛りもなかったらなんでもしたい放題やりたい放題だったらやる気も何も起きないわけで、といって縛られたいわけじゃなくて、困難を乗り越えるってとこに反応するというか、適度に負荷を掛けて鍛えるみたいな、いや鍛えないけど、とにかく前を見て転ばないように歩きながらこれからその困難に立ち向かうのだとか変に気負い込んだりしないで、いつも通りに路地から路地への綱渡りをこっちからあっちへあっちからこっちへの気紛れを楽しんで、狭いのも太いのも長いのも短いのも真っ直ぐのも曲がったのも分け隔てなく足を踏み入れて、このオレを尾行しようだなんて十年早いんだよ、を高らかに叫んだりはしないけど、戦利品の包装を破って口に含むとクールミントの風がそよいで、一噛みごとにオレを高原へと運んでいって清々しい気分に包まれるみたいな、リコの帰りを待つ寂しさがちょっとだけ楽しさに変わるってか、とにかく次の三叉路を右に、その次を左に、あとは道なりに行って突き当たったコンビニの手前を左に入ったその先に裏口があって、重い荷物を両手に提げてエレベーターで三階まで上がったら右手の奥から二番目の部屋へ、とそこまでの道のりを思い浮かべながら歩き、いや違う、次の三叉路を左に、その次の次を右に、緩い坂を上って下りて突き当たりの歯医者を左に見ながら路地を抜けてった四軒目のとこで、いや五軒目か、殊によると六軒目かもしれないけど、でもまあそれが四軒目だろうと五軒目だろうと六軒目だろうと七軒目だろうと大差はないんだけど、そういえば小学校くらいまではそこの歯医者に通ってたっけ今もやってるんだろうか、かなり年取った先生だったからやってたとしても代替わりしてるだろうけど、それとも小学生には年寄りに見えたってことか、とにかくそこまで来るともう日は落ちてるから明かりはあっても暗くて怖いし、いや怖くはないけど何かに急かされるように小走りになって、でも走ると余計追われてる気分になるっていうかたしかに追われてるって実感を懐いちゃうし、それにヤツはめちゃくちゃ足速いって噂だからのんびり歩いてもいられないし、花粉の季節でもないのにまったくもう、そうして何度も振り返りながら何度も尾行を撒き、このオレをマークしようなんて十年早い、を叫びそうになるのを怺えて逃げるように路地という路地を駆け巡って、コンビニを横切り神社を掠め駐車場を突っ切って、川沿いの道を川風に嬲(なぶ)られながら川上へか川下へか向かって突き進み、というかこんな見通しの利く道は目立つから迂回したほうがいいってか、ヤツの恰好の標的ってか、でもそれは向こうも同じなわけだし、というのはGメンがってことだけど、だから構うもんかとどんどん歩いて、いやすぐにへたばって息が上がるからどんどん足は遅くなって、というか抑も急ぐ理由はないんだしここまで来れば安全圏だろうからゆっくりでもいいわけで、何を焦ってるのかクールミントが足りないせいかと新しいのを補充して、爽やかな風を受ながらその勢いを借って歩いてったその果てにどこへ辿り着くのか辿り着いたのか、もちろんリコんとこに決まってるけど、でもリコはいなくて、というのはまだ帰ってきてないからで、だからただいまって帰ってくるのをおかえりって迎えるわけで、いつだって迎えるわけで、迎えるんだけど、そしてそうした日々のくり返しが日常ってもんだろう世間一般的に言って、でもそれが地に着かないっていうか何かの拍子に浮き上がったまま戻らなくなって、そんなわけで前見て歩けと命じて、もちろん自分に、そしてその命に従って前見て歩きながら一歩一歩近づいてくけど、それはたしかなんだけど、逆に遠離ってるかのような錯覚に捉えられちゃうから不思議で、空間が折り畳まれると方向感覚も狂うってことか、それとも近づくことと遠離ることとは同じことなのか、同じだとしたらそれは結局近づいてることになるのか遠離ってることになるのかいったいどっちなのか、いやどっちかじゃなくてどっちもってことだろう、自分としてはどっちかひとつにしたいとこだけどそうも行かないらしくて、まあそれならそれで構わないけどやりにくいっていうか調子が狂うっていうか気分が乗らないっていうか荷が重いっていうか、いやたしかに荷は重くて、でも重いのは非力だからなんだけどいろいろ買いすぎたってのもあるかもしれず、指先が痺れて感覚がなくなってるっぽい、とにかく次の三叉路を右に、その次もその次の次も右に、それから左右左右ってジグザグに行って突き当たりを左に、そうして町内会館の手前の路地を抜けたとこがゴールで、そこまでの道のりを思うとちょっと気が遠くなるけどそれが最短だし、歩いてればいつかは着くだろうからと言い聞かせて、もちろん自分に、でも靴裏に響くアスファルトの感触はどこも同じだから、たとえ違いがあったとしてもその違いを認識できるほど足裏の感覚は発達してないからずっと同じ場所を歩いてる気もして、この三叉路はさっきも通ったって妙な既視感に襲われて、でも毎日通(とお)ってるんだから既視感なんてありありなわけで、とそう思ううちにもまた同じ三叉路に差し掛かって、やっぱおかしいって首傾げながらもそこを右に、次は左だと思ったらまたさっきのとこで、だからまた右に、今度こそ左だろうと思ったけどやっぱまた右で、そうして無限ループの罠に填ってそこからの脱出劇は果して如何にってか、次週乞うご期待ってか、でもそんなには待てないし、時間も時間だし切りのいいとこで止(や)めにして帰るとするか続きはまた今度ってことでと帰宅の途に就いて、人波の流れに乗って気配を殺しながらひたひたと忍び寄るGメンの気配を察知してくれるそんな便利アイテムとかあったらいいのに、と人波を縫うようにして歩きながら思ったっけ、そしたらあんなことだってこんなことだってできるのにって悦に入ったりしたっけ、でもそのせいで危うく路上の看板にぶつかりそうになったっけ、そこにはシェフのおすすめメニューとかなんとか書いてあったっけ、子羊のなんとか煮込みだかワタリガニのグリルなんとか風だか、他にもごちゃごちゃと細かい字で書いてあったっけ、今度入ってみようかな、もちろんリコと、そうして場所を覚えとこうとぐるりを見廻したりしたっけか、でも結局忘れちゃっていまだに行けずにいて、駅からも近いはずなのに全然見つからなくて、もう半分諦めてるけど何かの拍子にまた出会すかもしれないし、潰れちゃったんだよってリコは言うけどそんなことないはずで、でもそんなことあるかもしれなくて、だってどこ探しても見つからないわけだし、でも潰れてなかったとしてそれって本気で見つけようとしてんのいい加減な気持ちだから見つけらんないんじゃないのってリコは言うけど、まあたしかにそういうとこもなくはないかもしれないかもだけど、それってつまりあたしに対していい加減な気持ちだってことなんじゃないの、ってリコは言うけどそれは違うそれだけは違う、でも口で言うのは簡単だしね、簡単なもんかオレにとってそれは大変なことなんだ口に出すってことは、でも出したいんでしょ口に、そうだけど、じゃあ出せばいいじゃんほら出しちゃいなよほら早くねえ早く、そうして早く早くって急かされて開店前の長蛇の列に並ばされたっけ、それに臨む意気込みというかテンションの高さにはついてけないというか、でも下僕のようにつき従いながら大量の荷物を持たされたっけ、畏まりましたお嬢さまみたいな。