てなことが日毎夜毎くり返されてるみたいな、飽きもせず同じことをよくもまあと呆れるほどの律儀さで、それは確かなことなんだろうか、いや確かなことは確かなんだろうけどいまいち確証が持てないっていうか、心ここに在らずっていうか、いや心はここにあるけど身体との連携が巧く行ってないみたいな、だからゾンビなわけだけど、でもゾンビはゾンビなりに苦しんだり嘆いたり苛立ったり叫んだりするわけで、いや叫んだりはしないけど悶えたりはして、とにかく毎日が、朝目醒めてから夜床に就くまで、それは言いすぎだとしても一日のうちのかなりの時間が薄闇に閉ざされてる感じで、もちろん照明のせいもあるかもしれないがそれだけじゃなくて、窓の向こう、外からの光も心做しか弱々しげで、いやお日さまの力は半端ないけど、もちろん晴れてればだけど、でもそれを受け止めるこっちの力が頼りなくて中途半端で、まあそんなんだからバイトも長続きしないんだろうし、次を探す意欲もだんだん低下しちゃうんだろうし、果して次があるんだろうかこのオレにとか悲観したりもするわけで、モチベーション低すぎってリコは言うけど、誰もがリコのようにはなれないわけで、それはそうだけど程度ってもんがあるでしょ、つまり世間一般的なってことか、でも世間一般的なモチベーションと言われてもいまいちピンと来ないというか、いや何に対してもピンと来ないんだけど、それでも如何にして自分自身を奮い立たせたものか、そしてそれを持続できるか、の思案に明け暮れる毎日ではあって、それだけを考えてるわけじゃもちろんないけど、いろいろとやることもあるわけだし、洗濯とか昼寝とか、あと散歩とか、そうやって何かをしてるうちに、いや何もしてなくても時間はどんどん過ぎていっちゃうし、そんなわけで負け戦だってことも充分認識してるけどどっかに突破口とかあるんじゃないか、この腐れ切った事態を、そう断言してしまうことにためらいがないわけじゃないけど、一挙に打開せしめ得る、そんな好都合な突破口は望めないにしても、せめて逃げ道くらいは確保したい、とそう思いながら、ささやかな食事とそのあとのこれもささやかと言っていいものだろうかセックスと、この頃マンネリ感が拭えないのも事実だけど、それこそ持続力の問題もあって、とにかくそうしたものに慰められながら、どうにかこうにか生きてるわけで、ゾンビだけど、いやゾンビだからか、その辺がもう、だけどなのかだからなのか、そこんところがはっきりしなくて、というかはっきりさせたいって意志さえはっきりしなくて、そんなわけではっきりしてるのはこの腕の痺れくらいで、それが限界に達したっていうか、肘のほうから手首に掛けて無数の小っちゃい針で刺されたような痛痒い刺戟が走って、なかば感覚を失った右のをそっと外して逆のほうの、いまだ痺れとは無縁の、でもいずれ同じように痺れるだろう左の腕を今度は差し入れて、そして痺れたほうは、ちょっと力を入れただけでも虫が蠢く右腕は、腹の上で休ませて、視線はやはりまだ天井へ向けたまま、薄暗さにはいい加減馴れちゃったけど、今日は遅いのか、それとも早いのか、気を揉みながら待ってるわけだが、痺れが治まってくるとともに眠くなってきて、まだまだ寝る時間じゃないのに、それとももうそんな時間なんだろうか、そうして時刻を確かめようとしてそっちのほうへ、壁のほうへ、左のほうへ、というのはそっちに時計があるからだが、眼を向けようとしたら天井が、ギシギシというかミシミシというか軋みだして例の音がはじまり、最初は微かに、聞こえるか聞こえないかくらいの僅かなもので、だからまたかと思っただけで殊更気にも留めなかったけど、だんだんはっきりと聞こえるようになって、そしてそれは少しずつ位置を変えてるみたいで、というのも音は正確に位置の情報を伝えてくれるからで、右から左へ、左から右へ、手前から奥へ、奥から手前へ、右手前から左奥へ、左奥から右手前へ、左手前から右奥へ、右奥から左手前へ、右手前から左奥へと見せかけて右奥へつまり弓なりに右手前から右奥へ、右手前から左奥へと見せかけて左手前へつまり弓なりに右手前から左手前へ、左手前から右奥へと見せかけて左奥へつまり弓なりに左手前から左奥へ、左手前から右奥へと見せかけて右手前へつまり弓なりに左手前から右手前へ、右奥から左手前へと見せかけて右手前へつまり弓なりに右奥から右手前へ、右奥から左手前へと見せかけて左奥へつまり弓なりに右奥から左奥へ、左奥から右手前と見せかけて左手前へつまり弓なりに左奥から左手前へ、左奥から右手前と見せかけて右奥へつまり弓なりに左奥から右奥へ、あるいはジグザグに方向も定めず、あるいは右廻りに廻転し、あるいは左廻りに廻転し、右廻りから左廻りへ方向転換すると見せかけてやはり右廻りに、左廻りから右廻りへ方向転換すると見せかけてやはり左廻りに、右廻りから左廻りへ方向転換すると見せかけて右廻りに方向転換すると思ったら左廻りに、左廻りから右廻りへ方向転換すると見せかけて左廻りに方向転換すると思ったら右廻りに、そんなふうにして部屋中を、ここと同じ間取りだろうから六畳くらいの空間を、何が面白いのか、何かを引きずり廻してるみたいで、家具調度とか何も置いてないんだろうか、というのも何かに遮られたりぶつかったりといった、そうした抵抗がないように聞こえるからで、だからガランとして何もない、人の生活空間とはとても思えない空き部屋みたいな、というか牢獄みたいな、窓もない、だから日も射さない、薄暗い、ここよりもっと薄暗い、ほとんど闇と言ってもいいくらいのジメジメした陰気な薄気味の悪い不衛生な部屋が眼に浮かび、空気も澱んで吐き気を催すような臭気に満ちて、それが、その臭気が鼻先を掠めてゆくのをたしかに感じ、どっかで嗅いだことのあるそれは臭いで、あまり好きな臭いじゃないけど、というか全然好きな臭いじゃないけど、馴染みがなくもない臭いで、どこだろうどこだったっけと思いだそうとして記憶を辿れば、気味の悪い叫びや唸り声とともに檻のなかを行ったり来たりする展示動物の姿が、それも大型の肉食哺乳動物、虎とかライオンとか熊とか、そういう獰猛なヤツが浮かび上がり、つまり上の部屋は虎のあるいはライオンのあるいは熊の檻なんだとそう思い、つまり禁止されてるペットを、しかもかなり大型のヤツを、人をも襲いかねない、襲って食ったりするかもしれない、飼い慣らされたペットなんかじゃあり得ない、密かに飼ってるんじゃないか、いやそうに違いない、そう思うともうそうとしか思えなくなって、物音という物音が悉くそれを裏づけるもののように聞こえもして、というか裏づけるも何もそれはたしかにそうなんであって、だんだん恐怖が増してくるのもそのせいで、そことこことが、上の部屋とこの部屋とが、繋がってるわけでもないのに、まるでひとつ空間でもあるかのように、そことこことが、上の部屋とこの部屋とが、ひとつの、同じ空間上に位置してるみたいな、ここがそこでそこがここでみたいな、そんな気がして仕方なく、あり得ないと斥けることもできなくて、いつそれが目の前に現れても不思議じゃないと警戒しまくりで、痺れてきた左腕のことも忘れて息を潜めてた、というか怯えてた、というかそれを見てた、というか見ずにはいられないのだった。