そんなわけでいくつも平行に並んでる白い線の、というか白いのと灰色のと交互に並んでる線の、その上を辿ってった先にあるのが目当ての駅で、というか目当ての駅の前の道路で、というか目当ての駅の前の歩道で、でも路駐のチャリで埋め尽されてるから道幅は半分くらいになってて、その狭いとこを右手に進んでくと当の駅舎の入口が、西か東か知らないが、それとも北か南か、とにかく四つあるうちのひとつの口から入ってくと構内は明るくて眩しいくらいで、それこそ文明的明るさに充ち満ちてて飲み込まれそうで、飲み込まれないけど、出入りが激しくて混雑してるから反吐が出そうで、出ないけど、長い通路も人でごった返してるからぶつかりそうで、ぶつからないけど、そこを行ったり来たり、端から端まで何度も何度でも、翻る短いスカートがいくつも近づいてくるのを見つめながら、そして翻りながら人込みのなかに消えてくのを見送りながら、どれにしようかなてんのかみさまのいうとおり、狙われたのが運の尽きみたいな、腰つきといい歩きかたといい特徴らしい特徴もないんだけど波長が合うっていうか、どことなくリコに似てるっていうか、似てないけど、そうして目標を定めるというか自然に足が向くというか、とにかく背後から接近してぴったりと後ろについて、背後霊みたいに、メールに夢中らしくて気づかないそのあまりの無警戒に呆れちゃうけどそのほうがむしろやりやすいし、同じ歩幅で足並み揃えて右左右左って行進してるうちにふたりの息も合ってくるから不思議で、そこに何か運命的なものを感じちゃったりもするけどそれはそれこれはこれってきっちり線を引いて、でもふたりのこれは共同作業と言ってよく、つまりふたりが協力し合ってはじめて完成する云わばふたりの一大共同事業なわけで、であればこそ足並みも揃えるわけだし息も合わせるわけで、だからってわけじゃないがもう一歩さらに一歩と近づきながらタイミングを計りつつ、ケータイを手にGメンの気配がないのをよく確かめてから狙いを定め、もちろん下から、真下ってわけにはいかないけどできるだけ近づけて、コンマ何秒の早技で、紺と紺との間に挟まれた柔らかい弾力のあるその部分を、一歩一歩くり出すたびに擦れ合うその奥の奥を、そこか発する、そこからしか発しない中毒性の、謎というか神秘というか、を納めると素早く離脱して、長居は無用というか対象への執着は命取りだから、そんなわけで狙われたのが運の尽き、を歌いつつ接近離脱をくり返すたびに世界は濃密になって心も潤う、その余韻に二、三日は浸ってられるかも、あるいはもっと楽しめるかも、そして新たな目標目指して果敢にトライするアツシの視線の先には翻るプリーツが素敵に輝いて、でも重力には勝てなくて下へ下へと引っ張られて、そして食い込めば食い込むほど感覚も麻痺していって、そのうち食い込みを意識できなくなる地点に、食い込んでるのか食い込んでないのかってことも曖昧になる地点に至り、さらにその先に何があるのか、ほんのり赤みの差した丸い膨らみが頬に当てたり口に含んでみたくなる熱を持ったそれがそれからどうなるのかどうなっちゃうのか、見たいような見たくないような、というかいつだってそれが、右左右左って送りだされる艶やかなそれが、襞の奥に隠されたその暗がりがオレを誘惑するんであってオレのほうから誘惑したことなんか一回もなくて、それはもう全然ないわけで、でもするよりはされたいほうだけど、もちろんリコに、それはともかく次の三叉路までにはいくつか路地を入って抜けるんだけど、入っては抜け入っては抜けをくり返すうちに足が縺れ、というかアスファルトのちょっとした凹凸に靴裏を引っ掛けたみたいで、表通りと違って路地の舗装は案外雑ってか、二、三歩よろめいて体勢を立て直すと躓いたとこを睨み据えて、まあ睨んでどうなるわけでもないっちゃないが、ちょっとは気が晴れるかも、でも派手に転んだわけじゃないから道行く誰ひとりとして気に掛けちゃいないかも、というか気づいてさえいなかったりして、むしろ派手に転んで派手に突っ込んで笑いにでも紛らしたほうが後腐れなくていいかも、でも目立つ行動は危険だから控えたほうがいいかも、だから気配を殺して後ろの壁と渾然とひとつに混じり合って、真っ直ぐに、というか軸足を右から左左から右って移動させながら、今も立たされてる、というかずっと立たされてて、だからずっと立ちつづけてるわけで、重力に逆らって立ってるわけで、許しはない、というか永遠に許されないだろうことも薄々分かってるけど、許しがあろうと許しがなかろうとこうして立ってるしかなくて、でも許すって誰が誰を許すのか、というか彼女は許してくれたんだろうか、もちろん許してくれたからこそこうして家路に就いてるわけで、家路ってでもどこの家路か、とにかく我が家はもうすぐで次の三叉路をどっちにか、右にか左にか曲がって路地また路地を走り抜けてただいま、とは言わないけど玄関の扉を開けるとおかえりって声が聞こえて、全部の緊張をそれが解してくれるみたいな、少しずつ染み込んで癒されるみたいな、いや癒されないけどそんな気がして、だからそれに応えようとしてただいま、って言おうとして、ゆっくりはっきり元気よく、でも言い得ないもどかしさに打ち拉がれて、まあいつだって打ち拉がれてるんだけど、誰もいない部屋は暗くて寂しくて怖くて、いや怖くはないけどコーヒー飲んで一息ついたら仕度に掛かるわけで、でも一旦腰を落ち着けちゃうとなかなか立ち上がれなくて、といっていつまでもコーヒーを飲みつづけて何の用意もできないままただいまの声を、もちろんリコの、聞くってことにはならないけど、もう少し休んでたくて、そしたら死ぬまで休んでろって声が響いて、上のほうから降ってきて、他にも何か一言二言聞こえたけどそれは聞き流し、というかほとんど無視してどこだろうどこだっけ、って首を巡らし手元を掻き廻し、そうやってさっきから探してるんだけど見つからなくて、というのは安吾先生がだけど、どこ行っちゃったのかここに伏せといたのにそれとも本箱か、と隣の部屋まで行ってきたけどやっぱ見当たらなくて、それはでもいつのことか、もちろん今に決まってるけどその今がいつなのか、もちろん今に決まってるし決まってるんだけど今はもう今じゃないし、だからそれがいつのことなのかもう定かじゃなくて、いや違う、たしかにそれは今なんであってそうであればこそ紺のスカートが翻ってるわけだし折り重なったプリーツが開いたり閉じたりするわけだしまだまだ接近離脱をくり返すつもりだしふたりのコンビネーションをもっともっと磨かなきゃだし、Gメンには気をつけなきゃだけど大丈夫そんなヤツはいない、今頃事務所で一服しながら店長と無駄話でもしてることだろう、と目標を定めて、というか吸い寄せられて、どことなくリコに似てる、というかリコにそっくりで、というかリコに違いなく、ピンととんがった耳が後ろからもよく見えるし制服姿も似合ってるし、というかいつもこんなふうにリコが前でオレが後ろで、つまりオレが後ろでリコが前で、颯爽と風切って歩いてくのを眺めながらついてくわけで、何してんの早くとか急かされながら、だからどんどん近づいて、もっともっと近づいて、もうちょっとで手が届くってとこまで接近したらさりげにケータイを翳(かざ)しながらその耳許に口を寄せておかえりって囁いて、そしたら擽(くすぐ)ったそうに首を竦めてただいまって、もちろんリコがただいまって、オレもそんなふうに言えたらいいのにただいまって、それだけのことなのにたったの四文字なのに何度も何度も練習したのにただいまって、それを匂い立つ太腿の間にいい感じに火照ったとこに差し入れると両側から挟まれて思いっきり締めつけられて、コンマ何秒の早技で、滴り落ちる雫を零さないように全部嘗めとりながら、でも腰が安定しないっていうか足許が覚束ないっていうか膝が笑ってるっていうか、ここで立ち止まったら倒れちゃいそうで、いや倒れないけど三叉路の手前まではどうにか辿り着いて、でもそこで立ち往生ってか、悄然と佇んで為す術もなしってか、右も左も分からないってか、いや分かるけど。