友方=Hの垂れ流し ホーム

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物憂げに首を擡げて今一度時計のほうを見ると、べつに何かを期待したわけではないが、四角い箱の中心辺りから伸びている長いのと短いのと太いのと細いのと合わせて四本ある針のうち二本が示しているのはやはり三時四十分で、さんじよんじゅっぷんかと独りごつと瞬間自室の静寂に匂い立つようにそれは膨らみ、かと思うと吸い込まれるかに消え入り、どうかすると自身までが吸い寄せられそうに感じてふと怖くなり、そうした不安や恐怖は佐脇に馴染みのものには違いないがこれまでのものとどこかしら違った装いがなくもなく、どこがといってどこと指摘はできないが、まあいくらか淳子さんとの関わりに於いて判明した事柄に関係があるということは言えそうだが、そうかといって淳子さんの目が光ってるからビクビクしてるわけではなく、いや案外そうかもしれないが、ただどちらかというとその切れ長の瞳に睨まれると怖れをよりは興奮を、しかも専ら性的な興奮を覚えてしまうから怯えているというのとはちょっと異なり、とはいえ何でもかんでもプレイに結びつけているわけじゃなく、結びつけたい欲求はあるにはあるがその場の雰囲気というものもやはりあるわけだしそうしたものへの配慮だって当然必要だと心得てもいて、それなのになかなかプレイへと発展することがないのはなぜなのか、あるいはこちらの配慮とは裏腹に場の雰囲気を読めていないということなのか、いやそんなことはないはずだ、淳子さんとはこれまであんなことやこんなことやをそれこそ飽きるほどしてきたのだから、阿吽の呼吸とまでは言えぬかもしれないがそれなりに良きパートナーとは言ってもいいはずで、淳子さんはそう思ってないかもしれないが少なくとも佐脇にとってはそうで、それなのにそれなのに最近の淳子さんときたらまったく予測不可能で、自由奔放なのはいいが、それが淳子さんの魅力でもあるのだし、佐脇は佐脇でそんな淳子さんに振り廻されたいわけだから、そしてそこにこそ佐脇の悦楽が、唯一のと言っても過言ではない、あるのだから、そのこと自体に否やのあろうはずはなく、ないのだが、あまりにも奔放すぎるのにはついて行けないとも思うわけで、それでもついて行くほかないのだが、こちらのパワー不足を思い知ることにもなり、まあ忍者の末裔と肩を並べようとする、並べ得ると思うこと自体が間違いなのだが、いろいろな面で無理が生じてくるということで、仕事にも影響してくるだろうし、いや実際影響していて、生産能が著しく低下してもはやゼロに近く、それでも文字を書きつづけることよりほかに為すべきことを見出せぬから絞りだすようにして書きつけ、だから、いったいこれのどこが娯楽遊興なのだろう何が楽しくてこんなことしているのかとそう思う瞬間がないと言ったら嘘になり、それでも佐脇にとってこれは娯楽遊興に違いなく、でなければ疾(と)うに逃げだしていただろうから、どこにかは知らないが、だからべつに逃げようとかしたわけじゃなく、そう言うと言い訳めくが集中力にも限界はあるってことで、というか長時間集中できない質なので一息入れようとしたのでもあろう、物憂げに立ち上がると窓辺のほうへ一歩、右だか左だか思いだせぬが両方ということはないから、両方とすればそれはジャンプだがジャンプした覚えはないから右か左かいずれか一方の足を踏みだしたのだろうが、踏みだしたその足へ体重を掛けようとして踏みとどまり、というのも何だかそっちのほうへは行っちゃいけないような気がしたからで、理由といって殊更理由らしい理由はないのだがなぜかそんな気がし、そんな気がしたからとてそれに従わねばならないなんてことはないし元よりそうしたものに無頓着あるいは無関心だったはずなのにこのときばかりはなぜか気に掛かり、といって外に、窓の向こうに監視の目が、もちろん淳子さん以外のということだが、あるとかいうわけではなく、いやないとは言い切れないが仮にあったとしてもさして気にするほうじゃないしこれまでだって全然気にしてなかったし、いやちょっとは気にしてたかもしれないが、だからこそこうして今それが顕在化しているのかもしれず、そうとすればこれまでのように無頓着に振舞ってもいられないということで、そっちのほうへは、というのは窓のほうだが、近づかないほうがいいと判断し、その判断が妥当か否かはべつとして何らか判断を下したことで次の行動の端緒を掴み得たわけだからそれはそれで結構なことだと佐脇は思い、ゆっくりと踵を返すと逆のほうへ、窓とは反対のほうへ、つまり部屋の奥のほうへ、というか入口のほうへか、そうとすれば奥ではなく手前ということになるが入口はそのまま出口ともなるわけだから、というのも入口と出口を別々に設けてあるわけじゃないからで、だからそこが出口とすればやはり奥ということになり、奥且つ手前手前且つ奥の、入口且つ出口出口且つ入口の、廊下と堺を接した矩形のほうへ歩きだし、そうして佐脇は洗面へゆき、排尿を済ませてから物憂げに洗顔するが、やはりよく眠れてはいなかったのかひどく疲れた面持ちで、いや寝起きはいつだってそんなふうではないか、それとも今日は殊更疲れた面持ちということか、そうとすれば出張の疲れに違いなく、そう思うと急に身体が重く感じられて座卓の前まで戻るのが億劫で、といって戻らぬわけにはいかないしいずれ戻るに決まってるが、なぜといってそこを塒(ねぐら)にするのはいろんな意味で不便だからで、だからちょっと休息したというか、物憂げな溜息をふたつみっつ吐いただけでまた歩きだし、そうして部屋へ戻ると重い身体を横たえ、もちろんテレビの前の座卓の前にだが、寝転がって、何をするでもなく、いや、こうして何ごとか書き綴りながら何もしていなかった、いや、全然何もしていなかったわけではないが、まあ大体何もしていなかった。

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