友方=Hの垂れ流し ホーム

02

とはいえそれで安心できるのかといえばやはり安心はできず、べつに不安というのではないが何がなし落ち着かないのもたしかで、前言を翻すようで恐縮だが何もかもが明晰とはだから言いがたいし不明瞭な点はいくつかあり、いやいくらでもあり、それでもそれら不明瞭を明瞭ならしめたいとの意志はなく、いや決定的にないってことではなくて今はまだその時期じゃないということで、その時期が来れば、それがいつ来るかは知らないが、あるいは永遠に来ないかもしれないが、運良くか運悪くかそのときが来たらそのときこそ対処するだろうしせざるを得ないが、今はまだこうして髪を掻きあげながらどこへか向かって歩いていたいと思い、いや違う、歩いてゆくのだと思い、だからこうして髪を掻きあげながらどこへか向かって歩いているのだが、どこへかといって全体どこへ行こうというのだろうといった疑念がまたしても浮上してきて、どこへも行きはしない出張先から帰ってきたのだオレは、とふと書きつけてそうだそうなのだ意味もなく街を彷徨っているなんてことはないのだ、浮浪者じゃあるまいし、いや浮浪者だって意味もなく彷徨ったりはしないだろう、職や食を求めて奔走しているだろう彼らに無意味な彷徨は忽ち飢渇を齎すだろうから、むしろ意味もなく街を彷徨ったりできるのは日々の生活に困らないだけの収入なり資産なりを有している富裕層だが、そうした富裕層ではないからには、というかどちらかというと日々の生活には困っているくらいだから、といって浮浪者ほどではないが、仕事はあるし部屋もあるし、とにくかつかつの暮らしを暮している身には無意味な彷徨などできるはずもないとそう思い、そう思った途端霧が晴れたように視界が開け、それで不明瞭が明瞭になったわけではないのだが当てのない彷徨から解放されたようで心做しか気分も晴れやかになり、そうして爽やかな微風に髪を靡かせながら佐脇は自宅アパートへ帰ってきたのらしいが、いや帰ってきたのだとここは断言すべきで、だからそう書いておくが、そう書いたからとてそうなるわけのものでもなく、そう書きながららしいのほうへ気持ちは傾斜してゆき、それでも表面上は断定で押し切る覚悟で自宅アパート二階の自室へ佐脇は出張先から今の今帰ってきたのだと再度示しておくが、そうしてあまり日も射さぬうら寂しい自室へと帰ってきた佐脇は室内のカビ臭さに少しく眉を顰(ひそ)め、窓を開けて空気を入れ換えつつほんの四、五日空けていただけなのにと眇(すが)めた眼差しで一渡り自室を眺めやれば、出掛けに干しておいた洗濯物に眼がとまり、というか視界を遮断するように目の前にぶら下がっているから嫌でも眼につき、つまりはそれが原因らしく、近所のランドリーで乾燥させてくることを一瞬考えるが面倒臭いのでそれは却下し、抑も乾燥はいつも自室でしていたしカビ臭いのにはすぐに馴れたし臭いも感じなくなったからそのことはいつか意識から遠離り、とはいえ時折何の前触れもなく鼻先を掠めたりし、その都度顔を顰(しか)めてみたりもするが、そうしたことは取るに足りないことだろうから省略するとして、疲れているのだか疲れていないのだか分からないが帰ってきたのだからまずは身体を休めよう、とりあえず腰を下ろそう、そうして一旦テレビの前へ、前といっても真ん前ではなく佐脇とテレビとの間には小さいながら座卓が、どこで買ったのかも忘れてしまったが、あるいは拾ってきたのかもしれないが、いつもそこで食事を摂りいつもそこで書きものをしいつもそこで洗濯物を畳みいつもそこで雑誌を読みいつもそこで爪を切りいつもそこでテレビを見、そして時折そこで一夜を明かす座卓があるからテレビの前の座卓の前ということになるが、いつも坐るそこへ尻を据えてしまうともう動けなくなり、何をするのも億劫でやる気というものがまったくなくなってしまい、いつだってやる気などないに等しいがそれに輪を掛けた無気力感に浸されてどうにも身動き取れなくなり、そうしてみると疲れていたのかもしれないが疲れたという実感はなく、恐らく一日か二日遅れでやってくるのだろうが今はまだ気疲れ程度のもので、それでも身動き取れなくなっている現状を思うと二日後が思いやられ、両の肩に重い荷が乗っていることに今さらながら気づいたというように益々動けなくなってしまい、それでもテレビだけは点けることができ、そしてそれが可能だったのは座卓の下に身を滑らせて足を伸ばすと丁度スイッチに届いたからで、そうして主電源さえ入れてしまえばあとは座卓上にあるリモコンで操作は自在だとそれを手に取りテレビのほうへ差し向けるが、無気力なときには何を見ても興味が湧かないもので、画面に映る人物のどの面も同じように見え、よく見掛ける顔もあればまるで知らぬ顔もあるが、総じてよく喋るそれら顔たちはそれでも悉く似通って見えるから不思議で、つまりはこっちの脳内フィルタが鬱モードになってるってことなのらしく、そのことに気づいて尚さら鬱モードに拍車が掛かるようだったが薬が切れていたのでどうすることもできず、切れたといっても薬の効果が切れたということではなく手持ちの薬を切らしていたということで、そうして横倒しに左のほうへ、もしかしたら右のほうへ、寝転がるとリモコンを投げだして茫としていた、ように思う。

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