友方=Hの垂れ流し ホーム

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そしてまた風が吹いて木という木を揺らめかせ葉という葉をそよがせて、というのは空気を撹拌してこちらからあちらへ、撹拌された空気があちらからこちらへ、それにより黴臭さは払拭され、だから息苦しくもないし狭苦しくもなく、程よい解放感に浸されて木々の下をコの字に、いや真っ直ぐに、上からの直射を真面に浴びて下からの反射を避けるべくもなくコの字に、いや真っ直ぐに、しばらくは砂混じりのブロックを次いでアスファルトを踏みつけ蹴りあげながらコの字に、いや真っ直ぐに、すぐにも辻が現れる幅の狭い道をコの字に、いや真っ直ぐに、碁盤目状に配された区画をコの字に、いや真っ直ぐに、もちろん女のところへ真っ直ぐに、いやコの字に、とにかく風が吹いて撹拌されてしまい、木々を揺らめかせ葉をそよがせる風で悉く飛ばされてしまい、それらピースをひとつひとつ元の場所へ填め込むには気の遠くなるような時間が、残された時間はもう僅かだというのに、だから慎重さと同時に大胆さも必要になってくるわけで、だからといって合わないピースを無理やり填め込んだりはしないが、填めたピースがぴったり填っているかどうかは本当のところ分からないにせよ、時間ととにもピース自体が形を変え姿を変えて恰も最初から隣り合うものであるかのように馴染んでしまっているだけなのかもしれないにせよ、それでも闇雲に手当たり次第に填め込むようなことはせずひとつひとつ慎重に、一歩一歩を着実に踏みだしながら駆けだすような気負いもあり、すべての辻を網羅する勢いで、まあそれは無理としてもここら一帯の区画くらいは整理できるはずと辻から辻を、木洩れ日の下を、晴れていればの話だが、果してどこから持ってきたのかそれは知らないがここら一帯は埋め尽され踏み固められてかつて入江だった名残は影もなく、今その上に立ちその上を歩いてゆくのだが、二本の足で、二本しかない足で、もちろん川の向こうは橋を越えたその先はべつで、というのはそこから先は埋め尽されも踏み固められもしていないからで、だから橋のこちら側だけが二筋の川に囲われたその内側だけが碁盤目状に配されていてそこを越えてしまうともう、小高い丘が連なるなかくねりくねった道筋がくねりくねってどこへゆくのかは見当もつかず、いやおおよその見当はついているが実地には、そんなわけで午後の陽差しを背に受けながら辻から辻を、橋は渡らずにその手前で右に曲がるか左に折れるかして碁盤目状の区画だけを、かつて遊郭があったというその界隈を、僅かに名残を留めているにすぎないがその佇まいに他とは異なる雰囲気が漂っているのを、とにかく碁盤目状の区画の内側を、直角に交差しながら網状に配されているいくつもの線をあみだのように辿りながら、視界を掠め飛ぶ黒い影に気を取られながら、ロープに吊られて宙に浮いていると思うと足が竦むがすぐにも安定した地面を踏むのだから、この足で支えるのだから自分自身を、と交差する網状の針金が透明なガラスのなかで光を反射させるのを見たり見なかったり、刻々と変化する表示はもうすぐ一致するはずだが、そうしてふたつの扉は開かれるはずだが、まだそれは一致していないので、それまでは斜めに交差する網状の針金でも眺めているよりほかなく、その向こうは光に彩られたり闇に沈んだりと変化して已まないがいずれも同じ造りだから変化を変化として捉えがたく、だからいつまでも上昇をつづけていて、だから透明なガラスのなかでいくつもの枡目によって区切られたその枡を構成している針金をいつまでも、一辺が二センチほどのその枡目を三十一三十二三十三と数えたりはしないが、いや事に依ると三十四三十五三十六と数えてしまうかもしれないが、あるいはむしろ三十七三十八三十九と数えあげることが手持ち無沙汰になりがちな箱のなかでは有効な策かもしれず、というかそうした内向へと意識を向かわせる装置として機能してしまうらしく、だから無意識のうちに四十四十一四十二と数えているのかもしれず、いずれにせよいつか表示は一致して扉が、内側のと外側のとふたつ同時に、すべてはプログラムされたとおりに寸分の狂いもなく扉が、そうして狭い通路をコの字に、いや真っ直ぐに、黴臭さを振り払いながらコの字に、いや真っ直ぐに、そしてついに同じ作りのものがいくつも並ぶなかからひとつを、それが今目の前に、しかしまだ閉ざされていて今からそれを、こちらとあちらとを隔てるその堅固な仕切りを、というのは複雑に溝が彫られた金属の棒を探り当て無防備に背を晒しながら縦に細長い穴に差し入れ奥深くまで差し込んで軸に沿って捻るわけだが、そうした一連の動作をほとんど無意識に、あるいはまったくべつのことを考えながら、といってそれがどんなことかは何ひとつ思いだせないが、とにかく集中とは凡そ無縁な弛(ゆる)みきった姿だろうことは想像に難くなく、というのは疲れているからで、仕事を終えて疲労がピークに達している、あるいはピークを越えてしまっている、とにかく早く床に就きたいと気は逸り、まあ床に就いたからといってすぐに眠れるわけではないにせよ、横になれば少なからず休息することはできるだろうし休息しなければならないわけだし、と脱ぎ捨てて前のめりに四十三歩四十四歩四十五歩と狭い廊下を、何かのモーターの音がしているのを耳にして何かのモーターの音がしていると思いながら、明かりを点けては消しながら、前に光を後ろに闇を据えながら、早く床に就きたいと思いながらしかし喉の渇きを覚えて流し台の前に、それとも流し台に目を留めたから渇きを覚えたのか、あるいはなかばルーティンと化しているのかもしれないが、というのも帰宅後にまずするのは水を飲むことだと言っても過言ではないからで、いやその前に靴を脱がねばならないが、だから帰宅後にまずするのは靴を脱ぐことで次いで水を飲むということになるが、それとも靴を脱いではじめて帰宅が完了したことになるのだろうか、靴を脱ぐ前はまだ帰宅途中なのだろうか、感覚としては敷居を跨げば、扉を開けてなかへ入ってしまえばそこはもう、とはいえある瞬間を堺にしてそれ以前を帰宅途中それ以後を帰宅後と分かつことにはどこかしら無理があるようにも、事態は段階的に推移してゆくというのが妥当なようにも、つまり帰宅途中と帰宅後との間には帰宅途中でもなく帰宅後でもないような、あるいは帰宅途中でもあり帰宅後でもあるような、そうしたグレーゾーンというか余白というか、何かよく分からない不可知の領域が、それをそれとして確定しようとした途端に逃れ去ってしまうような類いの領域が、触れないほうが無難かもしれない領域が、眼前を浮遊するピンぼけの影のように拡がっている、とさしあたり言えるのではないか、とにかく靴を脱いでから水を飲むのだが、というのは靴を穿いたまま水を飲むわけにはいかないからで、二十一世紀初頭の日本の住環境がそれを許さないからで、その習慣だけは頑なに保持されているからで、そんなわけでその一角の湿気を含んでいるせいか重く粘り着く空気に誘われるようにその前に立つと徐ろに蛇口を捻り、いや捻るのではなく押しあげて弁を開き、すると水が出てくるが、止め処もなく流れ落ちてくるが、止められていなければの話だが、とにかく栓を開くと水が流れる仕掛けになっていて、その仕組みについての詳細はさしあたり措くとして、というのは煩雑を避けるためにだが、だから水を飲むということを殊更意識することはなく、だからそれがルーティンなのかルーティンではないのかは定かではなく、とにかく水を飲むのだが、飲もうとして蛇口を捻るのだが、いや押しあげるのだが、するとまず気泡と混ざり合った水が痰の絡んだような音とともに押しだされてくるが、飛び散るというほどではないにせよ当の気泡に妨げられて方向が定まらず、それが徐々に纏まって一筋の流れとなり、一定の水流で上から下へ、いつだって上から下へ、というのは周縁から中心へ向かってだが、その流れ落ちる勢いに気圧されたかしてしばらく流れるに任せていたが、思いだしたようにコップを掴み、というのは手の届くところに逆さに置いてあったので、というかいつもそこに置いてあるので、透き通ったガラス製の、底部より口の部分がいくらか径が広い厚手のそれは落としても割れない頑丈なやつで、とはいえ床材のほうに傷がつくから却って高くつくかもしれないのだが、そう思えば扱いも慎重になっていくらか強く握りしめ、口を上にして宛うと、というのは水流にだが、そうして半分ほど溜まったところで、つまりコップの容積の半分ほどの容積にコップの容積の半分ほどの容積の水が満たされたところで、水流から遠ざけると一息に、そうして渇きを治めると流し台を離れて四十六四十七四十八とリビングのほうへ、明かりを消しては点けながらリビングのほうへ、四十九五十五十一と脱ぎ捨てながら、いや捨てはしないが乱雑に放り投げながら頽(くずお)れるように坐り込むとしばらくは、膝がもうダメらしく、抱え込むようにして引き寄せながら五十二五十三五十四と曲げたり伸ばしたり、五十五五十六五十七と揉んだりさすったり、手篤くではないが労(いたわ)るようにじっくりと、それから換気のために少しだけ窓を、ほんの五分くらいで中のものは外へ外のものは中へ、つまり拡散し稀薄になってゆくイメージが、霧のように靄のように覆い尽されてゆくイメージが、そうなるともう捕えどころがなくなって内と外との区別さえ、いやもちろん内は内だし外は外なのだが、内でありながら外、外でありながら内、といずれともつかず、というかそのいずれでもあり、要するに脱ぎ散らかした衣類の傍で横たわる身は熱を帯びていて、その発する匂いが満ちてゆくのが分かるというか感じるというか、だから手を伸ばしたのだが、手を伸ばして触れようとしたのだが、空を切るばかりで一向に、だからいるのかいないのか、いやいるのは分かっているが触れることができず、さっきまで触れていたのにその柔らかな膨らみに、青白く仄光っていたふたつの膨らみについさっきまで。

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