友方=Hの垂れ流し ホーム

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08

とにかくそこに坐っていると、いつだって坐っているのだが、坐っていないときを除いて、硬い座面にこちらも硬い尻を据えてできるだけ小さく身を屈めるとバケツ大ほどになるだろうか、少なくともそのような認識ではあり、そうして気配を消して、まあ消そうとして消せるものではないがそれなりに紛れはするし少しでも紛れるのならそれでいいらしい、それとも寝ているのだろうか、寝ている時間はないことになるのか、くり越したりくり上げたりほかのことに充当したりできないものか、あるいは伸ばしたり縮めたり冷凍したり解凍したり、さらには贈呈したり頂戴したり、いずれにせよそれは一定の間隔で戸が配されている通路の中央に四つで一塊のものがいくつか背中合わせに一列に並び、そのどこに坐ってもいいらしく、尤もどのような規則も明示されてはいないのだがどこに坐っても咎められることがない、だからといってどこに坐ってもいいということには必ずしもならないのだが、それならそれで構わないと多寡を括っているらしい、仮に何者かが采配を振るっているとしてもそれはそれでやりにくいし、とにかく空いているところに坐るがすぐ隣ではなくひとつ席を飛ばして、何の配慮か気兼ねか近すぎても危ういし遠すぎてもわざとらしく、近すぎず遠すぎず程々の距離感が重要で両側から挟まれる中央よりいずれか一方の端が好ましい、とはいえひとつしか空いてなければ已むを得ず坐るが全部が塞がっていたら坐ることはできないからそのまま歩きつづけ、右足左足交互に前へ、静かに前へ、壁に掛かった絵を眺めることもなく、そこに絵が掛かっていることは認識している、否応なしに視界に入ってくるがじっくりと細部まで眺め入ることなく何食わぬ顔でそそくさと通りすぎ、しばらくして戻ってくる、右廻りか左廻りか知らないが必ず戻ってくる、そうして坐るとすぐ目の前が壁になるが場所によっては戸になる、手を放すと勝手に閉まる戸にはコの字形の、太すぎず細すぎず握るのにちょうどいいサイズの丸棒が取りつけてあってほんの少しの力で開けることができるが、目を開けていても目を閉じていても抑揚のないつぎはぎの、幼さはないがどこか辿々しい声が、アルトだろうかソプラノだろうか、あちこちから聞こえてくる、それは番号を、誰かを呼んでいるらしい、とはいえ誰を、誰でもない誰かを、かといって誰でもいいというわけではないらしい、画面にもそれは映しだされているが何の当てにもならない、番号は番号でしかないのだから、そうしてただの数字に成り下がるのか成り上がるのか、番号と化したそれはどこへ向かうのか、もちろん前へ、ゆっくりと前へ、踏みだし踏み下ろしながら白く波打つ線を辿ってどこまでも、とりあえず次の角を右へ、その次の角を左へ、暗く狭い通路を抜ければ、抜けることができればの話だが、広々した空間がひらけているとの認識があり、あやふやな認識ではあるがあやふやな認識だからこそ進んでゆけるのだろうし進んでゆくのだが、前へ、いつだって前へ、そしたら壁が迫るというか壁に突き当たるというか、といって行き止まりではなく右と左とに分かたれていて、それぞれ微妙に角度が異なるのは直線ではないからだろう、もちろんだいぶ手前から分かっていたが目の前に来るまで埒外にあったというか意識的に埒外に追いやっていたのだろう、なぜといって優先度が低いと判断されたからだが、なぜそのような判断が下されたのかは分からない、どこか威圧的なそれは道路と敷地とを分かつ、内と外とを隔てるものではあるが完全に遮断するわけでもなく、つまりひらかれているのだがやはり誰にでもというわけではないらしく選ばれたものだけがその向こうへ、待っていればいつか呼ばれるのだろうか。もちろん呼ばれるのだが、だからこうして待っている、いやただ坐っている、無心というか放心というか、待ちながら坐る坐りながら待つどちらだろうか、抑も待つことと坐ることとは分かちがたく結びついているのだろうか、とにかく坐っている、伸ばすと邪魔になるから適度に折り曲げて、ぐるぐる丸めて体内に収納することはできないがそのつもりで、そうしてどこに目を向けるのか、どこに向けてもいいのだがどこに向けても不躾な感じがするからだろう、手元に落としてそこにある、あるだろうものに焦点を合わせ、合いそうで合わないが合わせようとして合わせると少しずつ浮かび上がってくる像というか姿というか、知っているようで知らない知らないようで知っているそれはある拡がりを持っていて、消え入りそうな、淡い、それでいて強固な、何かの部分だろうか、もちろん全部のピースが揃うことなどないのだが、常にどこかが欠けているその欠けた部分を求めてざらざらした面に手を添えるとしばしその手触りを確かめながら紙を捲るのだが、その音がいつになく大きく響き渡る、なぜといって静かだからで、つまり誰もいないからで、ここにはもう、最初からもう、とにかく右へか左へか選択を迫られることになり、迫ることなく迫りくるそれに促されるように選択するのだが、右か左か、果たしてどちらが正解なのか、右なのか左なのか、右は真っ直ぐだが左は少し湾曲している、右は建物が連なっているが左は植込みの枝が張りだしている、右は明るいが左は少し翳っている、いやどちらも正解ではなく、抑も正解などないのだろう、それでもいずれか一方を、ふたつにひとつ右か左か、直線か曲線か、外壁か葉叢か、明るいほうか翳っているほうか、右足左足交互に踏みだせば自ずといずれか一方へ引き寄せられるだろうか、引力というか重力というか、何らかの作用が働いて、とはいえそれをしも選択と見做せるのかどうか、とにかく右足左足交互に、前屈みに視線を落として路面の凹凸のごく僅かな色合いの変化を捉えようとでもするように、もちろんそんなつもりは毛頭ないが視線を向ければ自ずと焦点が合ってしまう、そこには小石が敷き詰められていてあるものは赤っぽく、あるものは青っぽく、あるものは白っぽく、あるものは黒っぽく、遠目には濃い灰色になる、混ざり合って渾然とひとつになる、きらきらと反射することもあるがこの暗さのなかでは何も、つまり迷ううちに暗くなるのか最初から暗いのか、手探り足探りで闇のなかを前へ、どこまでも前へ、前は前であり前こそが前なのだから、埃っぽい空気が咽喉に絡みつくのを腹に手を当て落ちないように、そうして腰より少し高いくらいだろうか、何も加工されていないような、それとも何も加工されていないような加工が施されているのか、凸凹した表面の白っぽい、いくらか温かな色合いのブロックを積み重ねた塀の、一番上に積まれたものだけ形の異なる、屋根形になっているそこに手を掛け、次いで足を掛けて跨るとそれだけで塀はぐらりと揺らいでしばらく揺れているが、ある程度揺れが収まってからまず片膝を立て、右でも左でも構わないが利き足のほうが安定するだろうと利き足を、いずれが利き足なのか俄かには断じ兼ねるが咄嗟に反応するほうがそうだろうと深く考えもせずに、一方は膝と爪先をついて計三点で支えながらゆっくり立ちあがり、支柱を支えにして上にある柵に手を伸ばすが腕の力だけで上ることはできないから壁を足掛かりにして上へ、その際金属が四囲に反響するからだろう、強く蹴りあげることはためらわれ、それでも上の床面に達すれば、そこに爪先が掛かれば力任せに上ることができるというのは本当だろうか、まだそこは天井で天井の向こうが床になる、とにかく腹を押さえて落ちないように、落ちたら大変なことになると素早く乗り越えてそこに下り立ち、何度も何度でも、そうして軋ませないように少しずつ体重を掛けてゆく、それでも軋んで四囲に響いてしまうのは避けられず、しばし静寂の戻るのを待ってそれから次の一歩を踏みだすが、この暗さのなかで何も見えず、足裏の感覚だけが頼りと言ったら言いすぎか、とにかく一歩を踏みだすと前へ、少しでも前へ、沈み込んでゆくような感覚に一瞬戸惑いながらも右足左足交互に、鍵は掛かっていないらしく、手を掛けると簡単に引き開けことのできる戸がいくつかあって、それぞれ用途の異なるそれらを順に滑らせてゆき、最後の、最も重い戸に手を掛けると音を立てないようにそっと引き開けて中へ、そこは少し段差があって目測を誤ると躓く危険があるから慎重に爪先を上げ、垂直にそれから平行にまた垂直に、右が済んだら次は左を、そうして段差を越えてその向こうへ、果たして越えられるのか。

もちろん越えられる簡単に越えられる、何度も越えたことがあると狭い隙間から身を滑り込ませると内と外とでいくらか空気が異なり、さらに時間の進み方も違うと言ったら言いすぎか、いずれにせよ中の温気が外へ外の冷気が中へ、それが複雑な気流となって混ざり合う様子を見ることは叶わないが、何となく感じ取ることならできるだろうか、何がしかの変化をそこに、というかここに、とにかく軽いというか薄いというか、ある種の希薄さに包まれた異質な、長居したくない空間ではあり、そのせいか一連の断片的な、それでいて連続してもいるやりとりが妙な具合に歪んでいるが、その歪みを補正する手立てはあるだろうか、とにかく一瞥して進むべき方向を見定めると右足左足交互に、さして広くもないが窓が大きいからだろう、充分に明るいそこには一方の壁際に机が、反対の壁際に簡易的な寝台が、その間に挟まれながら窮屈そうでもない様子で椅子に掛け、肘をついていくらか斜めに構えているのを認めるが、奥は通路になっているらしく絶えず行き来する気配があり、反響というか残響というか、気になって集中できないのか何を言っているのか、いやまだ何も言っていない、これから言うのだろう、こちらに向き直って何か言い掛けているのを、そこに焦点が合うか合わないかというときに唇がひらこうとしているのを、その瞬間つまり密着している上唇と下唇とが離れる瞬間ぱちんと弾けるような響きがするだろうか、それはここまで届くだろうか、そうしてそこに覗くのは上の歯だろうか下の歯だろうか、歯列の並びが気になって何も入ってこないということになりはしないか、あるいは舌が覗く瞬間を見逃すかもしれないし最初の子音か母音かが発せられるのを聞き逃すかもしれないしそのあとにつづく音列との関係を見失うかもしれない、つまりそこに含まれるだろう意識的なあるいは無意識的なものを取り逃すかもしれない、そう思うと余計目が離せなくなるのだが不躾な眼差しは控えるよう言われ、いや言われていないのだが言われたような気がして視線を逸らし、そうして椅子に掛けると事前に済ませた、ほんのついさっき撮ったばかりの画像が画面に映しだされているのを見るというか見られるというか、そこに何か手掛かりが隠されているとでもいうように、それはすべてのはじまりであり終わりでもある決定的な、覆しようのない何かで、それをこそ明らかにすることが使命ということか、それにしては気負ったふうでもなく穏やかな笑みさえ浮かべているのを、それはある種の職業的な配慮でもあろうが、その奥にあるものを垣間見ることは難しい、複数ある画像を切り替えながらいつかまた大仰な施術が行われるだろうことをそれとなく匂わせるその口調というか物言いというか、早口でもないし籠っているわけでもないが、むしろ平易で分かりやすいくらいだが、入力装置のかちゃかちゃ言う音が気になるのでもあろうか、そちらのほうへ視線が逸れてしまうのを、上の空というのではないがつい受け流し聞き流してしまうのを、あとになって再構成しようにも欠落があって穴が塞がらないのを、そのうち穴の存在自体が消し去られてしまうのを、つまりそこには何もなく、何もないのだが、それなのに何かがあるような、残像というか残響というか、余韻が四囲に漂っているのを、そのすぐ脇を掠めてやり過ごすとその先の明るく照らされているほうへ右足左足交互に、その牽引力に引き寄せられるように右をそれから左を。いずれにせよ不用意に触れていいものかどうか、触れるだけなら容易で誰に咎められることもないが持ち重りのするそれは箱に入っていて黒いカバーの端のほうがほつれているわりに使用頻度が少なく、年に一度あるかないかだろうか、当初は事あるごとにひらいていた、それどころか事がなくてもひらいていたのではなかったか、紙を捲るとびっしり詰まった文字の連なりに見入るというか見入られるというか、目的もなく彷徨いつづけ、それがいつしか億劫になり、久しぶりにひらくと扱いに馴れていないこともあってすぐには探し当てられず、あちらを捲りこちらを裏返し、通りすぎては引き返し、同じところを何度も巡り、どこに何が書かれているかは分からないが辿り直すことで再び見出すというか出会うというか、とにかく頁を捲ると新たな文字の連なりが現れるのであるからしてそれを追う、どこまでも追い掛ける、誰かが通った道だろうから、手垢に塗れた、汲み尽された、それでいて汲み尽し得ない未踏の道筋がそこに、というかここに、点在する明かりの下を右足左足交互に、まずは右足次いで左足、踏み固められたその揺るぎない硬さが足裏を刺戟する、何度も何度でも、そしたら温かく柔らかいものに触れる、ごろりと転がっているそれは二の腕か太腿か脹ら脛か、そのいずれでもあり、そのいずれでもない、抱え込んだそれを引き寄せるが重さはなく、いや重さはあるだろうあるに違いない、それでも確かな手応えがない、それでいて押し拡げると籠っていた熱気が溢れてくるそんな予感が、それとも既視感だろうか、抵抗なくひらかれるそれはまだ腐敗していないらしく、だから瑞々しく艶やかなうちに、新鮮なうちに捌くというか整えるというか、右足左足交互に、眠っているうちに全部を終えなければならないそれは時間との戦いで、それぞれ専門を異にした者たちの連携によるのだろう、専用の器具を巧みに使いこなして曲げたり伸ばしたり、そうして柔らかい肉の襞を搔き分けると白くて硬いものが現れ、それは支えるための組織だが、そのさらに奥のほうが壊れているということで、それを繫げるというかくっつけるというか、欠片を集めてひとつにする、元の形にする、完全に元通りにはならないだろうが不都合のない程度にはできるのだろう、さらに金属で補強する、端から端まで鎖のようなものが塡め込まれ、そこに杭のようなものが三本いや四本打ち込まれ、ドリルで穴を開けるのだろう、高速で廻転するモーターの振動が肌を伝い、削られた白い屑が朱に混じり、そうしてしっかり固定されていてびくともしない、素人には為し得ない職人技と言っていい、だから転ぶこともなく沈むこともないもう、とはいえそう確信するにはまだ、それでも触れるか触れないかぎりぎりのところをゆっくりと、急ぐこともない、急ぐとろくなことがないと左をそれから右を交互に繰りだしながら前へ、確実に前へ。

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