友方=Hの垂れ流し ホーム

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04

いずれにせよどこかふわふわした感じで不安定に揺れつづけているからだろう、上昇しているのか下降しているのか、あるいは水平に移動しているようでもあり、微かな振動だけが移動していることを示しているが、相応の広さはあるにせよどこか張り詰めた空気が重く伸し掛かって寛げるわけではない箱のなかで誰しも一点を注視したまま互いに牽制し合うかに黙り込んでしまうからなのか、時間が引き延ばされてゆくらしく、止まったのではないにせよ一向に先へ進まないのは遅延というか停滞というか、絡み合い縺れ合って通常とは異なる流れ方をしているのだろう、その結び目がほどけるまでの永遠とも思える時間をやり過ごす間あるいはやり過ごしても尚微かな振動に揺られて行ったり来たり、迷路のように曲がりくねった通路を行ったり来たり、右かと思えば左へ左かと思えば右へ、そのうち右なのか左なのかも分からなくなり、というのは右でも左でもどうでもよくなったからで右と左とが分からなくなったのではない、右が右であることは理解しているし左が左であることも理解している、つまり右は左ではないということ、同様に左は右ではないということ、これ以上に自明なことはないのだが、ないはずなのだが、反転すると右は左になり左は右になるのだから不思議で、いずれにせよ時間をか空間をか一足跳びに跳び越えて巧く着地できるだろうか、右にせよ左にせよ路面の硬さを捉えることができるのか、足裏と路面とがぴったり重なり合うや否やあるいはほんの少し遅れてマシュマロのような弾力に跳ね返されてバランスを崩すことになりはしないか、踏み下ろす足が今にもめり込んでゆくのを目の当たりにして危惧というか不安というかを抱えながらどこまでも伸びている整備された道をゆっくりと、交差でもあり分岐でもある地点に至るたびしばし茫然と佇んで右か左かと傾けながら、前へ、つまり前へ、倒れ込むように踏みだしながら白く伸びているのを、幅が一段と狭くなって光も隅々まで届かないが、照っているところは黄色く輝き翳っているところは青く沈んでいる路面は辛うじて水平を保っているようで、蛇行しているのは暗渠になっているからか、流れる音は聞こえないが声は届く、意味こそ汲み取れないが呟きのような囁きのようなそれは常に一定の大きさで薄い布の向こうから布を通してこちらへ、そこを通過すると何かが削ぎ落とされて薄っぺらな重みのないものになるらしく、それでいて妙な存在感を放っているのを聞くともなしに聞きながら横目に見遣ると波打つように大きく揺らいでいるのは移動しているのだろう、もちろん前へ、そうして一歩ごとに景色は変わるというか変わっているはずで、それでいて同じ場所のようでもあり、それでも前へとにかく前へ、踏みだし踏み下ろしながらどこまでもつづいているのを、白く波打っているのを、上っているのか下っているのか俄には分からないがさしあたり次の分岐でもあり交差でもある地点まで、見え隠れに揺れている旗というか幟というか、反転していて何が記されているのか分からないその少し手前まで、僅かな風にも翻るその脇を迂廻するようにすり抜けるが微かに袖が触れたような感触がいつまでも残っているのはなぜなのか、それはいくらか湿っぽく、不快ではないものの気にはなるらしく撫でたりさすったり、フラットな平面ではなく細かな凹凸が規則正しく連なる表面に指の腹を滑らせながら手首から肘の辺りまで肘の辺りから手首まで行きつ戻りつ、肘手首肘手首肘手首と数えはしないが往路と復路とで速度に違いはあるのか、手首から肘へは上昇で肘から手首へは下降だから少なくとも重力の影響はあるだろう、それによって生じる摩擦音に消されはしないもののそれと混ざり合いひとつになって何か別様のものへと変じるらしく、あるいはひどく歪な印象というか気配というかに包まれて距離感が狂うのか、踝の辺りまで沈み込むような感覚さえあって踏みだすたびに傾くがぎりぎりで立て直しながら危うい均衡で前へ、辛うじて前へ、心持ち上向けた視線の少し先、いやだいぶ先のほう、補修した跡だろう色味の異なるいくらか盛り上がったところで線が途切れていて、尤も線は至るところで切れている、全部が繫がっているわけではない、もちろん線が切れていても道は繫がっているから何の問題もないと近づくにつれ拡がってゆくその隔たりを前に少しくためらいながらも踏みだすと、路面の凹凸が足裏を刺戟して伸びるというか滑るというか勝手に前へ、もちろん前へ、そうして黒い淵を越えると、ほんの一歩であるいは二歩でそれが背後へ流れ去ると近道か抜け道か知らないが少しく傾斜している狭い道のほうへ、いっそう暗くいっそう静かな、誰もいない、いるはずもない、とはいえ濡れたように黒い面のどこを踏めばいいのか、一瞬の迷いが命取りというわけではないが足踏みしてしまうのはこの暗さのなかで何ひとつ見定めることができないからで、その不可能性に抗って尚も見ようと眇めるとちかちかと瞬く残光の奥というか手前というか、うっすらと浮かび上がるそれは輪郭だろうか、少しずつ鮮明になる、それでいて決して鮮明にはならないそれとの距離を一定に保ちながら近づくというか忍び寄るというか、そこには急須も湯呑み茶碗も布巾もない、なぜといってそれらを乗せるものが、丸いにせよ四角いにせよ四本の脚で支えながらあらゆる用に供される、黒く塗られているが所どころ剝げ落ちて木肌も露わな卓がないからで、埃っぽく閑散として何もない、それこそ家具ひとつ置かれていない、つまり引き払ったあとらしく、どこにかは知らないが一夜のうちに行方をくらましたと言ったら言いすぎか、てきぱきと馴れた手つきで荷を運びだす者たちの影というか息遣いというかが色濃く残っているようでもあり、いずれにせよ綿密な計画に基くものだろうから再び戻ることはないのだが、あるとすれば今このときこの瞬間を措いてほかにないだろう、つまり何度でも戻れるのだが戻りたいわけではなく戻れるから戻ってしまうのだろう、遠いのに近いそこへ、無限の隔たりでありながら距離のないそこへ。

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