友方=Hの垂れ流し ホーム

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03

いずれにせよ角が緩やかにカーブしているレールによって四角く囲われたその内側の狭い、何もない、いや全部が揃っていて何をする必要もない、だから何もすることがない、といって何もしないわけではないが大したことはしていないそこで、というかここで、何を待っているのか、待つことなど久しくないと言っていいが、こちらにはなくてもあちらにはあるらしく、頻繁にやってきて計測しては記録するのを、その際ひとりが計測しもうひとりが記録するのだが、四角い画面を覗き込みながらキーを打つ手つきにせよその際交わされる二言三言にせよそこに記されることになるあらゆる数値にせよ、巧みな連携で片づけてゆくその詳細は、それが何を意味するのかも含めてよく分からないが、等しく時間に追われているだろうことは分かり、というのは歩くのが速いからで、とても追いつけないというか端から競い合うつもりもないが、尤もあちらが速いのではなくこちらが遅いのだ、絶対的に遅いのだ、かかる絶対的な遅さのうちにあって遥か先をゆく姿を、どこへ行くのか知らないが消え入りそうな、ちょっとでも目を逸らしたら見失ってしまうだろうその背を腰を尻をただ眺めているにすぎないが、必死になって追い掛けているわけではない、その必要はないだろう、ボタンひとつですぐに駆けつけるのだから、手の届く範囲にそれはあっていつでも押すことができる、それでもいくらか身構えてしまうのはいずれも似たり寄ったりの作りだからだろうか、それでいて同じものはひとつとしてないのだが、全部が違っているのだが、例えば華奢なのやがっちりしたのや高いのや低いのや鮮やかなのや落ち着いたのや、その程度の違いは分かるのだが、それなのに見分けることができないのはなぜなのか、正確に見分けるには専門的な知識が必要なのだろうか、それこそ研鑽を重ねた末にはじめて獲得できる類いの秘術めく何ものかが、いずれにせよ簡素な、機能的と言ってもいい、計算し尽された無駄のなさにある種の窮屈さがないでもなく、布は薄いし闇は深いし四囲は静寂に包まれているし、だからじっと息を潜めているしかなく、仰向けに横たわったまま深い闇のなかというか底というか、寝ているのか覚めているのかもはっきりしないそこで、というかここで、その間にも刻々と流れてゆくのだがどうかすると流れは滞り、全体に澱んで見通しが悪くなるのだろう、どこからでも現れそうな気がするが、実際どこからでも現れるのだがとくに背後が気になって壁に背を押しつけながら尚いっそう縮こまり、そうすることで壁と同化するのか誰にも探し当てられずに日が暮れてしまうのではなかったか、うずくまったまま今もまだ寒さに震えていると言ったら言いすぎか、とにかく風が出てきたらしく、行き場もなく渦を巻いているような、もちろん見えないのだが見えないなりにその動きが、首筋を掠めてゆくその流れが、途切れることなくつづく一筋の線となって白く浮かび上がっているのであるからしてどこまでも辿ることができるのだろう、そう言ってよければだが、とはいえ見る角度によって、光の当たり具合翳り具合によってまったく異なる相貌を呈するからすぐに見失って見失ったことにもしばらく気づかない、いずれは気がつくが気がつくまでは気づけない、どこを歩いているのだか、道には違いないがどの道なのだか、それでもあるかなきかの既視感を頼りに歩きつづけていったいどれほどの角を曲がったことか、緩やかなのや急なのや鉤の手のや、とはいえ曲がっても曲がってもその先に道はつづいているし道に面して建物が連なっているし四囲はひっそりと静まり返っているし刻々と傾いて路面の凹凸は見えなくなるし風は急に冷たくなるし不穏な気配は漂いだすし、それでも高い塀を越えて張りだしている二叉の枝の形に見覚えがあるから見知った道であることは確かで、その確かさを揺るぎないものにできるかどうかが鍵なのだろう、もちろんそれが可能だとしての話だが。とにかくあらゆるものが隙間なく連なっていて、いや隙間はあるが風が通り抜けられるくらいで窮屈な印象は否めず、まあ風が通り抜けられるのならあらゆるものが通り抜けられるだろう、実際あらゆるものが通り抜けているに違いない、微粒子や素粒子は言うに及ばずそれらに較べれば遥かに巨大なものも、尤も至るところ段差だらけでそれがこちらとあちらとを分かつというか隔てるというか、そのほんの数センチが乗り越えがたく、それこそ高い塀や壁と同等のあるいはそれ以上の障壁となっているらしいから容易には通り抜けられないのだが、殊更通り抜けたいわけでもないが、それでいて未知の領域へ足を踏み入れてみたいという誘惑に駆られないでもなく、いつか仄暗い隙間に入り込んでしまうのではないか、というかここはすでにそうした領域なのではないか、路面の硬さに変わりはないが切り立った崖のように聳え立つ壁に挟まれて身動きも取れないのはそのせいではないか、つまり袋小路のどん詰まりでもう右も左も分からないし前も後ろもない、上も下も定かではない、いや上と下は分かる、踏みだし踏み下ろすことができるそのかぎりに於いて、つまり重力は裏切らないということで、だから踏みだし踏み下ろしつづけるのであり、そうすることによって開かれる領域へ出るというか入るというか、こちらからあちらへ、それなのに扉はどこも閉ざされていて、もちろん錠を開ければひらくだろう、それこそ軽く手首を捻るだけで滑らかに廻転して容易にひらくのだが、それを可能にする鍵は持ち合わせていないので、尤もどんな鍵でもいいわけではなく錠に見合った、寸分の狂いもなく、多少の遊びはあるだろうがぴったりと重なり合うものでなければならない、鍵と錠の関係とはそうした不可分一体のものだろう、ただしそうした関係を構築することは容易ではないというか不可能と言っていい、いずれにせよ落としたわけでも失くしたわけでもない、抑も自己の所有に帰すものではないというか自己の所有に帰すものなどないというか、だから扉を開けることはできないのであり、といって無理やりこじ開けることはためらわれるしそうする理由もなければ尤もらしい理由をつけてすり抜ける技術もなく、だから扉は閉ざされたままでその前を通りすぎるほかないが、通りすぎてもすぐにべつのが現れる、それをすぎてもさらにまたべつのが現れるというように際限がなく、かかる際限のなさに眩暈しながらためらいがちの足どりで掠れた線を、あちこち罅割れて途切れているが途切れながらもつづいているのを踏んだり踏まなかったり、濡れていると滑るからできるだけ踏まないようにしていることもあって濡れていなくても自ずと避けてしまうのだが、あるいは避けられているのかもしれない、つまり巧みに回避してどこにもぶつかることなく物凄い速度で移動しているのだろう、微かに伝わる振動は車輪が廻転しているらしく、そうしてどこへか運ばれてゆくのだが翌日には目的地へ到着しているのか、それとも翌々日だろうか、何か行き違いが生じていつまでも留め置かれることになりはしないか、連絡が取れずに行方知れずになる可能性もあるだろう、ひんやりした空気に包まれているのは分かるがこの暗さのなかで見定めることは難しく、いやたとえ明るくても難しいことに変わりはなく、ある種の明るさは暗さ以上に見分けがたいのだから、いずれにせよ轟音を発するそれが四囲を威圧しながら通りすぎるのを待って、それから恐る恐る、でもないがゆっくりと身を乗りだすが、それを狙って突進してくるようでもあり、踏みだし掛けたのをまた引っ込めてしばらく様子を窺い、頃合いを見て再度踏みだすも同じタイミングでやってくるからいつまでも動けないのだろう。

もちろん動くわけにはいかない、無理に動かすと大変なことになる、そう脅されているわけではないが言外に匂わせているようではあり、多くの症例を見知っているその学識や経験は侮れない、あるいはこちらが過剰に反応しているだけなのか、言葉尻のちょっとした澱みや揺らぎのうちに、何気ない目配せのうちに、にこやかな笑みのうちに、隠された意味があるとでもいうように、いずれにせよ強引に割り込むことも強行突破も難しいとなれば迂廻するしかなく、見廻すと巨大な構造物があって右にも左にもあるがさして巨大に見えないのはそれ以上に巨大なものに囲まれているうえに相応の距離があるからだが右のほうが近いからだろう、そちらのほうへ流れるというか引き寄せられるというか、あるいはそれがこちらのほうへ、いつでもやめることができるのにタイミングが分からずに果てもなくくり返してしまう上っては滑る遊具にも似たそれは太い柱に支えられて見上げるほどの大きさだが、野晒しだからだろう古めかしくもあり、所どころ錆びているようだが老朽化しているわけではなく、至るところに文字が記されているが誰に向けてなのか、少なくとも注意を喚起する看板や貼り紙の類いではないから誰でも利用できるはず、もちろん無料でとそのまま進むと、慎重さと大胆さとが交錯するどこか半端な足どりで一段目次いで二段目さらに三段目と上へ上へ、頑丈に作られているのにひどく揺れるから難儀だが段の縁というか角というか、垂直面と水平面とが接するところに滑り止めがあるから踏み外すことはないと勢いに乗り、両手を広げても余るほどの幅があって遮るものがないからだろう強く吹きつける風に煽られて舞い上がり舞い落ちるのを余所に上りつづけ、果たしてそれが何段目になるのか何段上ってきたのか比較的緩やかな勾配を振り返ってみてもその正確な数は分からないが十や二十ではないだろう、それ以上上ることができなくなると、といって力尽きたわけではなく段が尽きたのであり、つまり最上段に至ったのであり、そしたら風が一段と強くなって暴風というのではないにせよ肌寒く、高所のせいか空気も薄く、いやそれはないが、それでもどこか息苦しいのは吐きだすばかりで吸い込むことができないからだろうか、あるいはその逆か、それともまったくべつの何かが作用しているのか、いずれにせよ一瞬で落ちるというか沈むというか、前後が繫がっていないらしく、尤もどちらが前でどちらが後なのか、いや抑も前も後ろもないだろう全部が一緒くたなのだから、どのように収納されているのかその仕組みさえ分からないが何らかの形で蓄えられているそれはたまに見失ったり間違えたりするがいつでも取りだすことができ、同じものが同じものとして、端的に同一なのか同一と見做されているだけなのかは分からないが。とにかくその間に、あれとこれとの間に何が行われたのか、何かが行われたことは確かだがその何かが何なのか、同意をか承諾をか得るための事前に受けた説明は書面や画像を用いた懇切なものだがその詳細というより概要にすぎないからだろう、ぼんやりしたイメージはあるが、チェーンソーで切り刻まれて血塗れになった挙げ句四散した肉片をまだ腐敗していない新鮮なうちに拾い集めようと機材や備品の散乱する薄闇に包まれた廃墟めく建物内の入り組んだ通路を常に何かの気配に怯えながら彷徨うものだが、それ以外に何も残っていない、残るも残らないもないのだろう、つまり何も失ってはいないということで、それなのに何かを失ったような、何かが決定的に失われてしまったような気がするのはなぜなのか、四囲は白っぽく粉を吹いたようだし空気は乾燥しているらしく、肌寒いのは薄着だからか、そういえば専用のものに着替えさせられたのだったか、まあ何も身につけていないよりはよほどましだが、それでも横たわったまま起き上がることもできないからカッターやナイフとも違うやはり専用の鋭利な刃物で切り開かれて中をほじくり返され、もちろん必要な処置なのだろうし傷つけないよう細心の注意を払いながらだろう、金属で補強したのち再び縫い合わされるがまだくっついていない当該部分がどうなっているのか見ることも適わず、どうしても見たいこの目で確認しなければならないというわけではない、いずれ見ることになるだろうが今はそのときではないとそのとき強く意識したわけではないが、そこへ不意に黒いものが覆い被さり、何か言っているらしいが何を言っているのか、あるいは声が聞こえたからそちらのほうへ視線を向けることになったのか、声が先か姿が先か、声のほうが一瞬早い気もするが確かなことは分からない、さらにその前に気配めくものが鼻先を掠めたようでもあり、そうとすれば嗅覚の刺戟によるのか、あるいは触覚というか皮膚感覚というか、何かそうしたものがあったのかもしれないが、それより前に、そうした諸感覚が感覚される前に意識のさらには無意識の与り知らないところで何らかのやり取りが行われて、というより何のやり取りも行われずに、何某か受け取っていたものがありはしないか、受け取らずして受け取っていたものが、というかほとんどが受け取るつもりもなく受け取っているのであり、反面受け取りたいものほど受け取り損ねてしまうのだが、そうとすれば最終的にそれらは誰の所有に帰すことになるのか、少なくとも自己の所有に帰すことはない、それはない絶対に、とにかく何もかもが曖昧にぼやけていて焦点を結ばないのは動いているからだろう、一見動いていないようでも動いているのだろう、見えるものも見えないものも一様に、いずれにせよ肌寒さと微かに響く車輪の廻転とそれによる振動とが辛うじて繫ぎ止めているらしく、その微かな響きに耳を傾けながらゆっくりと遠ざかってゆく黒い影に、黒さのなかにもいくらか明るさが含まれていてただ黒いだけではない、微妙に濃淡がある、凹凸と言ってもいい、なかば背景に溶け込んでいるがいくらか浮き上がってもいるその影に呂律の廻らぬ舌で応じるが届いたのかどうか、四囲はますます粉っぽくなって、それがぱらぱらと剝がれ落ちるのか白い粉が舞っているような、覆いが掛かったような、見えるようで見えない聞こえるようで聞こえない、模糊として捉えられないそれを捉えようとしても捉えようとすればするほど遠離るらしい、いや絶対は言いすぎか。

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