友方=Hの垂れ流し ホーム

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02

それでも執拗に洗浄するのは増えてはいけない何かが増えるからだろう、決められた手順に従って人肌に温めた湯の入った容器を翳し、遠すぎず近すぎず程よい距離を保って静かに傾けながら注ぐというか流し掛ける手つきは馴れたものだが直視することはためらわれ、あらぬほうへ視線を向けるとほら余所見しないと叱られることはないが、いやあるかもしれないと空耳めく響きに耳を傾けながら窺うと、交差しているのか分岐しているのか分からない、一定の部分が重なり合っているのだろう、交差でもあり分岐でもある地点までまだかなりの距離があって、刻々とそれは近づいてくるというか近づいてゆくというか、徐々に二点の間が狭まっていつかゼロになるのだが、それはもう確実なのだが四あるいは五もしくは六ことによるとそれ以上、圧縮されて連なる家屋が道なりにつづいているのであるからして常に一定の隔たりがあり、だからゼロにはならないのであり、いやそれはないが、それでも果てしなくつづいているような気がして徐々に足は重くなり、重くなるにつれ距離のほうも増してゆくのだろう、その間どれほどの時間が流れたのか見当もつかないが、この暗さのなかでそうした感覚はひどく曖昧になるらしく、気づけば当の地点へ至っているがそこまでの道程がいくらか欠落していることにさして疑念を懐くことがないのは馴れか諦念か無関心か、尤もこの先に、視野の内にせよ外にせよ興を引く何かがあるわけではない、それでも振り返ることをためらっているのはそのせいかもしれず、振り返ろうか振り返るまいか尚迷いのうちにあるらしく、つまり前向きなのだか後ろ向きなのだか、少なくとも前を向いていはいる、どこを向くにせよ向いたところが前なのだから、それなのに進むべき方向を見出せぬまましばし佇んでいるということになるが、尤も進むべき方向などというものはないのだから見出せなくて当然なのだが、ずっとそうしているわけにもいかないのだろう、いやずっとそうしていても構わないのだが、構わないはずなのだが、むしろ大人しくしているほうがいい、見つかったら大変なことになる、それでも真っ直ぐだから遥か先まで見通せるそこから三方へ走らせて、というのは視線をだが、もちろん首を捻ったその先に現れるものへだが、動くものがあればすぐ分かるとでもいうように素早く、ほんの一瞬だけ、だからそこに何があるのかあったのだったか一欠片も残っていないのだが、残っている必要もないのだろう、とにかく先へゆくほど米粒ほどにも小さくなるし霞んでよく見えないが動くものがないのを確かめて、それから横断するのだが、つまりこちらからあちらへ細心の注意を払いつつ、というのはこちらにはない段差があちらにはあって一段高くなっているそこが歩道なのだが、足の運びがスムーズなときとそうでないときとで、調子のいいときと調子の悪いときと言ってもいい、あるいは天候にも左右されるかもしれない、晴れていれば調子がよく降っていれば調子が悪いというわけではないが、違いがあるのだろう、丸みを帯びているから引っ掛かることはないはずだがそれでも足を取られそうになるからで、とにかく派手に転ぶことは避けたいと歩幅を調整しながら一歩を繰りだし、繰りだしたことによってさらに次の一歩を調整して、それがさらに次の一歩に影響し、そのうち訳が分からなくなって歩調が乱れると乱れを取り戻そうと焦ってさらに混乱し、その混乱に乗じるかに段差がこちらへ、巧く帳尻が合えばいいが必ずしも巧くいくとはかぎらないから最後まで気が抜けない、そんなふうにしてどうにか段差を越えるとそれがあるのだが、ずっと手前からそこにそれがあることは分かるというか分かるようになっていて、なぜといって見えているからで、もちろん見えていても見ていないことはあるというか見ていないことのほうが圧倒的に多いが、それでも注意を喚起するだけの力があるらしく、丸い突起のいくつも並ぶどこか健康器具めいた黄色いそれは路面に嵌め込まれているのだが、気にせずやり過ごせばいいものを突起が足裏を刺激するせいかつい視線が流れて俯きながら覗き見るというか盗み見るというか、その僅かな膨らみの、布が薄いせいもあるだろう、白を基調とした淡い色合いのそれは機能性を重視した簡素なデザインなのだがぴったりと肌に密着している腰から尻に掛けての曲線が妙に艶めかしい、衣擦れの音にもいくらか艶めかしさが滲んでいるようで、揺らめく白を視野の端のほうに認めながら微かな響きにも耳を傾け、そうして傾けることで推進力を得るのだが、ともすれば止まってしまいそうなほどにも微々たるものにせよ、茫と浮かび上がるその白さが、それだけが頼りとでもいうようにそのあとを追って、逃げも隠れもしないのに妙な切迫感に駆られて。

光を受けたり受けなかったりしているそれは緩やかにカーブしながらどこまでもつづいているらしく、手を伸ばしても届かないから手を伸ばすことはないが、もちろん起き上がって両足をつき、まずは右足次いで左足、窮屈と言えば窮屈だが馴染んでいると言えば馴染んでいる、素足にはいくらか冷たいサンダルに足指を深く押し込んで、さらにそこに全体重を掛けながらほんの一歩か二歩、そうすることで触れることはできるだろうがそうすることはしないというかできないというか、拘束されているわけではないが垂直に伸びる金属の棒が邪魔をして届くのは卓くらいだから自ずと卓のほうへ手が伸びることに、尤も土台の枠に穿たれた穴に差し込んであるだけでネジ止めもピン止めもされていないから取り外すことはできるが理由があって取りつけているのだから理由もなしに取り外すことはできないだろう、それこそ叱られてしまう、いずれにせよ太い金属の棒に支えられて車輪がついているから僅かな力で動かすことのできる卓の上にはプラスティックの箱がひとつ置かれているだけで、尤も最初からあったわけではなく自ら据え置いたもので、当初はふたつだったが使い勝手が悪いのだろう、なぜといって膳を置くスペースが必要だからその都度どけたり戻したりしなければならないし、どけてもそれを置く場所に困るからだろう、いつの間にかひとつになっているそこには急須も湯飲み茶碗も布巾もない、抑も卓は丸くなく、四隅は丸いが辺は直線で、その上を滑るというか撫でるというか所在なげに動き廻っていつか縁の辺りで半分落ち掛かるように投げだされたまま幾時間も経っているというのは本当だろうか、その丸みを帯びた角部分に掌を宛っていることは確かだがそれは右手だろうか左手だろうか、右手のようでもあるし左手のようでもあるが、つまり右手のこともあれば左手のこともあるということか、右手でもなければ左手でもないという可能性についても考慮すべきか否か、その他あらゆる可能性についても同様に考慮すべきだろうか、もちろん全部を網羅することはできないしそんな時間もない、尤もぶつ切れの時間の縫合部は曖昧なまま癒着しているらしいが、いずれにせよ蓋がないから中が丸見えの、側面が穴だらけの箱に規則正しく並ぶ当の穴の数がいくつなのだか数えようとは思わないが、機会があれば数えるかもしれないが、そこには紙と黒のそれとも赤だろうかボールペンがあって、その他日常のあれこれに供される雑多なものが、いずれも急場凌ぎに用意されたもので入念に選ばれたものではないが、無雑作に放り込まれているが、無秩序のなかにもある種の秩序というかルールはあるらしく、重いものは下のほうに軽いものは上のほうに、出し入れするうちに自然とそうなった可能性もなくはないが、その一番上にそれより下にあるものをなかば隠すように乗せてあるのが紙で、二つ折りにされた、裏面が外側を向いているそこには何も記されていないが折り畳まれた内側には、つまりそちらが表ということになるが、細々した文字や数字が並んでいるだろう、図形やイラストの類いもあるかもしれないが色はついていないらしく、つまりカラーではなくモノクロームということで白地に黒々した線が引かれてあって色がないわけではなく、だから派手な色に気を引かれることはないが行の間が詰まっているせいか見失いやすく、軽く目を通しただけだから何が書かれていたのだかすっかり失念している、というか抑も読んでいない可能性も否めない、見ることと読むこととは等価ではないからだが、さらに言えば見ることと見たことも読むことと読んだことも同様に等価ではないはずだが、左から右へ順に辿りながら確かめようとするも波打つような線の連なりとしか見えないのは光量が足りないのだろう、溢れんばかりの光に満ちていたのはいつのことか、それはもうずいぶん前のことらしく、まあ馴れてしまえばそれなりに見えはするから問題ないのだが、あるいはそれこそが問題なのかもしれないと弱々しく頼りない足どりで踏み締めながら前へ、そう言ってよければだが。つまりどれほど注視しても動いているようには見えないのに絶えず動いている光源は刻々と傾いていつか陰って薄暗く、いやいつだって薄暗いそこは三方を薄い布地に隔てられ、遮音性こそないが視線は通さない、常に波打ち揺れている布地の表面は白く、上三分の一くらいが網状になっていて腕は通らないが指なら二、三本通るかもしれない、それが器具に触れて引っ掛かるのだろう、あちこち破れていて、修繕されることのないまま垂れ下がった紐状のものが僅かな風にも揺れ動いているのを、そうして常にどこからか吹き寄せてくるらしく常に揺れ動いているのを、不規則なその動きを飽きもせず眺めながら、いや散々眺め尽して飽いた挙げ句のなかば放心したような眺めやりと言うべきか、漠とした印象はあるにせよほとんど記憶にも残らないから本当に見ているのか見ていたのか、尤も修繕するくらいなら新調したほうが早いというか安上がりなのかもしれないが、ゆらゆらと蠢いて已まない薄い布地の隙間からあるいは隙間を通して射し込む淡い光に少しく目を細めると、透明だから向こうが透けて見えるのだが、そこに反転した像が重なってこちらからは見えない部分がいくらか覗け、尤もほとんど布地の白い面だが、その白い面もゆらゆらと蠢いて已まず、いずれにせよ二重になった像のどちらに焦点を合わせるか、いやもうひとつ透過し反射する面それ自体を合わせて三つのうちいずれに焦点を合わせるかで見えるものは異なるが、透明とはいえ表面に付着した塵埃の類いだろう、いくらか曇りというか濁りというかがあって、それが僅かながら像を霞ませもして、常に何かが欠けているその欠けた部分を補いながら、巧く補えているかどうかはべつとして、見えているものを見ている、あるいは見た気になっているのだろう、穴があってもその存在は消し去られているから探しても見つからないのだが、それでも凝らしたり眇めたりしてしまうのはほんの一瞬見えたような気がするからか。

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