というか愛撫は常に念入りで、念入りすぎて疲れさせてしまうほどだが、その詳細については今措くとして、もちろん煩雑を避けるためにだが、それが功を奏したらしく、だから奥の奥まで届くに違いなく、というのは陽差しが、眼窩の奥に痒みを生ぜしめる暖かな陽差しが、冷え切っていた室内が徐々に暖かさを増してゆくということにそれはほかならず、いずれにせよカーテンはもう、端に寄せられ一括(くく)りに纏められてもう、いくつも襞の生じたそれは中央でくびれて艶麗な細腰を見せつけながらもう、とにかく遮るものはもう、上昇して已まない空気によって一定の流れが生じるとともに作用もしくは反作用がもう、つまり悉く掻き乱されてもう、舞い上がってしまってもう、いやそれほど舞い上がってはいないが、落ち着き払っているというのでもないが、というのは鎮めようとして吸って吐いて吸って吐いて吸って吐いて吸って吐いてと意識的に呼吸しているのだから、襞の奥から立ち上ってくる頽廃の香りに幻惑されながら吸って吐いて吸って吐いて吸って吐いて吸って吐いて、少しずつ溶けだしてゆくのかそれとも少しずつ沁み入ってゆくのかそれは分からないにせよ吸って吐いて吸って吐いて吸って吐いて吸って吐いて、と肩の力を抜いて、というか規則的リズムの齎す心地よさに自然と弛緩してゆくらしく、そうして全身で呼吸することで隅々まで酸素が行き渡って見えないものが見えるように、これまで見えなかったものまで見えるように、ということはないにせよ見えそうな気はして、だからあらゆるところへ視線を向けたくなり、というかあらゆるところへ視線を向けていて、そこにはあらゆるものが蠢いているが、空気はもちろんそこに舞う塵や埃や壁床天井さらには家具什器に至るまでひとつとして蠢かないものはなく、その艶(なまめ)かしさといったらもう、エネルギッシュな躍動に満ちているそれは遍く物質の本源的艶かしさとでも言えばいいのか、他に働き掛け他を刺戟して已まない牽引力はもう、なかでもピンぼけの影が一際目を惹くのはそれが馴染み深く近しいものだからだが、近しいと言って何か好もしいもののように感じているのではなく、なかば自己の一部のようになってしまっているという程度のことだが、視野の内をそれは浮遊してこちらからあちらへあちらからこちらへ、今ならそれを捉えることが直視することができそうで、もちろんできるはずはないのだが原理的に不可能なのだができそうな気がして浮遊するそれら影たちに焦点を合わせようとあちらからこちらへこちらからあちらへ、飛び交う影たちを追い掛けながらめまぐるしく、だから目が廻って気分が悪くならなければいつまででもそうしているだろうが目が廻って気分が悪くなったのでそうしているわけにもいかなくなり、焦点をべつのところへ、目を休めようと遠方へ、というのは窓の外へ、爽やかに晴れ渡った朝空のほうへ、そうして回復を待つうちにも縦に細長く伸び拡がって視界を遮るようにこちらからあちらへあちらからこちらへ、いくつものシルエットが狭い箱の内を幾重にも折り重なって光を浴びながら虚ろに輝く姿をあちらからこちらへこちらからあちらへ、そのため狭い箱がさらにも狭くなって見ることも儘ならず、いや見えてはいるがよくは見えず、それでも知覚を刺戟して已まないそれら影たちの蠢く様を凝視するというか凝視しようとして眇(すが)めた視線をまたしてもこちらからあちらへあちらからこちらへ、そうして横たえられた身体から立ちのぼる芳香に尚眩暈しながら二本の足を二本しかない足を垂直方向へ真っ直ぐ伸ばして地を踏み締める姿勢を取り、そうして屹立するイメージを懐きながら次いで二本の足を二本しかない足を交互に進むべき方向へ繰りだしてゆく、もちろん女のほうへ、いくつものシルエットを掻き分けながら、もちろん女のほうへ、時折よろけてしまうのはまだ目が廻っているからか、いや三半規管は充分に回復しているだろうから膝の調子が悪いのだろう、もちろんアルコールのせいでもないしそれ自体よくあることで、それでも注意するに如くはないと一歩一歩足元を確かめながら踏みだしてゆき、二本の足を二本しかない足を交互に、もちろん女のほうへ、慎重なのはいいがぎこちないというかもどかしいというか、屹立するイメージとは程遠いしなかなか先へ進めないから苛立ちは募り、それでもそうするよりほかに術がないのだからそうするよりほかなく、そんなわけで前をゆくのを後ろから、つかず離れず傅くように後ろから、とにかく大股で威勢よく歩く姿は見ていて惚れ惚れするが、鉄壁の守りのような気迫めくオーラに包まれていてどことなく気後れしてしまう、というかどうにも近寄りがたく、それでも近寄ってゆくのだが近寄りすぎると声が、どこからか声が、いけません、と咎める声が、そしてそう言われてしまうとそれより先へはもう、急所を一突きに貫かれてしまったようにもう、つまりそうした危地へと追い込まれても尚どう攻め込むか如何に切り崩してゆくのかということが課せられた問題なわけで、誰にかは知らないが、とにかく間合いを取って次の機会を窺いながら後ろからついてゆくほかないと辻から辻をどこまでも、だから頽れるように坐り込むともう、何かのモーターの音が聞こえてくるのを振り払うこともできないし、上昇から一転下降に転じてどこまでも堕ちてゆくイメージに捕えられて為す術もなく、いや目を開ければそれが上昇であることが、だから目を開けて悪しきイメージを払拭せしめるのだが、開けたら開けたでいくつものシルエットがあちらからこちらへこちらからあちらへ、忙しなく動き廻る小蠅か何かのようにこちらからあちらへあちらからこちらへ、振り払っても振り払っても執念く纏わりついてもう、その間も距離は少しずつ、縄目を解(ほど)くように少しずつ、拡がってゆくのかそれとも縮まってゆくのか、遠離っているのかそれとも近づいているのか、いずれにせよ少しずつ事態は推移してゆくわけだが、途上にあって見えにくいとしても振り返れば歴然と、どのような道を通ってきたのか如何なる辻を経てきたのか、来し方なり来歴なり何かそんなふうに形容されるだろうものが一望のもとに、まあそれは言いすぎとしてもそれなり道筋のようなものが見えはするだろう、振り返るとしての話だが、とにかく自分が今どこに立っているのかを知ることは、それが如何なる意味を持つかということを差し置いても、肝要とは言わないまでも必要ではあるだろう、振り返ってみてはじめて見失っていることに気づくこともあるだろうし、というか凡そ決定的な事態というものは事後になって明らかになるものだろうし、そうして振り返ったのだがはっきりしたことは何も、振り返ったということよりほかには何も、だから事態が推移しているのか推移していないのかについても一向に、まあ推移していようと推移していまいとさしあたりどうでもよく、結局は気構えの問題なのだとやり過ごし、というのは決定的な事態に立ち至ったときのということだが、つまりまだ決定的な事態には立ち至っていないということで、少なくともそうした認識に立って概観したときに当の認識が妥当だと見做されて、それだけでも振り返った意味はあるだろうと少しく胸を撫で下ろし、だからその膨らみに沿って撫で上げ撫で下ろしながら事態を、決定的な事態を、それがいつ目の前に立ち現れてもいいように気構えを、何か粗相をして取り返しのつかないことにならないように気構えを、それでも事態が推移しているのか推移していないのかについては一向に、いや推移はしているだろう、今この瞬間には推移を推移と認められないだけで何ごとも留まってはいないだろうから、だからある瞬間に、それがどの瞬間かは分からないがある瞬間に至ったときにそれは一挙に推移として認識されるはずで、つまりそれまで見えなかったものが見えるように、だからそれまでは、とにかくそれまでは、と撫で上げ撫で下ろしながら推移を、というか事態を、というか気構えを。