友方=Hの垂れ流し ホーム

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そうしてある種陶酔を齎す媚薬めく仄青さに囲繞されて抑えようもなくいきり立ってゆくなか予感が、いけません、と咎める声に遮られてしまう嫌な予感がまたしても、拒むようなそれでいて誘うようでもあるその声に、艶のある声に、とはいえ、いけません、と窘められることにはもう馴れているしそうした反応の返ってくるだろうこともすでに織り込み済みで、それなのにそうした声に遮られると麻痺したように鈍り、それまで活発に廻転していたのが急速に、縦横に張り巡らせた枝葉のその隅々にまで行き渡っていたのが鬱血したように、そのため次にどうするのかどうしたいのかどうすべきなのかが一向に、ひとり辻に佇んで取るべき道を失念したかのように、右へも左へも前へも後ろへも、そのいずれへも踏みだすことができないというように、つまり進むことも退くこともできないというわけで、これが上昇する狭い箱ならいつか停止して、指定した階で停止して、もちろんボタンを押したからだが、そして扉が開かれ、そこで一歩を踏みだせばいいのだが、さらには二歩目も三歩目もつづけて踏みだしてゆくのだが、右へも左へも前へも後ろへも、そのいずれへも踏みだすことができるということがそのいずれへも踏みだすことを躊躇わせ、そうした均衡状態がつづく間は、何かの拍子に均衡が破られないかぎりは、というのはこっち、という呼び声がなければ、艶やかな声が響かなければいつまででもそこで、辻の真ん中で立ち往生していたはずで、というのも碁盤目状に配された道はどれも似たり寄ったりで区別もつかないから油断しているとすぐに見失い、というのは進むべき道を、右なのか左なのか前なのかそれとも後ろなのかを、つまり女がいなければ、そのすぐ後ろに控えていなければ踏みだすことはもう、だから声のするほうへ、とにかく声のするほうへ、狭暗い路地であれぬかるんだ地面であれ声がするのならどこへでも、まあそれは言いすぎとしてもそれに近いものはあり、だから声のほうへとにかく声のほうへ、そのうち姿も見えるだろう、今は見えなくてもそのうち見えるだろう、というのは月明かりが一帯を、隈なく照らして悉く明るみに晒してしまうというのではないにせよ、仄青く照らしているからで、だから声のほうへとにかく声のほうへと声を頼りに辻から辻を、声に導かれて辻から辻へ、月明かりの下を真っ直ぐに、いやコの字に、僅かな傾斜にも気づくことなく真っ直ぐに、いやコの字に、だから頽れるように坐り込むともう、膝がもう、その流れで横たわってしまうと深く沈み込んで二度とは浮きあがれない、どこまでも沈みゆくばかりでもう二度と、とそう思い做され、それでいて重苦しさなり息苦しさなりを感じることはなく、それどころか妙な浮遊感をさえ懐いてしまうのだから不思議なもので、感覚という感覚が麻痺しているのかそれとも研ぎ澄まされているのかいずれともつかず、とにかく沈み込みながら浮遊して、今一度事態の推移を概観しようとするのだが声はもう、艶やかな声はもう、代わりに姿が、仄青い姿がグラスを掲げて笑ましげに、その背後を過るいくつもの影が、縦に細長いシルエットがこちらからあちらへあちらからこちらへ、いや違う、ただひとつの影がただひとつのシルエットがぼんやりと浮かびあがってあちらからこちらへこちらからあちらへ、手を伸ばせば届きそうなのだが巧みに交わされてしまうらしく、所詮影は影にしかすぎないのかそれとも距離感がうまく掴めないというだけなのか、とにかく背中から腰に掛けての硬く冷やかな、骨にまで響く感触に重なるように床を踏み鳴らす音がひたひたと、一歩ごと撓(たわ)んで軋む音がひたひたと、床を伝うその振動でどうにか距離を掴むことがひたひたと、正確なところは分からないにせよ大まかな位置関係を把握することはひたひたと、戸口のほうから近づいて窓の辺りまで行ったかと思うと引き返してまた戸口のほうへ、誇示するような、それでいて控えめでもある足の運びに耳を傾けているうちにまた微睡みのほうへひたひたと、いや背中から腰に掛けての骨にまで響く感触がそれを阻むらしく、というのは窓が、ほんの数センチ程度にすぎないにせよその縦に細長い隙間から絶えず冷気がひたひたと、そしてそれを掻き乱すようにあちらからこちらへこちらからあちらへひたひたと、つまり振動が最小になったときに最も離れていることを、逆に振動が最大になったときに最も接近していることを、だからその一瞬を狙って差し伸ばせば、冷気を掻き分けるように音もなく伸ばしてゆけば、そしたら踝(くるぶし)の辺りだろうか指先が、とはいえ軽く触れただけなのに凍りつくような冷たさで、冷気よりも尚冷たいことにいくらか怯みはしたものの怯んでいる場合ではないと上を目指してゆき、というのは脹脛(ふくらはぎ)からひかがみへ、ひかがみから内腿へ、さらに内腿からつけ根へということだが、そうして上へ上へと向かうにつれて次第に熱を帯びてゆき、だから次第に熱が入り、その熱の入れように呼応するかにあちらも、さらなる刺戟を受けてこちらも、というように念入りな愛撫が功を奏したのかついには襞へと至ることに、そしてその奥へも、幾重にも折り重なって容易には辿り着けないそこを掻き分け押し開き押し広げながら、何もかもを表に晒すというか表に晒したいというか、そうした情熱になかば身を任せながら、いけません、と咎める声のないのを幸いその温もりに包まれながら、高みへ昇ってゆくのかそれとも深みへ填ってゆくのか、いずれにせよカーテンを、両側から引き巡らせて中央で閉じられたカーテンを、薄青いカーテンを、つまり外へ向けて表へ向けて何もかもを開(はだ)けるというか何もかもが外へ向かって開(はだか)るというか、いやそれはないが、でもあるかもしれず、とにかくカーテンを、襞を掻き分け押し広げたようにカーテンも、そしたらすべてがよく見えるようになって隠されていたものが白日のもとに晒される、とそう短絡しているわけではないが、逆に見えすぎて困るというようなことも懸念されないではないが、というかむしろそのほうが問題かもしれないが、といってどの程度問題なのかは分からないが、いずれにせよ見えないよりは見えたほうが翳っているよりは照っているほうがとカーテンを、そうして隅々まで照らしだして闇という闇を影という影を残らず一掃してしまう陽差しを、晴れていればの話だが、簡素な箱の簡素さをそれはより一層くっきりと浮き彫りにするだろうかそれとも、とにかくカーテンを今すぐカーテンを右のを次いで左のも、そしたら隈なく満ち溢れて襞の奥まで届くだろうか届いて艶々と輝くだろうか輝いて滴り落ちるだろうか、あるいは新たな発見に心躍るだろうか心躍ってさらにも奮い立つだろうか奮い立って中心を貫くだろうか、それにはやはり陽差しを目の醒めるような柔らかな陽差しを、晴れていればの話だが、いずれにせよ目が醒めれば事態もより明瞭になるに違いなく、そのためにもカーテンを、透徹した光の往き来が可能になるそのためにこそカーテンを、それは今閉ざされているのでぴったりと隙間もなく閉じられているので透徹した光はここまでは、襞の奥までは届かないが、ひとたびそれが開かれれば透徹した光が沁み入り、そうしてすべてを溶かしてくれるに違いない、とそう短絡はできないにせよ、固く凝っていたものが柔らかく解(ほぐ)れてゆくだろうような、煮崩れてとろけてしまうだろうような、そうした作用もしくは反作用が、だから今にも立ちあがる勢いで床を軋ませ埃を舞い上がらせ、いやそれほど舞い上がりはしないが、なぜといって掃除が行き届いているからで、つまり吸い込んで噎せ返ることもなければそこに潜んでいるだろう目に見えない虫にやられることもないので頗る快適な住環境と言ってよく、華やかさに欠けるという点を除けばだが、そんな簡素な箱の窓を覆うように吊り下げられた一対の薄青い布地のほうへ、作用もしくは反作用を齎すべく右のを次いで左のも、そしたらレールを滑りゆく響きとともに遍(あまね)く光が満ち溢れて奥までもっと奥までと深々刺し貫いてゆきながら溢れだすのを受けとめながらひとつに、いずれはひとつに、いや今まさにひとつに、次第に乱れてゆく息遣いがそれ以上に乱れてゆく姿態とともにひとつに、そこへ向けてそこを目指していくつもの襞を掻き分けながら、襞という襞を押し広げながら。

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