友方=Hの垂れ流し ホーム

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07

いずれにせよ揺らぎながら隔たりが、揺らぐことで隔たりが、その隔たりをどうにかしようと企むというか目論むというか、どうにかしようとしてどうにかなるものでもないだろうが、なるならないはべつとしてそれでも尚思案しようとしているとどこからか軋みが、静寂を揺るがすほどではないにせよ響いてそちらのほうへ、目論見も企みも棚上げしてそちらのほうへ、見ると卓に手を乗せてそこへ荷重を掛けているところで、ゆっくりと、なるべく軋ませたくないとでもいうように、それでも微かな軋みが断続的に、そうして静かに腰を浮かすが浮かしたそれをまた沈め、痺れたのでもないだろう、もちろん軋んだからやり直しというのでもないだろうが、窓の向こうで葉叢が騒ぐのを眺めるふうに僅かに細めながら小首を傾げ、釣られて捻るその先に狭小な庭の一角の手入れもされていないと言ったら語弊があるがとてもそのようには見えない、鬱蒼というほどではないものの旺盛に茂る草木が覗かれて、それでも庭があるというだけで贅沢な感じがする、といってそこだけ空気が濃いような淀んでいるような重苦しさに囲繞されているからだろう、眺めているだけで息が詰まるような気がしてくるが、眉を顰(ひそ)め、顰めたまま少しく彷徨わせるうちにまた元のところへ戻ってくるのはさしあたりそれよりほかに見るべきものがないからで、さして広くもないのだが北側に位置しているのか日を遮る高い建物に囲まれているからか妙に薄暗いし湿っぽく、旺盛に茂る草木がそれに拍車を掛けているからだろうさらにも暗く翳るらしく、隅々まで光が届かないせいか卓の置かれている辺りだけ浮き立つように明るいがそれ以外は曖昧にぼやけていて、焦点を合わせようとしても合わせることができないらしく、意識して深く吸っては吐きながら整えてゆくうちにヴェールが少しずつ剥がれて像を結びはするもののどことなく靄掛かっているというか歪んだレンズ越しに眺める景色のようで、それでもどうにか肘をついて凭れ掛かる姿を今一度そこに見出し、左のほうへ傾げているからだろう斜めに寸断するようにしていくつもの皺が刻まれ、その皺の寄った分肌に密着しているが元々生地に余裕があるようでもないらしく、余計に窮屈な印象が拭えず、身を固く持しているのもそのせいのように見え、それでいて鷹揚に構えて険しさもないと感じられ、この女の態度にはどこか大人びた落付があったと言ったら言いすぎか、そうして袖があるのだかないのだか寸足らずの布が申し訳程度についているだけのその袖口から伸びるというか垂れるというか、ほぼ垂直に卓のほうへ、そのまま卓を突き抜けてその下へ潜り込んでゆき、いやそうではなく、潜り込むと見えるのは卓に反射した像で、実体のほうは卓に接したところからほぼ直角に曲がって卓上を右へ伸び、しなやかに湾曲したそれは仄白く浮かび上がって血色もよく、その先に掌が、そこには一本の指もなく、というのは表を伏せた恰好で椀状に形作っているからで、そうして何を囲うでもなく、いや自身の親指を匿うようにしてそこに据え、時折その椀の内を動き廻っては出たり入ったり、そのとき椀の縁から僅かに顔を覗かせるのだが、あるいは爪が卓面を不規則に叩いたり引っ搔いたり、意識してか意識せずにかそれは分からないが、何かを奏でているようにも見え、淡い光のなかで揺らぎながら、いずれにせよこれは一跨ぎとはいかないだろうから、もちろんそうすることは雑作もないからそうしようと思えばすぐにも実行できるがそうすることは憚られ、そうしないというかそうできないからには廻り込んで向こう側へゆくよりほかなく、つまり卓の手前右の角を左へ曲がりその次の角を左へ曲がることでそこへ至るわけだが、その反対に卓の手前左の角を右へ曲がりその次の角を右へ曲がってもそこへと至ることができるからどちらでも同じことだが、いや同じではない、というのは左廻りにゆく場合と右廻りにゆく場合とで正面から近づくか背後から近づくかという違いが生じることになるし、たとえ卓に正対している場合でも右から迫るか左から迫るかで自ずから異なる結果に至るだろうことは想像に難くなく、つまり挙措というか身振りというか所作というか、そうしたものには癖や習慣やによる身に染まった向きというものがあろうからで、さらには心臓の位置というような人体の構造上から来る方向性もあるだろうし、さらに言えば接近に伴いその位置なりその向きなりを逐一変え得ることも考慮に入れるなら尚さらで、だから無視できる類いの違いでは決してないし、それらを同じと見做してしまうことは当然できないわけで、とにかくLの形に仄白いそれを横目に右か左かを、椀の内で母指の刻む不規則なリズムに耳を弄されながら右か左かで、陰のなかへ滲んでゆきそうな、それでいて陰のなかから浮き出てくるようでもある形を前に右か左かが、膝行に及ぶまでの僅かなためらいを長引かせながら踏みだすその手前に留まって尚幾許か右か左かと、それがいつまでも終わらないような、というかいつまでも終わらないのであり、というのもそれを決するための理由なり根拠なりがこちらにはないから何の理由もなしに何の根拠もなしにそれを決することはできないからで、もちろん事前に了解を取りつけなければ何ごとも為し得ないというのではないにせよ、強引に、有無を言わせず、いかなる抵抗も封じてこちらの意を通すことだってできないわけではないにせよ、そしてそれは大いに気をそそられることだからそうしたい是非にもそうしてみたいところだが、そうすることはためらわれ、それではどうやって膝行に及んだというのだろうか、何がそれを可能にしたのか、気づけばすでに踏みだしてしまっているというか、踏みだしたあとになって踏みだしたことに気づくのであり、いつだってそうなのであり、だからそれは謎であり、未だ解決の糸口さえ摑めないが、もとより解決しようという気はないしできるとも思えないし、仮にできるとしても天啓のように降ってくるものだろうから期待すべくもないし、それでもどこかで期待している面もあるにはあって、水面下で燻っているのが折に触れ浮上するらしく、しばらくたゆたっているがすぐにガスが抜けてまた底のほうへ沈んでゆき、沈んでもガスが溜まるとまた浮かび上がってきて何度も何度でも。

向かいに坐しながら拒むでもなく誘うでもなく、それとも拒みながら誘い誘いながら拒んでいるのか、一切をこちらに託すような、あるいは試すような、そうしてどこか投げやりなそんな素振りで、どこから寄せるのか風に靡かせながら不規則なリズムとともに出たり入ったり、比較的低音の響きに時折混じる高音は爪が当たるのだろう、何かの合図のようにもそれは聞こえ、こちらにだけ伝えようと送って寄越すメッセージの類いに違いないとそこから意味を取りだそうとするが何ひとつ、つまり意味などないということか、そんなはずはないのだが、なかったはずだが、それはどこか手の届かないところへ、風に舞い波に揉まれてもう、あるいはまだ、とにかく収縮と弛緩をくり返す微かな動きがあるかなきかの揺らぎを生ぜしめ、それが肌を震わせ波打たせるのだろう、白さがより白く、暗さのなかでより明るく、くっきりしているようで曖昧に揺らぐその境界は揺らぎながら煌めきもし輝きもして翻弄するというか攪乱するというか、どうにかしてそれの意味するところを、と搔き寄せ寄せ集めもするがひとつには纏らないらしく、それらはばらばらの断片でしかないのだろうか、全体を構成する部分ではないということか、たとえそれぞれがべつの全体の構成部分だとしても同じひとつの全体には属していないということか、そうとすればそんなものをいくら搔き集めたところでそれの意味するところを捉えることはできないに違いなく、尤も微視的な視点で眼前の些末な事象にだけ拘泥するのではなく、巨視的な視点に立てばそれぞれの全体もさらにべつの、遥かに巨大な、全体の全体とでも言おうか、それらを包括する全体の部分として意味を持つだろうことが分かるかもしれないが、ただひとつの全体に奉仕する部分などというものはそれ自体が眉唾な、忌避すべき、胡散臭さに塗れているようだし、そこまで視野を拡げるのも億劫だし、いくら退屈を持て余していると言っても選り好みもすれば向き不向きもあるのであり、そんなわけでそれの意味するところは一向に、掠めるくらいはしても摑み取ることは一向に、それでも不規則なリズムを纏うというか鎧うというか、打ち出される響きに合わせるというか乗るというか、吹き寄せる風を受けながらしなやかに揺れている姿が何度も何度でも、いつか踊りだすのではないか、とそう思ううちにふらりと揺らいで膝が次いでひかがみが、また膝が再びひかがみが、最初はゆっくりと、次第に速く、その勢いで卓の上へ、かなりの衝撃なのだろう、薄い天板が激しく軋み、ほら、と跳ね上がるたびそれが嫌な軋みを立てるから少しずつ裾がずり上がって腿まで露わになっているのに気もつかず、もちろん見てはいるが見ているだけでその意味するところは捉え損ねていて、しなやかに動く細い脚ということしか残っていないらしく、それ以上でも以下でもないのを、もっと多くのものがそこにはあるはずだが、あったはずなのだが、その悉くを取り零してしまっていて、手を伸ばせば届く距離なのに遥か遠くを眺めているようで音も響かない、つまり髪を乱して踊り狂う姿に一切音はなく、それでいて騒がしく、そこに、というかここに、そうして無音の軋みが激しさを増してゆくなか膝をひかがみを、目まぐるしく入れ替わる膝がひかがみが、その合間を縫うようにして、ほら、と誘って已まないが、誘うほうは顎の一振りで済むとしても誘われるほうはそうはいかないのであり、なぜといって何でもかんでも一跨ぎということにはならないからで、節度というかモラルというか、そんなものありはしないのに、何がそれを妨げるのかあちらとこちらとに、舞台と客席とに画然と分かたれていて、そう言ってよければだが、それは途轍もなく大きな隔たりでとても越えられないと足も崩さず、少しく身を縮めて収まるのを、波が引くのを待つというか待たされるというか、そうして名を呼ばれるのを、どうしましたと穏やかながら根掘り葉掘り聞きだそうとするからだろう、次第に尋問めいてくるのを、それにつれ自白めいてゆくからだろう、ありもしない罪を告白してしまいそうになるのを、そうして判決の下されるのを、それともこれから審理がはじまるのだろうか長い、終わりのない審理が、そんなことにつき合わされるのはやり切れないことで、もっと有意義な使い道があるだろうに、それが何かは分からないがほかにもっと何かすることが、いずれにせよ待ってなどいないのだが、卓のこちら側を照り返らせていたその照り返しがいつか卓のあちら側を照り返らせている照り返しとなり、そこには刻々の移り変わりがあるはずなのに濃縮でもなく況して圧縮でもなく、最初から欠落しているようでその間というものはやはりないらしく、それを捜し求めてというのではないが乾いた布のいくらか皺の寄ったその上を滑らせると摩擦によって風のような音が立つのを、塵というか埃というか、それとも枯れ葉だろうか、堆く積もったそれが巻き上がり舞い落ちるのが聞こえるようで自ずとそばだてる恰好になるのを、そうして嵩張る割に軽いそれを引き剥がすように払い除けると端のほうが少し捲(めく)れて縦に長い三角形が向かい合わせというか背中合わせというかにふたつ、といってそれぞれの辺は歪んだ曲線だから厳密に三角形とは言えないそれは数学的三角形というより日常的三角形とでもいうべきもので、ふたつ並んだ恰好で不意にそこに出現し、その二辺の接する部分から、分かち持つというか分かち合うというかふたつで共有している線の部分から、というかその隙間から先端部分が覗いているが、外側に傾いてひどく骨張っているそれのさらに向こうで仄白く翻るのを、翻り波打つのを、そこから寄せる風が先端部分にも触れるのを、撫でるように掠めてゆくのを、それはいつのことか、もちろん今このときにほかならない。

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