友方=Hの垂れ流し ホーム

1 2 3

戻る  

01 02 03 04 05 06 07 08 09 10

03

もちろん見てはいないのだが、そっと差し伸ばして指先で軽く触れてみると撓み凹んで形が崩れ、さらに複雑さを増してゆくが複雑さが窮まると再びそれは平らかに平坦になるというか皺も襞もどこかへ消えてのっぺりとした地平が現れ、曖昧さや暗さといった様相もどこへか行ってしまうらしく、すっきりと晴れやかに拡がりながら見渡すかぎりどこまでも、そこを風が渡ってゆく、形に沿って滑るような軽やかさで、匂いをそれは運んでくるが匂いをそれは運び去ってゆき、同じ匂いをかまったくべつの匂いをかそれは知らないが、そうして劇か何かのようにくり拡げられるのを、なかば身を凭れながらだらりと垂れ下がった両の腕の少しく血流が滞って浮腫みを帯びた指先を微かに震わせながら、力なく開いたり閉じたりしながら、その微かな震えが伝わって、どこへか伝わって跳ね返ってまたこちらへ、それともこれは反響などではなく抑もあちらから発するものなのか、あちらとはしかしどちらか、少なくともそれはこちらではないらしく、それでも震えがあるということはたしかで、震えとは何かを履き違えていなければだが、ある種の震えがここに、それが何なのかを知るには当のそれを手元へ引き寄せなければならないが手元へ引き寄せるには摑み取らなければならないし摑み取るには差し伸べなければならないわけで、なぜといって眼差すだけで眼差した当のものを自在に引き寄せることはできないからで、それとも何か特別な訓練や特殊な鍛練や過酷な修行なり修練なりあるいは難行苦行とかによって身につけることができるものなのか、仮にそうだとしても誰にでもというわけにはいかないだろうからこうして指先を、震える指先を差し伸ばしてどうにか手繰り寄せようとしてみる、その何かを、とはいえ手繰り寄せることができなければ分かりはしないのであり、果してうまく手繰り寄せられるか否か、成否はそこに掛かっていると言っていいがうまく行ったためしは一度もなく、それでも何度かいいところまで行くことはあって、数がものを言うというか、何ごとも回を重ねれば熟達とは言わないまでも上達はするのだろう、少しずつではあるが着実に前進しているという実感はあり、だから今度こそはと期待は膨らむばかりだが成果となると一向に、つまり実感など当てにならないということか、そうとすれば前進などしていないことになるが、停滞しているとしても後退はしていないだろう、それとも、いやそんなはずは、そうかといって、だがしかし、いやあるいは、と際限もなく循環するのを振り払い振り切って、凭れ掛かるか横たわるかしながら果てのないくり返しをくり返すこと、それは同じことなのかそれとも違うことなのか、どこまで行っても同じは同じでしかないのかそれとも同じは違うへといつか行き着くと言っていいものだろうか、いずれにせよ動かない、というか動けない、今はもう、あるいは今はまだ、それでもほんの少しだけ、微かな震えとともに指の先を探るように差し伸ばしてゆくとそこに触れるものが、微かに触れるものが、それは湿っているのかそれとも乾いているのか硬いのかそれとも柔らかいのか冷たいのかそれとも温かいのか、生きているのかそれとも死んでいるのか、慎重すぎるのもよくないが大胆すぎるのもそれはそれでよくないと慎重さと大胆さの間を狙って、その加減が難しいが、それをこそ成し遂げなければならないと大仰に構えるつもりはないものの必要以上に力が入っているらしく、といってどこにそんな余力があるのだか、できれば蓄えるなりほかへ転用するなりしたいがそう思い通りにはならないらしく、そのせいでもないだろうが不意に断線するしすぐに混線するしと何かと不調がつづいていて、抑も不調でないことなどあるのだろうかあっただろうか、長く使えばあちこちガタが来るのは仕方ないしいずれ使いものにならなくなるときが来るだろうことも避けられないが、それまでは使いつづけなければならないわけで、というか替えはなく、たったひとつ支給されたこのものを使うよりほかないのであり、尤も交換できる部品はいくつかあるが全部というわけにはいかず、いずれにせよ数秒か数十秒か数分か数時間か数日か数ヶ月か正確なところは分からないのだが、抑も正確さというものから遠く隔たっていることもあって尚さらそれは曖昧になるし近づこうとしても近づけないというか近づくほどに遠離るというか、もちろん正確さを無視したり蔑ろにしたりするつもりはなく、できることなら正確さに寄り添っていたいがそうもいかないらしく、とにかく何某か不調に見舞われたらその究明に取り掛かるのは当然というか、少なくともその必要は感じるだろう、実際に取り掛かるかどうかはべつとして、そんなわけでまずは電池切れを疑い、それから接触不良を疑うが、それでも自ら分解して確認するなんてことはできない相談で、なまじ素人が手を出すと却って取り返しのつかないことになって宜しくないと手を出し兼ねてもうどれくらいになるのか、もちろんそれを生業(なりわい)とする人が、専門の人がいるだろう、どこにかは知らないがどこかに、経路のどこに故障があるのかを過たず探り当てることに長けたスペシャリストが、いや数ヶ月は言いすぎか、長くてもせいぜい数日だろうか、あまりにも退屈だから実際以上に長く感じてしまうのも無理はない、もちろんそれだけのせいにはできないとしても。

というかそれは本当に不調なのか、あらゆるものが変化の内にあるなかで不調とそうでないものとの違いが分かるものだろうか、好調の裏にも不調は潜んでいるものだろうし不調の内にも好調の機は胚胎しているだろうし、もとより何と比較しての不調なり好調なりなのか、その絶対的基準というか中心というか、何かそうしたものがあるとしてそれをどこに据えればいいのか、抑も不調とはいったい何かということが、不調を不調たらしめているものが何なのかが今ひとつ定かではないとすればそう軽々に主張することは控えるべきではないか、それこそスペシャリストではないのだから、それについて教えを乞うことはあっても教えを垂れることなどできないのだから、そうとすれば単なる可能性として、根拠らしい根拠もない愚昧な臆見として、違うかもしれないが違わないかもしれないくらいの控えめな態度でいつでも取り下げられるようにしておくのが妥当だろう、そうして横になってそれとも腰掛けて安静にしていればいずれ治まると楽観しているわけではないが、むしろ悲観しているくらいだが、なぜといってどん詰まりの行き止まりの袋小路のこれ以上落ちようもない底の底と言ってもいいような場にあるのだから、そうしていずれ起きるだろうことを、というか今すぐにも出来するだろうことを先送りしているだけなのだから、いずれにせよ小康というかそれなりに落ち着いてはくるからそうした小康へ向けて舵を切るつまり安静にするというわけで、そしたら滞っていたのが流れだすのだろう明るさが遠退くか近づくかする、つまり変化を変化として捉えられるようになる、換言すれば差異が差異として浮き上がってくるということで、その結果というわけではないだろうが、あるいはその結果なのかもしれないが、目映い白さが膨らむのが、風を孕んで膨らんでゆくのが分かるというかいつも以上にはっきりと窺えるようになる、というのはそこに窓があるからだしその窓が開け放たれているということをもそれは意味するはずだからで、手を伸ばしても届かない距離にあるからいつ誰が開けたのだか、誰かが開けたのに違いないがその誰かが誰なのか、とにかくまだまだ検証の余地はあり、なぜといってそう簡単に因と果とを結びつけられるものではないだろうし、というか抑も因と果とが絶対的必然的に結びつくことなどあり得るのかどうか、いずれにせよどんな些細なことであれ検証し尽すということはないだろうから可能なかぎり検証しつづけねばならないからで、それでもさしあたり否定材料は見当たらないし、何であれ窓というものは光なり空気なり風なりの目に見えない粒子や波を、もちろんもっと大きな目に見えるものも通過させたり遮断したりするものだろうからそう見做しても強ち間違いではないだろう、そんなわけでそこが通り道となって何某か流れが生じているということになるが、そこが通り道となっているからにはその反対側というか向かい側というか、窓と窓とが向き合う恰好で開け放たれていることが自ずから想定されて、尤も必ずしも向き合っている必要はないが入口と出口とがなければならず、それとも扉だろうか、窓だけがあって扉がないなどということは建物の構造上考えにくいからそれは扉かもしれず、もちろんそうした構造上あり得そうにもない可能性も考慮する余地はあるだろうからいつでも取りだせるよう手元に置いておくが、尤もそんな可能性は少しも考慮したくないが、いずれにせよ右のほうから左のほうへ、右から入ってきたのが左へ出てゆくのであり、そしてその途中にあるものを掠めるというか撫でるというか、すぐ傍を音もなく滑ってゆくらしく、目映い白さを目映く煌めかせながら膨らませながら、そうして目映い白さが最大に膨らんだその瞬間、指先にそれが触れるような気がするのは錯覚だろうか、ただ風が撫でてゆくだけのような気もするがたしかにそれが触れているとも感じてしまうのはやはり触れているからではないのか、どの指かは問わないとしても、というかどの指であれ、それでも例えば小さな虫が、羽虫か何かが飛んできて這っていると仮定してみる、とそれはもうそうとしか思えないほどに確実なものとして意識を領してしまい、そこを、指先を這ってゆく姿さえ見てしまうというかたしかにそれを目にしていて、ほとんど自動的にその動きを追い掛けている眼差しが眼差すそれは六つある脚を巧みに動かしながら忙しなく動き廻っていて、一方それは脚ではないが脚に似た脚様のものを、先端から突き出ている二本のそれを、頻りに蠢かしながらどこへ向かうのか向かっているのか、どこか酔漢めく足取りの迷い迷いの動きに少しく親しみを覚えるからだろう、加えて不衛生は排すべしとの声がすることもあって捻り潰すのは止して息を吹き掛けるに留めるが、それでも簡単に弾き飛ばされて落下してゆくそれは落ちながらもすぐに羽を広げて葉脈のような細い筋が網目のように走っているに違いないその羽を上下に震わせ、尤もそれを見ることはできないが、なぜといって動きが速すぎて捉えられないからで、それでも何か特別な装置によって捉えたものを目にする機会を持つことはできるしそれを記憶に留めておくことだってできるし高速で羽を上下動させることで揚力が生じることを理解することもできるわけで、その揚力によって下降から上昇へと転じるのだが、そのままどこかへ飛んでゆく姿はもうはっきりとは捉えられず、小さな黒い点が動いているのが分かるくらいだが、それもすぐに追えなくなってもう羽音も聞こえない。

01 02 03 04 05 06 07 08 09 10

戻る 上へ  

1 2 3


コピーライト