いずれにせよ凝らすというか傾けるというかすると何かが、何かは分からないが何かがこちらのほうへ、それともこちらのほうが、あるいは互いに引き寄せ合うようにして少しずつ露わに、そこでさらに凝らすというか傾けるというかするといっそう露わに、そうなると欲が出るのだろうもっと露わにしようと意を注ぐことになるが注げば注ぐほど露わになるかというとそうでもないらしく、露わといってもその露わさにも限度があるということか、いくらか曖昧さが潜むらしく、それでも向きになって凝らすというか傾けるというかすると曖昧さのうちにも何某か開けてくるというか到来するというか、少しずつヴェールが剝がれて艶やかに濡れた素肌が露わになって、薄明かりの下で立てた膝をだらしなく開き気味に露わな内腿をこれ見よがしにこちらのほうへ、それを隠そうともしない腕は力なく垂れ下がって滴るまま拭いもせず、とそんなありもしない姿を見てしまうことに、微かに波打つ腹の辺りだろうか、仄白く照り映えるのを、ほら、と誘うように囁くのを、尤も何も聞こえるはずはないし何も見えるはずはないのだが、それなのに聞こえるし見えるしあとからあとから流れ込んでくるというか湧きだしてくるというか、でもいったいどこから、どこからかは分からないがどこかから、とにかくどこかから、頼みもしないのに、何ひとつ頼んでなどいないのに、素早く蓋を閉じないと次のを投入されてしまうが一口で食べきれる量だからだろういくらでも入りそうな気がする、もちろんそんなことはあり得ないから徐々に動きは鈍っていつか手は止まり、勝敗とは無縁なのに妙な敗北感に打ち拉がれて俯き加減に四囲を盗み見ながらそそくさと逃げだすほかない椀子蕎麦みたいにそれは止め処なく溢れて溢れ返ってもう、どこかから、何であれどこかから、だから聞くよりほかになく、だから見るよりほかになくもう、収拾がつかない、つくわけがない、せいぜいひとつかふたつを拾い上げ掬い上げることができるくらい、いやそれさえ覚束ないと言ってもいい、とにかく溢れだし流れだしてもう、あるいはまだ、そういえば細長い円筒を縦に二分したようなそれをほんの僅か斜めに据えたその上というか中というか、窪みに沿って流れてくるのを摑み取ろうと構えているが、僅かに出遅れたからだろう遮るように突き立てたときにはもう、そうして流れ去ってしまった透き通るような白さはいったいどこへ、それは今どこを流れているのか、いつかまた上から流れてくるのだろうか、と振り仰ぎながらどこか投げやりな眼差しで眺めやる眺めやりに応えるように見えてくるそれは黒っぽい何かであり湿っぽい何かでもあり、開るというか聳えるというか見上げるほどの大きさで空の全部が覆われていると言ったら言いすぎか、それでも大部分は覆い尽されているらしく、頑丈というか堅牢というかちょっとやそっとのことでは壊れそうにない硬さを、しなやかさというか柔らかさというかそうしたものとは対極にある性質を示しながらそこに厳然と、とはいえ斜めの線が次いで横の線がさらには縦の線も加わってそれらがごちゃごちゃと混ざり合っているからだろう何が何やら、そうして傾ぎながら揺らめきながら折れ曲がり伸び縮みしてもう、その自在さたるやもう、それでいて堅牢さを具えてもいるのだから何が何やら、要するにまったく以て理解を超えているというか抑も理解し得ると見做すこと自体莫迦げているとさえもう、もとよりそんなことを考えている余地などないというか考えるより先に身体が手足が動いているらしく、より原始的な行動規範にシフトして、つまり意志の統御を離れて勝手に先へ行ってしまう不届きと言えば不届きな已むを得ないと言えば已むを得ない、そうした不測の緊急の事態と言ってよく、というのは前というか上というか斜め前方だろう差し伸ばした手をまた自身のほうへ引き戻し再度斜めへ差し上げてまたそれを胸元へ引き寄せる、そうすることで生じる対流によってこちらへ引き寄せることが、それともこちらが引き寄せられるのか、うねりながら渦を巻きながら覆い被さりそれからまた遠離ってゆくらしいそれはとても柔らかくて冷たくて何より摑みどころがないから摑んでも摑んでもすり抜けてゆき、というのは指の間をだが、さらには隙間という隙間をだが、それでいて全身に絡みつき纏わりついて、それこそ首や肩や背や胸や腹や腰や脚や、凡そ身体の表側というか外側というか、それらを引っ括めて全部にだが、重く伸し掛かってくるのだから何が何やら、さらには内側へも容赦なく入り込んでくるのだから、どんな狭い隙間にも入り込んで全部を埋め尽すのだから、完全に自由を奪われているわけではないにせよほとんど自由が利かないのだから、尤もそんなことになってしまうのはまだ扱いに馴れていないからで、自在にというほどではないにせよそれなりに操ることができるようになるのはもっと先のことらしく、それでいてずっと前のことなのだが、ぬめりのあるどろどろした不定形のそれの内でその摑みがたさ捉えがたさに囲繞されて喘ぐというか悶えるというかもう、あるいはまだ。
いずれにせよそれに色はなく、もちろん色はあるだろうあるに違いないがここまでは届かないらしく、あるいは届いてもうまく捉えられないらしく、感覚の問題か知覚の問題か認識の問題かそれともそうしたものとはまったくべつの問題か、とにかく色が色として、色を色として、それでも淡い濃淡くらいは見分けられるつまり濃い部分と薄い部分とに分かたれているのが、ここは濃いあそこは薄いというように濃淡のあることが何となく感じ取れはするらしく、ただ目まぐるしく変化しているからだろう、それの本体というか正体というかは全然捉えられず、濃くなったり薄くなったりしているのが分かるくらいのもので、そうしてその中というかその間(あいだ)というか、内側というか外側というか、自在に伸縮するその隙間に塡まり込んで絡め取られて動くに動けない、いや動いてはいるが力が相殺されてプラスマイナスゼロということに、もう幾日もそんなことをくり返していると思しく、あるいはもっと長くを費やしているのかも、だから立っているのか寝ているのか、少なくとも横たわっているのではないらしく、それでも垂直方向に向いていることはたしかで、というのは一方に天があり他方に地があるとすれば一方が天に面し他方が地に面しているからで、とにかく地に足がついていないからだろう、立っているとは言いがたく、それはどこか見えないところにもっと奥のほうにそれとももっと上のほうにか隠されているらしく、少なくとも目の届く範囲にはなく、それを明らかにしようとするがそのたびに大きなうねりに襲われて面の下から面の上へ面の上から面の下へ、つまり面の境界を行ったり来たり、そのたびに明るさが増したり明るさが減ったりするし音が明瞭になったり音が不明瞭になったりもして忙しなく変化しつづけて已まないから断片的にしか捉えられないらしく、だからそれらを繋ぎ合わせても作りはじめのパズルみたいに穴だらけの像をしか得られず、それで何かが分かるとか分かったとかとても言えないし、何もかも中途半端でぎこちなさが拭い得ないからだろう、借り物めく余所余所しさというか嘘っぽい感じが常にあり、嘘と斥けることもできないが本当と受け入れることもできず、だんだんどうでもよくなって全部を投げだしたくなる、いやそれはないが、全力で抗ってはいるが、見当違いの方向へ向かっている感は否めない、といってどこが向かうべき方向なのだか、音痴ではないのだが、なかったはずだが、方角とか向きとかいったものが意味を為さないわけではないにせよあまり役に立たないらしく、何よりこう暗くては見えるものも見えないし、それでも闇雲に向かって辿り着いたその先で、それをしも辿り着くと言っていいものかどうか、とにかく漂着したところで一定の姿勢を保ちながら開いたり閉じたり、入れたり出したり、差したり抜いたり、尤も今はもうどこもかしこも、上も下もあれもこれも、何もかもごちゃ混ぜになっているからだろう、あまり寛げないし眠りが浅いのもそのせいに違いなく、もちろんそれなりに寛いではいるしそこそこ眠れてもいるのだが、というのはある種の規則正しさを強いられているからだろう、分刻みの過酷なスケジュールではないにせよ、それでもとても充分とは言えず、全き寛ぎ全き眠りというものがあるとしてそうしたものとは凡そ懸け離れているそれらは眠りとも寛ぎとも見做し得ない中途半端なものだから何がなし負担を掛けているに違いなく、少しずつでも溜まってゆくといつか臨界に達し、そうして臨界を超えて溢れ出てしまうとそれなりに影響が出てくるということか、直ちに影響はないとしてもじわじわ蝕まれているということかもう、あるいはまだ、そんなわけで乾いているにせよ濡れているにせよ、もちろん今は乾いているがそのときは濡れていたに違いなく、いやたしかに濡れて滴っていたのだから濡れて滴っていたと言ってよく、つまり濡れて滴っていたわけで、今も濡れて滴っていると言えないことはなく、だから今も濡れて滴っていると言ってしまうが、窓を細目に開けて高い三階から外を見渡した時分には、もう世の中が一面に濡れていたというのではないにせよ、それでも乾いていると言えば乾いているわけで、つまり濡れていると同時に乾いてもいて、白さと黒さとのいずれもが作用しているのだろう、交錯する白さと黒さの、混ざり合い溶け合う白さと黒さの、その無限の階調が、こちらの与り知らないそれはべつの世界の出来事と言ってよく、それでもいくらかその残響が漏れてくると見え、そのかぎりに於いてこの世界の出来事でもあるのであって、とにかく纏わりつく布地に素肌が透けて見え、素肌よりも尚素肌めくそのあられもなさは見ることをためらわせるが、それでいて見ることを誘いもする、というのは引力と斥力とが同時に働いているからだが、見ることと見ないこととを同時に行うことなどできるのだろうか、できるとしてそれは見ていることになるのか見ていないことになるのか、丸みを帯びた線に沿って流れる幾筋もの皺というか襞というか複雑な起伏をそれは形作っているが、そのひとつひとつは単純な起伏でしかなく、つまり盛り上がった山と落ち窪んだ谷とのふたつの部分から、たったそれだけから成り立っていて、もちろんなだらかな平坦部もあるにはあるがそれは山から谷へ谷から山への移行に於いて捉えられるにすぎないからいずれ山か谷かに収斂されるのであり、つまり山と谷とでできているわけで、そうして山谷山谷山と交互に連なって、谷山谷山谷のくり返しがいつか単純さを超えて一見して捉えがたい形となって迫り来るのであり、艶かしさや妖艶さや寛ぎや頑なさといったような意味を纏って、要するにそれを見ている、というか見ようとしている、そう言ってよければだが、つまりごく薄いヴェールを通してその向こうに透けている素肌を、しっとりと濡れているその艶やかさを。