友方=Hの垂れ流し ホーム

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というか端から聞こえてなどいないのだが、だからいるのだかいないのだか、もちろんいないのだが、少なくともここには誰も、それなのに引っ切りなしに出たり入ったり現れたり消えたりするのだから、そうして眼差しを、窺うような探るような訝るような憐れむような物問いたげな、時に威圧的な見下すような蔑むような、さらにはそれら全部を一緒くたにしたような、あるいはそのいずれでもないような、無関心なのか無関心を装っているのかその存在を丸ごと消し去ってしまうような、要するに一義的に決定することの不可能な、投げて寄越すのだから、それら全部を相手にしていたら疲れてしまうのも道理で、とても身が保たないだろうから適当にあしらっておけばいいものを退屈だからだろうか、恐らくそうに違いないが、そちらのほうへ流れてぶつかるというか交差するというか、直に触れる以上に直接的なその接触は表面のみに留まらず内側にまで浸蝕する体のもので、ねっとりと纏わりついて指と指との間に滑り込み絡まり縺れて拭っても拭っても吹きだしてくる汗のようで、というか汗なのであり、至るところ濡れて滴ってゆくのを、滴り落ちて染み込んでゆくのを、汗ばんでゆくのを、それはほんのついさっきのことで、それでいてもうずっと前のことだが、閉じていたのを開くとそこにそれが、眩しくはないが明るい、眠気を誘うものが、一方で眠気を払うものでもある温かな、上のほうから注がれる、上とはしかしどこだろう、上を上たらしめているのは何なのか、とにかく射し込むというか押し寄せるというかして満ち渡り溢れ返るのを、汗ばんでゆくのを、いずれにせよ見つめる眼差しとともに浮かび上がってくるのは影だろうか、ゆっくりと近づいてくるのは警戒しているのでも恐れているのでもないらしく、眼差すことを遅らせる何かが間に挟まって全体に間延びして見えるのでもあろうか、ゆっくりとしかし確実にそれはこちらのほうへ、そうして手が届く近さまで来るとそれまで一定の長さで縦に伸びていたのがあるところを軸に折れ曲がってこちらへ覆い被さってきて、そのせいで暗く翳ってこちらからはよく見えないが顔を差し向けているらしく、ほかにも蠢くものがあるがどこから湧いて出てくるのだかひとつ増えふたつ増えしていつかいくつもの影となってそこらに溢れ、それらは全部同じものなのかそれともひとつひとつ違うのか判然としないが、なぜといってどれも似たり寄ったりの姿で区別できないからで、尤も具に観察すればそれぞれの違いが判然としてくるかもしれないがあちこち動き廻るからそれはそれで難しく、それでも性格や性癖までは無理としても性別や年齢くらいは分かるかもしれず、とはいえそこまでする気はないからただ漫然と眺めているだけで、だからいつまでも違いが分からないのだが、その程度の違いが分かったところでさして益することはないだろうし十把一絡げに影としてうっちゃっておいてとくに不都合もないようなのでそれで済ませていると、取り巻くようにして寄り集まって覗き込んでくると見え、その眼差しが重苦しいというか気まずいというか、いかにも不躾な感じで神経に障るからだろう少しく目を逸らしてやり過ごすほかないが、どこへ向けても向けた先には影があってその眼差しとぶつかり、それで八方塞がれてどこへも向けられない眼差しはどこへ向ければいいのか、もちろんどこへも向けなければいいわけで、つまり開いているのを閉じるのであり、そしたら全部が黒く塗り潰されて闇に覆われ、瞼を通過する僅かな光まで遮ることはできないから全き闇ではないにせよ、それでも彼方へ斥いて微かに明滅する程度のそれはざわめきというか、無視できるほどのものだからだろう、外から内へ反転するというか向きが変わるというか、それまでどこに隠れていたのだか背や腹や腕や腰や脚やが戻ってきて、それが位置していた当の部位へ収まるというか塡まるというかするのだが、脱ぎ散らかした衣服を身に纏うようにして、それなのにどこかぎこちなく余所余所しく、折角戻ってきたというのに少しく隔たりがあってうまく操作できないらしく、それどころか指先というか足先というか、それら先端部分が痺れるような麻痺の感覚に浸されて徐々に全身へと拡がってゆき、一方で意識のほうは研ぎ澄まされるというか明晰になって、それによって隔たりはいっそう拡がるらしく、感覚との乖離が高じるにつれほぐれてゆくというか解体されるというか、感覚同士の連絡が絶たれてばらばらにされてゆくような、屠られる牛か豚か羊か犬にでもなったような、何かそんなふうな不安定な嫌な感じに領されて、そうしてばらばらになった感覚の内で唯一と言っていいそこだけが繫がっている部位に意識は集中するらしく、それが差し迫った焦燥を駆り立てるのか、それとも差し迫った焦燥によって繫ぎ止められているのか、というのは渇きが、だから何か潤すものを、とそれを訴えようとするがどのようにして訴えたものか、というのは何によって潤されるのかそれさえ分からないからで、抑もそれが癒えたためしなどあっただろうか、何によっても癒えることがないとすればそれをしも渇きと言っていいものだろうか、それともそれこそが渇きというもので易々と癒えるくらいなら本当の渇きではないということか、だから今も渇いているのか、そうして癒えることのない渇きに浸されながら開いたり閉じたり、そうとすれば訴えたところで聞き届けてはもらえまい、要するにほとんど無駄な足搔きに等しいのだが、かかる交通それ自体が成り立つともかぎらないわけだし、だからといって何もせずにいることもできないし、なぜといって渇いているからで、つまりこの渇きをどうにかしないことには何もはじまらないのであり、いやもうすでにはじまっているのだが、序盤か中盤か終盤かそれは知らないが、とにかくこの渇きを、それを訴えようとするのだがどのようにして訴えたものか、と尚幾許か巡るうちに騒ぐというか蠢くというか、慌ただしく四囲が揺らぐと言ったら言いすぎか、吹き寄せるたびに踊るそれは少しく襞を寄せながら今も白く翻って淡い影を落とし、滲んだり霞んだりと絶えず変化しながらもそれがそれでありつづけるのを見るというか見せられるというか、それを背景にその手前でスクリーンに映しだされる映像のように何度も何度でも、いつか目にした場面とそっくり同じ光景を何度も何度でも、もちろんそうと断定はできないが。

いずれにせよ薄れたり濃くなったりしながら影たちは頻りに何やら囁き合うというか頷き合うというか示し合うというか、少なくとも罵り合っているのではないらしく、こちらの窺い知れない言葉で以てやり取りしている様子だが誰ひとり教えてくれないから一向に要領を得ず、起伏に乏しく抑揚のない声たちを、その密やかな囀りを、他人事のように聞き流しているほかにないが、それでいて聞き取ろうと耳を傾けてもいるのだから辻褄が合わないが、ひどく退屈なそれは時間で、といって退屈ではない時間などないに等しいが、いつだって退屈なのだから、苦行と言うと語弊があるがどこか試練めくその退屈をどうやり過ごすかどうやり過ごしてきたのだったか、いややり過ごすも何もただ待つのみで、つまりそうするよりほかにないのだからそうするよりほかになく、そうしてひとつ減りふたつ減りしていつかまた誰もいなくなるのを心待つうちに本当に誰もいなくなり、だから誰にも気づかれることなく行くというか帰るというか、越えるというか潜り抜けるというか、要するに一跨ぎなわけで、次なるステージへさらなる階梯を昇りゆく、いや昇るというよりは降りるというべきか、なぜといって徐々に暗さが増してゆくからで、とにかく闇が下りて見ることもなく見られることもなく触れることもなく触れられることもない、そんな全き安息の時間が不意に訪れて穏やかな心地よい風が吹き寄せるというようなことにならないともかぎらず、それこそ心休まるひとときで、そう言ってよければだが、淡い期待を懐きながら閉じたり開いたり締めたり弛めたり、そんなわけで最初から誰もいやしないのであり、少なくともここには、今ここには、誰も何ものも入り込む余地はないと言ってよく、ただ風が吹き抜けてゆくだけ、花の香を乗せてこちらからあちらへ、右から左へ、それなのに穏やかでも心地よくもないのは気配を感じるというかたしかな気配があるとそう思い做されるからで、息を潜めてしまうのはそのせいだろう、息遣いひとつ衣擦れひとつでも波が立って四囲に伝播し、瞬時に遍く知れ渡ることに、だから滅多なことはできないとなるべく身を縮めて波風立たないようにしているほかなく、余計なことは考えず、少しは考えるがほとんど何も考えずに待つというか待たされるというか、五人掛けだろうか、無理すれば六人くらいは収まりそうな、片隅にあるビニール張りの長椅子の端に浅く掛けながら、背凭れもないからどこにも凭れることができず、壁際に置かれているものは壁が背凭れの代わりになるが誰しもそう考えるからだろう逸早く埋まって空いているのは稀で、そんなわけで前屈みに項垂れていると尚さら病人めくが、長時間の待機にも拘らず硬い坐り心地のそれは大量生産の粗悪品とは言わないまでもただそこに坐っているだけで腰を痛めるというか、新たな疾病が生じてしまうだろうような、それを密かに狙っているに違いない、そうした類いのもので、それでいて不平の声がどこからも上がらないのは項垂れながら待つうちにどこかへ紛れてしまうというか、恐らく座面から吸い取る仕組みに違いないが、そうした意気をさえ挫いてしまうからだろう、とにかく待機を命じられているからには待機していなければならず、なぜならいつか声が掛かるからで、少なくともそう思い込まされているからで、それもまた座面から注ぎ込まれる仕組みに違いなく、そうして名を呼ばれたら指定の扉を開けてその向こうへ、そこで見るというか診られるというか、待ち構えていたようにどうしましたと平板な、妙に落ち着き払った声に不意を打たれて、もちろん待ち構えていることもそう聞かれるだろうことも予め分かっているが、分かっていても尚平静ではいられず、事前に用意していた文言も引っ込んで、己が罪状を認めた罪人めくが促されるまま洗いざらい打ち明けてしまうことになるのは弱みを握られているからだろう、それからもういいと言うまで足繁く通いつづけねばならないが、もちろんそうすることに否やはないし率先してその指示にも従うつもりで、そうでなければわざわざ出向いてくることもないわけだし、いくら暇を持て余しているからといって悶着を起こしにくる道理もないし、もとよりそうした趣味も持ち合わせていないし、かといって模範的な優等生的な、扱いやすく与しやすい手合いと見做されるのも本意ではないが、尤も法外な額を請求されるとしたら話はべつで、つまりこちらの懐具合を勘案しなければならないような事態は避けたいということだが、そうした噂が囁かれていたり呟かれていたりするのを耳にすることもないからさしあたりそれは考慮しなくてもよさそうで、それでも不可解な挙措や言動やちょっとした言い淀みも見逃すまいと研ぎ澄ましていて、目つきや物腰にそれが現れるのだろう、こちらのほうが逆に訝しがられることになり、それによってこちらもまた不審を募らせることに、それがさらに向こうを刺激して、それがまたこちらへ伝搬するというように連鎖的に拡大してゆくのを、そうして却ってありもしない恣意的な関連づけをしてしまうことになるとしても避けることは難しいし、いつか決定的な不和を齎すことになりはしないかとの懸念がないでもない。

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