友方=Hの垂れ流し ホーム

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そうして窓越しにただ眺めているだけなのに胸は高鳴るし何かしら熱いものが込み上げてもくるから居ても立ってもいられず、窓を開けて半身を乗りだせば同じく歓喜に打ち震えたと思しい人があちこちで窓から半身を覗かせているし、通りには凱旋するヤマトのあとをついて歩く人らが犇めいているしでとんでもない騒ぎになっていて、いや、滅亡の危機から脱せられるとなればそれも頷けると改めてその勇姿をじっくり眺め入る。空中をゆっくりと移動するヤマトは自宅マンション上空をかなりの時間を掛けて通過し、建物の影に隠れていよいよその姿が見えなくなるとこちらの胸の高鳴りも少しく治まったが非常な満足を得たから窓を閉めて部屋へ戻り、またテレビを点けると虚報と罵ったことを詫びるかに畏まって画面を注視するが、そこに現れたさっきのアナウンサーはわずかに険しい表情でこちらを見据えながらも殊更こちらの讒言(ざんげん)を咎めるふうでもなく、新たに入ったニュースを淡々と読みあげているがその内容にはまたしても驚かされてしまう。アナウンサーの右上方に四角く区切られた合成画面が現れ、そこに映しだされたのは今の今眼にしたばかりのヤマトの映像だが、その偉容の凄まじさが画面を通しても伝わってくるから胸の高鳴りも再燃するようで、そのこちらの昂りをしかし鎮めんとするかに冷ややかな口調でアナウンサーの報じているのはそのヤマトがニセモノだということで、詳しいことは調査中とのことだが取材を受けていた事情通のA氏が頻りに首を捻っていたのが尤もらしく見え、その後確認したところ偽ヤマト現わるの報は各局で流されていたしNHKも同様そのヤマトをニセモノと報じているから一概に斥けることもできないのだった。※22

そうとすればまだお役御免と決まったわけでもなさそうだが一旦肩の荷が下りたと思ってしまったために再度ノートへ向かう気にはなれず、どうしたものかと思案に暮れて疲れたように横様に倒れ込み、そうして脳裡に焼きついたヤマトの偉容を幾度も反芻してみるがあれが偽だとはどうしても思えず、ガスを噴出する不定形のヤマトのように気が抜けてしまってまったく主人公たるに相応しくないとそんなふうな思いを懐きながら無気力に横たわるのみだった。殊更それを譴責するふうではないものの与えられた仕事を全うしないのには異議があるとでもいうかに不意に背後で誰かの気配が立ち、スウと音もなく身を寄せてくるとその誰かは私に何ごとか囁くようだがこの期に及んで相手にする気もないから拒否するように寝返り打てば、一旦は諦めたように掻き消えるがすぐにまた現れ、しかもさっきより間近に感じられるから鬱陶しく、吐息さえ掛かるほどにも接近しているその気配に言いようのない嫌悪を懐くがどこか覚えのある雰囲気だから追い払うことをなかば諦めて誰だろうと眼を向けると、少しずつくっきりした輪郭を現してきたそれは何にでも首を突っ込みたがる根っから野次馬根性の染み着いている港にほかならず、何の用かと煙たい眼差しとともに切りだせば心配して様子を見に来たのに何の用かはないだろうと港は少しく語気を荒げるが、言葉とは裏腹にその面持ちは好奇心剥きだしで殊更それを隠そうともしないから苛立ちを募らせる。言いたいことは山ほどあるし訊きたいことはそれにも増してあるはずだがもう何を言う気もなくなり、用件を済まして早いトコ消えてくれと願うのみだが私の斯かる消極的態度が気に入らぬのか港は妙に威儀を正して説教でもはじめる気配だから長くなりそうだとうんざりし、それでも気を取り直してこちらはとくに変わったこともないし危機に瀕した世界など気にも掛けずマイペースでやっていると牽制すれば、そんなことは分かっているというかに痰の絡んだ咳払いで軽く受け流した港は何か重大な知らせがあるというようなことを告げ、こちらが聞こうが聞くまいがそんなことには構わず捲し立てるその独走振りは常のことだから馴れてはいるがなかなかついていけず、時どきブレーキを掛けるなり説明を求めるなりしなければならないから厄介なのだった。

何か不祥事でも起きたのらしく、野次馬らしい昂りを示して勢い込んで先走る港は不正を糺さないではおかぬ正義漢じゃないからちょっとくらいなら目を瞑りもしようが「額がよ、半端じゃないからな」放置してもおけないだろうと同意を求めるように言うが、何の前置きもなしだからいったい何のことを話しているのかまるで分からず、その欠落を補えぬために首傾げているとこちらの不審を察してか港は手許のノートパソコンを起動させ、何かファイルを開く様子でしばらく操作に手間取っていたが「コレだコレ」見てみろと示すその液晶画面には不正に改竄されたものだと港の言う明細の一覧表が表示されている。水増し請求がいくら架空取引がいくらと積もり積もったそれら不正のいちいちを港は参照しながら咎めるというよりは感心したように何度も頷き、微かに笑みさえ浮かべているのを不謹慎と指摘することはないながらその下司根性に少しく眉を顰め、こちらの不快をしかし港は気に掛けることもなくさらにも笑みを広げて「解雇されても文句言えないよなあ」と頓狂な声をあげる。会社の金の使い込みらしいのだがそんな話を持ち掛けること自体に何か裏がありそうだから警戒し、でもいったい誰がとそれがちょっと気に掛かって「それってもしかして武内じゃないすか?」と釜を掛けてみる。まったくの当て推量だが何かと会社と揉めることが多いということは以前から噂に聞いているから強ち外れてもいなかろう、いや十中八九そうに違いないと踏んだからで、そうして港の反応を窺うに眼を丸くして茫然とこちらを見つめているからどうやら図星らしく、殊更近しい間柄ではないしその人となりを知悉しているわけでもないからか変に興味を惹かれて港の下司根性が伝染したかにニヤけてしまい、それを港に気取られまいと怺えつつ「あの武内が」と低く呟くと、不審げにそれを眺めていた港が不意に「何寝惚けたこと言ってんだ、お前のことじゃないか」とあるんだかないんだか分からぬ眉を吊りあげて不機嫌に断言するからニヤけた頬がニヤけた形のまま固着して尚しばらくその意を解し得ず、ようやく前後の脈絡を把握するに及ぶとそんなことあるわけがないと否定し、変な冗談は止してくれとちょっと声を荒げる。同情的且つ好奇の入り混じった眼差しで港はこちらを見つめるが、常ならそこからさらに突っ込んで土足で踏み躙ることも厭わぬほどなのにギリギリ敷居際に留まるような具合で微妙に距離を保っているようだから大人の振舞いとそれを感心しながらもらしくないとどこか釈然としない思いがあるのもたしかで、とはいえそれはまったくの濡れ衣だしまるで身に覚えのないことで断罪されるなどということが認められようはずはなく、恐らく誰かが捏造したのに違いないがいったいどういうわけでそのような根も葉もないことをでっち上げるのか理解に苦しみ、まず困惑が、次いで憤りが全身を覆い尽くして妙に昂ってしまい、こちらのその昂りを察したのか港は乾いた笑みを浮かべて小手先であしらうかに「諦めろ」と抵抗の無意味を告げ、次いで「傀儡だよ分かるか? かいらい」抵抗しようたって無駄だ到底適いっこないんだからと吐き棄て、それよりほかにすることがあるだろうというようにいつの間にか目の前に広げられているノートを指差し示す。

※22

ここに記されているヤマト帰還の報、及び偽ヤマト出現の報については、そのほとんどが検閲により封じられてしまった。そのため、その詳細はまったくと言っていいほど知られていない。つまり、彼のこの記述が、唯一参照可能な資料ということになる。ただ、ここには彼の妄想的記述や小説的記述が多く含まれている。そのために、ここから事実内容を取りだすことが非常に困難なのだ。とはいえ、そのおかげで閲覧が可能になり、その形骸なりと知ることができるのだから、これが貴重な資料だということに変わりはない。

ただ、この問題にこれ以上深く介入する意思はわたしにはない。わたしの求めて已まないのは、彼だけなのだから。

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