友方=Hの垂れ流し ホーム

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それよりも何気に点けたテレビの画面に釘づけになってしまい、まったくあり得べからざるその光景にしばらく事態の理解に苦しむが、そこに映しだされているのが紛れもなく戦争でその舞台となっているのがよく見知った日本の首都圏に違いない(註─新宿やら渋谷やらの見間違いようのない場所が映しだされていた)ということをどうにか理解すると、いやこれは映画か何かのワンシーンではないかと尚疑いを残しつつ食い入るように画面を注視してその嘘を暴き立てようとでもするかに眼を離さない、いや離せないのだった。チャンネルを変えても流されている映像に大差はなく、まさかNHKまでもが嘘番組で視聴者を誑(たぶら)かすことはあり得ぬだろうから最早疑う余地はないと言ってよく、それでもこれらの映像がどこか現実味に乏しい作りものめいた上げ底の現実らしさに被覆されているとの印象も拭えず、何ごともこの眼で確認するまでは信じないと頑迷に否認するつもりはないながらその漠たる印象を楯にチラつく画面から視線を剥がすとつと立って窓際へ行き、カーテンを開け窓を開けて外の様子を窺い見るが特に変わったこともないしあれほど喧しかった爆音も聞こえず、すべてが箱のなかに押し込められでもしたかに鳴りを潜めているのだった。たしかにテレビのなかの戦争ならこちらに被害の及ぶ可能性はなかろうがそう暢気に構えてもいられないからまたテレビの前へ戻ってくり返しくり返し流されている同じ映像を眺め、どこか空のほうから飛んでくるらしい砲弾だとかおもちゃのように吹き飛ぶ建物だとか所構わず立ちのぼる白煙だとか黒煙だとか、それら眼を覆いたくなる惨状に釘づけされてしまうが無条件に鵜呑みにしているわけではなく、逃げ惑う群集だとか泣き叫ぶ子どもだとかが時折インサートされるとひとりくらい笑っているヤツがいやしないかと頻りに探していて、しかしさすがに不謹慎な笑みを浮かべているヤツはひとりもいない。

こちらの疑念的眼差しへの予防措置でもあるのか巧い具合にカメラがブレるから見極めは困難なのだが、爆発に吹き飛ばされる人の姿はどことなくCGのようだし妙に均整のとれた街並みも作り物めいているしで見れば見るほどその嘘が露呈するようで、凄惨な映像それ自体への食傷も手伝って徐々に興醒めしてくるとこちらの疑念を嗅ぎつけたかのように画面がスタジオへ切り替わり、表情のなさに素人臭さが仄見えるものの全体狂躁的な雰囲気を醸しているアナウンサーが現れ、酸欠の金魚みたいに口をパクパクさせて何か頻りに訴えるが、慌てて手元のレバーを操作するという臭い芝居で緊迫感を表そうとするから思わず「ベタな演出だな」と突っ込んでしまう。口のなかで軽く呟いた程度にしかすぎないが聞こえたのらしく、画面の向こうでちょっと表情を曇らせたアナウンサーがこちらを睨むふうだから決まりが悪くて眼を逸らすと、アナウンサーは満足げに軽く咳払いしてフレームの外のどこかへ目配せして何かやり取りしているふうだが、どこかこちらを意識した素振りだから小バカにされたようで不愉快で、何か言ったらしかしまた睨まれるかもしれない、いや睨まれるだけでは済まないかもしれないから自制する。メディアの双方向は斯かるところで不利益を齎すと益もないことを考えていると速報が入ってきたのか不意に画面の向こうが慌ただしくなり、チラチラと視線を泳がせるアナウンサーの活舌良い言葉が発せられるとともにスクープ映像に切り替わるが、映しだされたそれを見た瞬間にすべてが虚構でこれら一連の出来事の悉くが出来の悪い作り物だということを諒解するほかないそれはニュースソースを疑わしめるようなチャチなもので、とはいえ映像それ自体は極めて精巧に作られているから専門的知識のない私にそれを見分けることは難しいが、報じているニュース内容がどうしようもなく子供騙しの戯言だから信じろというほうが無理なのだ。いくらパリッとしたスーツに身を固めていようと、いくら深刻な面持ちをしていようと、いくら眼の下の浅黒い隈に憔悴感を出そうと試みようと、抗戦相手が異星人だなどということを真に受けることはできなかろうはずで、画面のなかのアナウンサーは終始下を向いて次々舞い込んでくるニュース原稿を初見で読むのに懸命らしくこちらへ顔を向けることもほとんどないが、それからして表情を読みとらせぬための姑息な手としか思えないし、スタジオ内の慌ただしさにしてもどこか整然とした雰囲気が漂っていて皆動きにそつがないようなのは綿密なリハーサルをしたうえで無秩序を演出しているのに違いなく、それが却って画面に秩序を持たせてしまうのだと疑いのない事実として諒解する。

最後の最後でしくじったという恰好で何だか興醒めだが《糸杉》には似合いの展開と言って言えないこともなく、これ以上何を記すことがあるというのだろうとしばらく筆は文字を綴ることをやめてしまい、恐らくこの辺が書き進めることへの意欲を決定的に喪失した瞬間なのではないかと踏んでいるが、それ以前から減速傾向にあったことはたしかだし(註─抑も最初っから乗り気じゃなく、不承不承始めたことなのだから失速しても不思議はない)斯かる荒唐無稽をいつまでも書きつづけていられるはずもなく、とにかくもう私の手に負えないほど事態は進行してしまっているのだから私がこれを放棄したとしても咎められる筋合いではないはずとそう言えば言い訳めいて聞こえるかもしれないが、もとより誰かの意に沿うつもりなど最初からなかったのだからこれはこれで案外イケてるのかもしれない、いやイケてようがイケてまいがそんなことはどうだってよく、実際これは過酷な労役に違いなく、況して理由も明かされぬままそれに服さねばならないというのだからこれほどにも耐えがたい労役はほかになく、もううんざりなのだ。だから降りることにした。断然降りることに決めた。ぐだぐだとこんなことを書いていると言い訳するなとか港に言われそうだからこの辺でやめておくが、この未熟な文にケリをつけるのは私ではなくほかの誰かに違いなく、いや、ここには私のほかに誰もいないのだからケリをつけるのは私であるほかないいみじくも高橋の言ったように選手交代を願い出るつもりでいたのだがどうもその意は叶わぬらしく、いや、直接に続投を申し渡されたわけではないのだが酔った勢いで約束してしまったのかもしれず、いかにも港のやりそうな手だが約束してしまったとすればそれを斥けることは自分としてできそうにないし、そんなふうな展開になっていく予感がふと兆しもしたのだった。

そんな予感を脳髄のどこかへチュウと注入されてしまったためにもう終わりにしようというのに外が何だか騷がしく、なかなかこちらの意に沿うような展開にならぬと腹を立てても仕方がないが無視することも許されぬらしい主人公《糸杉》の注意はそちらへ向かわざるを得ず、いったい何が起きたのかと玄関まで出て様子を窺えば玄関の扉の向こう側で何者かが騒いでいる、というか玄関の扉を破壊している。斯かる強硬な侵入をも辞さぬ輩は高橋でも港でもなさそうで(註─彼らは恐らくどこでもドアを所持しているからいつでも自由に出入りできるのだ。それを破壊することなしに彼らから逃れることは不可能だろう)、よりにもよってこんなときに押し込みかとその間の悪さには呆れるほかないが、むしろこんなときをこそ狙ってくるものかと変に感心しているうちにも鍵の部分だけがそっくり刳り貫かれ、というか一瞬にして消え失せたから手品でも見ているようで、次いで刳り貫かれた穴に外側から二本の異様に細長い指が差し込まれ、ゆっくりと扉を引き開けていくその様子は安手のホラー映画を思わせる演出でパッとしないわりにこちらの恐怖感を煽るには充分な勿体振った動きを見せるから息を呑んで見守るほかない。そうして主人公たる《糸杉》という私は玄関に棒立ちのまま押し込みを迎える恰好だがどう対処したらいいのか最後まで決せられず、客でも迎えるかに相対してしまうその間抜けさ加減を嗤う余裕もまだ生じないうちに「いやどうもお騒がせして済みません」と現れたのは今さっきテレビに映しだされていた異星人で、生気のない青っぽい顏色をした背の低い痩せがたのそいつは頻りに頭を下げながら「鍵、掛かってたものですから」壊してしまいましたと腰の低い丁重な物言いで非礼を詫びるがまったく口を開かないから不思議で、いわゆるテレパシーというやつらしいがダイレクトに頭の中に響くからちょっと不快だし脳への負担もそれなりにあるのか船酔いにも似た嘔吐感が間歇的に沸き上がってくる。そう思うこちらの思念も向こうに読まれているようで、副作用の生じることは承知しているがほかに適当なコミュニケーションの手段もないのでご容赦下さいとまた詫び、副作用といっても永続的な後遺症となることはないのでご心配なくと付言するその異星人は、一種異様な雰囲気を醸しだしていて近寄りがたいが既存のイメージの枠を超えていないため(註─すべて私の想像裡にあるもののみで構成されていることからもこれが虚構だということは瞭然だ)驚きはさほどでもなく、そのせいか返り討ちにする気概はないながらも何の用かと返すだけの余裕は保ち得ていた。尤もな問いだというように軽く頷いてみせると丁重な物腰ながら「ご同行願いたいのですが?」と任意同行を求める刑事か何かのように異星人は言い、答えは大体想像できるがそれでも抗ってみたくて「嫌だと言ったら?」と返せば今にも泣きそうな顔をして申し訳なさそうに手にした拳銃のような形のものをそれとなく翳してみせながら「それは困ります」と訴えるのだった。やはりこちらに選択の余地はないらしく、とはいえいかにも子供のおもちゃめいた光線銃(註─光線銃か否かは定かじゃないが宇宙人の所持している銃器と言えば光線銃と相場が決まっているし、流線形の近未来的というかレトロフューチャーなデザインからしてもそれは頷ける)の威力を確かめてみる気もなく、ちょうど出掛けるところだから好都合だと答えてやれば「助かります」と丁重に頭を下げるその頭に毛はなく、ツルツルと光沢を帯びた頭皮からはうっすらと皺多い脳が透けてみえる。

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