友方=Hの垂れ流し ホーム

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元々がラディカルな信仰とは無縁な人らの集まりで狂信だの狂熱だのとは縁遠い教団だからあの盛り上がりこそ異常といえるのだが、その反動なのか以前のような活気もなく退廃的な快楽主義に陥って功次が乱交パーティーとそれを誤解したその誤解が誤解ではなくなるような様相を小セミナーは呈しはじめ、セックスカルト教団とのマスコミの喧伝が長く尾を引いたこともその原因だろうが実際にそれが現実のものとなって信者数はさらにも減少傾向とのことで、立て直しようもないその状況に日下八木の鬱屈した様子は傍目にも痛々しいほどだがそれ以上に自分のほうが鬱屈しているとその端緒を開いた自身への罪責感を紀子は強くし、その一方で教団への嫌悪感をも同様強め、わけの分からぬイニシエーションまでさせられたその結果がこれではどうにも納得いかないとここからの離脱を考えもするが、自分が抜ければ自然半透明の恵美の霊も抜けることになり、そんなの私の知ったことかと嘯いたりしながらもいま一歩踏み切れずにとどまり続けたのは、いずれ破綻するにしてもその前にとどめを刺すことになるのが卑劣なように思えたからで、いや、そうではなくてとどめを刺すのが他ならぬ自分なのだということに紀子は怖れを懐いたからで、その実態が如何なるものであれひとつの纏まりのあるものを破壊するということが紀子には耐えられず、ただその思いのみが紀子に脱会を思いとどまらせているのだった。半透明の恵美の霊を伴っての小セミナー巡歴もその数自体が激減したから肉体的にはかなり解放されたものの頽廃的な快楽主義を実践している場面に遭遇することも少なからずあったから精神的にはより強固な拘束に陥ったようで、その際紀子が参加を強いられることはなかったにしろその輪に率先してか仕方なしにか加わる日下八木を蔑むというのではないが呆れたように「よくやるよ」と半透明の恵美の霊に呟き、待っているのも馬鹿らしいから頃合いを見計らって先に帰るのだが、そのように知恵美と完全に縁を絶ってしまったこの教団に最早自分の場所はないし、恵美=マリア=皇太后の霊媒としてのみ在籍しているそれさえ今や意味を喪失し掛けている状況に紀子は限界を感じ、「アレ何とかなりませんか?」と駒井に訴えるが「何とかって言われてもねえ、元々はそっちが本筋だし」基本路線としては今もそれに変わりはないのだから地道に布教伝道を続けるよりないだろうと困惑したように言いながら、何を想像したのか好色な笑みを浮かべる。駒井も所詮は同類なんだとふと紀子は思うが、その創設期から、いやそれ以前からいろいろな意味で日下らとは深く関係しているのだから今改めて思うまでもなくそれは分かりきったことで、ただそのような素振りを今まで毛ほども見せなかったから妙に衝撃を受けたしうろたえもし、何の衒いもない真っ直ぐな視線に見つめられるとしかし紀子のほうが気恥ずかしくなっていくらか頬を赤らめさえし、照れ笑いで牽制しつつ「駒井さんもアレですか、その、アレに加わりたいとか」思っているのかと率直に訊けば「え、まあ、少しはね」と駒井は右手親指と人差し指の二本を立てて何かを摘むような形に密着させて掲げるが、すぐに膝元に戻して「でもほら、もうそんなに若くもないし」誰も相手にしてくれないでしょうからと自嘲的に笑う。美貌とはいえぬかもしれないが相手にされぬほど魅力がないとは思えず、というのも信者の一部には以前から駒井の熱烈なファンが少なからずいて、信者数の減少で相対的にその数も減少しているとはいえ駒井さえその気なら相手が見出せないはずはなく、そうでなくても永らく続いている日下八木との関係はなかば周知となっているのだからその権力を有効に活用もできるはずで、いや、それだからこそ忌避しているということなのか、もひとつ紀子には分からないが「若くないって、そんな年でも」ないだろうとお世辞でもなく言えば、小さく首を横に振って「年ですよ」と真に受けず、「え、いくつなんですか? 駒井さんて」と重ねて問えばコンマ何秒かの逡巡ののち「三十六」と視線を横にズラし、年だとか言うから四十越えているのかと思ったが充分現役じゃないか、それに見た目にはもっと若く見えるとこれも世辞でなく言えば「ダメですよもう」と疲れたような吐息を洩らし、それがしかし変に艶めかしいから担がれているのかと一瞬紀子は訝るがそうでもないらしく、深刻な面持ちで「紀子さん、あなたいくつ?」と不意に訊かれて「二十五、ですけど」と答えると「やっぱりね」若いからそんなふうに悠揚と構えていられるのだと駒井は言い、その十一年の差が無限の隔たりとでもいうかに羨むような視線で見つめられて妙に気恥ずかしく、自身の膝元辺りまで紀子は視線を落とす。

何より体力的についていけなくて「あんな無茶したらね、次の日仕事にならないのよ」肌も荒れるしと駒井は昔話を語る媼をでも装うかの遠い眼差しで言い、妙な実感を紀子はそこに感じてあんな無茶とはどんな無茶なのか訊いてみたい気がし、「あなたならね紀子さん、巧くこなせますって。大丈夫、私が保証します」とかしかし言いくる包められそうな気がしたから思いとどまり、「それに日下さんと八木さんで手一杯だし」充分それで堪能してもいるからと駒井は艶めいた視線で日下のデスクのほうをチラと流し目見るがすぐ正面に戻し、そのときにはもう常の生真面目な顔つきになっていて今はそれどころじゃないからと言われれば確かにそうで、いくらか暇になった紀子に反してこのところの駒井の過労は凄まじいらしく、累積する事務処理のみならず日下八木をも牽引せねばならない状況だから厚めに塗ったファンデーションでも疲労の色の濃いその土気たような顔色は隠しきれず、このようにも教団の立て直しに懸命な姿を見ては尚更退くに退けぬと改めて紀子は思いつつ端的に自身の下手な問い掛けから話の逸れたことを恥じ入るかに黙してしまう。不意に足元掬われて信者らも同様不安なのだと駒井の言うのも分からぬではないし、紀子にしてもそれを道徳的にどうこう「言うつもりは全然ないですけど、無理ですよ」少なくとも自分にはできないと首を振れば「何言ってるんです、実績あるじゃないですか」メシアにしろマリアにしろ紀子の媒介があってこそその真価を発揮できたのではないかと励まされるが端的にその結果がこれなのだから説得力はなく、少なくとも実績なんてものじゃないことは確かで、それでも辞を低くして「あなたと恵美さんだけが頼みなんですから」と懇願されれば嫌とも言えず、日下らとともに各小セミナーを巡るが、そんな自分に紀子は苛立ちを募らせてこんなことをいつまで続ければいいのだろうと気づけば思惟は必ずそこに還流していて、短絡なその思惟にさらにも苛立ち、知恵美を生と死の境界へと追い遣った自身の非を責め続けて自分だけがのうのうと生きていることへの怒りを募らせていき、自爆した沖の決意のほどを思うとそれが潔いのか愚かしいのか未だ紀子には決し兼ねるが、そこまではとてもできぬ自身の軟弱に思いは至ってさらにも苛立ち、それを払拭することがしかしできるとも思えぬからこの先ずっと背負い続けねばならないと悲嘆して「そんなことないって」と半透明の恵美の霊は楽観的だが、却ってそれは紀子を悲嘆に導くかに響くのだった。

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