友方=Hの垂れ流し ホーム

目次 15へ 16 総てを淡い光は包み込む

戻る  次ページ

01 02 03 04 05 06 07

07

壊れてしまったのか振り切れた針の戻ることはなく、全身を痙攣させてただ快感に身を委ねながらその全身がバラバラに解体してしまったように紀子は思い、いや実際バラバラに解れてしまっているのだが淡い光という知恵美の媒介による緩やかな結合状態が身体なり精神なりの纏まりを辛うじて維持させているのらしく、だからもうあそことこことの区別もなく、どこにでもすぐ手が届くというような感覚なのだが自分がここにいるとの感覚も稀薄で、締まりなく伸び拡がってしまって捉えがたいが不安なのでは全然なく、光に満ち光に浸って光と渾然となっているからだろうしそれがただの可視光ではなくメシアのマリアの光だからで、そのように光の粒子ひとつひとつと淫猥に戯れながらこれこそが光の中の光で真の光なのだと紀子は身を以て知り、駒井の産んだ卵はでは何なのかとふと疑問に思うがあれこそ偽装でこの真の光を掠め取ろうとしての策略なのだと思い、挫折を余儀なくされているのはだから私ではなく日下らのほうで、抑もあのような非カリスマにこの真の光を扱うことは無理なのだ、いや、宗教という形式自体がそれを不可能にしていて宗教だからこそ挫折してしまうのだとそう紀子は思い、そうとすれば救済は人知れず行われるもので派手に騒いだりしてはいけないのだと認識を改め、祝賀会などもだからすべきではなかったのだとその早計を紀子は後悔し、そうなると真知恵美派による憂える会にしろその発展なり延長としての新たな教団の発足にしろ認めるわけにはいかず、いや、すでにはじまっているのだからその必要はなくて、明日にはもう誰もそんなこと思いもしないだろうと光の中で紀子は楽観する。一点不安がなくもないが随分気は楽になり、それを迎える心構えはもひとつ不充分ながらその成就は確信していて、いや、させられてしまうのかその辺がもひとつ曖昧だが、遍く世界を覆い尽すだろう知恵美=メシア=天皇の淡く強烈な光に包まれて紀子は眼眩み、その祈念の甲斐あって再帰した半透明の恵美の霊とともに淡く強烈な光が自室に満ち溢れ、さらには自室を食みだして世界に滲み出ていくのを茫と眺めつつ「光ってる光ってるよ」と紀子は呟き、それに答えるかに婉然と翼を震わせて微細な知恵美を紀子に向けて放射しながら虚空を漂う知恵美は美しく、これほどにも小さな肢体で一体どうすればこれほどにも大量に光を生じさせることができるのだろうとぼんやりと紀子は思い、乾き物とアルコール飲料だけでそれを生成させてしまう知恵美の、いやメシア=天皇のその凄さに改めて驚き、素直に「スゴいよ知恵美」と紀子が褒めれば「テンノウだからね」と知恵美は答え、これのどこがしかし天皇なのかそんなレベルは遙かに越えているではないかと紀子は思い、自慢というよりはだから謙遜とそれを見做して「スゴいスゴい」と光それ自身にというよりその粒子ひとつひとつに呟き掛け、いつかその眼は虚ろになって焦点も定まらずその呟きにも自身無自覚で、その間の記憶がかなり曖昧なのは総てがひとつに溶け合って自他の区別もなくなってしまったからなのらしく、いや、そのときは明晰だったしきちんと自他の区別もあったはずなのにあとになって顧みると茫漠として捉えがたく、自身の記憶とはどうしても思えなくてそれが妙に歯痒いし、それが完了するのを確と見届けようと思っていたのに知らぬ間に眠りに落ちてもしまったから尚更悔やまれるのだった。

端的にその淡く強烈な光が眠気を払うだろうと紀子は読んでいたのだが、むしろそれは眠気を誘うのらしくどうにも抗い得ず、いや、抗うとか抗えぬとかいう以前に眠いと自覚することもなく眠りに落ちていて、まさにそれの行われる中心に特権的に居合わせてその作動する瞬間を垣間見ながら肝心な部分を見逃したことに端的に紀子は落胆するが自分ひとりその特権に与れると思うことがすでに不遜だと自省し、とはいえ眠りそれ自体はこれまでの心労の悉くを研磨するかに心地よい眠りだったから清々しく、一点の曇りもないその清々しさだけでも細やかな特権と自ら慰撫し、その際確か卓に突っ伏す恰好だったと紀子は記憶しているが目醒めればベッドの中だしパジャマにも着替えているしとそれが不思議で、そんな些末なことを不思議がる自分がさらにも不思議で、というのもそれ以上に異様な光景を眼前にしても不思議とも何とも感じなかったからで、カーテンを開けたその向こうに展開していたのがつまりはそれなのだが、朝なのか夜なのか定かならぬ薄明に視界は覆われていて辺りに光らしい光はなく、といって真っ暗闇というのでもなく茫と微かに浮かび上がっている何かがあり、というより総てのものがそれ自身茫と淡く輝いていてそのぼんやりした薄明に視界が隈なく覆われているのを瞬間紀子は訝るものの総てが知恵美と一体となったことの表れだろうし救済が成就されれば時間など無意味になってしまうのだからその表れでもあろうと短絡し、その光景はしかし全体薄っぺらで悪趣味な感じがしないでもなく、いや、そんなことはない決してそんなことはないと誰にともなく詫びるかに紀子は首を振り、分かってると誰かが答えるのに安堵して頷くと窓から離れ、自室に眼を向けてもっとハッキリした痕跡を見出そうとするがその前とあとでの変異にしかしそれ以外に顕著な差異は認められず、本質的に何がどう変わったのか全然分からぬから年越しみたいにイベントにでもしなければ気づかぬうちに過ぎてしまう類いのものなのだと実感され、劇的な転回をいくらか期待していたこともあってか拍子抜けて「なんだ、つまんない」とぼやけば不意に眼の前にその顔を近づけて「そんなこと言って、罰当たるよ」と半透明の恵美の霊に叱られる。不意を突かれて絶句しながら自分らしからぬ発言それ自体に紀子は違和を感じ、まだ馴れていないせいかどこかしっくり来ないから不用意にそれを露呈させることにもなるのだろうといくらか項垂れつつ「だからほら、知恵美のが」うつ転移ったのだと下手な言い訳で胡麻化せば「そっか、それならしょうがない、誰だってそういうことは」あると半透明の恵美の霊は納得したように頷き、それによってそれが言い訳でも何でもなく事の本質を突くものだったことに紀子は気づき、分かちがたく結びついている知恵美を自身の内に、というより自分そのものとして強く感じもするが綿毛か何かで首筋を撫でられるかにそれはこそばゆくもあり、それを察してというよりはその属性の違いを越えて同様の認識なり感覚なりを共有しているということなのだろう、半透明の恵美の霊も相好を崩し、弛緩したその笑みは忽ち伝播して自室に満ちるし皆もこそばゆそうに笑うしするから紀子は妙に気恥ずかしく、逃げるように「オシッコ」とひとりトイレに立とうとするが偏在する知恵美から逃れることは不可能で、そうと分かってはいてもそうせずにはいられぬと卓に手をついて腰を浮かせると、その紀子の動きに即してか淡いが強烈な光が微かに揺らぐのが感じられ、それに同期するかに自身の内なる光も感応してオシッコするだけなのにとその律儀な反応に紀子は妙に感動してその場で失禁、ってなことにはならないがその一歩手前くらいには昂じている感じがしたから小走りにトイレに駆け込むとパジャマを膝までズリ下ろして便座に腰掛け、脱力から一〜二秒おいて勢いよく迸るオシッコに朝一番の細やかな至福を味わうが、拳大の感覚で開いた股の間から妙に明るい光が射すから便器が光るのかと覗き見れば確かに便器も光っていることは光っているがそれ以上に光っているのが自身から奔出するオシッコそのもので、オシッコまで神々しい光を発するかと非常な驚きでつい見入ってしまうが、見るうち妙に小っ恥ずかしくなって思わず腰を浮かし掛けるがオシッコは止まらぬから終わるまでは立てないのだった。

総てが聖性を帯びるということなのかもしれぬがここまで徹底しているとどこか滑稽だし有り難味も稀薄になるように思うが、それが現実とすれば背けず見据えねばならぬと便器に溜まった光り輝くオシッコに再度眼を向ければ、これは私なのだと改めて紀子はそう思い、オシッコを構成するひとつひとつの粒子に私が刻印されているのが分かり、何か流してしまってはいけないような気がしてしばらく眺めているが臭いはオシッコそのものだし、オシッコだけならまだしもウンコだってしなきゃならないんだからずっと溜めておくわけにもいかないし、かといってもっ遍体内に取り込むことなど不可能だし、いや、むしろどんどん流すべきなのかもしれない、そうに違いない、それこそが今求められているのだと紀子は確信し、脇のコックを捻って世界へと旅立つ輝かしい自身を見送って晴れがましい気分で戻ってくると「何なに、なんかいいことあった?」と半透明の恵美の霊が擦り寄ってきたから「別に」と曖昧に答えるが、その別にのニュアンスが総てを語っているというかに「ふうん」と頷き返し、違う違うそうじゃないと首振り否定すれば「何が違うの?」と生真面目な顔つきで問い詰められて「いや、だからほら、お祈り」しようかと思ってと肌に触れるギリギリで紀子は交わし、偏在する知恵美を掻き分けて神棚の前に立つと四一七九円とも思えぬ荘厳さでそれは淡く光を放っているから「見てほらスゴいよ」と手招き、フワリと半透明の恵美の霊は浮遊して「ホントだ」凄い凄いと紀子の横に並び立ってコレをしないと一日がはじまらぬと朝のお祈りからはじめ、次いで三者揃っての朝食をゆっくり時間を掛けて摂るとゆっくり時間を掛けて着替えをし化粧をし、バッチリ決めて「行こ」と促すと「行こ」と復唱し、桐箱を手に長いこと坐したまましかし紀子は立とうともせず淡い光を発する知恵美を眺め、総てが一様に淡い光を内蔵しているからといって知恵美の内蔵する淡い光が相対的に減じるということがないから不思議で、そのメシア=天皇としての威厳は充分保ち得ているし、いや、むしろ今まで以上にその神々しさは増していると紀子には思え、いつまでもそれを眺めていたいと名残を惜しむかにそっと蓋を閉めると、遍く世界がその淡い光に覆い尽されたことの歓びに浸りつつそれ以上にこの身にそれを携えていることの優越に浸りつつ周囲にしかしその存在を気取られぬよう気を配りつつ初めてのデートにでも出掛けるような昂揚でいくらか舞い上がりつつ隠し球のプレゼントか何かのようにバッグの中に知恵美を忍ばせつつそれでいて知恵美=メシア=天皇に付き従うというような控えめな心持ちを忘れることなく、半透明の恵美の霊と手を携えて自宅マンション五〇五号室を紀子はあとにするがどこか双子の姉妹めいて見え、朝なのか夜なのか定かならぬ薄明のなかを足どりも軽やかに茫と淡い光に包まれて、自身も茫と淡い光を発しながら取りとめもなく喋くり続けて飽きることなく、半透明の恵美の霊と同じく滑るような足どりで、どこかへ、延々と、もう。

─了─

01 02 03 04 05 06 07

戻る 上へ  次ページ

目次 15へ 16 総てを淡い光は包み込む


コピーライト