両脇で行儀よく寝入っているふたりを起こしたものかその二本の戦闘不能状態に萎れたペニスを駒井は両手に玩びながら迷ったが踏ん切りつかなくて結局眼を醒ますまでペニスを離さず、というよりソレこそが彼らの主体とでもいうかにペニスにずっと語り掛け頬擦りし口づけしてその感激を伝えようとし、それに応えるかに自身の手の中で膨らんでいく二本の脈搏つペニスを駒井は玩び続け、徐々にそれが熱の入った本域のそれになってその卓越した技巧で絶頂も間近と思うころ、ギリギリ射精直前に目を醒ましたふたりは下腹部辺りで蠢く駒井をチラと差し覗くがすぐ視線を逸らし、何か困惑したように身悶えているのを訝ると口を揃えて疼痛を訴え、手にした卵が媒介するのかそのときのバツ悪げな顔が浮かんできたから変に可笑しくて僅かに駒井は笑みを洩らし、紀子が憮然とした面持ちで眼も合わせずにいるとその逸脱に気づいたのかして「ご免なさい、なんか、自分のことばっかり」喋って肝心なことを忘れていたと右掌で髪を撫でつけながら腰を浮かして坐り直すと「恵美さんのはつまりその、予兆っていうか」ただの先触れに過ぎないから挫折は余儀なくされていて、救済を果たすべく顕れるこれこそが真のメシアなのだとその卵を駒井は掲げて示し、その妙に芝居掛かった身振りにイニシエーションとの期待を僅かに残しつつも納得できぬというかに「じゃあ知恵美はニセモンだって言うんですか?」と詰問する紀子を真っ直ぐ見つめ返して「偽物とかそういうことじゃなくて、いきなりね、真打が出てきてもほら」戸惑うだけだし、沖の独行を見てもそれは明らかではないかと駒井は答え、それを見越しての予備的顕現とでもいうような前段階のもので、それはそれで意味はあるのだから悲観することはないと言う。紀子にそれは詐術としか思えず、抑もメシアはひとりと限られたものではなくその複数性を日下も説いていたではないか、そうとすれば知恵美を葬らねばならない必然性はないし世界は遍くメシアで満ち渡るとか何とか言っていたあれはウソなのかとその明らかな矛盾を突くが、あのときと今とは状況が違うし「何人もメシアがいたらやっぱり困るでしょう」とさして駒井は動じることもなく、「でもだからって、こんなこと」しないでもいいじゃないかと押し殺した声音で訴える紀子を宥めるようにいずれは淘汰されねばならないし真のメシア顕現のためのこれは必要なステップなのだと言う駒井は勝ち誇ったような笑みを瞬間浮かべ、その駒井の手にした発光する卵と自身手にしている僅かながらも淡い光を発している首と胴体とに分断されてしまった知恵美とを交互に紀子は茫と眺めて決定的な敗北を喫したと絶望し、どっちにしても光る卵を手にした駒井に今何を言っても無駄となかば諦めつつもイニシエーションから何から総てが仕組まれていたということなのかと紀子は迫るが、弁明する気もないというかに「どう取ってもらっても構いませんけど」と軽く駒井は受け流してまた笑みを浮かべ、その見下したような笑みにというよりはその表出を抑えようとしていることに紀子はどうにも苛立って「それはあなたの都合でしょう」それを押しつけられても迷惑だし抑も許されることじゃないだろうと手にした知恵美を掲げ示していくらか声を荒げると「私の都合っていうよりね、メシアの都合じゃないかな、このメシアの」と静かに駒井は真白な卵を指先で撫で、ふと思い出したように「あの今思いついたんですけど」と右掌の卵を少し掲げるように示して「名前です、恵美さんに倣ってチアキってつけようと思います、千の秋で千秋、千秋=メシア=天皇」とソレに呼び掛けるかに言い、ソレが孵った暁には紀子もその眼を開かれるに違いなく、なぜならこれこそが「真のメシア=天皇なんですから」と駒井は言う。
ゆっくりと紀子は頭を振るとなぜそれがメシアの孵る卵と断言できるのかその根拠はあるのかその卵がそう言ったのか頭の中に直接語り掛けてきたのか知恵美を殺ったのもそいつの指令なのかその指令は絶対なのかと問われて駒井は怯んだように「まさか、コレは何も言いませんし」根拠にしてもあるかと言われればないという他ないとあっさり認めるが、異論ありげに「でも」と首を傾げて根拠を示すことが不可能というよりはそれを求めること自体無意味だと駒井は言い、それが紀子の最大の誤謬なのではないかとも指摘してそれがためにこのような結末に至らざるを得なかったのではと何かそれが当然の帰結でもあるかのように言う駒井に無性に腹が立ち、その怒りを抑えようとしてか「でもほら、恵美さんなら分かるでしょ?」と半透明の恵美の霊のほうへ駒井は視線を向けて「あなたの産んだ卵と何か違うとこあります?」と箱に収めたそれを掲げて示すと、チラと横目見はするもののその発する光が知恵美と異種のもののため眩しいというかに半透明の恵美の霊は顔を背けて黙して答えず、それが捉えられぬのか紀子のほうへと視線を戻す駒井に「全然違うって、メシアは知恵美だけだって」と紀子が言えば「ウソばっかり」とすぐ見抜かれ、見ても分かるとおりその属性は知恵美と変わらぬ、いやそれを凌駕していると駒井は言い、知恵美のそれに較べて卵の発する光は格段にその光量を増しているしさらに顕著なのはその重量で「カラみたいに軽いのよ」と膝元に引き寄せた箱を駒井は眩しげに眼を細めて眺め、その余裕ありげな態度への苛立ちから「カラだからでしょ」と言えば「だったら光ったりしませんよ」と薄く笑って動じることもなく、「そんなような玩具、私見たことありますよ」と言っても「却って宣伝になりますよソレ、どこです?」どこで見たのかと逆に訊かれて答えに窮してしまう。そこへつけ入るかに一段高みに立ったようないくらか距離を感じる物言いでしかし物理的距離は目一杯縮めるように前屈みになって「宗教ってね、案外多くの犠牲を」必要とするものだしその多寡が「決め手みたいなとこあるじゃないですか」つまりそのような犠牲の総体として宗教は機能するものなのだと駒井は言い、どこまでそれが理論的に妥当なものなのか知らないがその強引な説明に「でも何で知恵美が犠牲になんなきゃなんないんです?」その必然性はないじゃないかと悲痛に訴える紀子に必要なのは犠牲であってその必然性ではないと駒井は穏やかに言い、抑も犠牲は理不尽なものだし理不尽であればあるほど犠牲として価値あるものと見做されるのではないかとさらにも強引な論旨で捻じ込むように重ねるが、それこそ詭弁で承服できるものではないし何より駒井がそれを公言すること自体筋が違うと紀子は思い、そう思う一方でしかしその抵抗が虚しく終わるだろうことを予期しつつもあり、それでもまだ仄かに温かいのをその掌に感じて“そうせよ”と命じられでもしたかに紀子は抵抗を続けるが「犠牲犠牲って、だったらあなたが」としかし紀子はそこで声を詰まらせてしまう。そこへまた巧いこと駒井は割り込んで「私はだって、マリアですから」そう簡単に犠牲になるわけにもいかぬだろうと軽く去なして権威的に見せるつもりかグイと上体を起こして威儀を正し、さらにはその演出意図を反映するかに空調のファンが不意に低く唸って動きだすと、そのウワンウワンいう音が変に荘厳に響いたからここでは総てが自分に不利に働くとでもいうかに悉く紀子は間合いを狂わされてもうほとんど抵抗する意志もないが、一旦呼吸を整えてから上眼に駒井を見据えると自身何を言っているのかと恐ろしく思いながら「惠美だって死んだじゃないですか、だからあなたも死ねばいい、いや死にますよゼッタイ」と呟くような声で紀子は言い、一瞬怯んだように駒井は身を竦めるが一瞬でも動じたことを恥じるかにまた威儀を正して「恵美さんはだからマリアじゃなかったんですよ」とそう駒井は言い、確かに知恵美が偽メシアと断罪されたからには自動的に半透明の恵美の霊もマリアではなくなる道理だが、その自動的にというのが妙に引っ掛かって「ちょっとあのソレはないんじゃ」と言うのに被せて「もういいよ、も帰ろ」切りないよと半透明の恵美の霊は紀子の眼前に手を翳し、その手の向こうに透けて見える駒井の落ち着き払った態度にあれを見ろと紀子は促すが強く頭を振って否定し、これ以上の抵抗は身を滅ぼすというかのその退却命令をなかば紀子は受け入れるが卓上に置かれたままの果物ナイフをふと視野の端に捉え、切れないと零していたその鈍な果物ナイフでも体当たりに突き刺せば人ひとりくらいと漠然とながら思惟を巡らす紀子の眼には殺意が兆し、次いで何もかも消し飛んでしまうかに総てが空白になる。