友方=Hの垂れ流し ホーム

6 見捨てられ妄想

01

寝覚めとか悪りーのは嫌な夢見たからだ。怖いとか恐ろしーとかそーゆーんじゃ全然ないけど、なんか不快でしっくり来なくて、無理やり接ぎ木でもしたみたいな不自然極まりない夢だった。でもそれだけなら笑って済ませられそーにも思うんだけど、そー簡単には行かなくて、レンジ周りの油汚れみたいに頭の内っ側に頑固にこびりついて離れないんだった。

だから朝からブルーだった。ってゆーかもー昼近かったけど。どんぐらい寝てたのかも分かんない。かなり寝てたのは確かだけど、まだまだ眠い。寝足りなかった。とりあえず起きてはみたけど妙に頭とか重たくてフラフラするし、足元も不安定でヨロヨロして、二日酔いでも何でもないんだけどなんかそれに近い状態で、危うく風呂場でコケるとこだった。シャワー浴びてもまだ眼は覚めず、重心が頭の方にあってうまくバランス取れなくてフワフワするし、コーヒー入れて飲んでもどっか痼りが残ってて頭ん中どんより曇ってんだった。

最近よく見る夢だった。殆ど毎日って言ってもよかった。それ引き摺ってずっと不機嫌なんだった。斜めなんだった。夢に文句言ってもしょーがないけど、こー立て続けじゃ文句も言ーたくなる。それでなくてもここんとこ妙なことばっかで疲れてんのに。抑もおれには動機がない。なんでそんなことしなきゃなんないんだか分かんない。そりゃ彼女はいなくなったけど、それであんなことするほど柔じゃないし切れてもいない。絶対あり得ないことだって断言できる。

でももしかしたら動機なんていらないのかもしんない。動機なんかなくてもやれるぐらい簡単なことなんだ、実は。誰もが一度はやってみたいって思いつつ、事後のこと考えると恐ろしくてできないだけなんだ。ウルトラマンになりたいとか、セーラームーンになりたいとか、保母さんになりたいとか、看護婦さんになりたいとか、歌手んなりたいとか、偉い学者んなりたいとか、政治家んなりたいとか、ヤクザんなりたいとか、総理大臣になりたいとか、テロリストんなりたいとか、天皇になりたいとか、神んなりたいとか、世界んなりたいとか、自分になりたいとか、そーゆーのとおんなじなんだ、実は。万国共通人類普遍の、下は3歳の幼児から上はヨボヨボの年寄りまで、人ってゆー人が持ってるごく在り来りな願いで、おれだけの自己中心的な破壊願望じゃないんだ。だからそのこと自体は別に驚くこともない。誰にでもその可能性があんだから、おれにだってその可能性は充分あるってだけの話だ。

でも、ロープが締まってくとき、なんか言ーよーのない閉塞感みたいな変な気分に囚われて、それには妙なリアリティーがあった。夢ってゆーにはあまりにリアルな手応えがあった。ロープの縄目のひとつひとつがはっきり見えたし、きゅるきゅるきゅるって締まってく音も確かに聞こえたし、喉とか詰まって声も出なかったし、心臓バクバクしてたし。薄明るい森ん中吹き渡る風の身を切るよーな冷たさとか、ざわめく木々とか茂みの音とかゆー周囲の光景も鮮明に記憶してるし、噎せ返るほどの青臭い臭いも残ってる。それこそ実際にあったことを夢で追体験してるみたいな感じだった。夢なんだから人の一人や二人殺したって何てことないはずで、それこそ核兵器かなんかで全人類滅ぼしたって痛くも痒くもないはずなんだけど、当の相手が彼女だってのがどーしても納得いかないんだった。愛しこそすれ憎んでなんかないのに、なんで殺さなきゃなんないんだろー。それも愛のひとつの表現だって言えないことはないかもしんないけど、そんなふーに言えるほど生易しー殺し方じゃなかった。

彼女は白眼剥いてカクンって首垂らして死ぬ。おれがその首ロープでグイグイ締めてるんだった。彼女は哀しそーな眼ーしておれを見てたけど、一切抵抗しなかった。おれにされるがままだった。おれに殺されんなら本望とでも思ってるみたいに、全身の力抜いて死の陶酔とか存分に味わってるみたいだった。なんか、笑ってるよーにさえ見えた。いやホントに笑ってた。心底嬉しそーに笑ってた。そして彼女は死んだ。行くときみたいに体ピクピク痙攣させると急に力が抜けて、ダランて首垂らして動かなくなった。ってそこまではまだいー。テレビとかでよくある殺人風景とあんま変わんない。在り来りな夢として片づけられる。そっから先だ、問題は。服脱がして彼女裸にして、五体バラバラに切り刻んで穴に埋めたんだった。そこまですることないのにギコギコ鋸で切ったんだった。吹き上がる血飛沫とか体中に浴びることが何より嬉しーってゆーよーに、細かく細かく切り刻んでんだった。何だか知んないけどそんときおれは笑ってた。ゲラゲラ笑いながら肉裂いて骨砕いて、切り取った肉片脇に積み上げてき、切り刻む行為そのものを楽しんでるみたいで、これこそ長年夢見てたことだとでもゆーよーに、嬉々として切り刻むんだった。

無意識の願望の現れだってことかもしんない。フラれ男の悲しみとか嘆きとか怒りとか憤りとかが、おれの知らないとこでグルグル渦巻いてて、知らないうちに蓄積してグツグツ沸き立ってたのかもしんない。それが夢ん中で爆発したのかも。でもだからって彼女殺すことはない。何でそんな夢見なきゃなんないんだか分かんない。でも夢に文句言っても筋違いってもんだ。全然的外れだ。でも、そーは言っても腹は立つ。

いや、ホントにあれは夢だったんだろーか? 夢にあんなリアリティーあるだろーか? おれが彼女殺してないってゆー絶対確実な証拠とかあるんだろーか? 彼女がおれの前から消えちゃったのは事実だし、彼女の所在が分かんないからその生死も分かんないわけで、そーするとあの夢が現実だって可能性も否定はできないってことんなる。夢がその記憶呼び覚ましそーだから不機嫌だって言えなくもない。

待てよ。その前におれはフラれたのか? 彼女はホントにおれをフったんだろーか? フラれたってのは単なるおれの被害妄想なんじゃないか? あの日の彼女の態度にはなんも不審な点はなかった。いつもとおんなじよーにやって来ていつもとおんなじよーに過ごしていつもとおんなじよーに帰ってった。事実彼女は別れよーとかそーゆーことは一言も言ってないし、話があるけど切りだせずにいるとかゆーよーな素振りもなかったと思う。クリスマスの計画だってちゃんとしてたし、いつもとおんなじ快楽貪り合ったし、旨そーにピーナツバター嘗めてたし、「美味しーよ」とか言っておれの方に差しだしたし。帰るときだって「バイバイ、またねー」とか明るく笑顔で言ってたし。なんかおれの知らない複雑な事情でもあって、それで一時的に姿を晦ましただけで、ある日「ゴメンねー」とか言ってひょっこり帰ってくんじゃないか? それこそ今日辺り照れ臭そーに笑いながら玄関に立つんじゃないか? 「ゴメンねー」とか言って。

いや、彼女はそんな黙って逃げるよーにどっか行っちゃうよーな無責任な子じゃない。希望的観測は止めよー。空しくなるだけだから。現実を直視しよー。

晴れてんのか曇ってんのかハッキリしない天気だった。太陽は見えるよーで見えなかったし、見えないよーで見えるんだった。まるでまだ夢の続きだってこと主張しよーとするみたいに、晴れと曇りの間で揺らいでる。晴れでもなきゃ曇りでもなく、どっちつかずの状態続けてる。ふざけた天気だと思った。ふざけてんのは天気だけじゃなくて、全部が全部ふざけてた。徹頭徹尾ふざけてた。何から何までふざけてた。

ふとキッチンに行ってピーナツバターあるかって冷蔵庫ん中引っ掻き廻したのは、それがあれば彼女帰ってくるよーな気ーしたからだ。ピーナツバターないのは最初っから分かってたけど、この眼で確かめてみないと気ー済まなかった。ないの確認するために探したよーなもんで、それで彼女の不在を改めて確認することで、自分自身を捻じ伏せ納得させよーとかしてんだって思った。ノロノロと冷蔵庫の扉閉めて、微温くなったコーヒー飲み干す。器官に入って噎せた。

別にそー思って出てきたわけじゃないけど、なんも考えずに電車ん乗ったら五分もしないうちに寝ちゃって、気ーついたら学校に来てる。眠ったまんま学校まで来たとかゆーわけじゃないけど、その間の記憶は何にもない。気ーついたときには学校の正門入ろーとしてるとこだった。別に何の用もないけどこのまま廻れ右して帰んのも癪だからちょっとブラついてことか思い、でもそーゆー生来の貧乏性が逆に仇んなってんのかなとも思って戻り掛けるけど、やっぱ入る。おれの意思無視して体が勝手に動いてる。

もー入ってすぐだったけど、なんか場違いな気がした。何だか自分がこの学校に在籍してる気がしない。勝手知ったる校舎歩いてんだけど不知案内んとこ行くみたいな不安が不意に過ったり、顔見知りの奴と擦れ違ったり挨拶したり話したりもするけど自分だけ浮いてる気がすんだった。心焉に在らずとかそーゆーんじゃなくて、世界の方がなんかズレてておれを排除しよーとかしてるみたいな感じ。まるで自分が人体に侵入した一個のウイルスのよーな気がした。それも大して害でもないのに免疫系の過剰な反応で滅多やたらに攻撃される、孤立無援の憐れなウイルスのよーな気がした。そこら歩いてる学生たちは、さしずめ外敵の侵入を虎視眈々と待ち構えてる免疫細胞ってとこだ。おれの方見て笑いながら何やら話し込んでんのが貪欲で噂好きのマクロファージで、そこに別んとっからやって来て話に加わったのがヘルパーT細胞とかキラーT細胞、そいつらがB細胞に情報流すとB細胞は更にあちこち触れ廻ったりする。キラーT細胞はおれんとこ来て、「おっ、久し振りじゃん」とか上辺だけの笑顔で言ってくる。仕方ないからこっちもおんなじよーな浮ついた笑顔返して、「おー」とかゆー。そこでしばらく立ち話んなるけど、話噛み合わなくて益々孤立無援の感強くして、話の途中だけど「あっおれちょっと…」とか語尾濁して早々に立ち去る。そのうち抗体群がウヨウヨ現れだしておれ目掛けてやって来ておれの行く手とか阻んだりすると、もー相手もしてらんなくなって速攻で逃げる。そんなことやってるうちに違和感だけが胃にどんどん溜まってく。そーやって違和感溜め込みながらウロウロして時間潰す。それでも腹だけはちゃんと減るから適当に飯食うけど、それで空腹は解消できても違和感は全然解消できないから、その違和感に食傷気味んなって、釈然としないまま帰ってきた。却って疲れただけだった。

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