右手ニ握リ締メテンノハ麻ノろーぷ。長サモ太サモ手頃ダ。路地裏ニ轉ゲテタノヲ拾ッタノカモ知レズソンナ記憶ガドッカニ在ルケドろーぷハ眞ッ新ノ新品ナンデ拾ッタトカジャ無クテ正規ニ購入シタモンダッテユー亊ハ確カダ。何處デ買ッタノカハ忘レチャッタケドマサカ萬引キシタトカッテ亊ハ無イダロー。ウチニ歸ル途中ダッタ樣ナ氣モスルケド良ク覚エテ無イシソンナ亊ハドーデモ良ク爲ッテル。兎ニ角今ハ前ニ進ム丈。前進在ルノミ。進メ進メ。
道ナンカ疾ックニ外レチャッテ草茫々ントコ掻キ分ケ掻キ分ケ歩イテルカラ前モ後ロモ分カン無カッタケドソンナ亊ニハ御構イ無クドンドン奥ヲ目指ス。宛ラ川口探檢隊ミタイニ。角曲ガッタラモー森ン中デ振リ返ッテモ木バッカデ建物モ無カッタ。ナンカ下ッ手糞ナ編輯ミタイニ脈絡無ク切リ替ワッタンダケド其ノ境目スラ分カン無カッタ。
びゅーびゅー風吹イテルカラ木ガ揺レテ葉ッパガ擦レ合ウ音トカ譯分カン無イ音トカガズットシテル。ざざーばりぼりざーばるぼりばばるざーざざートカ言ッテ。其レガ不氣味サ一層掻キ立テタリシテル。
動機ガ單純ダトカ思ッタケド其ノ方ガかっこイーカナトモ思ッタ。
ッテユーカイキナリ銃口向ケラレタラ誰ダッテ驚ク。特ニ日本人ナラブッ魂消ンダロー。にゅーよーくノだうんたうんノ眞ッ只中ナライザ知ラズ仮ニモ日本國内ナンダ。例ノ亊件デ安全神話ガ崩壊シタトカ一般市民ノ銃犯罪ガ急増シタトカ言ッテルケド日常生活デ銃ニ御眼ニ掛カルナンテ亊ハ一生ノ内ニマズ一囘モ無イダロー。日本ジャ御巡リダッテ拳銃ナンカ滅多ニ撃タナイシ。強盗カ追イ剥ギカ山賊カげりらカッテぐるぐる頭ン中色ンナモンガ引ッ切リ無シニ出タリ入ッタリスル。其ノ内コングラカッテ何ガ何ダカ分カン無ク爲ッテ相當動揺シテルッテ思ッタ。男ガ笑イ掛ケテ來テモ油斷サセトイテイキナリブッ放スンダロートカ思ッテ脚トカがくがく震エテンノ分カッタケドションベン丈ハ漏ラスマイッテ思ッタ。
男ハ顏中髭ニ覆ワレテ殆ド地肌モ見エ無イ位眞ッ黒デ着テルモンモ黒尽クメダッタケド其ノ分目玉ガ白ク光ッテ見エタ。異樣ニぎらぎら光ッテテ薄日ニ反射スル散弾銃ノ輝キヨリ眩シー位。別ニ吊リ上ガッテ鋭イ眼附キトカユーンジャ無クテ寧ロ垂レ目デ締マリガ無イ位ダッタケド其ノ眼ニ見ツメラレルト全身凍リ附イタミタイニ動ケ無カッタ。從イテ來イッテ眼顏デ男ハ合図シテ藪ン中ニ入ッテッタ。默ッテ其ノ後ニ從イテク。逃ゲテ逃ゲレルモンジャ無イッテ觀念シタンダッタ。逃ゲタラ散弾デ穴ダラケン爲ルニ決マッテル。穴ダラケニ爲ンノハ厭ダッタ。
男ハ俺ノ前歩イテル。薮切リ開キ乍ラ歩イテル。俺ハ右手ニろーぷ持ッテル。其レ構エテ男トノ距離ヲ詰メテク。後ロカラ男ノ頸ニろーぷ掛ケテ思ッ切リ絞メルト泡吹カシテ男ガ倒レル。男ノ手カラ銃奪ッテ眼ー醒メナイ内ニ止メヲ射ス。頭ニ一発胸ニ一発。何囘モしみゅれーしょんスル。デモ駄目ダ。山道歩キ馴レテル男ノ足ハ速クテはーはー言ー乍ラ男ノ後從イテクノガヤットダッタ。
澤ニ出タ。膝迄水ニ漬カッテ男ハ顏トカ洗ウ。銃ハ脇ニ置イテ在ルカラ男ハ丸腰ノ無防備デ銃カラノ距離モ男ヨリ俺ノ方ガ近イ。隙窺ッテ銃奪ウ亊モ出來ソー。今度コソッテ一歩踏ミ出ソートスルケド男ハ背中ニモ眼ガ在ルミタイデ見ラレテル樣ナ氣ガシタカラヤッパ動クニ動ケ無イ。顏洗イ終ワッタ男ガ手拭デ顏拭キ乍ラ此處向イテにやッテ笑イユックリ歩イテ銃拾イ上ゲル。森ン中響キ渡ル風ノ音トカ鳥ノ聲トカモ相當不氣味ダッタケド男ノ底知レ無イ不氣味サニハ到底適ワナイ。
澤沿イ暫ク歩イタトコニ小屋ガ在ッタ。其ノ間男ハ一言モ喋ラズ時々俺ノ方振リ向イテにやッテ笑ウ丈ダッタケド其レガ不氣味デ振リ返ル度ニ殺ラレルッテ思ッタ。男ハ小屋ノ戸ー開ケテ「やー待ったか」トカ言ー乍ラ中覗キ込ンダケド直グ顏出シテナンカ怪訝ソーニ「アレ、何處行っちまったんだ」トカ言ッテ邊リ見廻ス。其レカラ鳥渡考エ込ンダ後異樣ニ黒光リスル銃口ト倶ニユックリ俺ノ方ニ向キ直ッテ訝シ氣ナ態度ヲ残シツツ小屋ニ入レッテ合図スル。愈々最後ノ時ダッテ觀念スル。チンケナ小屋ノ癖ニゴツイ表札掛カッテテ『聖』トカ彫ッテ在ンノガ何故カ氣ニ爲ル。小屋ニハ一切窓トカ無クテ外カラノ光ハ殆ド入ッテ來ズ眞ッ暗ダッタカラ恐怖感ハ彌増シタ。續イテ男ガ入ッテ來ル。戸ノ脇ニ銃立テ掛ケテ隅ッコデこそこそヤッテ振リ返ルトボンヤリ薄明ルク爲ル。瓦斯灯ダッテ男ハユー。多分ぷろぱんダローケドコンナ山奥迄一軆誰ガ運ンデ來ンダロー。
俺ノ前ニ坐ッタノ見テ男ガ随分歳取ッテンノガ分カッタ。瓦斯灯ノ火影ニ照ラサレタ其ノ顏ハ偉ク貧素ニ見エタ。男ハ御茶入レテ呉レタ。毒デモ入ッテンジャ無イカッテ思ッタケド男ノ後ロニ控エテル銃ニ氣圧サレテ默ッテ飲ム。苦カッタ。男ハ其ノ苦イ御茶旨ソーニ飲ンデ「どーだ、旨いだろ。遠慮しねーでもっと飲みな」トカ言ッテ俺ヲ見ルカラ仕方無ク半分位飲ンダラ其處ニ又目一杯注イデ顎デ飲メッテ促ス。俺ヲ殺ス積リジャ無イノカモ知ン無イ。
男ノ話ジャ此處ハ今不在中ノ聖氏ノ小屋デ其ノ聖氏モ男モ猟師ラシー。聖氏ハ實直デ好ー奴ダケド偶ニ周リガ見エ無ク爲ッテ偉イ目ニ遭ッタリスルトカ男ハ言ー「其れにしても變だな、人待たすのが滅法嫌いなあいつが居ねーなんてよ」トカ訝シゲニユー。
「狼ですか?」ッテ訊ータラ「そーだ」ッテ男ハ大キク頷ク。狼ガ出ルッテユーンダッタ。
「あのっニホンオオカミ、ですか?」ッテ念押スト「勿論ニホンオオカミだ」ッテ更ニ大キク二度頷ク。
「でもニホンオオカミって絶滅したんじゃ」ッテ俺ガユートふんッテ鼻デ嗤ッテ「絶滅なんかしちゃ居ねー」ッテ言ー「山の亊なんざなんも知らねー、研究室に閉じ籠ってる樣な鈍ら學者のゆー亊なんか當てん爲るもんか」ッテ男ハ言ッテ罠ニ掛カッタ獲物ヲ狼ハ横取リスルッテ然モ憎々シ氣ニユー。「何度も此の眼で見たんだから間違いねー。それに…」ッテユート男ハ徐ロニ右ノ袖捲ッテ浅黒イ腕出シテ見セ「此の疵、奴に噛まれたんだ。危うく引き千切られるとこだった」ッテ自慢氣ニユー。見ルト確カニ肘ノ邊リニナンカニ噛マレタ蹟ガ痛々シク残ッテタケド其レガ狼ノモンカドーカ俺ニハ分カン無イ。
「野犬かなんかじゃ無いんですか?」ッテ言ッタラ「否違うね。犬っコロじゃこーは行かねーよ。其れに此の邊に犬は居ねー」ッテユー。
サッキ迄無口ダッタノガ急ニ御喋リン爲ッテ男ハ長年ニ亙ル狼トノ死闘ヲ微ニ入リ細ヲ穿ッテ話シ出ス。滅多ニ人ニ会ワ無イカラ人戀シーンダッテ思ッタ。俺ト正反對ダ。デモ小屋ガ狭イカラ息掛カル位顏近附ケテ喋ルンデ眞面ニキツイ口臭トカ浴ビセラレタ。トテモ我慢出來無カッタケド銃ノ威力ニ縛ラレテ動ク亊ガ出來無イ。
其ノ内男ハ聖氏ノ歸リガ遲イノヲ氣ニシ始メテそわそわシ出シタ。
「おかしーぜ、こりゃ。なんか在ったのかな」トカ心配ソーニ言ッチャ外ニ樣子見ニ行ク。何囘モ小屋出タリ入ッタリスル。段々小屋ン中ニ居ルヨリ外ニ出テル時間ノ方ガ長クナッテ十五囘目位ニ外ニ出タッ切リ戻ッテ來ナイ。今シカ無イト思ッテ男ノ居ナイ隙ニ小屋飛ビ出シテ逃ゲテ來ル。
澤渡ッテ更ニ奥ニ入ッテク。藪ガかさかさ音立テル度ニ男ガ追ッテ來タノカ其レ共狼カッテ身構エル。其レカラカナリ歩イタケド日ハ全然沈マ無カッタ。森ン中ニハ常ニ一定ノ光ガ滿チテテ明ルクハ無イケド黯クモ無イ。
急ニ開ケタトコニ出ル。青イ光ガ上カラ差シテテ雲一ツ無イ空ガ眞ッ青ダ。邊リ一軆全然木ガ無ク在ッテモ小ッチャイノバッカデ枝モ極端ニ細イ。近クニ又澤ガ在ルミタイデ音ガスル。喉渇イタンデ澤ニ下リルト一面大ッキナ白イ石コロデ一杯デ流レニモぷかぷか浮イテル。石ガ浮クノハオカシーッテ良ク見テ見ルト人ノ頭蓋骨ダッタ。骨ガ浮クカドーカハ知ン無イケド眼ノ前ノ骨ハ浮イテル。澤ノ石コロモ全部骨デ頭蓋骨以外ノ骨モごろごろ轉ガッテル。骨ノ澤ダッタ。磨キ上ゲタミタイニ骨ハ眞ッ白デ川口探檢隊ッテ又思ウ。水飲ム氣ハ無ク無ッタ。骨ハ上流カラ流レテ來ルミタイデ其ノ流レ辿ッテ半日位歩ク。一日位歩イタカモ知ン無イケド日ハ沈マ無イシ時計モ持ッテ無インデ正確ナ時間ハ分カン無イ。別ニ知ル必要モ無イケド。
青白イ光ガ常ニ差シテテナンカ薄氣味惡カッタ。肌寒カッタ。其レニ寂シーシー物憂イシー狼出ソーダシーナンカ遣リ切レ無カッタケド戻ル譯ニハ行カ無イ。ッテユーカモー戻ローニモ戻レ無イ。只狼ノ餌食ニ丈ハ爲リタク無カッタ。
ッテユーカ樹齢何百年ッテユー樣ナデッカイ樹バッカ。ブットイ幹カラブットイ枝ガ幾ツモ張リ出シテテ其ノブットイ枝ニ七夕ノ短冊ミタイニブラ下ガッテル。時々吹ク強風ニゆらゆら揺レタリスル。一本ノ樹ニ平均シテ廿カラ卅位ブラ下ガッテル。老若男女長短肥痩色取リ取リ。大ッキナ蓑蟲ミタイニモ見エタ。巨大蓑蟲ノ営巣地ッテ感ジ。偶ニ其レガどさッテ地面ニ落チル。殆ドガ白骨化シテルケド中ニハ今サッキ縊ッタミタイナ眞新シーノモ在ルニハ在ル。臭イハセズ空氣ハ澄ンデ綺麗。蓑蟲同士ハ御互イ一めーとる位ノ距離保ッテテ其レ以上密集シテブラ下ガッテルッテ亊ハ無イ。場處見ッケンノニ散々歩キ廻ッテカナリ奥ニ入ッタトコニ手頃ナ場處ヲ漸ク見ッケル。右隣ニハ半バ白骨化シ掛ケタ歳寄リガ左隣ニハ眞新シー中學生位ノ男ノ子ガブラ下ガッテル。二人ニ輕ク會釋シテカラ仕亊ニ掛カル。
先ズ其處等ニ轉ガッテル骨積ミ上ゲテ踏臺作ッテ次ニ枝ニろーぷ掛ケテキツク縛リ其レカラ輪ッカ作ッテ其處ニ頸入レテ外レ無イ樣ニシッカリ締メル。初メテニシチャ手際良ク出來タ。隣ノ二人ニモッ遍挨拶シテ踏臺ノ骨ヲ蹴ッテ崩ス。がらがら骨ノ鳴ル音ガ森ニ響キ渡ッテ其レガ何時迄モ反響シ續ケテ鳴リ止マ無イ。足ガ宙ニ浮イテ自分ノ軆重デぐいぐい頸ガ締マッテ眼ノ前デばちばち火花ガ散ッタカト思ウト直グニ黯ク爲ル。意識ガドンドン遠退イテク。
不図動機ガ無イ亊ニ氣附ク。幾ラ考エテモ動機ガ見附カン無イ。最初ッカラ動機ナンテ無カッタンダッテ氣附ク。コンナ亊スル必要スラ無カッタンダッテ氣附ク。デモモー遲イ。軆ハ痺レテ動カ無イ。
微カニ唸リ聲ガ聞コエタ。獣ノ低ク唸ル聲。狼ナンカ見タ亊無イシ唸リ聲モ聞イタ亊無イノニ其レガ狼ノ唸リ聲ダッテ信ジテ疑ワ無カッタ。意識失ウ直前ボンヤリ霞ンダ視界ニ辛ウジテ見エル足下ノ草叢ノ蔭カラ其ノ姿ガ現レンノヲ確カニ見タ。