友方=Hの垂れ流し ホーム

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口裂け女がしつこくおれをつけ廻すから、頭にこびりついて離れなくなって、にっちもさっちも行かなくなって、何とかそれ捻じ伏せよーうとして奇計を案じたんだった。それが便器男だった。かつて自分が便器男だったことに思い至って、便器男だって自覚することで口裂け女と同類になることができたんだった。同類になっちゃえば狙われる心配もなかった。ってゆーか、むしろ結託して狙う側になれるんだった。そーなると、それまでは恐怖の対象でしかなかった口裂け女に対する親近感が膨れ上がってきて、その暗い過去とか憐れにも思って、何とか慰めてやりたくてこっちから捜し廻るよーんなった。あちこち聞き込みとかして情報集めて、待ち伏せとか張り込みとかしたりもしたけど、遂に口裂け女は見つかんなかった。美意識の強い口裂け女は便器男なんか相手にもしないらしかった。

普段学校の校庭には誰かしら人がいて遊んだりしてるけど、そーゆーときは校庭には寄りつかず、教室の窓とか校庭の隅っこの木陰とかで、動き廻る生徒たちを動物園の動物でも見るみたいに観察すんのが好きだった。それか一人の生徒をずっと追い続ける。それが瑠美ちゃんだった。不二子とかキューティーハニーみたいじゃ決してなかったけど、瑠美ちゃんは不動の地位を築いて君臨してた。小学校の六年間を通しておれは瑠美ちゃん一筋だった。瑠美ちゃんが視野ん中に入れば瑠美ちゃんしか見なかった。

校庭には誰もいないときを見計らって出てく。誰もいない校庭に一人でいんのが好きなんだった。校庭の真ん中に体育坐りして瑠美ちゃんが走った軌跡とか眼で追いながら、瑠美ちゃんのこと考えたりすんのがいーんだった。おれの愛しの瑠美ちゃん。

ゴーゴーゴーゴー物凄い音がして、見るとみんな慌てふためーて、画面を右に左に横切ってく。家の上空をジェット機が飛び過ぎてくらしー。それまで単調で静かだったから音量ちょっと大っきめにしてたせーで、そのゴーゴーゆー音がメチャクチャ響き渡って、慌てて音量下げよーとしたどリモコン見つかんなくて焦った。ジェット機の振動で戸棚の上の大振りの壜が落ちて割れて、中に入ってた牛乳がぶちまけられる。

それが夢なのか現実なのか幻なのか今でもハッキリしないんだけど、記憶ん中に鮮明に残ってる出来事がある。誰もいない校庭の真ん中で一人体育坐りして、ニヤニヤしながら瑠美ちゃんのことなんか考えてる。しばらくすると、一人なんだけど周りで人の騒ぐ声とか走り廻る音とかが幻聴のよーに聞こえ始める。どっかにいんのかって思って周囲見廻すけど誰もいない。スピーカーから流れてでもいるみたいにザワザワする音だけが聞こえてくる。そのうちなんか上の方が明るいなとか思って見上げると、空に廻転する三つの光点が見える。最初は白かった光がしばらく見てるとそれぞれ赤と緑と青んなって、グルグル廻転しながら降りてくる。近くまで来るとそれが球だってのが分かる。赤い球と緑の球と青い球が三つ巴んなって音もなくグルグル廻ってんだった。おれの眼の前でしばらく廻転続けるけど、そのうち青い球だけ残して赤い球と緑の球はまた空に昇ってっちゃう。何気におれが手ー出すと、青い球はグルグル廻転しながらゆっくり手の上に降り立って、着掌すると廻転が止まる。電球よりは小っちゃいけど卵よりは大っきくて、丁度その中間ぐらいの真ん丸い球だった。ほんのりあったかくて息遣いも僅かだけど感じる。卵なんだった。何の卵かは分かんないけど、とにかくなんかの卵だってことは確かだ。おれはその青い卵を大事に抱えて肌身離さずあっためんだけど、いつまで経っても卵は孵んない。殻破ってなんかが出てくることはない。でも死んでるわけじゃなかった。いつまでも卵のまんま生き続けんだった。

妙に小腹とか減ったんで、食べ残しをその辺から掻き集めてくる。スナック菓子とか菓子パンの類いが主だ。まずそれらを食えるもんとそーじゃないもんに分けなきゃなんない。一個ずつ臭い嗅いで明かりに翳してみて分けてくけど殆どが不合格で、僅かに残った合格者を残飯整理みたいに食いながら映画を観る。

また画面がモノクロんなってさっきの廃墟の光景んなって、スローモーションでゆっくりゆっくりカメラがパンダウンしてくけど、さっきと違うのは紙吹雪みたいのがパラパラ舞ってるし、大勢の人が逃げ惑ってるってこと。それ見て確かにこのシーンは見たことあるって思った。叫び声みたいなコーラスに尺八の音が印象的で、その記憶も朧ろげにだけどある。やっぱ見たことある映画だって改めて思って、どーしてもタイトルと監督思い出したいって思うけど、さっぱり思い出せない。記憶が錯綜してる。ってゆーか破壊されてるよーな気がする。なんか、UFOに連れ去られて頭ん中弄くられて記憶なくしたみたいな、そんな感じ。

無心に画面見てるうち、また泥沼のノスタルジアに沈潜してく。底無し沼に嵌まり込んだみたいにグイグイ引き込まれてく。半分はそれに身ー任せて心地よく、半分はどこ連れてかれんのかって不安に思いながら。でもそーやって記憶の整理整頓してんだとか思う。脳ミソの襞々の奥の方に溜まってる腐れ掛かったヘドロみたいな記憶の滓とかを、全部穿り返して記憶の総浚いとかしてんだ。その果てに、思い出したいタイトルと監督もあるんだとか思う。こーなったら行くとこまで行くしかない。

その頃毎日何やって遊んでたのかって思うと不思議でしょーがない。その辺のとこがサッパリ記憶にない。強ーて言えば友達いないからいっつも一人だったってことぐらいしか覚えてない。思い出すのは嫌なことばっか。

小学校の三年四年五年の毎週日曜日を、三年もの月日に亙って拘束されたんだった。その反動ってゆーより元々そっち方面の資質は持ち合わせてなかったんだ。だからその三年は全くの無駄だったって今でも思ってる。何より団体行動できなくて集団の中に放り込まれても孤立するだけだったし、幼稚園のお遊戯にしたってあんなガキっぽいこと恥ずかしくてできるかって頑なに拒否して出なかった。ひとつの教室に閉じ込められんのが堪んなく苦痛だったし理不尽だとか思ってて、集団の一員になることがどーしてもできないんだった。そこに自分の居場所確保するなんてことできなかった。親の身勝手っつーか過剰な期待っつーか、全然子供の資質とか分かってなくて、ただ闇雲になんかやらそーってだけの安直な考えのせーで、貴重な時間を無駄なことに費やさせられたんだった。日曜日んなるとまるで囚人にでもなったみたいに気分落ち込んで、これから刑に服しに行くみたいな気持ちで出掛けた。

親の知り合いの関係してるチームだけど学校とか違うから全然知らない奴ばっかだった。週一回しか会わないからいつまで経っても打ち解けることができず、違和感だけを犇々感じてて、なるべく目立たないよーにコソコソして練習とかやり過ごした。

キャッチポールがまずできない。柔軟体操とかランニングは一人でもできるからいーけど、キャッチボールは相手がいないことには成立しないから、ひとりウロウロしてて誰かが声掛けてくれんの待ってた。その段階で、もー胃はキリキリ痛みだしてて、それが練習終わるまでずっと続く。野球のことなんか全然知らないからフライの練習でセンター行けとか言われても、そのセンターが分かんなくてやっぱウロウロする。一回だけバットにボール当たったことあって、「その感じだ」とか言われたけど、まぐれ当たりだからどの感じだかサッパリ分かんない。大体バッターボックスにいること自体がすでに苦痛で、長居したくないから三振して早々にベンチに戻る方がいーんだった。フォアボールなんかんなって塁に出たりすんのは尚更で、早くチェンジんなれとか思った。だからうまくなろーとか試合に出たいとか全然思わなかった。ひたすら練習終わんの待つだけだった。その時間が早く過ぎんの願うだけだった。でも日曜日はなぜか時間の進み方遅くなって、いつまで経っても練習は終わんなかった。雨はだから天の恵みだった。雨が好きなのは多分そのせーだ。

一回お茶漬けをそれ一着しかないユニフォームに思っきり零して練習休んだことがある。別にわざとやったわけじゃないけど、フロイト式に解釈すれば無意識の願望がそーさせたって言えなくもなく、あんときぐらい嬉しかったことはない。あっつい思いした甲斐あって、おれの人生ん中で最も幸福で解放感感じた瞬間だったって言ってもいーぐらい。でも止めたときの嬉しさはそんなもんじゃなかった。解き難い呪縛からの解放、絶え間ない悪夢からの目覚め、って感じで生きてて良かったって心底思った。

小学生んときはサボるってゆー概念がなかったから律儀に通ってたりしてたんだ。中学んなってからだ、平気でサボれるよーんなったのは。切っ掛けは足の怪我で、最初は怪我を口実にポツポツ休んでたのが癖んなって、遂にはサボることに抵抗なくなったんだった。空きっ歯の授業がサボり易くて特にそこに集中して、よく補習とかさせられた。だからってグレてたわけじゃなく、どっちかってゆーと苛められるタイプだったけど、エロい漫画とか描いて賄賂みたいにあちこち配って廻ったから、辛うじてイジメには遭わずに済んだ。でもお陰で注文殺到したから授業中とかも生産に追われて勉強どこじゃなかった。

今じゃすっかりスポーツとは縁のない生活送ってる。たまに出掛けると、だからメチャクチャ疲れて筋肉痛に見舞われる。老後は骨粗鬆症に悩まされるだろーけど、そんときはそんときだ。老後のこと考えたら切りがない。年金だって恐らく殆どもらえないんだろーし。いや、それより抑もそんな長く生きられんのか? こんな不規則不摂生の生活してて長生きしよーなんて虫が良過ぎる。

今の金遣いの荒さからは考えらんないけど、その頃は小遣いもらったら貯金箱に直行だった。友達いなくて使い道とかもなかったからそれでも充分やってけた。誕生日とかに何買ってもらったかも全然覚えてないから、大したものは買ってもらってないんだろー。だから欲しーもんは自分で手に入れた。コツコツ溜めて一個ずつ買って、ボルテスVの超合金五体全部揃えたんだった。大鉄人17もあったし、鋼鉄ジーグもあった。

誕生日が12月22日でクリスマスと合併されちゃってうやむやのうちに過ぎちゃうから、サンタクロースが来ることもなかった。おれが「何でうちにはサンタ来ないの?」って訊ーたら、母親は「サンタさんだっていろいろ忙しーのよ」とか言ー、父親は普段の無表情とは打って変わって悪魔的な笑い浮かべて、「サンタは磔んなって死んで、サタンになったんだ」とか言った。サンタはキリストに憧れてて、キリストのよーになりたいって思ってて、そしたら誰かが磔んなればキリストんなれるって唆したら、すっかりその気んなって嬉々として死んだんだって父親は言った。他のうちにはサンタが来てるからそれは嘘だっておれがゆーと、父親は当時まだあった髪の毛無造作に掻き上げて、やっぱ悪魔的に笑って「それはみんなニセモンだ」とかゆー。

「考えてもみろ、全世界に一体何人の子供がいると思う。それをたった一晩で、しかもたった一人でプレゼント配って廻るなんてことができるわけないだろ」

なんで父親がそんなこと言ったのかは分かんないけど、それにはやっぱ相当ショック受けた。それ以来クリスマスんなると十字架背負ったキリストサンタクロースが、おれの夢ん中ゴルゴダの丘目指して歩くんだった。そしてその顔は、悪魔的に笑う父親の顔だった。おれはついその笑顔に釣られてついてっちゃうんだった。

仮面ライダーが来るとか言われてのこのこついてったんだった。毎年そー言われて毎年ついてったけど、いっつもライダーは来なかった。もーすぐ来るって言われて辛抱強く待つけど、結局ライダーは現れない。ライダーが来ないパレードなんか面白くもなかった。今だったらミニスカートのおねえちゃんが踊ってんの楽しむことができるけど、そんときはチンタラちんたら動く長ったらしー行列にしか過ぎず、ライダー来んの心待ちにしながら行列が通り過ぎんのをぼんやり眺めてた。港の方からゾロゾロぞろぞろやって来るパレードは、延々続いてあとからあとから押し寄せて切りがない。大っきな輪を描いてグルグル廻ってんのかって思うぐらい途絶えることなく続く。開かずの踏切みたいに道路はパレードで塞がれちゃうんで、パレードが終わるまでそこを横切ることはできないんだった。

ライダーのいないパレードに落胆して消化不良気味に家に帰ると、一日塞ぎ込んで鬱積した思い更に募らせて、溜まりに溜まってパンパンに膨れ上がったものがその日の夢ん中に現れるんだった。1号、2号、V3、X、アマゾン、ストロンガーとライダーの勢揃いで、おまけにライダーマンまでいる。それらがマフラー靡かし足並み揃えてやって来る。ライダーの行進が終わると今度はウルトラマンのオンパレードがそのあとに続く。ウルトラマン、帰ってきたウルトラマン、ウルトラセブン、ウルトラマンタロウ、ウルトラマンレオにアストラ、ウルトラマン80、ゾフィー、ウルトラの父、ウルトラの母、ウルトラマンキング、ザ・ウルトラマン。それだけでも感動もんなのに、更にゴレンジャーが来てジャッカー電撃隊が来てバトルフィーバーが来てアクマイザー3が来て超人ビビューンまで来た。更にキカイダーにキカイダー01、スパイダーマン、イナズマン、ライオン丸に変身忍者嵐、電人ザボーガー、バロム1、ミラーマン、レッドバロンにマッハバロンって続く。ここまではいーんだけどそのあとが困るんだった。ヒーローのパレードが終わるとその反動だか何だかしんないけど、必ず怪人、怪獣のオンパレードが始まるんだった。しかもテレビなんかで見るより一層グロテスクで不気味んなって出てきて、そーゆーときに限って重力が何十Gにもなったみたいに体が重くなって、動こーにも動けなくて嫌でもパレード見させられ、眼ー覚めるまで続くんだった。

妙に怖かったのは尺八の音が原因だった。日本かぶれらしー中年男が掛けるんだけど、深夜ひとりでそれ見てることで更に恐怖は増幅される。それまたゴミ共が嗤ってるよーな気がしたんで「黙れ」って一喝する。外国映画で和楽器の音とか耳にするとなんか妙に違和感感じるし、洋服の上からガウンみたいにして着物羽織ったりすんのも異様に見える。



プルルルル。また電話掛かってきた。どーせまたさっきの奴に決まってる。留守電にしとくんだった。どーしよー、出るの止そーか。

「もしもし」

「………」

「男に無言電話って、お前、ホモか」

「………」

言っても無駄なよーなんで切った。切った途端にまた掛かってくる。

「しつこいなー、お前も」

「炭坑節の策に入るな……」

それだけ言ってプツって切れる。いくら流行ってるからってストーカーに狙われんのは気色悪りー。虫酸が走る。気ー取り直して画面に眼ー向ける。

記憶の浚渫作業が効ーてきたのか、なんか思い出せそーな気がしてきて、ドブジャンスキーってのが転がり出てくる。全然違う。ロジェストヴェンスキー。これも違う。いけるかと思ったけど関係ないもんばっか浮かんできて、肝心の奴は一向に出てこない。キュルノンスキーにプシルスキー。聞ーたこともない。浚っても浚っても出てこない。そこだけ脳細胞が破壊され切り取られでもしたみたいに、すっぽり抜け落ちてるみたいだった。それもこれもストーカーのせーだって思う。ストーカーの野郎がおれの記憶かっぱらいやがったんだ。そーやって見ず知らずの人間に責任なすりつけて、思い出せない腹立ち誤魔化そーとするしかなかった。

昼頃やっと起きだした。目覚まし鳴ったのを無意識に切って、二度寝して一時間ぐらい経ってから眼ー覚めた。昨日はあのあと眠くなって最後まで観ないで寝ちゃったから、結局分からずじまいだった。それがどーにも気になってる。ストーカーより気んなって仕方ない。なんか体の節々が痛い。妙にピリピリする。

目覚ましのコーヒー入れに掛かる。

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