友方=Hの垂れ流し ホーム

2 ブラウスは燻すもんと

01

カラカラン。ってグラスん中に浮かんでる二個の氷が鳴り響ーて、おれの研ぎ澄まされた耳が確実にその音を捉える。狭っ苦しーグラスん中でキシキシ軋んだりしながらちょっとずつ溶けてくけど必死に耐えて、でも周りから押し寄せる熱には勝てなくて遂にバランス崩して動いた二個の氷がグラスに当たって甲高い澄んだ音色響かすのを、氷の悲鳴みたいとか思いながら聴く。溶けてなくなる氷の、それは断末魔の悲鳴なんだとか思いながら聴く。

なんてゆーとカッコ好ーけど壁が薄いから嫌でも聞こえちゃうんだ。その音から方向と距離を測定すると、南南西の方角でこっから直線距離にして約4.28メートルってとこか。カララン。ってまた響く。グラスに氷ってゆーと水割りみたいに思うかもしんないけどそーじゃなくて、中身はオレンジジュース。別に飲めないわけじゃなくて、起き抜けに飲むほど酒飲みじゃないしアル中でもないってだけだ。もっ遍測定してみる。約4.27メートル。誤差1センチ。まずまずだ。

そのグラスに浮かぶ二個の氷が融けて鳴る音を遮るよーにけたたましく電話が鳴ったんだけど、おれは便器に腰掛けてて、しかも丁度ヤツの頭が出てきたとこで出るに出らんない。出たから出らんないんだった。出るより出すのが先決だった。ベルは五回鳴って止んだ。相手が誰か大体分かってたんで急いで出る必要はなかった。だから急いで出す必要もなかった。

クソは慌てず騒がずゆっくりのんびりするに限る。無理して気張ると却って体に悪りーし、痔んなったりする。年寄りがコロって行くのもトイレが多いってゆーし。無理に気張って脳の血管とかブチブチ切れちゃうんだ。それにもし万が一痔にでもなって病院行ったら女医さんで、それもメチャクチャおれ好みの美人だったりしたら恥ずかしくてケツの穴なんか見せらんないし、弄くられて勃起したりなんかして、「あら、こんなになって。可愛いわね」とか笑顔で言われたりしたらもっと恥ずかしーし、そーやって通院してるうちにそれが病みつきんなってケツの穴弄くられてないと勃起しない体んなったらどーする。「血抜きしましょ」とか言ってパクって啣えられちゃったりしたらどーする。考えただけで海綿体に血が寄り集まってきたんで亀頭冷やして落ち着かせる。今はクソの方が先決でそれに専念する。電話は放っといてもどーってことないけど、クソは放っといたら漏れちゃうからな。クソの邪魔する奴が悪りーんだ。

また電話が鳴る。やっぱ五回鳴って止んだ。その音が鳴り止むのとほぼ同時ぐらいにボチャンっていー音さして茶褐色の塊が便器に落っこって、健康的な臭いが下から立ち上ってくる。この音聞ーてこの臭い嗅いでこの色艶見ないことには一日は始まんない。良き一日は良き排便からってね。

クソは浮くか沈むかでその命運が大きく違ってくるわけで、最初にそれ確認する。クソ占いって言ってもいーけど、とにかく浮かなきゃ話になんなくて、便器の底に沈んだクソ見ると気も沈んじゃって、その日一日重苦しー気分に付き纏われる。沈むのは腸内に長く留まり過ぎて圧縮されて高密度んなってるからで、そーなると色だって黒ずんでくるから余計重苦しく感じる。そーかと言って早く出てきちゃうのも困りもんで、ゆるゆるの軟便は如何にも貧素で見窄らしーし、便器の水とかも濁っちゃって汚らしー。途中で切ったりして小出しにすんのも頂けない。一回で全部出し切んないと拭くときに余計紙が必要んなるから不経済だし、ケツにも良くない。色とか密度とおんなじよーにその粘度も大事で、指で押せばそのまんまズブズブ入ってくぐらいの軟らかさが欲しー。って言っても実際に触って確認したことなんかなくて、飽くまで見た目の話。色は黒褐色でも黄褐色でも赤褐色でも駄目で、やっぱ茶褐色じゃないと感じ出ない。軟らか過ぎず硬過ぎず、色も薄過ぎず濃過ぎず、うっすら光沢発してるぐらいがベスト。理想的なクソを垂れるには何より我慢しないことで、したくなったらいつでもどこでもすんのが鉄則で、彼女とデート中だろーがベッドん中だろーが抜き差ししてる最中だろーが速攻でトイレに行く。我慢に我慢重ねた末の脱糞が快感だとかゆー奴もいるけど、そんなの邪道だ。クソ第一主義で何よりもクソを最優先にして、いざとなったら路上の野グソ、衆人監視ん中の野グソも辞さない覚悟が必要で、生半可なことじゃできない。クソ道を極めんのは大変なんだ。クソ道については現次が詳しーけど、でも方向性がちょっと違うからあんま参考にはなんない。

今日のおれのブツはまー何とか及第点てとこか。臭いとかは申し分ないんだけど、ちょっと艶がないし切れも悪りー。生活が不規則だから滅多にいークソにはお眼に掛かれない。まだまだ精進が足りないってことだ。

全部済んだら最後にお別れの挨拶して、水で流す。



隣近所の迷惑も顧みずベタ足でドカドカ足音させながら入ってくるなり、「どこ行ってたんだ?」って坂淵はゆーと、返事も待たずにそのままドカドカ歩き続けて脇目も振らず窓際まで行く。

「電話お前だったんだ」てっきり現次かと思ってた。

坂淵は窓際に仁王立ちんなって、なんかを確認でもするみたいに眺めもクソもない窓の外を睨みつけながら、「誰だと思った?」とかゆー。

「クソしてたんだ。二回目んときは急げば出れたかもしんないけど、急いでもアレだと思って」っておれが言ったら、確認作業は終わったみたいで坂淵はこっちに向き直ると、おれを見て「二回もしてないよ」ってゆー。どっちか分かんないけど、一方は違う奴らしー。

「じゃ誰だろー」「さーね」「現次かな」「かもね」

坂淵は室内をチラっと一瞥して「誰も来てないの?」ってゆーと、さも疲れたって感じでドカリと床に腰下ろして、「あ゙ー」とか言って唸った。「オッサンか、お前は」っておれは突っ込んだけど、間が悪かったからか坂淵はおれの突っ込み無視して、「あ、これもらうよ」とか言って、丁度坂淵の眼の前に置いてあったおれの飲み掛けのオレンジジュースを氷ごと全部飲んだ。一息つくと腕時計見ながら「時間、過ぎてんじゃん」とかゆー。

坂淵は時間にはうるさくて、おれも含めてみんなこいつには悩まされてた。なんかっつーと時間時間てしつこいんだった。ちょっとぐらい遅れたって誰も困りゃしないのに、何急いでんだって感じでひとりでイライラすんだった。「それで煙草とか吸い過ぎちゃうんだ」とか言って今は禁煙中だけど、そー長くはもたないと思う。これまでにも何回か禁煙してたけど一週間と続いたことない。妙に神経質ですぐ落ち込んだりすんで扱いには苦労するけど、憎めない奴だ。鬱病気質でいっつもそれ気に病んでて、そのこと人に指摘されると怒るんだった。酒の席でそれゆーと子供みたいにオイオイ泣いた。「ブルーだ」ってのが口癖でいっつも浮かない顔してたけど、その割には赤ら顔で見た目は凄く健康そーに見えるんで、それで損してんだって坂淵はゆーけど、みんなその逆だって思ってる。

「時間通りに来たためしがあるかよ」っておれがゆーと、「それもそーだ」って一応は納得するけど内心はどーだか分sかんない。でも最近はいくらか馴れたみたい。怒っても意味ないって分かってきたらしー。

約束した時間は二時だったけど疾っくに過ぎてて、すでに三時近かった。何だかんだで全員揃ったのは四時頃だった。いっつもおれの部屋ってわけじゃなくてそれぞれん家で会合は開かれたけど、中味は大体おんなじだった。ただ駄弁るだけで終始して、あとに残んのは大量のゴミだけだった。

テレビ点けてリモコンで頻りにチャンネル切り替えながら「暑くないか?」って坂淵がゆーと、みんなも「暑い暑い」ってゆー。

「ってゆーかエアコン、調子悪りーんだ」黴臭い冷風送りだしてるエアコン見上げておれは言って、テーブルの上のリモコン取って設定温度を二度下げた。ピピ。強力な黴風が勢いよく送風口から飛びだして部屋を満たしたけど、黴臭くなっただけで涼しくはなんなかった。

辺りをキョロキョロ見廻してた矢部が「なんかない?」ってゆーから、冷蔵庫開けて中探って適当に見つくろって出すと、「もっとマシなのないのかよ」とくる。「前もって用意しとくもんだろー普通」とか偉そーにゆー。こいつはいつもこーだった。奢ってもらってるくせに文句ばっかゆーんだった。こいつが金出したの見たことない。財布持ってんのかって思うぐらい矢部がなんか買ってんのを見たこともない。じゃ貧乏かってゆーとそーでもなくて、結構いい服着てるし時計も割かしいーもん持ってる。ってゆーか要領がいーんだった。一種の才能かもしんない。本人もそれ知っててフルに活用すんだけど、その立ち居振る舞いとか風貌とか物言ーとかにどっか憎めないとこがあって、何故かこいつだと許しちゃうんだった。

「文句あんなら自分で買ってこいよ」っておれがゆーと矢部はズカズカやって来て、冷蔵庫開けてその前にしゃがんで、中覗き込んだ。冷気浴びて「涼しー」とか言ーながら、しばらく中まさぐってたけど、不意におれの顔を訝しげに見て、「なんでこんなピーナツバターばっかあんだよ」ってゆー。

「あーそれね。彼女がね、好きなんだ」

矢部は冷蔵庫ん中のピーナツバターとおれの顔交互に見較べながら、「それにしても、こんなにいらないだろ」ってゆー。そこにはいろんな種類のピーナツバターの壜が一ダースぐらい並んでて、壮観て言えば壮観だけど、異様って言えば異様だった。ほんの少し躊躇したあと、「そのまんまじかに嘗めるからね」っておれが言ったら、益々分からんって顔して、「パンとかに塗るんじゃなくて?」って訊く。

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