友方=Hの垂れ流し ホーム

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そー言や『ウルトラマン』も『仮面ライダー』も『ルパン三世』も『あしたのジョー』も『マジンガーZ』も『サスケ』も『マッハGoGoGo』も『科学忍者隊ガッチャマン』も『ジャングル大帝』も『魔法使いサリー』も『ムーミン』も『いなかっぺ大将』も『巨人の星』も『ふしぎなメルモ』も『ド根性ガエル』も『アパッチ野球軍』も『ピュンピュン丸』も『樫の木モック』も『デビルマン』も『ハクション大魔王』も『ゼロテスター』も『海のトリトン』も『妖怪人間ベム』も『カムイ外伝』も『もーれつア太郎』も『タイガーマスク』も『天才バカボン』も『悟空の大冒険』も再放送だった。

一世代前のアニメとかかなり観てて、思い入れとかもそっちの方が深かったりするけど、ガンダム世代だからガンダムのプラモはいっぱい買った。あっちの店こっちの店って捜し廻ったりして、なんか狂ったよーに買い捲った。出るヤツ出るヤツ次々買って、本篇には出てこない試作機の何とかってのまで買った。そこまで行くと異常だけど、あんときは殆どみんなそーだったから特に変だとも思わなかった。ジオラマまではやんなかったけど、ってゆーか不器用でおれには無理だって端っから断念してたんだけど、それでも暇さえあればプラモ作ってて、部屋中シンナー充満さして気分悪くなったりしてた。蓋とかも開けっ放しだったからシンナーの減りは以上に早かった。冬だったから窓締め切ってて半分ラリって作り続けてたら、手元狂ってカッターで思っきり左手の人差し指の先っちょ切った。でも一瞬衝撃走っただけで殆ど痛みはなかった。皮膚がザックリ割れて黄色い脂肪がちょっと覗いて見えた。

血はすぐには出てこないで、ちょっとずつ滲み出てくる。出てきたって思って見てたらみるみる膨らんで球んなった。直径5ミリぐらいのドーム型の血の膨らみが指の上にできる。僅かに表面張力で均衡保ってる半球状の真っ赤な粒。そこに自分の顔が写り込んでるよーな気がして、眼ー凝らしてじっと見てた。血の球に反映された自分の姿とか捉えよーと必死んなって覗き込んだ。でも血はどんどん出てくるからそのうち表面張力にも限界がきて、綺麗にドーム成してた形がだんだん歪んで最後には崩れちゃったから、もー少しで見えそーだった自分の反映捉え損なった。血は重力によって一筋の線になって指伝って流れ落ちる。それ見た途端我に返って、頭クラクラしてきたし指ドクドクいってるし急に痛くもなってきたから、慌てて母親んとこに駆けてって手当してもらった。赤チン塗って絆創膏グルグル巻くと、絆創膏は蛭みたいに血ー吸ってみるみる赤く染まった。真紅の絆創膏が眼に痛かった。血の赤が痛みを倍加させるんだった。

買うことに熱心で作ることにはあんま熱心じゃなかったから、ってゆーか元々飽きっぽい性格だからすぐ途中で投げだしちゃうんで、今も作り掛けのプラモがそのまんまにしてあるし、全然手つかずのも結構あって、あと四、五十年ぐらいしたら高い値で売れるかもなんて虫のいーこと考えてたりする。

プルルルルって電話鳴ったけど、雑誌の下に隠れててそれ探すのに少し手間取った。

「はい、永井です」

「………」

「あの、もしもし」

「………」

無言電話かと思って切ろーとしたら「タコ好き…」とかいきなりわけ分かんないことゆー。

「は? なんすか、誰すか?」

「……剥離剤」

最初現次か誰かのイタ電かとか思ったけど声に聞き覚えがない。変質者だ。気違いだ。今流行りのストーカーってのかもしんない。気味悪くてすぐ切った。

気ー取り直してテレビ観る。相変わらず映画は単調でどこまで行っても盛り上がんなかったけど、なぜか気になった。つい見入っちゃって眼ー離せないんだった。金縛りにでも遭ったみたいでCMんなるまで動けないんだった。CMんなって金縛りが解けたからトイレに立ったけど、意識はテレビにあるから音とかよく聞こえるよーにドア半開きにしてCMソングとか聞きながらする。寒かったのはエアコンつけてなかったからで、トイレ行くついでにリモコン捜してスイッチ入れる。スイッチ入れてから壊れてんの思い出した。

股間の力抜くと一、二秒の間ー置いて真っ黄っ黄のしょんべんが勢いよく迸り出る。このしょんべんが飛びだす瞬間が堪んない。って思ったら二股に別れてそれぞれ別々の方向に飛んでった。右の方に飛んでったのはうまく便器ん中に落ちたけど、左の方に飛んだヤツがおれの意思に逆らうよーに便器の外に落ちてって裾に思っきり掛かった。それ便器に入れよーとしたら今度は右の方が便器から飛びだして、両方一遍に便器ん中に入れることができない。一旦し始めたら止まんないから、焦れば焦るほどしょんべん塗れんなった。速攻で新しースウェットに履き替えて、しょんべん塗れのスウェットは洗濯機に放り込む。ってゆーか洗濯機は山のよーに積もった汚れもんで一杯だから、その上に乗っけただけ。早くしないとCM終わっちゃうって焦れば焦るほど却ってもたついて時間掛かんだった。

昔っからしょんべんとかよく飛び散らして母親に怒られたりしたけど、小っさい頃はそれ以上によく便器に嵌まった。腰掛けたときに足が床に届かないから、ウンって気張った拍子にバランス崩してスポって嵌まっちゃうんだった。一旦嵌まっちゃうと自分じゃ出らんないから助け呼ぶしかない。不様って言えば不様だった。

初めて嵌まったときは焦って抜け出よーとしたからか、蜿けば蜿くほど奥へ奥へとケツはめり込んでくし、便器の水がやたら冷たくて、なんか吸い込まれそーとか思って、いずれ汚水と一緒に下水にまで流されてくんじゃないかとか思って泣きそーんなった。流されないまでも便器に嵌まったまんまトイレん中で一生過ごさなきゃなんないかもって思ったら一層恐ろしくなった。でもその前に家族から見放されて、「便器に嵌まるよーな子はうちの子じゃありません。そんなに便器が好きならずっとそーしてなさい。その代わりうちには置いとけません」とか言われて、便器ごと捨てられんじゃないかって思った。だっておれが便器占領してたら家族は用足せないからな。そんで粗大ゴミの日に捨てられんだって思った。そしたら野垂れ死ぬか、運良く生きれたとしても見世物かなんかんなって『怪奇便器男』とか言ってテレビとかにも出たり、全国津々浦々経巡ったりして、その不様な姿みんなに見られて嗤われて、最後には飽きられて誰にも相手にされなくなって、屈辱のうちに死ぬんだって思った。一瞬のうちにそこまで想像してた。自分の想像に怖くなって泣き喚いたら、何事かって母親が駆けつけてきてすぐに助けられたから、便器男にはなんなくて済んだ。うちの便器が水洗だったからまだ良かったけど、これが汲み取りだったらクソ塗れって可能性もあったわけだ。

母親はそんときのおれの姿をヤドカリみたいとか言って散々笑い物にした。親戚とか家族とか集まるときなんか決まってそれ話題にした。それも目一杯誇張して話すんだった。便器に嵌まった姿は自分じゃ見れなかったから反論の余地もなく、ただ下向いて話題変わんの待つしかなかった。でも放っといたらどんどん尾鰭とかついて、最終的には首から上だけが便器から出てたとか、一回流されたけど途中で閊えて戻ってきたとかゆーことんなった。面白可笑しく脚色してみんなでおれ見て笑うんだった。うちの親戚の間じゃ、だからおれは便器男なんだった。便器被ってない、便器男としては最も情けない、見世物にもなんない裸の便器男。

お陰でおれはしばらく便器男に悩まされた。夢には何回も現われたし、自分が便器男んなってる夢とか見たりもした。いつか便器男がおれを攫いに来るとか真剣に思ってた。そんで便器男の秘密基地とかに連れてかれて、便器男に改造されるとか思ってた。

急いで戻ったけど疾っくにCM終わってて、画面がモノクロんなって真っ暗なトンネルが映し出されてる。その周囲にはこの部屋みたいにゴミが散乱してる。カメラがゆっくりパンダウンすると、画面下から横倒しんなったボロボロの白い車が迫り上がってくる。ボンネットも開いてて屋根もボコボコでフロントガラスもなくて、殆ど廃車同然だった。更にパンダウンして車が上に消えると、横断歩道の白線が迫り上がってくる。そこをチョロチョロ水が流れてて、その音が異様に響き渡る。なんか背後から沸き上がるよーにして不気味な叫び声がしたよーな気がして振り返ったけど、音は背後からじゃなくてテレビから出てんだった。女の叫び声みたいな歌声が、テレビから出てくんだった。冷茶を一口啜る。

一年間通った木造校舎の建て替えで二年生の一年ぐらいがプレハブ校舎で、プレハブは運動場に建てたからその一年間運動場はなかった。そして確か新校舎ができた頃に口裂け女があちこちに出没し始めたんだった。顔の下半分真っ白いマスクで覆った髪の長い女で、誰彼声掛けては「私キレイ?」とか訊くらしかった。マスクで顔隠してるから綺麗かどーかなんて分かりそーもないけど、あからさまに不細工とも言えないし、実際マスクに覆われてないとこは綺麗らしーんで、とりあえず綺麗だって答えると今度はマスク取って、「これでもキレイ?」とか訊くらしー。真っ白いマスクの下は口が耳まで裂けてて、何でも整形に失敗したとかゆー話だった。それ見て驚いたりするとやられるんだった。平然と「キレイです」とか答えても、やっぱやられるんだった。

噂はいくつも流れた。どこどこの三学生が餌食にされたとか、友達の友達の友達のクラスメートが忽然と姿消したとか、どこどこの五年生が追いかけられたけど辛くも逃げ果せたとか、その口裂け女確実に撃退する方法だとか。当時はそれ全部事実として受け止めてて、疑うなんてことは一切なかった。総てが現実だった。

下校時にはだから背後に気ー配りながら、緊張して家まで歩いた。口裂け女はメチャクチャ足速いってゆー話だから、おれみたいに足遅いのは声掛けられたら最後で、家ん中に入るまでは気ー抜けない。大人の男の人が前歩いてたりするとそのあとにピッタリついてくんだけど、妙に閑散として人通りとかなかったりすると、そこはもー口裂け女の徘徊する地獄に変わる。怖くて駆け出したくなるけど、駆けると逃げたと思われて却って注意とか惹くよーな気がしたから走るに走れない。いつ後ろから肩叩かれるかって不安抱きながら家目指すんだった。家が堪んなく遠くにあるよーに感じ、高々10分足らずの時間が30分にも1時間にも感じた。たまに親とか出掛けてて鍵掛かってたりすると最悪で、ドアにへばりついて親が帰ってくんのひたすら待つしかないんだった。

口裂け女にはテーマ曲があった。誰かが口裂け女のために作ったとかゆーんじゃないし、小学生お得意の替え歌でもなくて、おれが勝手にそー思ってるだけだけど。でもその曲は意外と口裂け女にぴったりマッチしてた。運動会が近くて放課後んなると競技の合間に披露する踊りだかダンスだかの練習を一年生がしてるらしくて、必ずマイムマイムがスピーカーから流れてて、しばらくそれに送り出されて校舎を出てた。ただでさえ安っぽくて薄っぺらな演奏なのが、何度も掛けてテープ伸び切ってるから余計安っぽさに拍車掛かって、下校時の気怠げな雰囲気と相俟って妙に哀しげに聞こえるんだった。それが口裂け女の翳のある雰囲気とも妙に合うもんだから、いつしかおれん中で密接に結びついちゃったんだった。マイムマイム踊ってんの見ると、だから口裂け女を呼ぶ儀式だか、その哀しみとか怒りとか鎮める儀式だかをしてるみたいに思うんだった。

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