Effluents from Tomokata=H

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04

放っとくとどんどん横道に逸れてって、結局なんも決まんないってゆーいつものパターンになりそーで、とりあえずなんか提示して軌道修正しないと先進まないって思ったから、殆ど思いつきだけだったけど「オッサンのパラダイスとかは?」っておれは言った。

そこは何もかもがオッサンの思い通りの世界で、パチンコから競馬、競輪、競艇に、看護婦、スチュワーデスからOL、保母さん、女子高生に至るまで何でも揃ってて、まさにオッサンのユートピアって感じで、なんてゆーか、醜悪美とでもゆーよーな、狂喜乱舞、酒池肉林を繰り広げる一大グロテスクだとか何とか口から出任せ並べ立てるけど、さすがにやり過ぎたみたいで誰もついて来なくて、ひとりポツンと浮き上がった。興ん乗って喋ってると自分の世界に埋没しちゃって周り見えなくなっちゃうのがおれの悪い癖で、気がついたらひとりってことはよくあった。溜息ついて「どーする?」って呟いた。

そんときまたエアコンがぐぁぐぁんグォンぐぉんって変な音させる。別に驚いたってほどでもないけど、なんか異質な感じの音だったからか、一瞬みんなそっちの方を見る。その瞬間、頭ん中でなんかが弾け飛んだみたいな、プチプチってなんかが切れるみたいな音がして、何だろとか思ってみんなの方に顔向けると、眼の前にいる四人がまるで知らない他人に見えた。抑もおれはこいつらとどーゆー切っ掛けで友達んなったんだっけとか思う。瞬間的に記憶喪失んでもなったみたいに何もかも忘てれんのに気づく。プチプチってのは記憶の破裂する音だったのかもしんない。なんか、足元の土台が崩れ落ちるよーな不安を感じる。

眼の前にいる四人を見る。まるで見も知らない他人といるよーな、なんか、病院の待合室かなんかにでもいる気分で妙に落ち着かない。いつどこで誰と初めて会ったのかって記憶辿ろーとかするけど、途中で分かんなくなってそこには辿り着けない。ひとりひとりの顔とか改めてまじまじ見つめると知らない人に思えてきて、おかしーなって思って見れば見るほど自分との関係が希薄になってくみたいで、益々赤の他人に見えてくる。

体中の黒子ってゆー黒子を全部顔に持ってきたよーな坂淵の顔も、立体感がまるでない平面的な造りで折り紙とかで簡単に作れそーな夏彦の顔も、これと言って特徴らしー特徴がないってのが特徴の矢部の顔も、岩石みたいにごつくて山出しの田舎モンみたいな現次の顔も、今初めて眼にするよーな気がして、記憶のどこを捜してみても該当するもんが見つかんない。

こいつらとの関係は今までちゃんと見えてたし、だからこそこーやって集まって駄弁ってんだけど、それらが急に錯綜し始める。あったはずの関係見失ってるってゆーより、実は最初っから無関係だったのを、誰かに無理やり関係づけられたみたいな気がする。

声掛けよーとした。したけど声が出ない。ってゆーか今まで覚えてた名前まで忘れちゃったみたいに、なんて声掛ければいーのか分かんない。あれこれ呼ぼーとかしてみるけど全然うまく行かない。頭ん中混乱してる。

誰かに騙されてるみたいな、なんか壮大な罠にでも嵌まったみたいな気がする。ってゆーか殆ど確信に近くそー感じてる。操り人形の気持ちってこんなんだろーかとか思った。でもその感じそのものは不快でも何でもなくて、不安と陶酔がごちゃ混ぜんなったってゆーか、いー具合に混合されて、ぬるま湯んでも漬かってるみたいな不思議な心地良さ感じなくもなかったから、しばらくその気分を味わう。でも実際は一瞬のことですぐ自分取り戻してる。そんなことになんのは調子悪りーエアコンの黴風のせーに違いなかったからエアコン消そーとしたけど、みんなの猛反対に遭って已むなく点けたまんまにしとく。

急に夏彦が、痺れ切らしたってゆーか、慌てた様子で、「アクションなし女の子なしじゃ、猿轡されて手足とか縛られて倉庫に放り込まれてるよーなもんだよ。そんなんで面白いもんできんのかよ」とか言っておれの方を見る。それ提案した手前、なんか言わなきゃって思うけど夏彦の言ってることも分かるから、どーにも答え兼ねる。尤もらしく「アクションとか女の子から抜け出さなきゃいけないんだ」とか言ってはみたけど、その先が続かない。

完全に頭打ちで一歩も進むことができなくなった。アクションなし女の子なしがこれほど枷んなるなんて思ってもなかっただけに、みんな塞ぎ込んじゃった。大体夏休み中に作ろーなんてのがナンセンスで、誰が言ーだしたのかも忘れたけど、そんな目標立てること自体が抑も間違ってんで、目標なんか立てちゃうと却ってそれに縛られて身動きできなくなんのが落ちだ。そのうち非難がおれに集中しだした。結局全部御破算にするしかなく、最初っからやり直しってことんなった。

そーなると俄然元気んなったのは夏彦で、さっきまでの消沈振りとは打って変わって「永年あっためてたのが何コかあるんだ」とか言って自分のプラン喋り捲る。でもそれはどーしよーもなく陳腐でつまんない、どこにでもある既製品に思えた。お城の塔の天辺の囚われの超カワイーお姫様を冴えない主人公が助けに行くだとか、世界征服企む悪の権化でメチャクチャスケベな奴から地球を守るために美少女防衛軍が設立されるけど裸にされて曝しものにされちゃうだとか、男は一人として出てこない女の子ばっかの魔法少女何とかだとか、どれも似たり寄ったりで露骨に趣味丸出しの、どー料理したって三流品にしかなりよーがない、バーゲンでも売れ残るよーな粗悪な模造品ばっかだった。

矢部がそれに不審を表明して、「もっとマシな案ないのかよ。お前ホント、オタクだな」って口から麩菓子飛ばしてゆーと、「オタクで何が悪い」っていつものが始まる気配見せたから、矢部も「いや別に悪くないけどさ」とか言って牽制する。酒入ってなかったから暴走は免れたけど、しばらく燻ぶっててみんなで牽制し合った。

急に現次が素っ頓狂な声出して、「あれ、今日何曜だっけ?」って誰にともなくゆーと、「金曜」って透かさず答えたのは矢部だ。現次が念押すよーに「13日だよな」って今度は矢部に訊くと、「13日の金曜日」って殊更不敵な笑み作って矢部がゆー。そのあと間発入れずに「おまけに仏滅」とか言ったのは坂淵。それ聞ーて夏彦が「忘れてた、今日バイトだった」って言ってちょっと慌てたけど、時計見て「まだ大丈夫だ」ってほっとしたよーにゆー。坂淵がポツリと「13日の金曜日仏滅、か」って呟く。それが一瞬の静寂の間隙を縫って聞こえたからやけに不気味に響ーた。

そんなときに電話鳴ったもんだから一瞬みんなビクって痙攣したきり固まっちゃって、誰も出よーとしなかった。いちばん電話機の近くにいた矢部が仕方ないって感じで、丁度五回ベルが鳴ったとこで受話器を取る。なんか一言二言言ってから切った。おれが「誰?」って訊ーたら、「聖って人。お前に伝言があるって」とか言ー、そんな奴知らなかったけど「で、なんて?」って訊ーたら、「ハッピーバースデー、ブーブー子豚ちゃん、だって」とかゆー。

「何だよそれ」っておれが言ったら「知るかよ。ハドソン川に来れば分かるとか言ってた」ってゆー。

「なんかの暗号か?」とか現次が訊くから、「イタ電だよ」っておれは答える。

坂淵が一旦ゲーム中断したから画面はテレビに切り替わってるけど誰も見てなかった。ニュースかなんかやってるみたいで、スーツ着たオッサンが口パクパクさせてなんか言ってるけど、音量絞ってあるから何言ってんだか分かんない。だからその音がよく聞こえた。

「なんか変な音、してない?」矢部が最初に指摘した。

「分かってる。よくなるんだ」ってエアコンの送風口見据えながらおれは言った。

「変な臭いもしないか?」現次が言った。

「あー、黴だよ、カビ」部屋ん中には黴風が吹き荒れてて、鼻の奥の方ピリピリさせる。

「フィルタとか掃除してんの?」坂淵が言った。

「してない」っておれ。

「換気した方がいんじゃねーの」夏彦が言った。

「そーだな」っておれは言って窓全開にする。湿気た熱風が入ってきて黴風と一戦交える。クラクラした。

ぐぉんぐぉんって変な唸り声をエアコンは発してた。みんながそれ見てる。しまいにグルグル廻りだす。部屋が廻ってんのか眼が廻ってんのか分かんないけど、廻ってんなって感じだけは明確にあって、しばらくすると気分悪くなる。それでもエアコンの方を凝視し続けた。

その数秒間の沈黙が合図だとでもゆーよーに、「あっ、おれもー行かなきゃ」って夏彦が言って徐ろに帰り仕度始めると、矢部も現次もそれに同調して仕度始める。夏彦はバイトだけど矢部と現次は関係なく、ただ方向が一緒だからってことだった。三人が帰ると急に静かんなって、坂淵がまたやり始めたゲームの音がうるさいぐらい鳴り響ーて、それがエアコンの音と合体して不思議な音を奏でる。おれは袋に一本だけ残ってた矢部の食い残しの麩菓子を食う。坂淵も帰るとエアコンの音だけが残る。散らかった部屋に鳴り響く。

ぐぉんグォンぐぉぉんぐぃんぐぃぃんぐぐぐぉんぐぁぁんグォングォンぐぉん

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