Effluents from Tomokata=H

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03

「でさー、中味どーする?」って矢部がゆーと、夏彦が急に勢い込んで「そりゃ、やっぱアレでしょ」とか言った。「アレしかないっしょ」

一旦コーヒー飲み掛けてたの口の前で止めて、「でもそれってワンパターンじゃない?」っておれは言ー、それから一口啜って舌の上でゴロゴロ転がしてその味堪能する。やっぱコーヒーはブルマンだ。香りと言ー味と言ーこれ以上のもんはないって一人悦に入る。夏彦はおれのワンパターンって言葉に、なんか敏感に反応してちょっとむっとして「何言ってんの基本だよキホン」とか言ー、ミルクと砂糖のたっぷり入ったコーヒー旨そーに飲む。

コーヒーにミルクとか砂糖とか入れたらコーヒー本来の味わいなくなっちゃうから、コーヒーはブラックで飲むのが基本だ。ってゆーかブラック以外のコーヒーはコーヒーじゃなくて、別の飲み物だ。ブラックだけがコーヒーと呼ばれて然るべきもので、「この酸味と苦みが作りだす奥深いハーモニー、これこそコーヒーのコーヒーたる所以なんだ」っておれがゆーと、「ただケチ臭いだけなんじゃねーの」とか夏彦は言って、惜しげもなくミルクと砂糖ぶちまけて、「砂糖とミルクがコーヒーの味引き立てて更に豪華にすんだよ」とかゆー。

一旦ゲーム始めるとなかなか終わんない坂淵は、おれたちに背中向けて画面を注視して、遠慮してか音量下げてるけど、どんどんゲームにのめり込んでってるみたいで話にはてんで上の空だ。

先っちょに紅生姜が張りついた割箸で夏彦指しながら「そーゆーマンネリズムがさ、堕落の始まりだってのが分かんないのかね」って現次はゆーと、焼そばズルズル音させて食って、頬っぺた膨らましてモグモグ咀嚼する。入手した食料の大半は現次の腹ん中に納まるんだった。ケチ臭いってゆーなら現次の方で、人の残したもんまで手ー出すんだった。ちょっとでも手ーつけないで放っとくと目敏く見っけて、「要らないんならコレもらうよ」ってゆー間もなく手が延びてて、返事も待たずに口に入れてる。だからブクブク肥るんだ。

負けずに夏彦が「王道だよ王道」ってゆーと、現次は焼そば頬っぺたに溜めたまんまの籠った声で更に追い打ち掛けるよーに、「発想の貧困曝けだすみたいで恥ずかしーよ、そんなの。通俗だよ」とかゆー。

「通俗のどこがいけないんだよ。芸術家気取りでわけ分かんないもん作るよか余っ程マシだと思うけどな。それに通俗から芸術は生まれてくんだ。通俗なくして芸術はあり得ない」大威張りで夏彦がゆーのに、「そーそーそ」って相槌打ったのは坂淵。ゲームにお熱で聞ーてないと思ったらしっかり聞ーてたらしくて、それでも画面から眼だけは離さないで、「通俗があるから芸術も成立すんだ。底辺で芸術支えてんのは通俗なんだ。権威振って威張ってたりすると足元掬われる」とかゆー。

「でも芸術を駆逐すんのはいつも通俗だぜ」って現次がゆー。

「まーそれはそれとしてさ、とりあえず美少女とかメカとかは止めにしない?」っておれが提案すると、何言ってんだって顔して夏彦が凝固したのが分かった。

夏彦は典型的なオタクだった。オタク的知識と経験においてこいつに適う奴はこん中にはいない。どっちかってゆーとおれたちは非オタク的で、オタク族とか言われてる輩とはちょっと違うって思ってる。お祭り嫌いだからコスプレなんかもサンバカーニバルみたいで肌に合わないし、そーゆー輩との交流も全然ないし、だからコミケなんかも行ったことないし、学校にもいくつかサークルとかあるらしーけど寄りつきもしない。たまにテレビとかのオタク特集なんかでそーゆーの見たりすると虫酸が走るんだった。人からオタクって言われんのは嫌いで、なんか、隠れ切支丹みたいだった。別に隠してるわけじゃないけど、切手とか鉄道とかブリキのオモチャとかマッチ箱とかテレカとかコインとか銃器とかナイフとか、その他あらゆる物の蒐集家には世間もある程度寛容でマニアとか言ってその存在認めてるし、中にはある種の権威とか持ってる人なんかもいたりするけど、オタクはマニアとは別種の存在で扱いが違うんだった。切手マニアとか鉄道マニアとかオモチャマニアとかガンマニアとは言っても、切手オタクとか鉄道オタクとかオモチャオタクとかガンオタクとは言わないし、仮にそー言ったとしても意味合いが違ってくる。オタクはマニアより下なんだった。明らかに下に位置づけられてる。その本質はおんなじなのに歴史がないってゆーだけでまるで扱いが違うんだった。マニアは辛うじて正常範囲内で人畜無害だけど、オタクは異常者、変質者扱いで、ストーカーの巣窟みたいにマスコミが報道するもんだから、世間もそーなのかって思ってそーゆー眼で見るんだった。そーゆーオタクに対する偏見とか犇々感じて縮こまってるおれたちの中で夏彦だけは別で、自ら正統的オタクを公言して憚らなかったし、オタクの地位向上計るため団結しよーとか決起しよーとかわけ分かんないこと恥ずかしげもなく言ったりすんだった。夏彦は鼻息荒く「オタクで何が悪りーんだ」とか「オタクであることに誇りを持て」とか「オタクこそ人の生きる道だ」とか「これからはオタクの時代だ、オタクが世界を切り開くんだ」とか言って、延々オタク講義すんだった。酒が廻ると尚更で、誰彼構わず取っ捕まえては「オタクを何だと思ってんだ、オタクを馬鹿にすんな、オタクを敵に廻すと怖いぞ」とか言ったり、路上で突然「おれはオタクだー」とか大声で喚いたりすんだった。

おれの方向いたまま三秒ぐらい夏彦は固まってた。三秒経ってよーやく硬直がほぐれたけど、まだ頬の一部が氷解しないって感じでピクピク痙攣させながら、「それなかったら始まんないじゃん」とかゆー。追い詰められて切羽詰まったみたいな、何とも言えない悲壮感が全身に漂ってる。それが夏彦の核心部分で、こいつからそれ取っちゃったらなんも残んないってのも分かってたけど、「そーゆー考え方ってちょっと違うんじゃない」っておれがゆーと、「おれもそー思う」って現次も同意する。もー焼そば平らげて次のきつねうどんに取り掛かってる。ビニールの包装歯で噛み切って乱雑に蓋開けながら、「そーゆーのは視野狭くするだけだ」とかゆー。現次は何でも断定的にゆー癖があって、そんでよく人怒らせて喧嘩んなったけど、弱いからすぐ謝る。体もでかいし強面だから一見強そーに見えんだけど、気が小さくてメチャクチャ怖がりだ。

「何言ってんの、女の子いなくて何が面白れーんだ」って夏彦がゆーと、現次は「それが駄目だっつんだ」とか言ーながら割箸で指す。前歯に青海苔くっついてる。

「何が?」いつになく挑戦的に夏彦はゆー。

「女の子がいりゃいーって考えがだよ」

「発想の転換だな。女の子も出なくてアクションもなくて何ができるか。そーゆー風に考えた方がいーと思う」おれは言った。

コーヒー飲もーとしてカップ口に持ってきたけど、中味はもー空っぽで、「飲むか?」って訊ーたら「飲む」ってゆーんで、夏彦の分と二杯また入れる。その間に現次はきつねうどん平らげる。そのあとみそラーメンに塩ラーメン、わかめラーメン豚骨ラーメンって平らげて、更に菓子パン五、六個食ったけど、それでもまだ物足りなそーな感じだった。夏彦にコーヒー渡すとミルクドボドボ入れて砂糖ぼんぼん放り込んでスプーンでグルグル掻き廻して、コーヒーじゃないなんか別の飲み物作って、それ旨そーに飲む。おれはコーヒーを飲む。

おれの意見通って、とりあえずその線で行こってことんなる。夏彦はしばらく文句言ってたけど最終的には納得した。ってゆーか強引に納得させた。やるからには誰も見たことない新しーもん作ろーって言ったのが効ーたみたい。

エアコンの調子悪くて室内は生あったかかった。時々ぐぉっグォンぐぉんって変な音させた。異様な音だった。

「このお麩、旨いな」袋ごと抱え込んで麩菓子貪り食ってた矢部がボソっと言ー、「昔は添加物でもっと真っ赤っかだったけど」とか言ーながら尚も食い続ける。余っ程麩菓子が好きみたいで、十本入りが二、三袋ぐらいあったけど殆どひとりで食っちゃった。おれは一本お裾分けしてもらって食う。

まーいつものことだって言えばそれまでだけど、具体的なことはなんも決まんなかった。美少女、メカ抜きってのが少々きつかったのかもしんない。

「意表突いてオッサンとかはどー? オッサンが出てくんだ。小汚いオッサンがさ」何気におれがゆーと、美少女命の夏彦が即座にそれに反発するよーに「オッサンなんか出してどーすんだよ。やだよそんなの、見たくもない」って言った。

「オッサンの大行進なんての、面白そーじゃん」っておれが尚も押すと、「駄目ダメだめ、そんなの。気色悪りーよ。考えただけで虫酸が走る」とかホントに気分悪そーに夏彦は言ー、口直しって感じでコーヒーの成れの果てを一気に飲み干す。

「そーかな、結構いけると思うけどな」って更に押すと、「うん、案外受けるかもね」って現次もゆー。

調子ん乗って「床屋のオッサンとか、歯医者のオッサンとか、電気屋のオッサンとか、風呂屋のオッサンとか、ミシン屋のオッサンとか、紙芝居のオッサンとか」っておれが指折り挙げてくと、夏彦はその一言一言に嫌悪を表して眉間に深い縦皺寄せて、顰めっ面ってゆーより泣きっ面って感じの情けない顔して「受けないウケナイ、絶対受けない」とかゆーから、「文句ばっか言ってねーでお前もなんか考えろよ」っておれがゆーと、「なんかっつってもなー」とか言ってゴロリと横んなってちょっと唸ってから、「やっぱりさー、女の子で行こーよ。その方がいーって」って悲痛な面持ちで訴える。「オッサンなんかよりさ、女の子だって」そー言って夏彦は手探りでスナック菓子鷲掴みにしてボロボロ滓零しながら、「スケスケのブラウス着たさ、超ミニのさ、女の子。いーと思わない?」とかゆーと、透かさず現次が「そーゆー媚びるとこが嫌なんだよ」って反論する。

「別に媚びてなんかない」「媚びてる」「媚びてない」「媚びてる」

二人の押し問答見兼ねたのかどーか分かんないけど、矢部が突然思い出したよーに「染み着きパンティーの臭い嗅いでるブルセラのオッサンなんてのどー?」とか、依然麩菓子パクつきながらゆー。

「趣味悪りーぞ」間発入れずに坂淵がゆーと、「現次にゃ負けるよ」って矢部はゆー。

現次はそれ聞ーて、はにかんだよーな困ったよーな変な笑顔んなる。笑うと現次はそのごつい強面からは想像もつかないぐらい可愛らしー顔んなる。

いつだったか現次んとこに集まってたときだ。やることなくて座も白けてそろそろお開きってときに、不意に現次がどっから出してきたのか何枚か写真持ってきて、半分ニヤけながら「ほら」とか言って見せるんだった。どれもケツのドアップで肛門からぶっといクソが尻尾みたいにだらりと垂れ下がってる。被写体は彼女だって言ー、苦労したよって顔で「ここまですんのに一年掛かった」とか言った。ゲーム中断して覗き込んだ坂淵が写真見た途端に顔顰めて、「こんなの見せんなよー、ブルーんなる」とか言ってまたゲーム再開したけど気分悪くなったのかすぐに止めて、「ブルーだ、ブルーだ」とか言ーながらチョコ食い捲った。その背中に向かって現次が「排便写真ぐらいで驚くなよ」って言った。夏彦はジロジロ写真見ながら「悪趣味だ」とか言ーながら、その顔には嫌悪感なんか全然なくて軽く微笑んでた。矢部が興味津々って感じで「食ったりすんのか?」って訊ーたら、「この世にこれ以上旨いもんあったら教えてほしーね」とか当然のよーにゆー。現次にスカトロの趣味があるってのそんとき知ったんだった。みんなまだ己の性癖についてあんま口にしてなかった時期だっただけに、真っ先に信仰告白した現次に恐れ入り、尊敬さえした。

その後徐々に明らかんなってったそれぞれの性癖は多種多様で、純粋オタクの夏彦はやっぱロリコンで小学生ぐらいの子にしか性欲感じないとかゆーし、矢部は覗きが趣味で夜な夜な町を徘徊してるってゆーし、坂淵はマゾで、おれはちょっと露出癖がある。

「お前のは露出癖じゃなくて露出狂だろ」とか現次がゆーと、みんなもその通りって顔でおれを見る。

矢部の言ったブルセラのオッサンにイメージ喚起されて「箪笥ん中に使用済みパンティーとかズラって仕舞ってあったりして」っておれがゆーと、「よくあるよな、ほら、下着ドロなんかが捕まってさ、盗品並べられてんの。アレさ、なんかどっかの古墳とかから出土した土器とか装飾品とか並んでんのあるじゃん、アレとおんなじでさ、壮観だよね。一大コレクションだぜ。下着ドロも堂々とテレビで公開されてんの見たら喜ぶんじゃないか」とか矢部がゆー。

「でも捕まっちゃ何にもなんないじゃん」って坂淵がゆーと、「捕まんなきゃ一生自分のコレクション人に見せることもできないぜ。コレクターってのは自分の蒐集したもん人に見せたがるもんでさ、人に見せびらかせないってのは哀しーことだよ。だから下着ドロはいつか捕まってコレクションが人眼に触れんの夢見て盗み続けるんだ。大体危険をも省みず蒐集するなんてのはコレクターの鑑じゃん。しかも元手は掛かんないんだから」って矢部はゆー。

それ聞ーて坂淵が呆れたって顔して「泥棒賛美してどーすんだ」とかゆーと、「別に讃美してるわけじゃないさ。ただそれこそコレクターの真の姿だってゆーだけだ」って矢部はゆー。

「犯罪は犯罪じゃん」

「自分に正直なだけなんだ」

「都合良過ぎる。詭弁だよ」そーゆーと坂淵は興奮抑えよーとしてか、チョコ食い捲る。口の周りチョコだらけにして目一杯頬張る。

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