「逃げよう、オレと一緒に」
「ダメよ。それはできないわ」
「こんなことしたって何にもならない。騙されてるんだ!」
「違うわ、これは必要なことなのよ。皆の安全と幸福のためには欠かせない儀式なのよ。有史以来連綿とつづけられてきた私たちの生きるよすがなのよ。それなしには私たちは一日だって生きていられやしないわ」
「食われちまうんだぞ、生きて帰れないんだぞ。そんな横暴あるか!」
「横暴じゃないわ、神聖な儀式よこれは。あなただって分っているはずよ」
「違う、違うんだ。こんなことやってちゃダメなんだ! 逃げよう」
「私が逃げたってべつの誰かが犠牲に供されるだけだから、何も変わらないよ」
「変えるさ、変えてみせる」
「無理よ」
「あいつさえ倒せば、変えられる」
「それこそ無理よ、バカなこと考えないで」
「勇者の剣があるじゃないか! あれなら倒せるはずじゃないか!」
「ダメよ。あれを使いこなせる人なんてもうどこにもいないわ。それに宰相が許可しないわよ」
「いるんだよ、いるんだ。見つけたんだオレ」
「嘘、あなたこそ騙されているのよ」
「違う、あの人は勇者だ。伝説の勇者に間違いないんだ」
「もう止して。私のせいであなたまで巻き添えにしたくないわ」
「何言ってるんだ。あいつさえ倒せば、オレたちは自由になれる」
「私だってあなたと別れるのは辛いわよ、でもこれは仕方のないことなの。もう決まったことなの。誰にも変えられないのよ」
「変えられる。変えてみせる!」
「もう行かなくちゃ」