これは人類史上初の重力制御達成のその瞬間を捉えた貴重な画像(バーバラ・鳥飼氏所蔵)で、その滞空時間は僅か三秒と伝えられるが、この瞬間それは確かに地球の重力から解き放たれて虚空に浮かび上がっている。かのライト兄弟の飛行実験に較べてあまりにも地味な光景だが、その業績はライト兄弟を遙かに凌ぐものと言ってよい。重力制御なくして現在の我々の日常生活が成り立たないことは周知のことだ。
画面右手にいるのが開発担当責任者のスティーブン・K=鳥飼氏。この開発は当時業界下位の川北重機とその提携会社の田所製作所との二社のみで行ったというのだから驚異と言える。川北重機と田所製作所はのち合併して社名を『スパイ-レル』と改め、今や業界最大手である。開発を成功に導いたスティーブン・K=鳥飼氏とは大学の同窓だという当時業界二位の久佐本重工で技術開発部の開発部長をしていた佐山良章氏は次のように語る。
「いやあ、信じられなかったですね。あとで実物を見ましたがそれでも疑いました。十年早いんですよ彼のやったことは」
実用化されるまでにはそれから約四半世紀を待たねばならぬが、二度に渡る開発断念の危機とその克服や、その後の各企業の開発競争は凄まじいものがある。詳しくは拙著『重力制御と心中した男「スティーブン・K=鳥飼」』(実践科学思想出版刊)を参照のこと。