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闇の中を果てなくつづく階段は杉の香に満ち溢れている。濃厚なその香りにえも言われぬ陶酔を覚え、どっぷりそれに浸りながら聡志と春信の二人は上を目指して直上る。
その途上、自称宇宙人三人組トリオに遭遇するが、顛落した弟のハルノブを追って降りていった姉のサトミさんを三人は知らぬと言う。そんなはずはないと双方睨み合う恰好になるが、同じ上を目指す者同士いがみ合うのはどうかと三人は低姿勢で、それがしかし如何にも怪しいと聡志は疑念を募らせる。
自らを宇宙人と言う三人にその打ち明け話を延々聡志は聞かされ、何か馬鹿にされているようで無性に腹が立って「やめてくれ」と遮る。一触即発となって回避不可能と覚悟を決めたものの三対一では聡志に勝ち目などなく底淵闇の奈落へと突き落とされるのは聡志の方に違いなく、愈々夢が現実のものとなると聡志は覚悟する。
そのとき不意に聞こえてきた春信の立てる軋みのえも言われぬ快味に聡志は陶然となって思わず聴き入ってしまう。見ると宇宙人三人組トリオも春信の掻き鳴らす軋みに同じように至福の面持ちで聴き入っているのが分かり、宇宙人三人組トリオに対する怒りが嘘のように薄らいでいく。図らずも自分の行為が和解に役立ったことを春信は喜ぶが、聡志一人残して出てきてしまったことへの後ろめたさもあって頻りに感謝されるのには閉口し、照れ臭そうに眼を逸らす。
聡志から宇宙人三人組トリオとの遣り取りを聞かされた春信は三人に対する興味が沸き、一人向かいの部屋の三人の許に駆けこんだ。熱心に話を聞く春信に三人も大いに語って尽きることなく、その倹しい生活振りを涙流して語る三人に春信はもらい泣きする。翌日から五人で階段を軋ませることになる。
階段から顛落する夢を見ていた聡志は春信に揺さぶり起こされ、火星人のナオヨシ氏が顛落したと聞かされる。勢いよく飛び起きて部屋を飛びだすと、すでに踊り場には金星人のトモヨシ氏と水星人のシゲヨシ氏が階段の闇を見つめているが、全身虚脱して力なげなその姿は今にも倒れそうなほど危なげで、この上二人までも顛落してはと聡志は二人を部屋へ連れ戻す。三位一体の一人が欠けるなどということは絶対にありえないとの確信があるため、二人がいまなお生きているということはナオヨシ氏が生きているということの証拠であるはずと、二人の自称宇宙人は闇に消えたナオヨシ氏を追って下りていく。
聡志と春信はまた二人で階段を上るが、愉楽をしか齎さないはずの階段の軋みに違和感を感じ、その闇が急に何か悪意を持って近づいてくるような気がして息苦しく、階段を上っていて初めて怖いと聡志は思う。踊り場の部屋に避難するが今までこのような事態に陥ったことはないためどう対処していいのか分からず、とりあえず様子を見ようということになる。三日後、再度上りはじめるが調子の良かったのは最初だけでなぜか二人の息が合わず、何とか息を合わせようと掛け声を掛けたりなどするがどうしても歩調が合わなくて二人は部屋に退避する。
そこに新たな訪問者が訪れ、柴犬に似たそれは雑種の犬で、その犬は人の言葉を話すのだった。
小説/literary fictions
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