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四人での一日の登攀を終えると決まって酒宴になり、酔った挙げ句に弟のハルノブはとんでもないことを言いだす。酔いの回った状態で聴く階段の軋みは堪らなく心地よく、それこそ至福の陶酔を齎すと言い、皆が尻込みするなかひとりそれを実践してみせるが、姉のサトミさんに叱られる。
翌日、最後尾を上っていた弟のハルノブが階段から顛落してしまい、姉のサトミさんにつき従って三日間その行方を求めて下へ下りていくが、弟のハルノブの姿はどこにもなく、姉のサトミさんは殆ど言葉を発することがなくなって笑顔も見せず無表情になっしてまう。
姉のサトミさんひとりあとに残すことは心配だが、自分らには自分らの思うところがあると別れて聡志と春信は上に上ることにした。その階段の響きにはしかしどこか勢いがなく、濁ったような音で陶酔にもなかなか至らず、二人とも不調を感じたため午後の登攀は中止する。
そんななか春信の具合が悪くなり、しばらく登攀を止めて養生することにする。二週間ほどして春信の体調も復し、再出発の日取りを相談していたとき、不意に階段の軋みが鳴り響くのが聞こえ、姉のサトミさんではと二人同時に踊り場に向かうが、現れたのは見知らぬ三人だった。
足並み揃えて上ってきた三人はそれぞれ、火星人のナオヨシ、水星人のシゲヨシ、金星人のトモヨシと自称する宇宙人で、その体格容貌は三人三様まるで違うにも拘らず、そこから感じる印象がどこか似通っていて一見三つ子を思わせるのだった。その三人に顛落する人の姿を見なかったかと聡志は訊くが、三人とも知らないと言い、次に姉のサトミさんに出喰わさなかったか訊いてみるが、これも三人は首を揃えて知らないと言う。
しかし三人組トリオが嘘を言っていないとも言えず、疑いの眼で見るとその態度に三人示し合わせて何事か隠しだてしているようにも見えなくはない。一旦そう見えてしまうと総てが虚偽のように思えるが、もしそれが嘘ならそこには禍々しい何事かがあったということで、当然それは姉のサトミさんの存否に関わるようなことに違いなく、三人組トリオに嬲り者にされる姉のサトミさんの姿を一瞬聡志は想像してその安否が気になり、最愛の弟に先立たれて悲嘆に暮れている矢先に自らも嬲り者にされて更にも悲しみに泣き沈んでいるという姉のサトミさんを想像して憤ろしい思いに遣り切れず、眼前に佇む三人組トリオが極悪非道のならず者のように思えてくるのだった。
小説/literary fictions
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